林紘義遺稿集第1巻の紹介
林紘義遺稿集第1巻
――60年安保闘争から新たな政治組織結成に向けて
先見性と理論的な深さに感銘を受ける
林紘義・労働者党元代表が亡くなったのは、2021年2月10日であった。その後、遺稿集発刊の計画が立てられたが、『海つばめ』や『プロメテウス』の編集・発行に追われてしまった。今、ようやく遺稿集第一巻を世に出すことができる。
◇安保闘争の挫折から起つ
林さんが東大に入学した当時は、60年安保条約の改定が強行されようとしていた前夜であった。林さんは入学後、激動する政治情勢から学び、社共に代わる労働者の政党をめざして結成されたブント(共産主義者同盟)に加入して活動を開始し、また、大学の自治会役員や東京都学連執行委員・副委員長として安保闘争の先頭に立った。
しかし、安保闘争を「革命」に転化せよと叫んだ新左翼やブントの指導部は安保闘争の挫折の中で混乱を極め、ブントの指導部は革共同(トロツキー主義の政治組織)に乗り移り、ブントは崩壊した。林さんは新左翼やブントの小ブルジョアの思想と決別し、新たな政治組織の結成に向かって歩み始めた。
本書には、この模索の時代に書かれた5本の論文と林さんが主筆した「全国社会科学研究会」の大会決議(ソ連や中国を国家資本主義と規定)や大会報告も載っている。以下、5本の論文について簡単に紹介する。
◇安保闘争の総括
最初の論文は、東大の同級生であり、ブントで共に活動し60年6月にデモ中に警察の暴虐で亡くなった樺美智子さんを追悼した論文、「60年安保闘争と同志樺の死の二周年にあたって」である。
この論文は、樺さんを追悼しながらも、60年安保闘争の「意義や総括」をまとめたものであり、安保改定という「一つの改良闘争」を革命化しようとしたブントや新左翼の思想的限界を明らかにした無二の論文であった。
と同時に、樺さんや林さんたちが悩みながら必死に闘った姿を彷彿とさせるリアルな文書であり、読者を感動させる。
◇絶望的闘いを強いた急進主義
2つ目は、大正鉱業(炭鉱企業)の合理化攻撃と闘う労働者を谷川雁らが指導し、その急進主義と思想的堕落ゆえに敗北と絶望に追いやった労働運動を詳しく総括した論文、「大正行動隊の闘い」である。
当時、エネルギー資源が石炭から石油へと変わり、安い石油が輸入されていた。当然、石炭産業は危機になる。この危機を克服するために資本は労働者を削減し、賃下げを行うなどの猛烈なしわ寄せを行い始めた。だが労働者の政党は未熟であった。これが当時、急進主義が跋扈した背景である。
大正鉱業の労働者を指導した「大正行動隊=共産主義同志会」は、「合理化絶対反対」、「プロレタリア革命へ」「死んでも闘う」という出口無き闘いを労働者に強いた。だが闘いが行き詰まり、首切りが避けられないことが分かるや、今度は何の反省もなしに「退職金闘争」に鞍替えした。
今までの方針を180度転換したことに対して、「大正行動隊」は、全員でヤマから飛び出せば資本家が困ると言い、自分達はヤマに残る程の「腰抜けではない」と、ヤマに残った労働者に対して〝優越〟を誇示した。
このように、急進主義者が労働者を「絶望」に追いやり「団結」を解体したことを克明に批判している。
◇資本主義論の歪曲
3つ目は、「無概念で、無内容なスターリンの最大限利潤論」である。学生時代から林さんは活動の合間をぬって『資本論』やマルクス主義を学び、スターリンをはじめ共産党系学者や宇野弘藏らの労働価値説歪曲と徹底して闘ってきた。本論文はその一つである。
スターリンは、価値法則は商品生産の法則であるとしても資本主義の法則ではない、かつ自由資本主義の「平均利潤」は独占資本主義では「最大限利潤」に変わると言う。
だが林さんは、具体的な条件の下で起きる独占利潤の形成という現象をスターリンが「最大限利潤」という言葉で表現したものに過ぎないと断言。
林さんは独占資本主義でも生産の無政府性と競争を排除せず「平均利潤」を形成する法則が貫かれると述べ、スターリンの「最大限利潤」という法則は成立し得ないことを論証している。
◇レーニンの歴史的評価
4つ目の論文は、レーニン生誕100周年を記念して刊行された『レーニンの今日的意味』の中にある一論文、「革命家・思想家・人間としてのレーニン」である。この論文はレーニンの少年時代からロシア革命を成し遂げるまでの生涯と「レーニン主義」を歴史的に総括したものである。
当時のロシアは、海外資本が移入され資本主義が勃興し始め、労働者の闘いも生まれていたが、専制君主が支配する体制下にあった。しかも、「農村共同体」が広く残り、小農民が圧倒的多数を占める国家であった。
それゆえ、封建体制を打破することでは一致するが、ロシアは商品経済や資本主義を経ずして、「農村共同体」を土台に社会主義に移ることができるという革命家(ナロードニキ)や大多数の農民を無視し抽象的に「プロレタリア革命」を唱えたトロツキーらがいた。
これに対してレーニンは、来るべきロシア革命を客観的歴史的に見れば、封建的体制を打破する「ブルジョア的革命」であるが、労働者と農民が率先して闘い、自らの共同した利益を守る政治権力の樹立をめざすべきだとした。
こうしたロシア革命を巡るレーニンの思想と闘いが詳しく論じられ、また、革命後の混乱(「戦時共産主義」に対する農民らの反乱)が何を意味するのかについても詳しく触れられ、非常に分かり易く展開されている。
◇観念的な「永続革命論」
5つ目は、トロツキーの観念的で空想的な「永続革命論」や「世界同時革命論」に対するマルクス主義からの批判書、「ロマン主義のマルクス主義的表現」である――本論文は、今では絶版になっている『科学的共産主義研究』第28号からの再掲である。
トロツキーは、「政治力学」でロシア革命とその後の社会建設を論じ、「プロレタリアート」が権力を樹立し、「永続革命」を進めていくなら民主主義から社会主義に成長転化できると考えた。
だがトロツキーは自身の「永続革命」論が農民を無視した抽象であり現実と矛盾していることに、薄々気付いており、その矛盾を誤魔化すために、「世界同時革命」を打ち出した。トロツキーはロシアの来るべき社会主義革命はヨーロッパの革命によってはじめて成功すると言い、他国の革命の待機主義者になった。
これらを労働者が支持できないのは明らかだろう。本書の出版を機会に林さんのトロツキー批判の神髄に触れて頂きたい。
林遺稿集は、労働者が労働運動や改良闘争をどのように闘ってはならないか、またどのように「労働の解放」を目差して闘うべきかを明示している。ぜひ多くの皆さんが本書を読まれ、学ばれることを心より願うものである。(W)
(『海つばめ』1473号 2024年4月28日)
全国社研社編集『林紘義遺稿集第1巻』(定価2000円+税、全国社研社刊)
【目 次】
林 紘 義氏の経歴
60年安保闘争と同志樺の死の二周年にあたって
大正行動隊の闘い――その動揺と限界について
ロマン主義のマルクス主義的表現――トロツキーの永続革命論について
――新たなプロレタリアートの革命的政治組織結成のために
第三回大会報告 全国社研編集委員会
全国社研の歴史と現在
林 紘 義氏の著書紹介
編集後記
【林 紘 義氏の経歴】
1938年 長野県上田市に生まれる、同県伊那谷出身。教師の父の異動に伴い、伊那谷の各地に転校、転居を繰り返す。
小学校は下伊那の市田小(現高森小)、下条小、会地小(現、阿智小)、中学校は会地中、上伊那美篶中(現、東部中)、高校は珍しく転校なく3年間、伊那北高。3000メートルの雄大壮麗な西駒ヶ岳をこよなく愛し、その山麓に自己の性格をはぐくむ。
1958~60年 東大学生自治会役員及び東京都学連執行委員や副委員長として、「勤務評定反対闘争」、「60年安保闘争」を闘う。2度逮捕、拘留され、起訴、有罪判決を受ける。以後、一貫して『社共』にも『新左翼』諸派にも批判的な、独自の社会主義路線を歩む。
1984年 社労党結成に参加(代表を務める)。労働者の階級的立場と政治を訴えて、国政選挙に数回立候補(組織内候補として)するも、力足らずしていずれも落選。
2002年 社労党の解散とマルクス主義同志会への移行とともに、その会員(代表を務める)。
2017年 労働の解放をめざす労働者党(略称:労働者党)結成に参加(党代表を務める)。
2019年 参議院選挙に全国で10名の候補者を擁立し確認団体として参加し、比例区候補として闘う。
2021年2月10日 永眠。
【林 紘義氏の著書紹介】
1『レーニンの言葉』(1971年6月20日初版)2000円〔芳賀書店〕
2『国際共産主義・労働運動史――その苦悩と闘いの歴史』 (共著 編集・全国社会科学研究会編集編集委員会 1971年12月15日初版) 800円 〔ウニタ書舗〕
3『現代「社会主義」体制論 スターリン体制から「自由化」へ――国家資本主義の内的「進化」のあとづけ』(共著1972年4月15日初版)700円〔全国社会科学研究会〕
4『我々の闘いの軌跡』栗木伸一評論集(1979年6月15日初版)1600円〔全国社研社〕
5『宮本・不破への公開質問状 ハンガリー事件・スターリン批判・ポーランド問題について』(1982年12月8日初版)1000円〔全国社研社〕
6『変容し解体する資本主義』(1996年8月20日初版)2200円〔全国社研社〕
7『哀惜の樺美智子』(1997年10月刊)2800円〔三一書房〕
『林 紘 義著作集』全六巻 各巻2000円、A5版上製本〔ういんぐ・出版企画センター〕
8 第一巻『「労働価値説」擁護のために 一切の俗流学派とりわけ宇野経済学に反対して』(1998年7月15日初版)
9 第二巻 『幻想の“社会主義” 国家資本主義の理論 スターリン、毛沢東の体制はなぜ、いかにして資本主義に進化したか』(1998年8月25日初版)
10 第三巻 『腐りゆく資本主義 バブル、企業腐敗、金融危機、国家解体……』(1998年12月10日初版)
11 第四巻 『観念論的、宗教的迷妄との闘い 黒田寛一、宇野弘蔵、廣松渉、林道義批判』(1999年2月10日初版)
12 第五巻 『女性解放と教育改革 そして文学の有りようについて』(1999年6月1日初版)
13 第六巻 『民族主義、国家主義に抗して ガイドライン法、日の丸・君が代、そして天皇制』(1999年9月10日初版)
14『女帝もいらない 天皇制の廃絶を』(2005年7月1日初版)2000円〔全国社研社〕
15『教育のこれから』(2006年7月1日初版)2000円〔全国社研社〕
16『不破哲三の〝唯物史観〟と「資本論」曲解』(2007年8月1日初版)2000円〔全国社研社〕
17『「家族、私有財産及び国家の起源」を探る』(2008年12月1日初版)2000円〔全国社研社〕
18『崩れゆく資本主義、「賃金奴隷制」の廃絶を』(2009年4月1日初版)3000円〔全国社研社〕
19『まさに「民主党らしさ」そのものだった 鳩山政権の9カ月』(2010年8月10日初版2000円〔ういんぐ〕
20『「核エネルギー」はなぜいかにして「危険」か』(2011年10月5日初版) 1800円〔ういんぐ〕
21『人類社会の出発点 古代的生産様式』(2012年3月1日初版)1500円〔全国社研社〕
22『第一次安倍政権の二大〝前科〟を問う』(2013年3月25日初版)1500円〔全国社研社〕
23『アベノミクスを撃つ』(2013年11月5日初版)2000円〔全国社研社〕
24『「資本論」を学ぶために 「資本」の基礎としての「商品」』(2015年10月15日改訂版)1600円〔全国社研社〕
25『日本共産党と「資本論」』(2016年10月15日初版)1800円〔全国社研社〕
26『資本主義をトータルに理解するために 「資本論」を学び、「資本論」を超えよう いかなる観点で「資本論」学習会を組織するかの指針』(2019年12月25日初版)200円〔全国社研社
※その他多数 理論誌『科学的共産主義』(1972年~1987年)『労働と解放』(1988年~1990年)『プロメテウス』(1991年~)この間に発行された理論誌の各号には、ほぼ毎号論文が掲載されています。
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