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労働者党理論誌

『プロメテウス』第64号
ポピュリズム・柄谷理論批判を特集

(2025年12月25日発行)



  『プロメテウス』64号が発行された。64号は二つの特集で構成されている。第一特集は、「跋扈するポピュリズムに反撃を!」であり、第二特集は朝日新聞の連載で蘇った(?)かの柄谷理論批判である。

◇「トランプ専制体制」にメス

 第一特集の第一論文、「トランプ専制体制に帰着した米国」(古川論文)は、トランプ再選をもたらしたアメリカ社会の亀裂と分断の深さ、その根底にあるアメリカ資本主義の衰退と腐朽を分析している。
 アメリカ資本主義は特に80年代以降、新自由主義の名の下に金融術策にふけり、産業資本の衰退を招き、「中産階級」=労働者階級は貧困化し、零落してきた。民主党主流派のリベラリズムは陳腐なお題目と化して、底辺の労働者の反発と怒りを買うに至っていたのである。
 労働者大衆の期待に応えるかの幻想を振りまき勝利したトランプの露骨な差別と排除の政策、高関税によるアメリカ経済の弱体化、高物価による大衆の困窮化が詳細に暴露され、ニューヨーク市長に「民主社会主義者」マムダニを押し上げた意味とさらなる前進の必要性が解き明かされている。

◇ 日本のポピュリズム批判

 第一特集の第二論文、「日本におけるポピュリズムの台頭」(田口論文)は、今年7月の参院選におけるポピュリズム政党の〝躍進〟に焦点を当て、国民民主、維新、れいわなどのポピュリズムのタイプ・支持基盤・政治的役割を明らかにしている。
 論文が特に力を入れているのは、「日本人ファースト」を掲げて、比例区で743万票(得票率12・5%)を獲得した参政党の分析である。田口氏は、参政党が選挙中にまき散らした言説の数々――出稼ぎ外国人労働者の安い賃金が日本の労働者の低賃金の原因だ、外国人の流入が犯罪を増加させた、外国人は生活保護や医療など社会保険を悪用している等々――を、政府統計や実態調査を元に一つ一つ丁寧に検討し、それらが「いずれも根拠のないデマである」ことを論証している。
 「誰が参政党を支持したか」の分析も興味深い。参政党を支持するに至った階層、職業分析、不満と鬱積の根底が明らかにされている。
 論文はさらに、参政党の「国民主権を否定し、天皇制国家を謳う憲法草案」に現れた反動的本質を暴露し、批判派を「非国民」呼ばわりし、「スパイ防止法」制定を目論む参政党が「ファシズムの萌芽」であり、今後の情勢次第では「ファシズム運動になる可能性をもっている」ことを指摘している。

◇第二特集 「柄谷理論―その虚構性を暴く」
 
 渡辺論文「労働の搾取を否定する柄谷行人――『生産関係』を『交換様式』に置き換えて」は、2025年4月から10回にわたる「回想録」を朝日新聞に連載した柄谷行人への挑戦状であり、その「虚妄性」を徹底的に暴露した力作である。
 柄谷は、2000年を前にマルクス批判家として名を上げ、「流通過程」重視の消費者運動を立ち上げたが、2年半ももたずに内部対立で空中分解した〝実績〟がある。
 その時期の柄谷の〝理論と実践〟――『世界共和国』の提起を含む――を、労働者党はいち早く取り上げ、「海つばめ」で批判してきた。当時の記事が渡辺論文の後に掲載され、労働者党の批判の一貫性を示し渡辺論文を補う形となっている。
 渡辺論文は、生産関係より交換過程の方が根底にあるとの謬論に基づき資本主義の本質――資本による労働者の搾取――を否定する柄谷理論が、流通過程重視の宇野理論に文化人類学の範疇を接ぎ木した空虚で無内容な俗論であることを徹底的に暴露している。
 その前段として、柄谷がロシア革命を社会主義革命と思い込み、スターリン主義国家=国家資本主義の官僚的専制国家への転化をもってマルクス主義の破産を〝確信〟し、俗論家の道を突き進んだとの指摘は、柄谷理論の〝誕生の秘密〟を明らかにしている。

◇書評と斎藤幸平〝理論〟批判論文

 本誌には書評と斎藤幸平の理論を批判した投稿論文も掲載されている。
 是永氏の書評は、佐賀旭著『虚ろな革命家たち――連合赤軍 森恒夫の足跡をたどって』(集英社)を批判的に紹介しつつ、著者が解明できなかった凄惨な同志殺しに至る過程の根底を、観念的で独りよがりな小ブルジョア急進主義、一揆主義の帰結として解き明かしている。
 本誌の掉尾を飾るのは、宮本氏の論文、「マルクスはアジアを蔑視する『オリエンタリスト』だったのか」である。宮本氏は以前から斎藤幸平の理論に疑問を抱いていたが、本誌63号の特集「斎藤幸平〝理論〟を撃つ」に触発され、本論を寄稿された。
 宮本氏は、斎藤幸平が「マルクスを前期と後期とに『切断』」し、後期には生産力主義、単線的な共産主義への転化論を放棄して「脱成長コミュニズム」を推奨するに至ったとする妄言を詳細に批判している。宮本氏の批判は根底的であり、斎藤幸平〝理論〟にとどめを刺すものである。
 いずれの論文も労働者が直面する実践的理論的課題に真正面から取り組み、解決の方向を指し示している。本誌が広く研究会などで検討され、労働者の党的結集の軸となることを願ってやまない。 (S)

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