林紘義氏の新著紹介
『まさに「民主党らしさ」そのものだった――鳩山政権の九ヵ月』
〜鳩山政権告発の書〜
林紘義著『まさに「民主党らしさ」そのものだった――鳩山政権の九ヵ月』(定価2100円、ういんぐ社刊)が発行された。
本書は、鳩山政権成立以来の9カ月間にわたって、『海つばめ』紙上で著者が論じてきた論文をテーマごとに整理し、編集したものである。私が感じた本書の見所やその意義についていくつか述べてみたい。
まず第1に言えるのは、7つのテーマごとに編集されていることである。具体的には、第1章「政権の交代とスタートした鳩山政権」、第2章「偽りの『政治主導』と『国会改革』」、第3章「子育て支援、農家の戸別所得補償、郵政」、第4章「“対米屈従”外交そのままに」、第5章「数十兆円もの借金で国家破産へ」、第6章「“経済(学)オンチ”の菅直人」、第7章「労働者の政治的進出を」となっている。
見られるように、この間の鳩山政権に関連する主要な問題がほぼ網羅され、全面的な鳩山政権に対する告発と断罪の書となっているということである。
本書を読めば、単発の記事を読んだときとは違った、新たな発見をしたり、系統的で多面的に理解を深めることが出来るだろう。
個々の論文そのものは、その時期時期において問題になっていることを具体的に論じたものであるが、しかしどんな時期に、どんな社会的、政治的背景のもとで論じられているかを念頭に置いて読むことで、その意義や重要性をさらに確認することができるだろう。
例えば、第1章は鳩山政権の誕生を論じているが、誕生当時のマスコミの論調は、“鳩山フィーバー”“民主党フィーバー”といった状況であった。鳩山政権への支持率も世論調査では8割に達しようとしていた。しかし、こうした中でも、著者は冷静に鳩山政権の本質をえぐり出している。
昨年9月20日に発表された第1章の「スタートした鳩山政権」という論文では、民主、社民、国民新党の3党連立政権の発足について、次のように述べている。
「しかし労働者は自公政権に代わる三党政権、このろくでもない第二自民党政権、否、ある意味では、自民党以下の政権にどんな幻想ももてないし、もつべきではない」、と。
鳩山政権が崩壊した今でこそ、鳩山批判は珍しくもないが、当時においてはマスコミがこぞって鳩山賛歌を奏で、共産党にしてからが「健全野党」を掲げて民主党への幻想をふりまいていた。こうした状況の中で、透徹した目で鳩山政権を評価し、徹底的な批判を加えているが、こうした論説に多くの労働者は満足と共感の声を上げるに違いない。
さらに指摘したいのは、それぞれの論文が政治評論という形式をとり、時事的に論じつつも、同時に理論的に掘り下げ、緻密化されていることである。
第6章の「菅と林芳正の“経済学論争”」や「鳩山政権 幻想の『成長政策』――『経済成長』のマルクス主義的概念」などは、理論的にも掘り下げた論文である。ケインズ主義の「財政膨張政策」「乗数理論」等と子育て支援との関連、「成長政策」についてのマルクス主義的な概念の論究は、興味をそそられるに違いない。
「経済成長」についての様々な処方箋が提示される中で、著者は「経済成長」について、次のように簡潔に主張する。
「資本主義的『成長』とは、要するに、総資本の『拡大再生産』であり、『剰余価値の資本への転化』に帰着する。資本は労働者から搾取した剰余価値を自ら消費するのではなく、資本として蓄積し、投下することによって……略……のみ、『成長』を勝ち取ることが出来たし、また歴史的、現実的に勝ち取ってきたのである」
こうした立場から、そして生産的労働が持つ根底的な意義を明らかにしつつ、「新たな成長産業」として押し出される「介護や環境」等についてのブルジョア的俗論を全面的に批判している。読者には、じっくりと検討して欲しいところである。
最後に付け加えれば、「はじめに」で本書の題名をどのような意図と狙いをもって付けたかが明らかにされている。
かくして、本書は鳩山政権の9カ月に渡る政治、その偽善と裏切りの数々を徹底的に告発し、断罪する書となっている。
青年、労働者の皆さんに是非読んで欲しい1冊である。
(山田)
『海つばめ』1127号(2010年8月8日)
【目 次】
はじめに――鳩山も菅も典型的な“民主党らしい”政治家
第一章 政権の交代とスタートした鳩山政権
政権担当の「資格」も「能力」もなく
第二章 偽りの「政治主導」と「国会改革」
民主主義の空洞化と“専制”への衝動
第三章 子育て支援、農家の戸別所得補償政策、
そして混沌の「郵政」大戻し
「ムダ削減」を叫びつつ究極の“バラまき”へ
第四章 “対米屈従”外交そのままに
基地一つ撤去要求できず
第五章 数十兆円もの借金で国家破産へ
「世界の借金王」めざす民主党政権
第六章 “経済(学)オンチ”の菅直人
バラまきを「成長政策」と偽る民主党
第七章 労働者の政治的進出を勝ち取ろう
自民も民主も“大愚”政党だ