『プロメテウス』43号(2002年3月発行)
「WTO加盟と中国」を特集
読みごたえある力作8本
特集は、「WTO加盟と中国のブルジョア的発展――止揚される“国家資本主義”体制」である。
昨年十一月、中国はWTOに加盟した。人口十三億人弱、世界の五分の一を擁する巨大市場が世界市場に組み込まれた意義は、極めて大きなものがある。
すでに、鉄鋼や家電(テレビやエアコン)、繊維などの生産は世界一であり、ハイテク産業も急速に発展しつつある。世界の独占資本は先を争うように中国市場に殺到し、「世界の工場」として現れつつある。
就業人口は七億人、半分近くが農民であるが、三億人を越す労働者階級が登場している。この数は日本はもちろん米国やEUの総人口を上回るものであり、彼らの闘いの帰趨は世界の労働者の命運を左右するといっても過言ではない。
かつて文化大革命の頃には毛沢東の“農民共産主義”の幻想もふりまかれた。しかし、当時でさえ我々は、「資本主義の道を歩む」実権派の勝利は避けられないこと、中国の国家資本主義の発展は歴史的必然であることを明らかにした。こうした予測の正しさは、今や完璧に証明されたと言えるだろう。中国はまさに、毛沢東の“農民共産主義”つまり国家資本主義の進化の結果として、公然たるブルジョア大国として登場しつつあり、WTO加盟はこうした中国の資本主義的発展の一つの帰結であった(そして彼らはWTO加盟を一つのステップとしてさらに資本主義的発展を勝ち取ろうとしている)。
ケ小平の後継者である江沢民や朱鎔基などの支配者は、企業が利潤を拡大すること(搾取すること)を全面的に奨励し、市場経済=資本主義の意義を公然と説いている。中国社会では、自由競争の原理(そして個人主義・利己主義)が“社会正義”として定着し、拝金主義が全土をおおっている。“社会主義中国”の幻想は完全に破綻したのだ。
今号の特集は、WTO加盟の意義を始め、その国家財政、ハイテク産業、西部大開発、農業問題、労働者の状況や闘い、政治体制など多岐にわたっている。
掲載された論文は、以下の八つである。
「中国のWTO加盟と加速する資本主義的発展――“農民的共産主義”は永遠に過去のものに」(林紘義氏)、「中国経済の刺――四大国有銀行の巨額不良債権」(平岡正行氏)、「三頭龍は中国経済を牽引できるか――ハイテク産業の現況」(田口弥一氏)、「経済発展戦略としての西部大開発――浸透する市場経済」(田口騏一郎氏)、「変貌する中国農村経済――改革・開放後の二十年と迫る市場開放の衝撃」(坂井康夫氏)、「鮮明になる資本と賃労働の関係――労働争議の拡大と深まる階級矛盾」(山田明人氏)、「ブルジョア支配へと純化する中国の政治体制――政治改革・私営企業家入党問題・軍拡・少数民族問題に見る」(鈴木研一氏)、「世界に冠たるブルジョア大国へ――日中の労働者階級の連帯こそ重要」(林紘義氏)。
ここでは、この特集の総括を兼ねている最後の林論文を簡単に紹介しておきたい。著者は、中国の現段階とWTO加盟の意義を次のようにまとめている。
「中国の資本主義的発展は、同時に、その矛盾の発展でもある。中国の資本主義的発展が広大であり、壮大であればあるほど、その矛盾の爆発もまたちっとやそっとのものではないし、ありえないであろう。それは日本だけでなく、あるいはアジアだけでなく、世界を巻き込み、席巻するものとなるであろう。否、中国資本主義の矛盾の成熟自体が、すでに世界資本主義の矛盾の総体的な成熟の重要な一環、有機的な一部なのである」
「中国のWTO加盟は、中国経済を語るにも、世界的なつながりと関連の中でしか、そうしえない時代がやってきたことを教えている。そして十三億の民を有する中国の労働者革命は、世界革命の単なる一環どころか、まさにそれを左右し、その帰趨を決定し、確定する決定的なものになるであろうし、ならざるをえないであろう」
そして日本の労働者と中国の労働者の国際的な連帯の重要性を呼びかけている。
今号では特集論文の他に、「前ブルジョア的関係とは何か――亀崎論文『歴史の法則を探るために』を読んで」(横井邦彦氏)が掲載されている。アジア的生産様式、世界の古代史をどう理解するかという問題であるが、議論をさらに深めていきたい。
(Y)