新刊案内/日本社会主義運動の先駆者を生き生きと描く
町田勝著『黎明期の一途さと輝きと――不滅なり!明治の労働運動・社会主義運動』

 このほど、町田勝氏(マルクス主義同志会会員)の単行本『黎明期の一途さと輝きと――不滅なり! 明治の労働運動・社会主義運動』(マルクス主義同志会編)が刊行された。町田氏には政治、経済、社会について論じた論文も数多いが、本書には主に社会主義運動・労働運動に関する著作が収録されている。

 ここに収録されている諸論文に貫かれているのは、“左右の日和見主義”――すなわち共産党らの改良主義、議会主義的日和見主義と新左翼の小ブルジョア急進主義に対するマルクス主義的立場からする批判であり、労働者の革命政党建設のための闘いの訴えである。

 本書には目次(別掲)を見ても分かる通り、明治期の社会主義運動、労働運動だけでなく、それ以降の戦前から現在に至る社会主義運動、労働運動についての論文も収録されている。にもかかわらず、本書の題名が「黎明期の一途さと輝きと――不滅なり! 明治の労働運動・社会主義運動」とされているのは、著者の日本の社会主義運動を切り開いていった幸徳秋水をはじめとする「平民社」の活動への強い共感によるものであろう。著者は「まえがき」で言う。

 「短命に終わったとはいえ、この時期の先人たちの社会主義の理想に燃え、革命的な気概と情熱にあふれた闘いは今なお我々の胸を熱くせずにはおかない。とりわけ、この時期の闘いのピークをなす平民社に拠ったその国際主義の精神に貫かれた非戦運動は日本にとどまらず国際的な反戦運動・社会主義運動史上の金字塔として一世紀を経た現在もその輝きを失っていない」

 「わたしがこの我らが先駆者たちの運動を知り、そしてたちまち魅了されてしまったのは二十歳前後に荒畑寒村の名著『寒村自伝』を読んでからである。……。

 強烈な印象を刻まれたのは他でもない。俗悪な日和見主義やスターリニズムの害毒に骨の髄まで犯された当時の社会党や共産党の運動にそんな労働者的革的な精神などどこにも見出すことも、その息吹を感じ取ることもできなかったからである。

 以来、明治の先達たちの果敢な闘いとその若き群像にわたしはいわば憧憬とも言える気持ちをずっと抱き続けているのである」

 ここに述べられているように、本書は現在の堕落した“社共”の労働運動に対する告発の書であり、そして労働者の解放のために新たな労働者政党を建設し、階級的労働運動をつくり出していかなくてはならないという目的で書かれている。

 著者が黎明期の社会主義運動を知り、それに深い共感を持ったのは60年安保闘争が終焉して2〜3年たった頃のことだろう。著者は信州大の学生時代すでに社会主義を目指す革命的サークル「全国社研」(マルクス主義同志会の前身)に属し活動していた。

 黎明期の社会主義運動とは幸徳秋水、堺利彦、荒畑寒村ら「平民社」の活動である。幸徳らは日本で初めて社会主義の政党=社会民主党を結成した(即日禁止)。しかし、幸徳はひるまず活動を続け、社会主義の普及に努めた。そして日本とロシアの戦雲急を告げ、「ロシア撃つべし」の愛国主義が渦巻くなか、敢然と「非戦論」を唱え、日露の帝国主義を弾劾し、日本とロシアの労働者の団結を訴えたことで知られている。交戦国ロシアの社会主義者に対して「鳴呼(ああ)露国に於ける我等の同志よ、兄弟姉妹よ」と呼びかけ、戦争反対の国際的連帯を訴えた(「与露国社会党書」)。秋水はいう。

 「諸君よ。今や日露両国の政府は各その帝国主義的欲望を達せんが為に、みだりに兵火の端を開けり。然(しか)れども社会主義者の眼中には、人種の別なく地域の別なく、国籍の別なし。諸君と我等とは同志なり。兄弟なり。断じて闘うべきの理あるなし。諸君の敵は日本にあらず、実に、今のいわゆる愛国主義なり、軍国主義なり、我等の敵は露国人にあらず、而してまた実にいわゆる愛国主義なり、軍国主義なり、然り愛国主義と帝国主義とは、諸君と我等の共通の敵なり。世界万国の社会主義が共通の敵なり。諸君と我等と全世界の社会主義者は、この共通の敵に向って、勇悍なる戦闘をなさざる可からず。……」(27頁)

 著者はこれは「まさに日本社会主義運動史上に燦然と輝く一大金字塔」(28頁)と讃辞を送っているが、ここには共産党がとっくに投げ捨てた社会主義の国際的連帯が示されているからである。国際主義の原則に基づいた労働者の政党をつくっていかなくてはならないというのは著者の強調するところである。そしてさらに、官憲の弾圧、困難に抗して社会主義のために生涯をかけて闘った「平民社」の社会主義者たちのひたむきさに感動するといっている。

 1961年、共産党は労働者の当面する闘いの目標は「アメリカ帝国主義と日本独占資本の二つの敵」に反対して「民族の真の独立と民主主義を実現する」ことにあるとする新綱領を採択した。これについて著者はいう。
 「これは労働者の階級闘争、革命闘争を民族主義の間違った方向にねじ曲げ、その本当の目標すなわち何千万の労働者大衆を搾取し、抑圧し、労働大衆の苦しみの根源となっている資本の支配からそらすことで、ブルジァジーをこのうえなく助けるものであった。

 それはまた戦前には、三二テーゼなどによって天皇制絶対主義のお化けを持ち出して労働者階級を社会主義をめざす闘いからブルジョア民主主義の方向にそらせたのと同じ犯罪的な役割を果たすものであった。戦前の絶対主義天皇制が今度はアメリカ帝国主義のお化けに変えられたにすぎない。両者はまた民主主義革命から社会主義革命へといった二段階革命論や、統一戦線戦術等スターリニズムの典型的なドグマに依拠したものである点でも同一であった」(279頁)
 その後共産党の民族民主革命論は日本がブルジョア大国に成長していくなかで破綻し、「自由と民主主義の宣言」に象徴されるようにプチブル民主派として純化し、そして現在ではブルジョア的現実主義を深め、「ルールある資本主義」とか「資本主義内の民主的改革」しか唱えない改良主義の党になりさがり、はては「民族の固有の自衛権」を唱えるまでに至った、(281頁)と著者は述べている。

 一方、「社共に代わる新たな革命政党の結成」を提起したブントについて著者は、共産党の民族主義を告発し、その「前衛党神話」を打ち砕いたということでは「歴史的功績」を認めつつも、理論と実践が伴わず小ブルジョア急進主義の運動の本性を暴露したと批判して次のように言う。

 「マルクス主義のしっかりした革命理論に立脚して組織と運動を創っていくという意識がブントには最初から希薄であり、それがブント主義の本質的な側面をなしていた」「実際、彼等がマルクス主義的な革命理論をどんなに軽視していたかは、当時のブント書記長の島成朗が回想録で、当時はトロツキー主義はもとより実存主義であれ、プラグマテイズムであれ、利用できるものは手当たり次第に取り入れたという貴重な証言を残していることからも明らかである。そして、ブントの綱領的文書と言われた姫岡玲治の『国家独占資本主義』論にしてからが俗流経済学の典型である宇野学派の『三段階』方法論に依拠したものでしかなかったことに、ブントの無理論主義あるいは思想的雑炊状態は象徴されていた」

 ブント崩壊の後の新左翼の潮流も70年安保、沖縄闘争、三里塚闘争などに見られる如くブントの急進主義的な政治闘争を一層急進化させただけにすぎず、社共の日和見主義の“左”からの補完物になってしまったのである。

 著者は続けて言う。

 「レーニンはロシアの革命運動を始めるにあたって、『正しい革命理論なくして、革命的運動はありえない』と喝破し、終生これを強調したが、社共はもとより、ブントの、そしてブントの亜流の新左翼運動の破綻はマルクス主義的な革命理論を軽視したことの報いである。そしてこれこそは戦前、戦後を通じての日本社会主義運動百年の歴史が繰り返しわれわれに教えている貴重な教訓でもある」(288頁)

 これこそ著者が力を込めて訴えていることである。

 本書には社会主義運動だけでなく、労働運動(総評、連合)に関する論文も収録されている。労働組合の役割りを資本にいかに高く労働力商品を売り付けるかだとし、そのための取引の手段としてストライキを呼号した総評の急進主義的組合主義は行き詰まり、破綻し、連合のブルジョア労働運動をのさばらせることになった。

 連合の労働運動では、労働法制の規制緩和として、裁量労働制の導入、変形労働時間制の改定、派遣労働など不安定雇用の拡大など現在職場で問題になっている問題が論じられて、資本と連合の癒着を暴露するとともに、労働者は反撃に立ちあがり、階級的運動を発展させていかなくてはならないこと、しかし、それには資本の体制の枠内での労働者の生活改善を図るという狭い組合主義、経済主義と決別し、労働者の苦しみ、災厄の根源である資本の支配の克服に向けた闘いが重要であることが述べられている。そしてそのためには社会主義の党を組織し、拡大すること、工場、職場に労働者と結びついた党組織を建設し、社会主義と労働組合との「緊密な接近」をはかることだと著者は訴えている(319頁)。

 本書が訴えているように、社会主義を宣伝し、労働者と結びついた革命的組織を建設し、革命を根本的に準備していくことは、資本からの解放をめざす労働者階級にとっての中心的な課題である。

 多くの労働者、働く皆さんが本書を読まれ、広げてくださるよう切に期待します。

 「ういんぐ社」刊、定価二一〇〇円(税共)。全国の主要な書店で購入できます。また全国社研社でも取り扱います。
(田口)
 
『海つばめ』1147号(2011年5月15日


【目 次】
  はじめに
  第一篇 平民社の闘いと大逆事件――輝かしい日本の共産主義運動の曙
   第一章 反戦・社会主義を高く掲げて――狂暴に襲いかかった天皇制専制権力
   第二章 物語・明治の労働者の闘い――青春の日本労働運動・社会主義運動
   第三章 大逆事件と日露戦争――日本近代史″の分岐点
   第四章 日露戦争百年――反動キャンペーンを斬る
  第二篇 戦前・戦後の労働者の闘い――失われていった革命的伝統
   第五章 大正、昭和の労働運動・社会主義運動――社共″の堕落のもとで挫折と苦闘の歴史
   第六章 頼廃するモノ取り主義・組合主義――総評四十年の歴史
   第七章 大企業と癒着する労働貴族――十年目を迎える連合
  第三篇 深化する労働者への抑圧と搾取――賃金奴隷制の廃絶めざした闘いを
   第八章 強化される労働搾取――労働者の差別意識を煽りたて
   第九章 労働法制の規制緩和――資本と賃労働の対立関係露わに
   第十章 労働運動と社会主義の結合を――一八八〇年代のイギリスの経験に学ぶ