『プロメテウス』51号(2008年1月発行)
マルクス主義同志会第6回大会「国際情勢」・「国内情勢」他
国際、国内情勢を明確に解明
今号の掲載内容は、昨年12月に開かれたマルクス主義同志会第6回大会の「国際情勢」と「国内情勢」、林紘義氏の「現代の世界資本主義と21世紀の人類」、宮本博氏の「人間にとって『言語』とはなにか」の4つである。
最初の二つは、現在の資本主義に対する基本的な特徴づけであり、その確認は、労働者が資本との果敢な闘いを展開して行くためにどうしても必要なものである。
現在、世界では資本の“グローバリズム”といわれるように、国境を越えた資本の競争が激化し、国際的な資本の集中・集積が進んでいる。一方では、ヘッジファンドや買収ファンドなど投機の蔓延、サブプライムローンの破たんによる信用不安、株価低落、ドルの減価、石油、鉄鉱石など資源をめぐる各国の競争が激化している。また、米国に対抗して中国、ロシアが台頭してきている。
国内に目を転じると、大資本が連続して最高収益の記録を更新する一方では、安定した職場もなく、日常的生活もおぼつかない派遣やアルバイトなどのワーキングプアといわれる労働者や非正規労働者が激増している。また自民党支配の動揺など政治情勢も一層流動化している。
こうした現実を全体的に確認するために、二つの論文は大いに役立つであろう。
林氏の論文「現代の世界資本主義と21世紀の人類」は、1997年に行われた社労党(マルクス主義同志会の前身)の労働者学校のテキストであるが、埋もれていたものをここに掲載する意義は十分あると思う。
当時は、ソ連や東欧の“社会主義”が崩壊してまだ間もない時期であり、ブルジョアや小ブルジョア知識人たちは、資本主義を根底から変革する社会主義の試みは失敗した、資本主義は社会主義に勝利し、資本主義はこれからも永遠に続いていくのだと叫びたてたのであった。
しかし、実際にはブルジョアたちの“勝利”の叫びのもとで、資本主義はその矛盾を一層深化させて来たのである。
論文は10年前のものであるが、そこで論じられている21世紀の世界の展望と実際は、きわめて現実的な意義を持つものである。
宮本氏の「人間にとって『言語』とはなにか」は、ブルジョア、小ブルジョア学者にもてはやされてきた言語学者ソシュールの理論およびその追随者である丸山圭三郎の批判である。
物質が先か意識が先かという問題は古くからの哲学上の問題である。意識的な労働者ならこんな問題は決着済みである。しかし、この社会ではなお未解決の問題として存在している。というのは、ブルジョアたちは真実を恐れ、それを回避するからである。こうしてブルジョア社会には唯物論的な見方を敵視し、“精神”を優先させるさまざまな観念論がはびこっている。
著者が取り上げている言語学者ソシュールもまたブルジョア観念論の立場を代表している。ソシュールは、客観的な物質的存在が第一義的であるということを否定し、現象的な事実の間の関係だけを認めて、世界の真のあり方は主観と存在の相互関係であるという。一言でいえば、言語は客観的な実在を表すものではなくて、反対に言語によって客観的な物事が関係づけられるというのである。
著者は、こうした転倒した、観念的な議論は「人間の意識や概念を表す表現手段としての言語が客観的存在を反映するという唯物論的な観方に対する激しい憎悪がある」と指摘している。そしてこうした議論が小ブルジョア思想家にもてはやされてきたことについて、ソシュールの追随者である丸山圭三郎の「私の目の前に横たわっているこの世界は、そこに客観的にあるように見えるが実は『私の世界』つまり『私の感情に彩られた世界』『私の中にあり私の死によって永遠の虚無の中に沈んでしまう世界』なのである」という主張を引きつつ、「人間の本源的な『社会性と共同性』を喪失して、現実世界の普遍的・本質的な科学的探究を放棄し、とりあえず自己にかかわる個別的・具体的な狭隘な関心事だけにしか目を向けない、頽廃の極に達した個人主義を理論づける認識論」であるからだと述べている。
ソシュールの理論は、資本主義の現実の矛盾と正面から向き合い、その克服に向けて闘うのではなく、ただ自分の観念の中でこれを否定したり、避けたりすることによって、結局は資本主義を認めることを正当化することに帰着する。
著者は、また言語の違いが考え方やものの見方など文化の違いを生み出してきたというウォーフらの「言語相対主義」の理論を取り上げ批判しているが、こうした荒唐無稽の議論も、言語が客観的な存在を反映し、伝えるものであるということを否定し、言語が存在を規定するというソシュール理論に連なる議論である。
著者の論文は、個人主義や自由主義が氾濫する現代の資本主義の頽廃した現実を批判した力作である。
以上、本号はいずれも現代の重要なテーマを取り上げ、労働者がなにをなすべきかについて明らかにしている。多くの労働者、青年の皆さんが是非購読されよう心から訴える。
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(田口)