『プロメテウス』53号(2010年5月発行)
特集・ケインズ主義批判――今甦るブルジョア幻想


『プロメテウス』53号発刊
ケインズ主義批判を特集
再び甦るブルジョア的幻想を打つ

 我々はマルクス主義を深め、また社会で起こっている諸問題をマルクス主義的観点から解明するために、いろいろな形で理論活動を展開している。

 そのひとつが、毎年開催している労働者セミナー(以前は「労働者学校」として実施)である。毎年、一つの共通テーマの下に、いくつかの課題について何人かの講師が報告を行い、その後、参加者全員で討論するという形で行われている。全国の仲間が一堂に会する合宿形式と、首都圏と関西の東西二カ所に分かれて行う通学形式を、一年ごとに交互に繰り返して行っているが、いずれも朝から夜まで、熱心な討議が繰り拡げられてきている。

 この他、代表委員会(以前は「中央執行委員会」)が首都圏で実施している中央学習会がある。こちらは、数カ月にわたって一つの共通テーマを決め、それに関するいくつかの課題を、ほぼ月に一度のペースで報告、検討する形で開催されている。

 さらには、代表委員会内での学習会や、全国各地での支部ごとの学習会も催されている。

 我々のこうした理論活動はすでに数十年の歴史をもっている。その成果のいくつかはすでに『プロメテウス』や単行本の形で発表されてきたが、まだ未発表のものも数多く残されている。

 今回の『プロメテウス』は、労働者セミナーなどで報告されたもののうち、これまで未発表であったものの中から、ケインズ主義に関するものを中心に集め、「ケインズ主義批判――今蘇るブルジョア幻想」という特集とした。

 言うまでもなく、08年の金融恐慌以降、各国政府が膨大な財政支出を行い、ケインズ主義的な政策が再び脚光を浴びてきているからであり、蘇るブルジョア幻想を批判的に検討することは労働者にとって重要な課題となってきているからである。

 特集の最初の論文は、林氏の「新マルサス主義としてのケインズ主義――現代資本主義とケインズ主義」である。ここでは、不生産的労働(及びその階級)の露骨な賛美(“むだな労働”でさえ、雇用や所得を増やすことができる云々)、あるいは奢侈や浪費のあからさまな勧めは新マルサス主義としてのケインズ主義の本質的特徴を、すなわち現代の資本の支配の頽廃と、この体制が死滅して、別の体制(社会主義)へと移って行かなくてはならない必然性が暴露されている。

 続く林氏のもう一つの論文である「歴史は繰り返すのか――現代資本主義と恐慌(ケインズ主義の役割)」は、独占資本主義時代における恐慌の理解についてマルクスの見解とそれを否定したベルンシュタインやヒルファーディングの見解を紹介しつつ、30年代の大恐慌とケインズ主義との関連について論じている。

 特集の最後は山田氏の「ケインズ理論の批判的検討――『雇用・利子および貨幣の一般理論』について」である。ここでは「労働単位」や「有効需要」、「消費性向」、「乗数理論」、「投資誘因」、「流動性選好利子率」といったケインズの理論についての批判的検討がなされている。

 また特集に関連するものとして二つの論文が掲載されている。一つは平岡氏の「ケインズ主義の反動としての新自由主義――なぜハイエクはもてはやされたか」で、ハイエクの著書『隷属の道』の検討を通して新自由主義の主張を批判し、それがなぜもてはやされるようになってきたかを考察している。

 もう一つは田口氏の「偽りの恐慌論批判――“過少消費説”による恐慌論」である。ここでは、マルサス、シスモンディ、ツガン・バラノフスキー、富塚の恐慌論について、それぞれ批判的に検討されている。これらがいずれも過少消費説に基づく誤った恐慌論であることを暴露しており、ケインズの恐慌論を検討するうえでも参考となろう。

 この他には、「マルサス『経済学原理』批判」として、研究会のレジュメが収録されている。前出のいくつかの論文でも取り上げられているように、マルサスはケインズ主義の祖ともいえる存在であり、その理論を検討することはケインズ主義の階級的性格をさらに深く理解するうえで意義があるものと言えよう。

 以上が本書に収録されている論文の概要紹介である。

 さきに述べたように、これらはいずれも、96年から00年に報告された当時のレジュメを基本としている。そのため、具体的な内容については時代的な制約(自民党政権時代を背景にしている等)を受けているが、そこに貫かれている基本的な観点は少しも古くなく、むしろ自民党から共産党まで、あらゆる政党が“需要の拡大”こそが社会の発展をもたらすとしてケインズ主義を擁護している今日、ケインズ主義を徹底的に批判した本書は、労働者必読の一冊となるであろう。

 ケインズ主義との闘い、それは労働者の階級闘争を進めるうえで重要な課題のひとつである。一人でも多くの労働者の皆さんがこの本を手に取り、研究を深めていかれることを願うものである。

(定価=800円(送料210円)。全国有名書店で取扱中。書店にない場合は全国社研社か同志会会員にご連絡ください。) 

(M・H)(『海つばめ』1121号(2010年5月16日)掲載)