新刊案内
林紘義著『人類社会の出発点 古代的生産様式――「アジア的生産様式」論の復活を』
埋もれていた「唯物史観」の原点
林紘義氏の「人類社会史の出発点・古代的生産様式――《アジア的生産様式》論の復活を」がついに出版されました。
2006年の暮れから08年の夏まで、二年近くにわたって『海つばめ』に連載されたもので、これまで京都の会員などから、早く出版して欲しい、すべきであるという意見が出されてきたものです。
林氏がこの本で明らかにしようとしていることは、人類の社会史の最初の生産様式はどんなものであったのか、そしてそれを出発点にして人類はどんな社会的な発展を遂げてきて、現在の資本主義社会に到達したのか、そしてこれからの人類の未来はどんなものなのか、ということであり、そもそも私有財産とか家族とか国家とかいったものは、いかにして、この古代の時代において発生し、その後、発展してきたものなのか、ということです。
林氏はいつの頃からか、そのカギがマルクスの「アジア的生産様式」論にあると確信したのですが、しかしこうした観点は、公認の“共産主義”運動、つまり日本と世界の共産党が主張してきた歴史観念と衝突するものでした、というのは、彼らの公認の歴史観(彼らの“唯物史観”)は、マルクスの「アジア的生産様式」から出発するのではなく、エンゲルスの「家族、私有財産及び国家の起源」を根底に置くものであり、またエンゲルスの立場を受け継いだ、“スターリン主義者”(旧ソ連の“国家哲学”)のものだったからです。
そしてスターリン主義者が珍重したエンゲルスの「唯物史観」は実際には、アメリカのブルジョア学者、モルガンの卑俗なものをいわば“丸写し”にしたようなものであって、到底、「家族、私有財産及び国家の起源」を合理的に明らかにし、説明するようなものではなかったのです。
かくして林氏の目指したものは、スターリン主義者の観念を粉砕すること、マルクスの「アジア的生産様式」に正当な意義と権威を回復させるとともに、具体的に「家族、私有財産及び国家の起源」をさぐるということであって、氏はこのことを、単にマルクスの理論の追求にとどまらず、世界の多くの「古代社会」――メソポタミヤに始まり、エジプト、ヨーロッパ古代(ミケーネ社会)、アメリカ大陸(インカなど)、中国、そして日本にまで及ぶ――の現実を検討することで果たそうとしてきたのです。
もちろん、林氏は自分の試みは「学者としての」試みではなく、その限界は十分分かっていると序文でも語っていますが、それにもかかわらず、この著作は、スターリン主義者の愚昧な「唯物史観」を克服して、人類の本当の社会史の大筋を理解する上で重要な意義を持っています。
林氏は、原始的な共同体の時代、まだ私有財産が全く、あるいはほとんど存在していない社会から、いかにして搾取社会や私有財産が発生し、また国家や家族――ここで言う家族は、「家庭」という概念とは違うのですが――が生まれ、発展してきたのかを、その第一歩の段階において見出し、さらにその発展を跡づけようとしています。
搾取社会や私有財産や国家や家族や、したがってまた男女差別などがいつ、どのようにして出現してきたのかを確認することは、労働者階級が、我々が、それらを世界的な規模で一掃していく展望と確信を与えてくれるのであって、その意味でも林氏の著書は決定的に重要であり、また興味あるものだと言えます。
序文によれば、この本は地方の医療関係に従事している古いシンパの大きな支援があって出版にこぎつけることができたということで、値段もいくぶん低めに設定されています。
全国の書店でも扱っていますので、ぜひとも手に取り、一読してくださるように読者の皆さんに呼び掛け、またお願いします。また友人や知り合いなど、多くの人にも紹介して頂ければありがたく思います。
《全国社研社刊・1,500円(+税)》(「海つばめ」1167号から)