マルクス主義同志会トップヘージ論文集目次へE-メール

論文集目次に戻る

再生産表式の「三つの支点」
“単純”も“拡大”も本質は同じ
“困難”はTのV+MとUのCとの置換
(林 紘義)


 先号で「再生産表式のマルクス主義的概念」について語ったが、しかし結論を急ぐあまり、余り丁寧に説明できず、多くの読者に「一体何を明らかにしようとしているのか」という疑問を与えたのではないかと恐れている。それで、今号では、再生産表式の意味について、少し詳しく説明しておきたい。まず理解が簡単な単純再生産から始めよう。そしてこれが理解されれば、拡大再生産の理解は一層容易であろう、というのは、問題の根底は同じだからである。

◆単純再生産の場合

 マルクスが与えている、単純再生産の表式は以下のようなものである。

T 4,000C+1,000V+1,000M=6,000W1
U 2,000C+  500V+  500M=3,000W2

 社会的総生産は、“素材的”側面によって、第T部門(生産財生産部門)と第U部門(消費財生産部門)に分けられ、さらにそのそれぞれは価値の側面から、不変資本(C)、可変資本(V)、剰余価値(M)に分けられている。

 資本の社会的総生産とその再生産を分析し、理解するためには、こうした方法は必然的であった、というのは、個別資本の分析、考察とは違って、資本主義的社会全体の生産と再生産の場合には、単に価値的契機だけでなく、“使用価値”としての再生産という契機が不可欠なものとして現われて来るからである。

 全体の商品資本の運動が、資本と生活との更新という側面から考察される場合には、ただ価値的側面だけでなく、“使用価値”の側面からも、つまり素材の更新という観点からも検討され、分析されなくてはならないのは自明である、というのは、資本主義社会といえども、人類の社会的生産の歴史的な一形態以上ではなく、資本と生活の“物質的な”更新、再生産という契機を欠くことはできないからである。

 かくして、社会的総生産は、以上のような一つの表式によって表現されるのだが、この表式は「三つの大きな支点」(マルクス)を有する、すなわち第T部門内部での交換、第T部門と第U部門との間での交換、そして第U部門内部の交換である。

 実際には、これらの交換は貨幣を媒介にして行われるのであり、さらには資本家同士の交換だけでなく、資本家と労働者の間の交換も交差してくる、しかし簡単化と抽象化のために貨幣関係等も捨象され、また固定資本と流動資本の区別も捨象し、不変資本として一括される。

 第T部門内部、第U部門内部での交換は、それ自体、困難はない、というのは、第T部門内部で生産される4,000Cはもともと生産手段として生産されるからであり、この部門内で、資本家同士の交換によって、相互に補填されるからである。

 同様に、第U部門内部の可変資本(労働者の消費手段)と剰余価値(資本家の消費手段)の補填も、この部門内部での交換によって解決される、というのは、この部門の生産物は前提によって、消費手段だからである。

 したがって問題は、第T部門内部の、価値としては可変資本と剰余価値部分でありながら、素材的には生産手段の形態をとっている部分(VとMの部分)であり、また第U部門内部の、価値としては不変資本部分でありながら、素材的には消費手段の形態をとっている部分(C)である。

 したがって、第T部門のVとMは第U部門のCと相互に交換され、補填され合わなくてはならない。つまり第T部門の1,000(可変資本)+1,000(剰余価値)は、第U部門の2,000(C)と交換されなくてはならない。かくして第T部門の2,000と、第U部門の2,000が等しいということが、単純再生産の概念にとって規定的となるのである。

 これは、第T部門における可変資本部分(労働者の賃金部分)と剰余価値部分が素材的には生産手段として存在していて、直接には消費手段ではない、ということ(したがって、労働者も資本家も、自分の生産部門からそれを手に入れることはできず、第U部門の消費手段に置き換えられなくてはならないということ)であり、他方、第U部門における不変資本部分は価値としては生産手段でありながら、素材的に消費手段として生産されており、第T部門の生産物と交換され、置換されなくてはならない、ということである。

 かくして、再生産は第T部門の可変資本と剰余価値の合計が、第U部門の不変資本に一致する場合にのみ、均衡を保って再生産を継続することができる。この均衡が破れるなら、部分的、全般的に恐慌が勃発する。この場合、恐慌は強制的に社会的生産過程の均衡を回復する手段でもある。

◆拡大再生産でも根本は同じ

 拡大再生産の概念は一層複雑だが、しかしその法則は本質的に同一である。『海つばめ』先号の、拡大再生産の表式を利用して、その概念を説明しよう。

T 4,400C+1,100V+1,100M=6,600W1
U 1,600C+  440V+  400M=2,400W2

 この表式がなぜ、蓄積率五十%の拡大再生産の概念を示す表式かというと、それは以下の理由によるのである。

 蓄積率が五〇%であるから、1,100の剰余価値(M)の半分が蓄積される、つまり550が資本家によって消費され、残りの550が資本に転化される、すなわち資本として蓄積される。そして不変資本と可変資本の比率は前提によって4対1であるから、この550のうち、440は不変資本、110は可変資本に転化する。440の不変資本は第T部門の内部の交換によって“解決”されるが、しかし残りの110の可変資本は、素材的に生産手段だから、第U部門の生産物(消費手段)と交換されなくてはならない。

 もともとの可変資本部分の1,100と、資本家の消費分の550と、この新しい蓄積資本の内の可変資本分の110を加えると、第U部門の消費手段と交換されなくてはならない価値は1,760となる。

 他方、第U部門を見ると、最初の1,600は不変資本を代表している。さらに400の剰余価値の半分の200が資本に転化し、蓄積されるが、そのうちの160が不変資本部分である(ここでも、不変資本と可変資本の比率は4対1だから)。

 こうして、第U部門の不変資本部分は1,600+160、つまり1,760であり、これは第T部門の生産物と交換されなくてはならないが、ちょうど、この大いさであれば、第T部門における、消費手段と交換されなくてはならない1,760と一致するのである、つまりこの表式が“均衡的”であって、拡大再生産の概念を与えているゆえんである。

 以上のことを表式によって示すと、以下のようになる。

T 4,400C+1,100V+550M+440C'+110V=6,600W1
U 1,600C+  400V+200M+160C'+ 40V=2,400W2

(Tの1,100V+550M+110VとUの1,600C+160C'が相互に置換され補填される)

 これもまた、越村信三郎の『図解資本論』が与えている表式的説明でもある。

 以上、拡大再生産表式についての追加の説明である。一見して面倒な概念ではあるが、しかしこのブルジョア社会の再生産(単純再生産も拡大再生産も)の全体がたった一つの表式において総括され、概念として提示されている意義はいくら強調してもし足りないのであり、その重要性が確認されなくてはならないのである。

 これらの数字はすべて相互に条件を満たしており、また相互に規定的であって、総体的な資本主義的生産と再生産の概念を、その法則性の観念を我々に与えてくれるのである。

 以上の表式による説明は、もちろん図によっても示すことができる。図による懇切丁寧な説明が、越村信三郎の『図解資本論』にあるので、そのまま紹介しておこう(第二巻下二七九頁)。

 宇宙の全体を包括するような、あるいは万象の本質を明らかにするような自然の法則(物理的法則やその他の分野の法則)もまた“数学的で”単純な美しさで表現されてきたが――ケプラーやニュートンの法則も、そしてアインシュタインの法則も――、このことは“経済学”においても例外ではない、と言えるのだ。

『海つばめ』第1005号(2005年12月4日)


ページTOP