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労働の解放をめざす労働者党機関紙『海つばめ』

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郵政民営化の中で何が起きているのか?
郵政労働者は告発する!

■民営化の嵐の中で最大の御用組合の登場――JPU臨時全国大会議案批判
■郵政民営化――今、職場では/郵政現場からの報告
■恐竜化か、リリパット化か――郵政民営化のジレンマ
■西川善文著『挑戦――日本郵政が目指すもの』/民営化に賭けるトップの本音


憲法改悪と
いかに闘うか?


■改憲に執念燃やす安倍――「国民の自主憲法」幻想を打ち破れ
■労働者は改憲策動といかに闘うか
■国民投票法をどう考えるか
■安倍の「美しい国」幻想――憲法改定にかける野望


本書は何よりも論戦の書であり、その刊行は日和見主義との闘いの一環である。
マルクスが『資本論』で書いていることの本当の意味と内容を知り、その理解を深めるうえでも、さらに『資本論』の解釈をめぐるいくつかの係争問題を解決するうえでも助けとなるだろう。


全国社研社刊、B6判271頁
定価2千円+税・送料290円
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「不破哲三の“唯物史観”と『資本論』曲解』(林 紘義著)」紹介(『海つばめ』第1048号)


全国社研社刊、B6判384頁
定価2千円+税・送料290円
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「天皇制を根底的に論じる『女帝もいらない 天皇制の廃絶を』(林 紘義著)」(『海つばめ』第989号)他

理論誌『プロメテウス』第54号
2010年10月(定価800円)

《特集》菅民主党のイデオロギーと“体質”
・神野直彦の思想と理論――菅直人のブレインは「曲学阿世の徒」
・原則なき寄せ集め政党――顕現するブルジョア的“体質”
反動的な「文化」の擁護に帰着――レヴィ=ストロースの「文化相対主義」批判


 
 
 教育のこれから
   「ゆとり」から「競争」
   そして「愛国教育」で
   いいのか
 林紘義 著 7月1日発売

  (全国社研社刊、定価2千円+税)
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まかり通る「偏向教育」、「つくる会」の策動、教育基本法改悪の動きの中で、“教育”とは何であり、いかに行われるべきかを、問いかける。  


 第一章  
教育基本法改悪案の出発点、
森の「教育改革策動」
 第二章  
破綻する「ゆとり」教育の幻想
 第三章  
“朝令暮改”の文科省、
「ゆとり」から「競争原理」へ
 第四章  
ペテンの検定制度と「つくる会」の教科書
 第五章  
歴史的評価なく詭弁とすりかえ
つくる会教科書(06年)の具体的検証
 第六章  
日の丸・君が代の強制と
石原都政の悪行の数々
 第七章  
憲法改悪の“露払い”、教基法改悪策動

●1391号 2020年11月22日
【一面トップ】危機深めるアメリカ――トランプは敗北したが
【コラム】飛耳長目
【二面トップ】ラストベルト労働者の支持失う――所得増、貧困率低下でも負けたトランプ
【二面サブ】【書評】人新世の「資本論」(斎藤幸平、集英社新書)
          温暖化の危機に「脱成長コミュニズム」を対置

※『海つばめ』PDF版見本

【1面トップ】

危機深めるアメリカ
トランプは敗北したが

 11月3日投開票されたアメリカ大統領選挙は、投票率は66・8%と過去100年間で最高を記録、激戦の末、民主党・バイデン候補が現職共和党・トランプ候補を破り勝利した。しかし、得票数はバイデン約7808万票(得票率50・8%)に対して、トランプ約7208万票(同47・4%)と両者の差は僅差である。トランプは大統領の椅子を失うこととなったが、選挙結果は国家主義、排外主義、人種差別主義のトランプ政治を支持する票は半数近くにも達し、アメリカ社会の深い矛盾を示している。

◇トランプの敗北

 選挙で問われたのはトランプの4年間であった。トランプは、移民がアメリカ人の雇用を奪い、犯罪の温床になっていると非難、人種差別的発言を繰り返し、移民排斥を煽る一方、経済政策では中国や途上国の安価な商品が国内産業を衰退させているとして輸入規制、国内産業保護、自由貿易反対を唱えてきた。

 そして、軍事的にも経済的にも強力なアメリカの再構築を訴えた。「アメリカ・ファースト」、「アメリカを再び偉大な国家に」のスローガンの下、EU、韓国、日本ら同盟国に対する軍事費負担の要求、地球温暖化防止のためのパリ条約からの脱退等々を行った。

 トランプの訴えは、勝敗に大きな影響を持つ北東部の「ラストベルト」(錆びついた工業地帯)と言われる地域で失業など貧困に苦しむ白人労働者の愛国主義を掻き立て、多くの民主党支持者がトランプ支持にまわり、トランプは民主党・ヒラリーを破り勝利した。

 しかし、雇用を求めた労働者の期待は幻想であった。「アメリカに製造業を取り戻そう」「アメリカは負け続けてきた。私が大統領になれば再び勝ち続ける」「アメリカを再び偉大な国にしよう」とトランプは言ったが、「何も変わっていない。雇用の戻る気配はゼロ。株価は上がっても俺には関係ない」(『記者、ラストベルトに住む』金成隆一より)という労働者の声に象徴されるように、トランプを支持したことを後悔した労働者は少なからず、5州のうちイリノイ、ミシガンら3つでバイデンに敗れた。

 選挙で最も大きな影響を与えたのは新型コロナウイルス感染問題である。コロナ感染に対するトランプの非科学的な態度や無為無策は貧困層の人々や女性、若者たちの憤激を買った。

 トランプは、2月初めにはウイルスは完全に抑え込んでいるし、春頃になれば自然消滅するだろうなどと楽観論を流し続け、感染が広がると消毒液を飲むのもよいなどとでたらめな発言を続けてきた。産業活動を優先し、コロナ対策を軽視してきた結果、アメリカは、死者24万人、累積感染者1100万人を超える世界一の感染国となっている。「AP通信の調査によれば、最も多い41%が最重要課題としてコロナ感染対策を挙げ、このうち73%がバイデンに投票した」(朝日11・10)という。

 またトランプの人種差別は、黒人を中心とした反発と怒りを呼び覚ました。とりわけ、警官による黒人射殺事件を契機とした「BLM」運動は、若い白人層も多く参加してかつてない広がりを見せている。これに対してトランプは、テロ、暴力的運動と非難、白人至上主義の「ミリシア」を激励、軍隊の出動を示唆するなど人種差別を煽り、黒人、ヒスパニック、白人の若者らの憤激を広めた。

 選挙でトランプが敗北したのは、民主党・バイデンを積極的に支持したというよりも、むしろ「トランプに反対」、「トランプよりまし」といった嘘つきで、国家主義、差別主義の反動トランプに対する反発の高まりの結果である。

◇バイデンのアメリカ「再生」計画

 バイデンは、新型ウイルス感染対策を当面の最重要課題として取り組むとして、2・6兆ドルを支出する計画という。その他バイデンは、トランプ政権が脱退したパリ条約への復帰、世界保健機関(WHO)への復帰などを公約してきた。民主党政権の下では、トランプが乱暴なやり方で国際的協力を破棄した政策の修正が図られるだろう。

 しかし、貿易や安全保障の問題ではトランプと本質的に異なってはいない。貿易問題に関してバイデンは、貿易赤字解消のために「バイ・アメリカン」(4年間で4000億ドル)をはじめ、国外への工場移転する企業への罰金、国内製造業への優遇税制といった国内産業の保護を優先するという保護主義を訴えている。

オバマ政権の時には積極的であった太平洋に面する諸国内での自由貿易推進を謳った環太平洋経済連携協定(TPP)についても「当初推し進められたような形で復帰しない」としている。

 トランプ政権は、中国に対してアメリカは大赤字だとして、アメリカに対する輸出制限、関税の強化、アメリカからの輸入増加を要求、さらにIT産業部門では、最先端技術を盗んだとして、中国企業のアメリカ市場からの締め出しを行った。

 安全保障問題に関しては、トランプ政権は今年に入って、中国に対して強硬姿勢に転換、ポンペオ国務長官は7月、中国を「自由主義世界に対する最大の脅威」として、「自由主義諸国の同盟」による「対決」を呼びかけたが、民主党もこれに同調してきた。

 バイデン政権はトランプのように同盟諸国に対して大幅な駐留費の引き上げを要求するという代わりに、軍備の増強や軍事的連携の強化を要求するだろう。バイデンが目指しているのはトランプが悪化させてきたEU(独、仏)など〝自由主義〟諸国との同盟関係の修復である。ブルジョア世界の盟主としてのアメリカの衰退は明らかであるが、軍事的、経済的に強大な帝国主義大国に成長し、アメリカと世界の覇権を争う中国に対抗し、世界の盟主としての地位を維持するために、同盟諸国との協力関係改善を目指している。 

 国内政策ではバイデンは、コロナ対策をはじめ環境対策、雇用創出を優先課題として挙げた。

 大型減税や規制緩和を前面に出したトランプ政権と異なり、バイデンは連邦法人税については21%から28%に戻す、一方個人所得税は最高税率の37%を引きあげ、富裕層の資産取引税なども強化する計画である。そして大型インフラ投資などで雇用を増やすとしている。

 「グリーン・ニューデール」と言われる環境政策では、50年までに温室効果ガス排出ゼロ、30年のうちに化石燃料の使用ゼロをめざす。これによって500万人の雇用を生み出すとしている。

 太陽光発電など再生エネルギーや公共インフラには4年間で2兆ドル、その他社会保障給付のための積立金などを合わせれば10年間で10兆ドル(約1050兆円)と試算されている。これによる歳出増は国内総生産の約5%に相当するという。

 これだけの歳出増は1930年代のニューディール以来である。しかし、1929年の世界大恐慌によって何千万の労働者は失業に追い込まれたが、巨額の公共投資による雇用創出、経済再建を目指したニューディールは目的を達成することは出来なかった。

 恐慌の痛手から脱出することが出来たのは戦争であった。巨額の財政支出による経済の再建というバイデンの政策が問題解決になるという保証はない。

◇「分断社会」の克服の展望は社会の根本的変革に

 バイデンの政策は、資本の支配の綻びを繕うとしてきたこれまでの民主党の政策とかわらない。民主党は労働組合を一つの基盤としているが、実際的には労働者のための党ではなく、大資本と結びつき、その利益を代弁するブルジョア政党である。民主党と共和党はアメリカの二大政党として競い合い、資本の支配を支えてきた。

 トランプを生み出したのは、共和、民主両党が支えてきた資本の支配するアメリカ社会の矛盾の深化である。

 1960年代、アメリカの「黄金時代」と言われたように、高度な生産力を擁する産業と巨大で強力な軍事力を背景とし、〝自由主義〟世界に君臨する超大国家であり、世界一「豊かな国」であった。しかし、超大国家アメリカの国際的地位は、西欧、日本などの戦後の目覚ましい経済的な復興によって、さらには中国、新興諸国の激しい追い上げによって後退してきた。

 「豊かな」アメリカ支えた製造産業は、衰退し、石炭、鉄鋼、自動車など製造業の中心的労働者であった低学歴、低スキルの中高年白人労働者は、かつての豊かな生活を失い、失業・低賃金に苦しめられている。「どのような家庭に生まれたとしても努力を怠りさえしなければ、将来は今の世代よりもよい生活ができる」といわれた「アメリカンドリーム」は過去のものとなった。

 また、1960年に人口の85%を占めてきた白人は、2050年には47%へと人口の半数を割ると予測されている。アメリカ社会の中核的存在として特権的な地位にあった白人の、将来少数派となり有利な地位を失いはしないかという不安は、黒人、ヒスパニックなど有色人、移民に対する警戒と反発を引き起こしている一因となっている。

 トランプは敗北したが、獲得票数でバイデンとの差はわずか3・4ポイントに過ぎない。資本主義の下での貧富の格差はますます拡大し、トップ1%の富裕層資産は、この4年間で6兆ドル増えたが、中間から下半分の全資産は合計2兆ドルでしかない。この恐るべき不平等、労働大衆の貧困、白人の将来への不安は、トランプを生み出してきた社会的背景である。

 バイデンは、国民の「団結」、「分断された社会」の克服を訴えた。しかし、大資本の体制を共和党と共に支えてきた民主党のバイデンにこのアメリカ社会の矛盾の解消は出来ない。行き詰まり、矛盾を深める社会の根本的改革を目指す運動の発展なしにその展望はない。 (T)

   

       

【飛耳長目】

★「GoToトラベル」の利用者は3千万人を超え、「イート」は1千万人を超えた。10月からは東京も解禁となり、その数が一気に増した★「トラベル」は、国際線が飛ばないので、異国情緒が味わえる北海道や沖縄や離島へ、そして東京、横浜、大阪、名古屋などの大都市へ殺到した。「イート」は飲食するとポイントが付くので自然と繁華街へ出向くことになる。今やコロナ第3波が到来中だ★こうした急増は決して偶然ではない。また、三度繁華街の飲食店でクラスターが発生しているのも「イート」に拠るところが大きい★特徴的なのは、感染が家庭や高齢者施設、学校、病院、事業所(職場)へとクラスターが広がっており、陽性率もぐんと高まっていることだ(東京ではここ2週間で3・9%から5%へ上昇した)★冬季は室内換気が滞り、湿度の低下で飛沫が空気中を長く漂うと言われ、満員電車やバス、職場等の空間内感染が増加すると考えられる★政府は、「GoTo」との因果関係は無いと言っているけれども、3千万人の人々を全国へ移動させ、1千万人もの人々を繁華街へと押しやったのであり、波立たぬ水桶に手を突っ込んで激しくかき回したのである★「GoTo」は直ちに廃止し、水桶から手を引き上げよ! (是)

   

【2面トップ】

ラストベルト労働者の支持失う
   所得増、貧困率低下でも負けたトランプ

 4年前の大統領選挙では、民主党支持者が多いラストベルトでトランプが勝利し、大統領選挙を制したと言われる。そのラストベルトで、今回トランプは軒並み敗北した。ここ数年間続く雇用や所得の増加、貧困率の低下に見られるようにトランプにとって、がぜん有利な数値が示されていた。しかし、労働者はトランプを見限ったのである。それはなぜであろうか。

◇「錆びた工場を復活させる」と虚勢

 前回選挙でトランプは、ラストベルト(5大湖周辺の州を指し、20世紀初頭には炭鉱、鉄鋼、機械、ガスなどの重工業・製造業の中心地として栄えていた)に何回も足を運び、鉄鋼や自動車などの産業を復活させると公言し、労働者の支持を掠め取った。

 17年1月の大統領就任演説でトランプは、「私たちの国の風景全体に墓石のように散らばっている錆びた工場」と嘆き、選挙戦で公約したように、鉄鋼輸入に高関税をかけ、鉄鋼や機械や自動車などの主要産業を保護し「復活させる」と宣言した。

 そもそも、ラストベルトが「錆びた地帯」と言われるようになったのは、次の様なことだと指摘されている。

 「彼らの運命は、70年代の国内不況と国内外の競争の激化に大きく左右され、競争に敗れた企業は次第に衰退していった。 この衰退は80年代に加速し、製造業の自動化と仕事の削減が進み、米国は資源を産業からサービスにシフトし、多くの廃工場を『錆び』させた。その後、2千年代の『中国ショック』により、中国が世界の製造業貿易に大規模に参入し、鉄鋼の過剰生産と世界市場の需要の低迷が始まったため、残っていた産業はさらに空洞化した」(インデペンデント紙20年10月31日号)。

 そこでトランプは、「ラストベルトの窮状を16年のキャンペーンの中心に据え、米国の鉄鋼生産を復活させ、国内製造業を活性化し、仕事を取り戻すという贅沢な約束をした」のだ(同上)。

 トランプは、保護貿易の第一弾として、18年に中国とヨーロッパからの鉄鋼輸入に25%の関税を課した。確かに鉄鋼の輸入量は減ったが、このことが労働者の利益に繋がったわけではない。

 例えばこの間、米国全体の雇用はわずかに増えているのに、ラストベルト各州の鉄鋼業界の雇用は横ばいであったのだ。

◇保護貿易が労働者を苦境に

 さらに、インデペンデント紙は次のように述べている。

 「18年3月に鉄鋼価格が上昇し、国内鉄鋼生産者の利益率が向上したものの、それ以降のほとんどの期間で鉄鋼価格は下落している。……輸入関税に起因する国内の鉄鋼価格の最初の高騰は、鉄鋼生産者を助けた以上に、ラストベルトの鉄鋼産業と消費者を傷つけたようだ。

 ある分析によると、鉄鋼とアルミニュームの関税は、19年末までに金属を消費する米国の産業で少なくとも、7万5千人の雇用を失わせた。それは、フォードやGMなどの自動車メーカーの資材コストが上昇し、彼らは仕事を辞めざるを得なくなったからだ。

 昨年、GMではオハイオ州ローズタウンにあるシボレー工場を閉鎖し、最後の1千5百人の雇用を削減した。米国産業の中心地であるミシガン州の自動車製造業の雇用数は、17年の初めから20年9月の間に約4千から3万6千人減少した。これらの州で、より広範な製造業も17年から19年の間に停滞した。」(同上)

 この報道でも分かるように、トランプの保護貿易は鉄鋼の輸入価格を押し上げ、その結果、鉄鋼を原材料に使う産業の国際競争力を奪い、労働者にしわ寄せすることに帰着したのだ。

 こうした保護貿易は、1920~30年代の欧米を舞台にした関税戦争を招き、各国の物価高騰や経済対立を激化させ、あげくにブロック経済に行きついたことでも明らかなように、ブルジョアにとってもいいことはないのだ。

◇ハッタリでは支持されず

 トランプが保護貿易と共に強調したのは、米国企業に国内投資を増やすように圧力をかけたことだった。

 トランプは大統領選挙前に、米国全土に新しい工場が誕生するなど投資が行われたと、その成果を宣伝したが、証拠を示すことはなかった。

 トランプは得意のハッタリをかまし、それで再び勝てると踏んだのであろうが、労働者は冷静であったということであろう。

 さらにトランプが行った17年の減税――5万ドル以上の中・高額所得単身者及び6万ドル以上の中・高額所得夫婦には、39・6%の税率から2・6%減税し、37%にしたなど――は、ラストベルトの産業労働者層のためにではなく、裕福な層に向けられたものであり、賃金差別がさらに広がっていたのだ。

◇トランプは所得を上げ、貧困率も下げたのか

 大統領選の終盤、トランプを喜ばせる出来事があった。それは、去る9月に、米国国勢調査局が国民の所得は増え、貧困率は下がっていると公式発表したからだ。

 このレポートによれば、19年の世帯所得について、18年より家族世帯では、中央値が7・3%、非家族世帯では6・2%増加している。また人種別の所得についても、いずれも実質所得の中央値は増加しているとあった。また貧困率についても、18年の11・8%から19年は10・5%と1・3%減少し、14年以降では、14・8%から4・3%も低下していると。

 それほどに、トランプ政権下で所得が増えてきたのか。それとも別の理由があったのか、それが問題である。

 国勢調査局が言う中央値とは、大きい順にデータを並べた真中の数値のことであり(5段階のクラスに分布させた上から3番目のクラスの平均値)、一番上の高額所得者だけがさらに所得を増やしても中央値は変わらず、一番下の低所得者の所得は不変でも、それ以上の所得の各層で上昇するなら中央値は上がっていく。したがって、中央値(また平均値も)を見ただけでは、所得が上がったといっても本当の姿は分からない。

 12年の5段階の所得をデータから追うと、一番下のクラスの平均世帯所得は約1万3千ドルで、19年では約1万5千ドルとわずかに増えた程度であるが、一番上のクラスの中をさらに区分した最上位5%の部分では、12年の35万5千ドルから19年の45万1千ドルに急増している。

 この一番下のクラスには、最低賃金制(米国はずっと1時間7ドル25セントと日本より低い!)以下で働く160万人の労働者も含まれる。おそらく、年間賃金が1万ドルとかであろう。この労働者が片親とかであれば子供たちを1万ドルで養わなければならないが、不可能ではないのか――ちなみに、下から2番目と3番目のクラスに相当する労働者の多くも、おそらく時間給で働いている。米国労働統計局のサイトを覗くと、時間給で働く労働者は19年に約8千2百万人とあった。時間給の平均は、約25ドルであり、1年間に1800時間働いても、年間4万5千ドルほどである。

 このように、世帯所得や個人の所得が上がったと言っても、上位のクラスの世帯や高級・管理労働者や企業経営者が所得を増やし、それがデータ上に現れているに過ぎなかったのだ。

 また、貧困率についても同様に、下がったといっても、19年の貧困者(世帯年収が約2万6千ドル以下)は3千4百万人、全人口の10・5%もいるのである。しかも、米国の慈善団体FA(略称)によれば、19年の貧困者は3千8百万人であり、その中には子供が1千1百万人も含まれているという。これで見るならちっとも減っていないのだ。

 従って、ここ数年における所得の増加や貧困率の低下が公表され、トランプに花を持たせたかに見えたが、ラストベルトを始め、全国の多くの労働者は、わずかの所得増も物価上昇でたちまち消え失せ、実際には少しも生活は良くなっていないこと、むしろ「格差」が広がったことを理解していたのである。

◇労働者はトランプの本性を見抜く

 もうお分かりであろう。医療費引下げなどの公的医療保険の改革に反対しむしろ廃止を求め、最低賃金引き上げにも反対する一方で、トランプが労働者に保護主義を掲げて接近したのは、労働者の生活改善のためではなかった。トランプの政治は、米国資本のため、米国一国の利益のためのものであった。そして、大統領選挙の終盤に、コロナショックまでの経済成長によるわずかな所得や貧困率などの数値の改善を見せられたにもかかわらず、ラストベルトを始めとした労働者たちは、トランプの欺まんや差別主義を見抜き、トランプを大統領の椅子から追い出すことに成功したのだ。  (W)


【2面サブ】

書評:人新世の「資本論」(斎藤幸平、集英社新書)
温暖化の危機に「脱成長コミュニズム」を対置

 菅が所信表明演説中ではほとんど唯一ともいえる〝将来ビジョン〟として2050年までのカーボンニュートラルを打ち出す中、斎藤幸平の表題の本が話題を呼んでいる。新MEGA等で明らかになった草稿やノートをもとに(特に「資本論」以後の晩期の)マルクスを新解釈し、「脱成長コミュニズム」といった“新しい”マルクス像を提示しているからである。

◇マルクスの新解釈?

 斎藤は、マルクスは1867年の『資本論』(第一巻)の出版後にその思想を大きく変えたと言っている。彼によれば、従来のマルクス解釈ではマルクスは「生産力至上主義」であり「ヨーロッパ中心主義的で単線的な進歩史観」をもっていたとされていた。マルクスは資本論の中でも、人間の労働は自然と人間との「物質代謝」を媒介することによって人類の生存を可能としている、しかし、資本主義は利潤優先でその場かぎりの「略奪的」生産を行うことによって「物質代謝を撹乱」し「修復不可能な亀裂」を生み出すとも言っている。しかし、晩年のマルクスはロシアのミールやドイツのマルク共同体の研究を通じて、あるいはメソポタミアやエジプト、インドの古代文明滅亡の研究(当時のドイツの農学者フラーツはこうした古代文明が森林の過伐採によって滅亡したと論じていた)を通じて、脱成長的(持続可能な定常型経済)で複線的な歴史観に大きく変化したと言う。

 彼は、その証拠としてロシアのナロードニキであった「ザスーリッチへの手紙」や「ゴータ綱領批判」の記述、さらには上掲フラーツの「研究ノート」等々を上げている。

 しかし、そもそもマルクスが「生産力至上主義」的であり「ヨーロッパ中心主義的で単線的な進歩史観」を持っていた等々の解釈は、旧ソ連のスターリン派の解釈(その意味で世界の〝正統〟マルクス主義の解釈)でしかないのではないか。マルクスが晩年その関心をより広げ深めていったのは事実であるとしても、上記文献等についての斎藤の解釈はいかにも牽強付会の観を否めない。

◇「コモン」という観念

 斎藤の「脱成長コミュニズム」で中心的な観念を占めているのは「コモン」という観念である。 「コモン」とは「社会的に人々によって共有され、管理されるべき富」であり、アントニオ・ネグリとマイケル・ハートが『帝国』で提起した概念であるという。彼は、この観念を用いて「収奪者が収奪される」という『資本論』の有名な個所(第1巻第23章の末尾)を解釈し直しているのであるが、要は「土地と生産手段の共有」のことなのである。これを「コモン」と言い換えたところで、所詮は物事を曖昧化し、我々がなすべきことをぼかす効果しかないというべきであろう。『帝国』は世の識者が好んで言及する本であり、先にあげた「帝国的生活様式」とか「周辺と中核」、「外部化」等々もそうであるが、欧米の学者や識者が使う言葉をありがたがって無批判に使うのは日本の学者の悪い癖である。 (長野 YS)

※党ブログに全文掲載

   

    <訂 正>

 前号1390号2面 5段3行目

 12億円→1千2百億円

   

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