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巻頭言



【2022.12.29】
「米要求に応じた大軍拡」という非難では闘えない
 ──日本の帝国主義深化から目を逸らす共産党

【2022.12.15】
強大な軍事国家めざすと内外に宣言
 ──自民党内では、増税案で紛糾

【2022.12.2】
「封鎖はいらない」「自由を」
 ──中国、ゼロコロナ政策に対する怒り拡大

【2022.11.17】
アメリカ中間選挙結果
 ──トランプのデマゴギーを退ける

【2022.11.3】
管理春闘を打ち破れ
 ──闘いはここから、闘いは今から

【2022.10.28】
中国に対抗、軍事協力の深化謳う
 ──日豪首脳、「安保協力宣言」に調印

【2022.10.14】
安保戦略有識者会議が始まった
 ──帝国主義国家に相応しい軍事体制めざす岸田政権

【2022.10.6】
破綻暴露する「異次元の金融緩和」策
 ──政府・日銀、円買いドル売りに

【2022.9.15】
統一教会との癒着を隠蔽
 ──岸田政権を打倒して真実を明らかに

【2022.9.1】
「言い逃れ会見」を許すな
 ──自民党政治を終焉させよう


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「米要求に応じた大軍拡」という非難では闘えない
日本の帝国主義深化から目を逸らす共産党
2022年12月29日



 来年度の政府予算案が閣議決定された。「安保3文書」にもとづいて、5年間で43兆円という大軍拡を狙っている。岸田政権による軍国主義の飛躍的な強化との闘いを前進させ、労働者の大きな運動にしていかなければならない。ここでは労働者に一定程度影響のある共産党の闘いを点検し、反面教師としよう。

 共産党は、岸田が大軍拡予算案を提出したことに対して、「米要求に応じた大軍拡」と評価している。こうした評価は、要求する米国に追随するだらしない政府だという一面的な見方であり、日本側が要求に応じる積極的な意思をもっていることを見落としている。

 24日付赤旗では、「防衛省資料は、岸田文雄首相が『防衛費の相当な増額』を誓約した日米共同声明(5月23日)の抜粋を明記」していることを取り上げて、23年度の予算規模について、 「当初予算のみで『防衛費の相当な増額』を確保した」と指弾し、「こうした大軍拡は米国の要求に応じるものであることを、あからさまに示しています」と言うのである。

 大軍拡予算の内訳についてはそれなりの分析をしているが、日本資本主義の世界への進出(単に商品輸出でなく、資本の輸出つまり他国の労働者から搾取している)という現実をしっかり認識するべきである。軍拡の内容が米国のためだとこじつけるのでなく、日本帝国主義の深化と理解することでこそ正しく評価できる。

 例えば、武器輸出推進の基金・補助金400億円を盛り込んだことは、日本の軍需産業のためであるし、次期戦闘機の開発を日英伊で共同開発ということも「米要求」での軍拡ということでは説明できないであろう。

 共産党の「きわめて異常な国家的な対米従属の状態」にあるという現綱領の日米関係の捉え方が間違っているからであるが、小ブル的な民族主義に染まりきって現実を正しく認識できないのである。

 我が共産党は、「大軍拡に反対する世論と運動を大きく広げる」と勇ましく言うのだけれど、「米要求に応じた」から大軍拡するのだということでは運動は広がらないばかりか、日本のための軍拡なら容認することにならないであろうか。共産党が「急迫不正の侵略に対し自衛隊を活用する」という方針を表明していることは周知であり、ブルジョア軍隊への幻想を振りまくようでは、岸田政権を追い詰められないではないか。

 また、共産党は「国民の暮らしを犠牲にし」、「戦争する国づくり」に財政を総動員していると批判しているのだが、国家財政の破綻状態には口を閉じている。財政規律については、建設国債を悪用して自衛隊の艦船、潜水艦、施設建設に建設国債4343億円を充てていることや高額兵器の購入などを複数年度に分割して支払う新たな軍事ローンである「新規後年度負担」の急増、使途を事前に国会にはからず、政府の判断で使える予備費が5兆円もあり財政民主主義に反しているといったことしか俎上に載せていない。

 「歳出総額114兆円の9%、歳出増加額7兆円の7割が軍事費関係に充てられるという異常な軍拡予算」ということを強調しているわけではあるが、借金の元利払いにあてる国債費は3・7%増の25兆2503億円で、3年連続で過去最大になっていることや新たに国債35兆6230億円を発行する借金まみれ予算だということ、政府のいいかげんな財政運営も糾弾すべきである。「平和と暮らしを守る予算への抜本的な組み替えを求め」ると言うが、「予算の抜本的な組み替え」を安易に提案することは、かえって真剣な闘いから逸らせることになるであろう。

 共産党は、「憲法を生かした外交的努力」ということを強調するが、利害の激しい対立の解消ができるかの幻想を振りまいている。帝国主義が存続していることが対立の原因であり、資本の権益をめぐる争いが根源にあるのであって、ブルジョア国家の(中国もロシアも一種の資本主義の体制)対立と協調ということを存続させることでは、戦争の危険を一掃することはできない。
        
 労働者の世界的な連帯した闘いの発展こそ危機の打開に必要であり、日本においては岸田自公政権の打倒を目指し労働者の団結した闘いで勝利することが必要である。労働の解放をめざす労働者党と共に闘わん! (岩)

強大な軍事国家めざすと内外に宣言
自民党内では、増税案で紛糾
2022年12月15日



 臨時国会を「予定通り」に幕引きさせた岸田は、去る(12月)10日に記者会見を行った。岸田は第 2 次補正予算や旧統一教会被害者救済法を国会で通過させたことを枕詞に、「今後5年間で緊急的に防衛力を抜本的に強化する」、その後も「強化された防衛力を維持強化するための安定財源を確保する」と発言。岸田は強大な帝国主義国家、軍事大国を目指すことを内外に宣言したのだ――岸田らは23年度に6~7兆円の軍事費を確保し、その後段階的に引上げ、27年度には9兆円以上を目論む。また増税についても、毎年進める方向で動き出した。岸田の思惑どおりに進むなら、5年後に日本の軍事費は米中ロに次ぐ世界4位の額になる。
 

被害者救済法採決の背景


 「新しい資本主義」の不人気(目玉であった所得倍増を資産倍増と訂正するなど)、安倍国葬強行、旧統一教会(教団)と自民党の癒着露呈とごまかし、物価高騰に対する労働者の不信が渦巻き、内閣支持率は下がり続けた。一時は6割ほどもあった支持率は今や3割台だ。年内に救済法を採決させた理由は明らかだった。

 それは、実効性のない新法に対する教団元信者をはじめ、信者 2 世からの批判をかわし、いくらか妥協さえして早々に幕引きを図り、岸田政権と自民党に対する風当たりを逸らすためであった。それゆえ、新法は教団のみならず、岸田政権と自民党を救済するための手段、策略と化した。

 岸田にとって、いつまでも新法に時間を取られたくなく、早々に新法に決着をつけ、その上で、軍事力の強化と財源確保、さらには新「安保3文書」の公表にまで進みたいのである。

 これらを確定させれば、その次に「緊急事態条項」の新設や「積極的防衛」を含む憲法改定が俎上に載ると考えるのである。新たな軍備を想定した憲法改定や代替安保法制定にまで進めば、軍事力増強は「憲法違反」という共産党やれいわ新選組や学者たちの非難を容易にかわすことができるからである。
 

市民主義では岸田政権と闘えない


 第一次安倍政権時代、国家による教育現場に対する「日の丸・君が代」の強制の嵐が吹き荒れた。

 これに対して、共産党や日教組などは「法律が無く憲法違反」と批判したが、その後、「日の丸・君が代法」が国会を通過するや、彼らの論理は破綻し、彼らの闘いは消えて無くなった。それを岸田等はよく知っているのである。共産党やれいわ(また新左翼急進派の一部も)の憲法や法律を盾にした形式的な批判は、世界の帝国主義的対立が激化する今日、全く通用しないのだ。

 安倍がそうだったように、岸田や萩生田らも、米中対立――世界への資本輸出と資本権益獲得競争、市場囲い込み競争、関税引上げによる中国輸入製品の制限と中国の報復関税、「経済安保」による先端技術の中国流出防止、軍事的対峙、友好国囲い込みと勢力圏拡大競争など――を日中対立と捉えるし、だからこそ「台湾有事は日本有事」(安倍や萩生田の発言)と考えるのである。

 安倍政権時代、空母を次々と就役させ、攻撃的な実戦部隊を増強し、さらに長距離ミサイルや攻撃型大型戦闘機を導入しようと計画してきたのは、安倍が現在の米中対立、日中対立を〝想定〟していたからである。

 第一次安倍政権の頃には、日本からの海外直接投資(資本輸出)が急増しており、日本は前にも増して帝国主義国家に転化していったが、第二次安倍政権を含めた安倍の軍事拡大路線はこうした日本の帝国主義化の反映であった。

 世界(とりわけアジア)に資本輸出を増やし、海外の労働者を 5 百万~6百万人も雇い搾取し、日本に剰余価値(利潤)を還流し、また現地から世界に製品輸出を行う巨大な資本権益を守るために、安倍は日本の総資本を代弁し行動していたのである。

 共産党やれいわらは、安倍の本性を知らない。同時に資本主義の本質を理解していないし、帝国主義が資本主義から発生することさえ知らない――ケインズとマルクスを融合する共産党、ケインズ経済の亜流であるMMTを信奉するれいわを見よ!

 または、仮に知識として知っていても、市民主義の立場から「民主的要求」を対置するために、平和憲法が脅かされている、米国の戦争に巻き込まれると非難するに止まるのである。そしてまた、彼らは今なお、日本を米国の「半植民地」(特に共産党)に位置付けるが、それは日本が自立した帝国主義大国となった現実を正面から見ようとせず、米国からの独立や自立を要求する民族主義の闘いに逸らせたいのである。

 だから彼ら市民主義者は、安倍や岸田らを突き動かす〝真の動機〟を理解できず、上っ面の批判しかできないのである。いくら頭数を揃えてにぎやかな運動ができたとしても、市民主義の運動は無力であり、労働者の希望の星には絶対になれないのである。挙げ句には、共産党の志位が「自衛隊活用論」を打出したように、岸田や資本の立場に急接近していくのである。

 こうした共産党やれいわの主張は、岸田にとっては痛くも痒くもなく、岸田は安心して安倍がやろうとしてやれなかった(殺害されて)ことを推進するし、また実行できるのである。
 

軍事費増額に、増税か国債かの駆け引き


 今や公明や維新はもちろん、国民、立憲ら野党も岸田の「抜本的な軍事力強化」に賛成する。違うのは、岸田の増税を認めるのかどうか、国債発行を導入するかどうかに過ぎない。

 しかし、自民党内には増税に反対の声が強い。と言っても、自民党の増税反対は来年の統一地方選に勝てない恐れがあるとか、法人税増額になれば景気回復に水を差すと言うブルジョア共のコップの中の争いでしかない。

 内閣でも意見は対立している。西村経産相、高市経済安保相らは増税案に真っ向から反対を表明し、世耕参院幹事長ら自民党幹部や安倍派からも増税反対の「大合唱」(マスコミ各紙)がおきている。

 岸田は軍事力強化が優先であり「増税か国債か」で党内がもめることを牽制するが、自民党内の駆け引きはしばらく続きそうだ。

 岸田が安倍派のまとめ役として期待する萩生田は、先月の地方の講演で「1年、2年は国債」その後は「増税が必要だ」としゃべっていたが、台湾での演説で「台湾有事は日本の有事だ」と言う傍らで、国債償還期限60年ルールの見直しに言及した。

 この60年ルールとは、普通国債とその借換債の償還を60年以内に終了させるもので、償還の財源管理は「国債整理基金特別会計」で行われ、また償還財源は一般会計や他の特別会計などから充てられている。要するに、萩生田は償還期限をもっと延ばしてしまえば、新規国債発行や借換債発行が容易になり、軍事費を国債で賄う余地が拡がると言いたいのである。

 だから萩生田は、先の発言をいくらか修正し、安倍派の声を代表して「国債発行も辞さない」と言ったのであるが、MMTが巣食う安倍派の頭目らしい発言だ。
 

市民主義ではなく労働者の政治を


 このように、軍事費増額の財源確保について、自民党内でいくらか紛糾したとしても、歳出削減や増税(金持ちや復興特別所得税など)で辻褄を合わせ、足りなければ国債発行に道を開くようにするであろう。

 いずれにしても、岸田政権の軍拡路線は、財政膨張を引き起こすこと、労働者の犠牲(将来の労働者も)において行われること、国家間の対立の拡大と愛国主義や国家主義を醸成すること、ひいては労働者同士を敵対させることに繋がる。

 労働者は、共産党やれいわらの安直で無力な市民主義の政治ではなく、岸田の軍事大国化の真実を見抜き、労働者の政治を対置して、岸田自民党政権の軍拡政治と断固と闘うのみである。 (W)

「封鎖はいらない」「自由を」
中国、ゼロコロナ政策に対する怒り拡大
2022年12月2日



 中国で政府のゼロコロナ政策に対する抗議行動が広がっている。

 11月27日、上海市内にあるウルムチ通りでは数百人の若者が集まって、政府のコロナ政策に対して「法に沿って国をおさめよ」「習近平退陣」「共産党退陣」などと叫ぶデモが行われ、警官隊との衝突となった。

 また同日には、習の母校でもある北京の精華大学で数百人の学生が抗議集会を開催「いま声をあげなければ生涯後悔する」と切実に訴えた。また北京市中心部に近い朝陽区亮馬橋でも、抗議を表す白い紙を手にした1000人以上の市民が集まり、警官と衝突を繰り返した。「封鎖はいらない、自由が欲しい」と参加者が叫ぶと、周りを取り囲む市民たちは拍手を送るなど共感を示した。

 これらの抗議は、10月24日、新彊ウィグル自治区のマンションで起きた火事で10人が死亡、9人以上が負傷した事件に触発されたものだ。同マンションはコロナで3カ月近くも封鎖されていたが、火災発生当時、封鎖で逃げられず、消防車の到着も遅れたために大事故になった。この動画が発表されるとたちまち広く拡散、政府にゼロコロナ政策にたいする各地の市民の憤激が広まった。政府に対する抗議行動は少なくとも全国で10カ所を超えるという。

 精華大学の女学生の声や「白い紙」に象徴されるように、これらの抗議はたんに政府の画一的なゼロコロナ政策に対する批判にとどまらず、それを超えた労働者・人民が習近平政府を批判する発言や行動を禁止されていることに対する不満、怒りの現れである。

 習政権はコロナ発生地域に対して、地域全体を封鎖し、長期間地域住民を閉じ込めるゼロコロナ政策をとった。

 ゼロコロナ政策の下では、例えコロナ感染者が一人出ても、その建物や地区は全面的に封鎖され、アパートや地区住民は外出することもできず、長期間閉じ込められ、食料調達もままならないという状態を強制された。そして封鎖するかどうかは行政機関の一存で、一切の異論は許されず監視のもとでの生活を強いられた。

 初期の段階ではコロナ感染は克服されたかに見えたが、感染者は再び増加し、中国政府の発表によれば11月24日、新たに全国で感染者は3・1万人とこれまでの最高記録をこえた。これまでは、今年4月13日、上海市の2・9万人が最高であった。

 デモの広がりに対して、政府は市民の怒りをそらせるために、多くの地域で全面封鎖を続けてきた広州市では地区封鎖を緩和したり、市民全員に義務化してきたPCR検査を縮小するなどの動きもみられる。しかし、ゼロコロナ政策をやめるとは言ってはいない。

 習はコロナ政策は「ウィルス蔓延を阻止するための人民の戦争」だとし、ゼロコロナ政策によって武漢での感染拡大を抑え込み、世界に先駆けて経済を回復させた、それが可能であったのは共産党が統治する「制度的な優位性を示すもの」として内外に誇示してきたからだ。習にとって、ゼロコロナ政策を変えることはこれまでの主張を自ら否定することを意味する。したがって、ゼロコロナ政策を簡単にやめるわけにはいかないのだ。

 習政権は、過剰な隔離や生活面の規制を改めるとしながらも、ゼロコロナ政策を止めるとは言わないし、「敵対勢力の浸透と破壊活動、社会秩序を乱す違法犯罪行為を断固取り締ま」るとして警官隊を配置するなど、抗議デモ再発に対して警備体制を強化している。

 再びコロナ感染が拡大する下で、政府への批判が噴出しているのは、労働者・人民に対する独裁的支配に対しである。

 批判は地域だけでなく、労働者の働く職場にも広がっている。

 米アップル社のiphoneを受託生産しているフォックスコン・テクノロジー・グループの中国拠点(河南省郭鄚州市)、台湾の鴻海精密工場では、コロナ蔓延で外部から遮断された工場封鎖に耐えながら働いてきたのに、賃金が約束通り支払われなかったとして数千人の労働者が抗議し、警官隊と衝突し、40名が逮捕された。

 労働者はコロナ感染者が増えたとして、食堂を閉鎖、24時間以内の陰性証明携帯を義務化など厳しい労働を強いられた。それににもかかわらず感染は一向になくならず、医薬品も不足するという状況の中で、工場の寮に寝泊まりながら働いていた大量の出稼ぎ労働者は「こんな恐ろしい環境では働けない。早く、安全な実家に帰りたい」として、工場から逃れようとして脱走が起こった。彼らは数10キロ、中には100キロにも及ぶ道のりを歩いて帰宅したという(以上、11・27読売新聞オンラインより)。

 工場の経営者は台湾企業であるが、中国政府は劣悪な労働環境を容認し、これに抗議する労働者を警察権力で弾圧した。鴻海精密工場は市内3カ所に分かれ、普段は20~30万の労働者が働くiphone生産では世界最大の工場であり、ここでは世界のiphoneの生産の約半分を生産している。

 中国共産党は、「共産主義」の党を名乗りながら、実際には鴻海精密工場のような劣悪な労働環境を許している。こうした劣悪な労働は中国に進出した外国企業だけではなく、中国の企業も同じであり、発展途上国に進出した中国企業も同じである。中国の海外進出企業もまた海外の労働者を酷い労働条件で働かせ、利潤獲得を競い合っている。それは、中国が労働者の国家ではなく、資本の国家(国家資本主義の国家)だからである。

 数千の労働者による中国iphone工場の抗議は、国家資本主義中国の矛盾のあらわれであり、習独裁政権のもとで呻吟する労働者の怒りの噴出である。  (T)
        

アメリカ中間選挙結果
トランプのデマゴギーを退ける
2022年11月17日



 アメリカ中間選挙(11月8日投開票)は、16日時点でまだすべての開票結果が出ていないが、バイデンが上院の開票状況について「非常に喜んでいる」(13日)と言ったように、民主党が上院(定数100)の50議席を確保し、下院(定数435)でも共和党212議席に対し、民主党204議席である(14日時点)。デマゴギーのトランプが主導した共和党は、上院で敗北し、下院でも当初予想されたような大勝とはならない見通しである。


1. 選挙の争点、物価高


 今回の連邦議会選挙は、40年ぶりの水準にある物価上昇が労働者の生活を直撃する中で行われ、争点はまず物価高対策であった。

 アメリカではトランプ時代の2017年から19年までは消費者物価指数の前年同月比はほぼ2%程度で推移していたが、コロナパンデミックによって世界的な恐慌となった2020年には0~1%になり、その後バイデンに替わった21年以降は上昇し、今年6月には9・1%を記録し、10月には7・7%と高止まり、労働者は生活困難をきたしている。

 トランプは、民主党の放漫財政がインフレを引き起こしたと、ここぞとばかりバイデンを責めるが、それを言うなら、トランプも2020年8月にコロナ対策として米国の国内総生産(GDP)の1割に当たる2兆ドル(約220兆円)超に上る史上最大の財政出動を行ったのだから、トランプも同罪である。

 一般に商品価格は、商品に対象化されている労働時間(価値)によって規定され、歴史的には生産性が上がって商品生産に必要な労働時間は減少していくのだから、商品価格は下がっていく傾向にあるといえる。しかし、売り惜しみや独占価格によっては、本来の価値によって規定される価格よりも商品価格は上がる。

 トランプは大統領時代に既に中国などからの鉄鋼輸入に25%の関税をかけ、そのアメリカファーストの保護主義が安い輸入品を抑制し、結果として物価の上昇を強いたといえるのであるから、トランプは何食わぬ顔で物価上昇に頬かむりしていることはできない。

 しかし現在みられる物価上昇は、必要流通量以上に通貨が流通に入り、通貨の「価値」が減少するインフレの様相を呈していると考える。コロナ禍による世界的恐慌で生産が縮小し、商品流通が縮小する中で、世界中の政府と同様にアメリカでも、コロナ過中から消費を喚起するとして通貨を大量にバラまいたのだから、通貨の「価値」の減少を引き起こしたことは十分考えられる。

 バイデンは22年8月に「インフレ削減法」を成立させたが、その中身は「気候変動対策」や「医療保険制度改革」などで、財源として「15%の最低法人税率」、大企業や富裕層に対する「内国歳入庁による課税の強化」などが盛り込まれている。しかし「気候変動対策」として、GⅩの投資のための税額控除を行うというのであるから、インフレ抑制効果はほとんどないであろう。

 一方トランプはインフレ抑制として大企業や富裕層の減税を言うのであるが、インフレに対しては、むしろ増税して通貨を引き上げなければならないのであるから、まじめに取り組んだと言えないのはバイデンと同じである。労働者はどちらにも明確な支持は与えていない。


2.トランプの懲りないデマゴギー


 今回の選挙戦でもトランプに賛同するMAGA(Make America Great Again)を共和党候補者に送り込み、「大統領選が不正操作され盗まれた」と2年前と同じ主張を繰り返し、「拡大する左翼の暴政に立ち上がらなければならない」、「アメリカンドリームを再び」などと、労働者を辟易させた。

 選挙不正の主張は、健全な労働者の支持など得るものではなく、今回の選挙ではトランプの推薦は逆効果を生むとさえいわれ、民主党は共和党の予備選挙でMAGAを共和党候補になるようなネガティブキャンペインを張った(15日TBS)。

 中絶に関しては、今年6月に連邦最高裁が、合衆国憲法で保障された権利として中絶を認めた73年の判決を覆し、女性を中心に労働者・若い世代に大きな反発を起した。トランプ共和党は、妊娠中絶の禁止・制限を狙っていた。判事9人はトランプが保守派の判事を送り込み、共和党保守派6人革新派3人となり、6月の判決となったのである。バイデンはこれに対して、中絶の権利を明記する法案の成立を目指すと、中間選挙の争点とし、労働者の支持を広げた。

 中絶権利の剥奪は、トランプの労働者の権利・自由を抑圧する政策の一環と労働者に考えられた。労働者は、トランプの反労働者的な抑圧政治を跳ね返すべく、民主党を支持したのである。労働者はそれにとどまることなく、中絶の権利を労働者の権利・自由の一環として獲得し守る闘いを進め、労働者を抑圧する資本の支配とそれを支える民主党、共和党の政治に対する闘いへと発展させていくであろう。


3.アメリカ労働者の闘い


 バイデンにしろトランプにしろ、インフレを抑えようとして金利を引き上げると今度は景気後退を心配しなければならないのであるが、労働者がインフレによって生活苦に陥り、景気が後退すると資本によって賃下げ、労働強化、解雇の犠牲を強いられ悲惨な状況に置かれることはお構いなしであり、せっせと資本の利益維持に精を出すのである。

 バイデンは、米国第一、保護主義のトランプと変わることはなく米国の資本の利益、国益を第一とするのであり、帝国主義的国家として中国の帝国主義的進出と対立を深め、労働者の利益に反する軍備増強に励むのである。

 バイデンは、トランプのデマゴギーにたいして、「今回の投票で問われているのは民主主義そのものだ」と訴えたが、バイデンが守ろうとするのは、資本の支配を維持する、現在のブルジョア民主主義であり、労働の搾取に基礎を置く資本主義社会の悲惨な状況の変革を問題にもしないことはトランプと同じである。労働者は、資本の支配を乗り越え、労働者の支配する本当の民主主義の獲得をめざし、バイデン民主党の政治と闘いを進めるであろう。 (佐)
        

管理春闘を打ち破れ
闘いはここから、闘いは今から
2022年11月3日



 労働団体は先月、来春闘の賃上げ目標を発表した。連合は基本構想で、「ベースアップ」を3%程度、「定期昇給分」合わせて 5%程度の賃上げを要求、全労連は月2万5000円以上の賃上げ目標である。連合は2016年から昨年までの賃上げ目標は4%程度で、5%の目標は1995年に 5~6%を掲げて以来だという。

 芳野連合会長は「生活に大打撃を与えている物価上昇分(の賃上げ)をしっかり取っていく」と意気込んでいる(11/2産経)と言うが、今現在、物価高騰激しい中で、なぜ来年の春まで闘おうとしないのか。労働者の生活破壊を放置しておいては「労働組合役立たず」となり、組織化率向上などできない。労働者に依拠して闘いを組織するべきであって、「春闘」の形式に縛られて労働条件悪化を受け入れさせようというのか。ダラ幹の闘争放棄では生活は守れない。

 一方先月24日、最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会(非正規労働者らが加盟する労働組合でつくる団体)は、今年度の最賃再改定を求めて厚生労働省に要望書を提出(10/27 毎日)。8 月に中央最低賃金審議会が、過去最大の 31 円(3・3%)の引き上げを答申し、先月改定最賃が発効したばかりだが、最賃が低額であるばかりか、「食料品などの激しい物価上昇に賃金が追いついていない」からである。

 同委員会は、フランスでは物価にスライドして最賃を上げる制度になっており、年に 2 回最賃を改定していると紹介している(10/27 毎日)。そうした制度が闘いによって勝ち取られた面を否定するものではないが、改良を勝ち取るにも、労働者の断固たる階級的な闘いが必要であり、「改良の積み重ね」の限界(賃金制度とは搾取の体制であること)を確認し、資本の支配を廃絶するために階級的な団結を強固にしていくべきである。

 厚労省幹部が「最低賃金の引き上げを賃上げの象徴としてきたのがこれまでの政権だった」と解説(8/3 毎日)するように、2012年の第 2 次安倍政権以降、最低賃金を政治主導で決めてきた。安倍が経済界に「賃上げ要請」してきたことも周知の通りである。

 しかし、実質賃金は、2020年を100とした指数では、1996年の116・5 をピークに、2013年は105・1、2019年で101・2と下落傾向であり、政府の「賃上げ要請」が、人気取りでしかなかったことを暴露している。

 経団連は来春闘で、物価高を念頭にベアに関して会員企業に積極的な賃上げを要請する方針を固めた(11/2 共同)という。来年 1 月に取りまとめる春闘での経営側の指針「経営労働政策特別委員会報告」に「賃金引き上げのモメンタム(勢い)の維持・強化に向けた前向きな対応を」と明記するというのだ。これは岸田首相からの要請を受けてのことではあるが、「人への投資」は今や財界のみならず、連合幹部も共有する認識であり、労資協調で労働者からの搾取増大を狙っている。

 日本資本主義の国際競争力低下が顕著になり、「新しい資本主義」を目指そうということの一環であるが、「人への投資」とは、資本主義においては労働者が「人間」として尊重されるのではなく、「収益源」として評価される存在であることを示している。

 労働の解放を目指して闘う意義を再確認して闘いを発展させていこう。(岩)
        

中国に対抗、軍事協力の深化謳う
日豪首脳、「安保協力宣言」に調印
2022年10月28日



 日本と豪州両国首相は10月22日、「安全保障協力に関する日豪共同宣言」を調印した。岸田は会談後、この意義について「今後10年間の羅針盤になる共同宣言に署名することが出来た」と語った。

 「宣言」は、「日豪両国の主権および地域の安全保障上の利益に影響を及ぼしうる緊急事態に関して、相互に協議し、対応措置を検討する」と謳っている。

 「宣言」は、クリーンエネルギー技術のためのものを含む強靭なサプライチェーンの構築、質の高いインフラおよび透明で持続可能な貸し付け慣行を促進し、電気通信の安全性および強靱性を含む重要インフラの保護の協力を強化し、偽情報に対抗することにより、経済安全保障を促進することを謳っている。

 しかし、経済面でだけでなく、軍事面での連携強化を謳ったことが特徴である。

 共同訓練および活動、ならびにパートナーとの多国間演習、整備を含む施設の相互利用、武器等防護、人的連携および交流を通じて、自衛隊と豪州国防軍との間の、実際的な協力を拡大、深化させ、相互運用性をさらに強化していくこと、サイバー、宇宙、重要・新興技術、電気通信などの領域における包摂的で透明性のある制度、規範および標準作成に協力することを謳っている。

 07年には日豪は、「物品役務相互提供協定」(ACSA)を結び、軍隊の燃料、輸送、弾薬、装備、装備、食料など一般的な支援を相互に行うことを約束しあったが、軍事的な共同行動を約束するものではなく、緩やかな協力関係を持つことを内容としていた。日本は同様な協定を英、仏、韓国とも結んでいる。しかし、今回の「宣言」は、日本にとって、日米安保条約に次ぐ戦後二つめの〝同盟〟条約ともいえるものである。

 この背景には、中国の存在がある。中国は今や米国に次ぐ世界第二の軍事、経済大国となり、米国と並んで世界を二分する勢力に向かって影響力を拡大しつつある。

 中国はこれまで第一列島線、第二列島線を想定して米海軍をハワイ以東に閉じ込めようとしてきた。しかし、西太平洋からインド洋全体を支配するために、この海域への米海軍の接近を阻止する第一、第二列島線戦略をはるかに越えて、現在では第三列島線に進出してきている。

 第三列島線は、2040年までの目標として中国の国益擁護に必要な海を南緯35度以北、東経165度以西と定義し、その海域に中国の支配権を確立するというものだ。中国が支配権を目指すのは豪州南部以北の太平洋であり、米海軍が君臨してきた太平洋である。そこにはマリアナ諸島、パラオ、ソロモン諸島などが広がる。

 中国は最近ソロモン諸島と安保条約を結び、軍事基地を建設した。中国の狙いは軍事的ばかりではなく、「一帯一路」政策によって経済支援をテコに太平洋島嶼諸国を影響下に置くことである。中国は「中国の一部」として認めない蔡台湾政権との断交を訴えてきたが、台湾と断交し中国との国交を樹立した島嶼国は10を数える。

 中国の対外膨張に危機意識を募らしてきたのは米国ばかりでなく、日本、豪州の政府も同じである。インド太平洋地域は海外との物資輸送の主要なルートとなっているからである。

 習共産党は、大会で党規約に「『台湾独立』に断固反対し、食い止める」と台湾の軍事的奪還を放棄しないと謳うなど、台湾をめぐって米国と中国との軍事的な緊張は強まっている。中国は米・ロが結んできた地上発射型中距離核ミサイル保有禁止条約(INF)に縛られず、核ミサイル能力を強化してきた。19年INF条約失効後、米国は新型中距離核ミサイル開発を急ぐが実戦配備に至らず、中国は米国を圧倒している。

 これにたいして、米バイデン政権は、「独裁、専制政治」に反対する「民主主義、自由主義」に基づく国家の連携強化を訴え、東南アジアでは「自由で開かれたインド・太平洋」のための米・日・豪・印4カ国の提携(クワッド)、米・日・豪3カ国の軍事的・経済的協力(オーカス)を推進してきた。

 日豪「安全保障協力」宣言は、「共通の価値観および相互の戦略的利益に対する増大するリスクに対応するため、われわれのパートナーシップが引き続き進化しなければならないことを認識する。われわれは、自由で開かれたインド太平洋への揺るぎないコミットメントを確認する」として、「日・豪・米3国の結束強化」を明記している。

 日本は天然ガス、燃料用石炭、レアアースなどの安定供給を豪州に期待し、中国への貿易依存度を減らそうとしている豪州は安定輸出市場として日本に期待している。日豪両国は海外輸送ルート確保という共通利益のほかに、貿易についても相互補完的な利益に立っている。こうした共通利益が両国の軍事的協力深化をもたらしたのである。

 日豪の軍事同盟は、米中の対立をさらに激化させるだろう。これはブルジョア国家、資本の権益、市場獲得をめぐる対立であって、労働者は日・豪・米の同盟にも中国の膨張にも反対である。労働者の目指すのは帝国主義の一掃であり、世界の労働者の協同・協力である。  (T)
        

安保戦略有識者会議が始まった
帝国主義国家に相応しい軍事体制めざす岸田政権
2022年10月14日



 岸田は昨年10月、首相就任時にNSS(国家安全保障戦略)などの安保3文書(NSS、防衛計画大綱、中期防衛力整備計画)の改定を明言し、今年5月に来日したバイデンと首脳会議を行い、防衛力の抜本的強化やそのための防衛予算確保を「公約」した。

 岸田は就任当初、新自由主義による格差拡大を批判し、金持ち課税強化を打出し、所得倍増を掲げたが、そのクチ三味線に交えて防衛力の抜本的強化を打ち出していた。

 しかし、投資企業などから金持ち課税に不評が出るや、岸田は何の信念もなくあっさりと引っ込め、池田勇人以来だとマスコミを賑わせた「所得倍増論」も「金融所得倍増」(NISAの拡大等)という金持ちに都合のいい話にすり替えた。残ったのが国家主導による国家投資とこれに依拠する防衛力強化策だ。

 岸田が招集した防衛力強化のための安保戦略有識者会議が9月30日に始まった。このメンバーはシンクタンクの理事長(翁百合、佐々江賢一郎ら)、大学教授(中西寛)、元防衛事務次官(黒江哲郎)などで構成されている。この有識者会議の答申を受けて与党内協議を図り、年内に3文書改定をまとめ、同時に、来年度の防衛予算も算定する。既に今年の1月以来、「有識者」を集めて非公開で計17回の意見交換を行ってきたが、野党から「ブラックボックスで議論を進めるのか」と批判がおこり、形だけの公開会議=有識者会議を作ったというわけである。

 だから、始めから結論ありきであり、安保3文書には敵基地攻撃が可能な長距離ミサイル(スタンド・オフ・ミサイル)や巡航ミサイル搭載可能な大型戦闘機の量産体制の必要性を謳い、早急に配備させるべきと書かれるのは必至である。かつて安倍政権時に就役させた 2 隻の空母を「多機能護衛艦」と呼称したように、3 文書では、攻撃型兵器を防衛的兵器だと偽って呼称する可能性もあるが、それは 3 文書が外交文書でもあるからだ。

 既に、安倍政権時代から政府は次々と軍事体制強化を図り、最近のウクライナ情勢や中国の軍事強化(25年に、西太平洋で「米中の戦力バランスも中国側の優位に傾く」という予測)を利用し、さらに加速しようとしている。

 安保3文書と同時に進めているのが、「防衛装備移転三原則」の見直しである。既に、浜田防衛相は来年度の概算要求が固まった7月29日に記者会見を行い、安倍が14年に閣議決定した「三原則」を改定し、武器輸出はもちろん、海外拠点から第三国への輸出も解禁すべきと匂わせていた。政府・防衛相と傀儡である「有識者会議」はこの方針にそって、防衛装備品の生産体制(開発能力を高め、量産可能にしていく)もまた強化していこうと策動している(『海つばめ』1434号で詳しく紹介)。

 日本は既に世界に、とりわけアジア諸国に「資本輸出」を拡大し、海外諸国に資本権益を築き上げ、海外労働者から多くの剰余価値を搾取し、さらに、これらの海外拠点から貿易を繰り広げる帝国主義国家である。安倍もそうであったが、岸田の進める防衛力強化策は帝国主義国家に相応しい軍事体制を築こうとするものである。岸田政権は、強化した軍事体制をバックに、政治的にまたは軍事的に、アジアの覇権を廻って中国と争おうとしているのである。つまり、現在の米中対立や日中対立は、世界やアジアの覇権をめぐる帝国主義国家どうしの争いなのである。だから、労働者は岸田政権の軍事強化に断固反対するのである。

 同時に、労働者は国際主義に立脚する。それは、世界の労働者と連帯し協同し、互いに自国の資本主義を打倒し、労働の解放を目指して闘うためである。帝国主義がのさばり、人々を相い戦わせ、苦しめる根本原因は世界が資本主義社会であるからだ。

 自民党や維新らは中国脅威論を叫び、これを利用して、愛国・国家主義を扇動し、軍事強化策に労働者を巻き込もうとする。ブルジョア政党への脱皮を急ぐ共産党もまた、「自衛隊活用」論を打出し、さらに志位は政権に就くなら「自衛隊合憲の立場をとる」(5 月)と明言した。だが、労働者はこれらのブルジョア・半ブルジョア政党の策動に組みせず、軍事拡大を暴露して闘うのである。労働者党と共に闘おう! (W)
        

破綻暴露する「異次元の金融緩和」策
政府・日銀、円買いドル売りに
2022年10月6日



 9月22日、政府・日銀は止まらぬ円安に歯止めをかけるために、円買い、ドル売りに走った。政府が円為替レート低下をけん制するために為替市場に介入するのは、実に1998年以来24年ぶりのことである。しかし、一方では円安をもたらしたこれまでの「異次元の金融緩和」策の継続を謳うなど、確たる見通しもなく矛盾した態度をとり続けており、一貫性のない場当たり的な政策であることを暴露している。

金融緩和維持は日本だけ

 円安が進んだのは日本と米国との金融政策の違いがはっきりしたことによる。日銀の黒田総裁は、22日、日銀政策決定後の記者会見で「当面、金利を引き上げることはないといってよい」と述べた。物価上昇率は、来年度以降、下がる見通しだとしたうえで、緩和を引き締め方向に見直す時期は、2~3年先との見通しだとした。しかし、黒田の発言はどんな根拠もない。黒田は、既に破綻した自らの異次元の金融緩和による「景気回復」というドグマを無責任に言いふらしているだけなのである。

 一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、21日、物価高騰の対応策として 0.75%の追加利上げを決定。今後についても、政策金利水準を年末までに4.40%との見通しを示し、そのためにはさらに金利を1.25%上げるという。

 これまでマイナス0.25%の政策金利をとってきたスイス銀行も22日、0.75%引き上げ、プラス0.5%とすると発表、欧州中央銀行(ECB)は今年7月にマイナス金利を解除。主要国でマイナス金利をとっているのは日本だけとなった。

 欧米諸国が一斉に政策金利引き上げに向かっているのは激しい物価上昇に対応するためである。コロナ対策やロシアのウクライナ侵攻によって食糧、エネルギー、原材料など物価上昇をもたらしている。これは欧米だけでなく日本も同じである。とりわけ日本では「異次元の金融緩和」策は、利上げに向かう欧米通貨との為替相場の差を拡大し、円安をもたらして物価の上昇幅を大きくしている。

小手先に終わった円安歯止め策

 政府にとって、ドル売り、円買いに乗りださざるをえなくなったのは、わずか1カ月もたたないうちに1ドル=145円90銭と年明けから30円近くもの円安をもたらすような状況を見過ごすことは出来なくなった焦燥を示している。政府は「レートチェック」といった「口先介入」円安圧力をかわそうとしたが全く効果はなく、結局ドル売り、円買いに走らざるを得なかったのである。

 ドルを売り、円を買う対策は、為替市場で円の為替レートを高めようとする手法である。日本の外貨準備は8月末で1.2 兆ドル(約185兆円)であり、その8割は外貨建て証券、その大半は米国債とみられている。といっても直ちに利用できるのは外貨準備の1割程度、1400億ドル(20兆円)程度と言われており、今回は約3.6兆円程度の円買い入れを行ったようである。

 しかし、米国は輸入物価を押し下げるドル高を歓迎しており、日本政府が行う小手先のドル売り、円買いで円安が止まるわけはなく、介入で1ドル=144円30銭台から140円台まで円高に振れたが、23日には1ドル=144円38~43銭に戻った。

 円安に歯止めをかけるための政府のドル売り、円買い策は小手先の一時的なものである。大米国が金利引き上げに向かうなかで日本が大幅な金融緩和策を継続する限り、円安は避けられないし、また日本経済が停滞を抜け出せないかぎり、円安をさけることは出来ない。

ジレンマに落ち込む日本政府

 政府・日銀にとって今や円安は食糧、エネルギー、原材料など物価上昇をもたらし、経済発展にとって障害となっているが、だからと言って欧米のように金利引き上げに政策を転換するわけにもいかない理由がある。

 日本は異次元の金融緩和策で、長期金利の上限を「0.25%程度」としてきた。日銀は特定の利回りを指定して国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施、6月の長期国債の買い入れは16兆円に上った。こうして日銀の国債保有率は6月末には過去最高の49.6%(528兆円)となった。日銀の国債保有は黒田総裁に変わり、大規模な金融緩和に乗り出す前の2012年末に比べると僅か 10年の間に91兆円(11%)から約5倍に増えた勘定だ。

 日銀が民間金融機関などから国債を買い入れた代金は、民間金融機関が日銀に持つ当座預金に入る。金利が上昇するならば民間金融機関などへの預金口座所有者への日銀の利子支払いが増加することになる。

 1%金利が上昇したとして、単純に計算して528兆円の1%、5兆円余りの利子負担が増加することになる。仮に数%金利が上昇するなら、10兆円ほどの日銀の自己資本は消し飛び、債務超過に陥らざるを得なくなる可能性もでてくる。それは円の信用の失墜につながるだろう。

 大きな困難をもたらすのは日銀ばかりではない。

 3月末の政府の普通国債残高は1000兆円規模に膨らんでいるが、「財務省の試算では、金利が予定より1%上昇した場合、25年度の元利払いの負担は 3.7兆円増える」(日経、8.10)という。

 10年前、「異次元の金融緩和」を唱え、欧米諸国も超低金利政策を採用した段階では、安倍はカネを市場に大量に流し込む「異次元の金融緩和」策は景気回復策ための「世界のスタンダード」になったと豪語した。しかし、実際には日本は景気回復どころか、経済は低迷を続け、利益を得たのは一部の大企業、金持ち階級のみ、国家の借金は膨らみ、労働で社会を支えている労働大衆の生活は一向に改善されないままになっている。そして、世界的なコロナの蔓延、ロシアのウクライナ侵攻による急激な物価上昇である。

 日銀発表によると2020年平均を100とする今年8月の国内の企業物価指数(速報値)は木材・木製品が174.6、石油・石炭製品が152.3、鉄鋼が147.7、非鉄金属が144.1、電力・都市ガス・水道が139.1、燃料・原材料は2000年平均と比べて約1.5倍である。

 輸入物価指数は178.7となり、約2倍に迫る勢いである。分野別では石油・石炭・天然ガスが337.1、金属・金属製品は166.6、飲食料品・食料用農水産物が156.2などとなっている。輸入物価の高騰の約半分は円安によるものである。エネルギー、食糧、原材料のほとんどを輸入に依存する日本にとって、円安による輸入物価の激しい騰貴は利潤を圧迫する障害になっていきているのである。

 欧米各国が物価上昇に対応するため金利上げに転換する中、利上げは国家財政の負担を一層重くするとして、「異次元の金融緩和」策を転換することもできず、戸惑っているのが現在の日本である。
        

統一教会との癒着を隠蔽
岸田政権を打倒して真実を明らかに
2022年9月15日


統一教会との癒着の隠蔽を図った「閉会中審査」

 9月8日安倍元首相の「国葬」をめぐる閉会中審査が衆参両院の議員運営委員会で行われた。そしてその終了後、自民党茂木幹事長は、党所属国会議員に対して行った統一教会や関連団体との関係の点検結果を発表した。閉会中審査と点検結果の発表は、自民党と統一教会の癒着した底知れぬ深い関係と、その関係を隠蔽しようとする岸田政権の醜い腐敗した姿を満天下に露呈した。

「点検結果」で統一教会との
    癒着問題の隠蔽を許すことはできない


 7月8日の安倍殺害事件以降、自民党と統一教会との関係が次々に明らにされる中で、これまで自民党は、「自民党として組織的関係がないことは確認している」として、所属議員に対する聞き取り調査を拒否し、これまで岸田は議員それぞれが点検し関係を見直すように求めるだけであった。

 しかし統一教会との関係を隠蔽し国葬を強行しようとする自民党に対する世論の非難が高まり、8月26日に茂木幹事長は、党所属国会議員に対して点検結果を報告する旨の通知を出し、9月6日には公表するとした。そして8月31日に岸田は、国葬について、国会審議に出席し、質問に答える場を設けるとした。

 このとき岸田は、「自民党議員について、報道を通じ、密接な関係を持っていたのではないか。国民の皆様から懸念や疑念の声を頂いている」、「自民党総裁として率直におわびを申し上げる」と、教団と自民党議員が関係のあったことを認めざるを得なかった。

 しかし岸信介をはじめとし、福田赳夫ら歴代総裁・首相を含め自民党が統一教会との密接な関係を持ってきた事実は厳然としており、党首・首相だった安倍が統一教会関連の会合にビデオメッセージで出演し、選挙で教会員票を自派の候補者に割り振ったのであるから、単に議員個人ではなく自民党との癒着関係があったことは明らかである。

 公表した点検結果は自民が確認したという「自民党として組織的関係がない」ことを立証するものではなかった。今回の自己申告の点検結果でさえ、379人中179人、自民議員の半数近くが接点をもっていたことが明るみになり「組織的な関係」があったことを裏付ける。

 茂木幹事長は、これは「党としての調査ではない。点検結果の集約」と強調し、党の責任をあいまいにした。自己申告の点検として、安倍と統一教会との関係については、「亡くなったから、限界がある」と肝心な点を切り抜けようとした。党による「調査」ではないのだから、安倍と統一教会との関係は調査しなくてもいいとした。

 自民党と統一教会や関連団体との関係について調査が及ぶことは、党の存続に関することであり、自民党は「調査」は行うことができないのである。閉会中審査では岸田は「党の調査結果」といつの間にか言い換えていたが、この点検結果を「調査」にすり替え、調査が済んだとしたいのであろうが、そんな小手先の誤魔化しよって、自民党と統一教会との癒着の事実を隠蔽することは、許されるものではない。そして岸田は点検結果の発表を閉会中審査後に発表し、審議で問題とされることを巧妙に避け、悪事を塗りたくった。

「閉会中審査」で明らかになった岸田政権の腐敗

 国葬反対の世論は、何故国葬なのか、何故国費を使うのかという疑問から出ているが、それは安倍殺害事件で明るみに出た安倍自民党と統一教会の癒着関係に対する不信が根底にある。

 霊感商法など人の弱みに付け込んで多額の「献金」を強いるカルト集団統一教会の犯罪的行為は、政権党たる自民党が統一教会を支持することで、それを放置し野放にした。自民党は、政権維持を図る選挙の票集めに、思想的に同調する反動的反労働者的な統一教会の組織力を利用していた。

 このような統一教会と深く結びついた安倍・自民党との癒着関係の横行と、それを許し被害者を放置してきた安倍・自民党に対する怒りが、安倍国葬反対の世論となって表れている。

 国会で岸田は巧妙にも、統一教会との密接な関係があるのは自民党の議員である、党との関係ではないと強弁した。閉会中審査の議題は「国葬儀」だとした。国会の質疑において、立憲や共産が国葬とした理由として岸田が挙げる安倍の評価に関して、安倍と統一教会との関係を取り上げると、衆院議運委員長山口は、本日の議題は「国葬儀である」と、その質問を遮りその追及の矛先を削いだ。

 岸田は国会での「安倍と統一教会との密接な関係」に質問が及ぶと、「自民党と統一教会とのありようは、点検結果で説明責任を果たすべく取りまとめに努めている」と言い逃れた。

 岸田は「丁寧な説明を続ける」と言ったが、国葬の根拠の説明は首相在任期間が戦後最長だの、6回の国政選挙を勝ち抜いただの、内容のない理由を並び立て、これまでの説明を繰り返しただけで、メッキはすぐに剥げ落ちる。岸田は各国からの参列予定者を列挙して国葬の理由としたが、9月8日に死去した英・エリザベスの国葬の参列者と比べると見劣りがすると今では言われる始末である。

 岸田は国葬を行うのは行政権の範囲内であり、内閣府設置法と閣議決定を根拠に決定した、国葬は内閣府設置法にもとづく内閣が行う「儀式」、すなわち「国葬儀」だとし、国会でもこの説明を繰り返した。しかし国葬が行政権に属するものかどうかを、そもそも国会に諮らなくてはならないのだから、こんなことは全く岸田の勝手な言い抜けにすぎない。

 労働者・働く者の生活困難が進む中で、労働者・働く者から搾り取った税金からこんな大金を、反労働者的な政治しかやってこなかった安倍の国葬に使うことなど、労働者は認めるわけにはいかないことを、岸田は知るべきである。

岸田政権を打倒して真実を明らかにすべき

 自民党の我が身をかばう悪巧みは底知れないが、「隠れたるより現るるはない」の言葉どおり、自民党と統一教会とが深く関わっていて、それを隠すことができないことは、閉会中審査・点検結果でも明らかになった。世論調査でも、国葬の説明について納得できないは64%、岸田内閣支持率は41%に下がり、不支持が47%と初めて逆転した(朝日9月13日)。

 自民党とカルト集団統一教会との癒着・協力関係は事実であり、それが現在も続いていることは今回の自己点検でさえ明らかにした。しかし自民党は自らその実態を自らの調査で明らかにすることは決してできない。こんな自民党には統一教会の被害者救済も不可能である。

 自民党は、「今後一切関係を持たない」というが、まず世界平和統一家庭連合と名称を変えた統一教会の宗教法人格を取り消させ、解散命令を出させるべきである。統一教会票で当選した議員は、議員の資格を返上しなければならない。そんな議員をかばう岸田を退陣させなければならない。

 反労働者的政策をやってきた安倍礼讃を演出し、自らの政権安定化を図ろうと岸田が強行する国葬の中止を労働者・働く者は求める。共産党などは、「党として責任をもった調査こそ必要」というが、それは犯罪者に自らの犯罪を取り調べよと言うようなものである。真実が明らかにされるために、岸田政権打倒の狼煙火を掲げ、労働者・働く者の階級的闘いが提起されなければならない。  (佐)
        

「言い逃れ会見」を許すな
自民党政治を終焉させよう
2022年9月1日



 8月31日の岸田首相の記者会見は、旧統一教会と自民党の密接な関係や強引な安倍国葬の問題で政権批判が強まっていることに対して、謝罪や〝丁寧な〟説明を行うことで巻き返しを図ろうとしたのであろう。その上、コロナ対策で規制緩和に動くことの正当性や質問に答える形で原発政策の方針変更の釈明をしている。

 旧統一教会との関係については、ようやく党として点検し結果を公表するとか、関係を断つことを徹底するとか、法令順守体制を強化するなど並べたのであるが、安倍の旧統一教会との関係について検証するかとの質問に、「ご本人が亡くなられ た今、十分に把握するということについては、限界がある」とかばいたてするような姿勢であり、とても「真摯に反省」しているとは思われない。

 それは、内閣改造の際に、旧統一教会との関係を「自ら点検し厳正に見直すことが新閣僚や党役員の前提となる」と言いながら、山際のような経済再生担当相留任後に関係を明かすような人物を排除せず、岸田の「厳正」は厳正でないのと同じように言葉が〝軽い〟のだ。

 岸田は「旧統一教会の問題になぜ時間がかかっているか」、「何十年にわたって長きにわたってさまざまな関係があった」ということは認めており 、「この長い関係について、今一度明らかにしていく、その際に自民党として時間がかかってきた」と内容のない言い訳をしている。いったいどこまで明らかになったのか。岸一族や福田赳夫と文鮮明との関係や反共主義の結びつきなど、単なる選挙協力にとどまらない密接な繋がり(1974年5月に、文鮮明の開いた「希望の日晩餐会」で、元総理の岸信介が名誉実行委員長を務め、当時蔵相であった福田赳夫が、「アジアに偉大なる指導者現る。その名は文鮮明である。」と礼賛していたことは有名である)について、旧統一教会を成長させてきた責任においてつまびらかにすべきである。

 「政治家側には、社会的に問題が指摘される団体との付き合いには厳格な慎重さが求められ」ると言う岸田の「厳格な慎重さ」とは何なのか、付き合ってはいけないということなのか、付き合うのはいいが大っぴらにならないように〝慎重に〟付き合えということか。岸田のこういうあいまいな言い方は国民を愚弄していないであろうか。

 安倍の国葬への執着は安倍支持層を取り込もうという事情があって、不人気であろうが国葬中止はおくびに出さないどころか、安倍を持ち上げてごまかそうとしている。会見で岸田は安倍の〝功績〟を並べたが、「国政選挙を6回にわたり勝ち抜き」「憲政史上最長の8年8カ月」首相を務めることができたのは、野党に助けられただけであって、安倍政治によって日本の政治経済どころか社会全体が困難を深めたのではないか。

 「東日本大震災からの復興や日本経済の再生、日米関係を基軸とした戦略的な外交を主導し、平和秩序に貢献するなど、さまざまな分野で 歴史に残る業績を残された」と、まるで〝儀礼的〟に称えているとしか思えないが、岸田が現状を全く「リアル」に見ずに、安倍賛美のためにごまかしているだけである。

 他の理由はとってつけたようなもので、「各国でさまざまな形で、国全体を巻き込んでの敬意と弔意が示されている」とか、「選挙活動中の非業の死であり」「国としての毅然たる姿勢を示す」とか並べているが、そんなことはわざわざ国葬を執行する理由にはならない。「国葬ありき」のこじつけにすぎない。

 岸田は「説明が不十分との批判」を「真摯に受け止め、正面からお答えする責任」があると言うのだから、アベノミクスによって日本の経済が良くなったと答えられるのか、安倍外交で日本の世界における立場は良くなったと言えるのか、トランプやプーチンとの親密さは自慢できることか、軍事力を拡大させる外交が立派なことなのか、答えるべきだ。

 支持率急降下であせって言い訳を並べている岸田であるが、物価高騰については全く語らずじまいであり、財政破たんについても触れたくないのであろう。岸田は、「今、わが国は数十年に一度の大きな課題が山積しています。新型コロナウイルス、経済、外交、防衛力、あるいは、少子化問題、こうした重要課題についてしっかりと議論を積み重ね、そして見える形でその結果を出していく。こうしたことを行うことによって、信頼回復につなげていきたい」と〝決意表明〟したわけだが、眼前の自民党政治の腐敗(五輪汚職もだ)を口先で取り繕っても、自民党政治への晩鐘は鳴りやまない。 (岩)