『プロメテウス』第38号(2000年7月発行)
IT革命を特集
今西進化論批判の力作も


 今号は二つの特集がすべてである。

 第一の特集は、「IT革命」に関するもので、これには「インターネットと『市民革命』の幻想」(鈴木研一氏)と「IT革命と生産・流通の変化」(田口弥一氏)の二つの原稿が納められている。

 第二の特集は、今西錦司の生物学を批判した、林紘義氏の長大な論文で、「講談師、見てきたようなウソを言い」という挑発的な題名が付けられている。

 まず最初の特集から紹介すると、インターネットが流行になり、多くの人々に利用され、その利便性が明らかになるにつれ、それが国家の統制や規制から自由であると主張し、インターネットを利用して何か拘束されない“市民的”関係、人間関係が築けるかに言い張り、そこに人間解放を夢見るような幻想が生れるが、鈴木氏はそれを批判的に暴露している。

 こうした幻想の中でも一番ばかげているのは、ネット市場についての幻想であって、この市場では個人と個人が直接に向き合うのであり、かくして小企業と小生産者、そして個々の消費者が相互に自由な関係を取り結ぶことができ、かくして大企業は排除される、と言うのである。

 鈴木氏は当然のこととして、こうした幻想をプチブル的なものとして嘲笑している。

 ついで田口氏は、まずIT革命の技術的な特性とその積極的な意義を確認し、それが流通や情報通信産業に決定的な変革をもたらすこと、また金融や、さらには産業にも大きな影響をおよぼすことを明らかにしている。

 そして、IT革命が新しい資本主義的発展をもたらしうることを認めつつも、この新しい生産力は結局は労働者の利益になるのであり、その重大な意義と偉大な役割は、社会主義的生産においてこそ全面的に現われてくるだろうと結論している。

 林氏の今西批判は、ページ数で全体の三分の二を占める力作で、当初二回に分けて掲載を考えられたのだが、他の原稿の集まりが悪く、一挙掲載となったものである。

 今西といえば、生物の「棲みわけ理論」で有名だが、もちろんそれにとどまらず、進化論でも、人間論でも、多くの独特の理論を持ち出しており、それは“正統派”生物学――突然変異と自然淘汰を理論的支柱とするダーヴィン学派――に対するアンチテーゼとして、今やますます大きな影響力を持ってきているのである。

 もちろん林氏は“正統派”進化論を擁護するのではなく、反対に、それがナンセンスであるという点では今西と共通の認識に立つのだが、しかしそれにもかかわらず、林氏は今西の理論が一貫して科学的ではなく、非常にしばしば理論的な展開の中に、恣意的な推測を入れていることを暴露し、その非科学的な本性を暴露するのである。

 そのうちでも最も典型的なものを紹介すると、例えば、人間は家族(今みられているような個別家族)を形成することによって初めて人間になったと主張し、それをオオカミの習性になぞらえて説明していることなどがあげられるだろう。林道義は人間の理想をゴリラに見たが、今西はそれをオオカミに見た、と林氏は皮肉っぽく語っている。

 もちろん今西の想像力はこの例にとどまらないのだが、林氏は執拗に、今西の「見てきたようなウソ」を追及し、摘発するのである。

 そして林氏は、今西のこうした“理論”の背後に、氏の徹底的にプチブル的な立場があることを指摘し、氏がマルクス主義を攻撃するのも決して偶然ではない、と結論している。

 今号の『プロメテウス』は三つの論文が掲載されているにすぎないが、しかしいずれも読者の興味をそそって止まないものばかりだと言える。