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●1519号 2026年3月22日 【一面トップ】中東を火薬庫に変えたトランプ ――高市は戦争政策への協力を拒否せよ! 【一面サブ】 階級対立を隠す消費減税 ――開始された国民会議の欺瞞 【コラム】 飛耳長目 【二面トップ】 物価上昇で実質賃金低下 ――だが利潤は増大、いかに闘うべきか 【二面サブ】 高市の「働き方改革」 ――労働時間規制の緩和を目論む ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】中東を火薬庫に変えたトランプ高市は戦争政策への協力を拒否せよ!1945年3月10日。米軍のB29爆撃機325機は、東京の住宅密集地に大量の焼夷弾で絨毯爆撃を行い。10万人を超える人々を焼き殺した。そして今、イランでは米軍がイスラエルと共に圧倒的空軍力によってイラン国内を連日破壊している。 ◇軍事攻撃を正当化する理屈はどこにある本紙『海つばめ』1518号2面の「トランプのイラン攻撃」記事でも明らかにしたように、トランプやネタニヤフのイランに対する大規模な軍事攻撃を正当化する理屈はどこにもない。 「(邪悪なテロ国家イランの)核兵器保有は許さない」とトランプは主張する。15年に締結したJCPOA(「包括的共同作業計画」米・英・仏・ロ・中・独、イラン・EUで成立した核合意)についてトランプは、合意はイランの①核開発を長期的に抑止できず②ミサイル開発を制限しない③ハマス、ヒズボラの支援を認めている等を理由に18年に破棄。イランに制裁と軍事的圧力をかけた。 昨年6月のイラン核施設に対する大規模な空爆についてトランプは「核兵器計画を完全に破壊したと」誇示した。それを〝都合よく〟忘れて、今年2月オマーンの仲介で行われた核問題高官会議終了後、一方的に〝イランに核兵器放棄の意思はない〟と断定し、会議を軍事攻撃「壮絶な怒り」作戦開始の正当化に利用した。
軍事攻撃の大統領演説をSNS発信で済ませ、〝国際法は関係ない〟と主張するトランプは、圧倒的な軍事力を投入しハメネイ師をはじめとする政権幹部が集合する会議を狙って斬首作戦を実行し、イラン各地の数千箇所の軍事目標に対する攻撃を開始した。 ◇自ら泥沼にはまる愚かなトランプハメネイ殺害後のトランプ発言〝私が関わる〟は、イランに一笑にふされた。戦争終結の見通しも、「すぐ終わる」「4、5週間」「どれだけ時間がかかっても我々はやる」、「無条件降伏以外にディールはない」「イランの政治体制が民主的である必要はない」。9日には「まもなく終結するだろう」と、無定見な態度だ。 後継者にハメネイの次男モジタバが選出されたことに対して「攻撃されない体制、長期の平和につながる体制を求める」と発言したが、12日にモジタバが声明で「徹底抗戦」を掲げ、〝ホルムズ海峡封鎖継続〟〝ハマスやヒズボラとの連携〟〝戦争被害の賠償〟などを発表したことに対してトランプは、「あのクズどもに何が起きるか見届けてほしい。第47代大統領である私が彼らを葬り去る」と13日に投稿した当日、イラン原油輸出の9割を担うペルシャ湾のカーグ島の軍事標的を爆撃した。 カーグ島はイラン各地の油田から海底パイプラインで送られてきた原油の積出港であり破壊されると、イラン経済の大動脈が切断される。今現在(16日)は、石油インフラの損傷はないと報じられている。トランプはホルムズ海峡の通航を妨げれば〝石油インフラの攻撃を開始する〟とイランを脅している。 イランも石油・経済・エネルギーのインフラが攻撃されれば、「中東全域で米国と協力関係などにある石油会社のすべてのインフラは直ちに破壊する」と発表した翌14日、UAEの東部フジャイラを無人機で攻撃し一時石油の積出が停止された。 ホルムズ海峡封鎖は継続され、原油価格は再び100ドルを突破。トランプが恐れるガソリン価格・物価・金利の上昇、株価下落が、世界各国に伝播しつつある。愚かなトランプは、自らを泥沼に沈めようともがいている。 ◇トランプを焚きつけるイスラエルイラン革命後のイスラム体制は、イスラエル国家を認めず、ハマス・ヒズボラなどのイスラム武装勢力と連携し、イスラエルと軍事的衝突をくりかえしてきた。 イスラエルは経済的発展と軍事強国の立場を帝国主義的領土拡張主義に利用した。それは国内のシオニズム運動(現在の領土拡張の排外主義)を刺激、促進し、イスラム体制のイランとの関係は、交渉の余地がないほど崩れていった。 今回のイラン攻撃でイスラエルは、イランを軍事的に無害化し政治的無力化(傀儡政権)を一気に進めようとしている。 かつてパーレビ体制下のイランとイスラエルは、国交があり両国は敵対する関係になかった。現在のイスラエルが目指すのは、イスラム体制と革命防衛隊などの解体である。イスラエルを抑制し自制させてきた米国の圧力は、トランプによって雲散霧消した。 ハメネイ殺害後の調査に回答したイスラエル国民の82%が殺害に賛成と回答し、「アヤトラ政権(イランのイスラム体制)転覆まで戦う」が50%(3月8日日経)を占める〝世論〟を背景に、ネタニヤフはイランの体制転覆に向けてトランプを焚きつけながら、レバノン南部にも侵攻し占領地を拡大、イスラエルの攻撃は激しさを増している。 ◇日本欧州にはトランプ式〝踏み絵〟トランプは日本、欧州などに軍艦派遣の支援を要請しているが、その理由は「彼らが必要だからではなくどう反応するか知りたいからだ」と、米国との同盟関係を試す〝踏み絵〟にすると公言した。「日本は石油の95%をホルムズ海峡(からだ)」、「我々が彼らを守っている」(17日日経)。訪米する高市に対しては、19日トランプから軍事協力要請が伝えられる。高市は、16日の国会で「根拠法、今(ホルムズ海峡で)起きていること、日本でできること、できないことの整理は行っている」(17日朝日)と発言したが、軍艦派遣は前提だ。トランプが始めたイランに「無条件降伏」を迫る軍事攻撃に手を貸す軍艦の派遣に我々は断固反対する。この戦争はイランから敵対勢力を一掃しトランプやネタニヤフに従順なイランを作り、石油資源を奪い取ろうとする帝国主義国家による〝強盗殺人〟である。 (古) 【1面サブ】階級対立を隠す消費減税開始された国民会議の欺瞞衆院選で勝利した高市自維政権は12日、「社会保障国民会議」を開催、消費税減税に向けた具体的な検討を開始した。その翌13日には、2026年度の反動的な当初予算を、衆院での与党多数を頼み審議を打ち切り可決させた。 ◇消費減税をめぐる各党の主張物価騰貴で生活苦に喘ぐ労働者大衆にとって、この衆院選で政党がどのような物価高対策を取るかは、重要な争点の一つであった。自民と維新は、飲食料品は2年間消費税の対象としないことについて、国民会議で実現に向けた検討を加速すると、衆院選公約で謳った。 野党の公約は、中道「食料品消費税ゼロ」、れいわ「消費税廃止。超富裕層の課税強化」、参政「消費税廃止」、国民民主「住民税の控除額引き上げ等で手取りを増やす。賃金上昇率が物価+2%に安定するまで消費税5%に」、社民「消費税率ゼロ。大企業の内部留保への課税」、共産「消費税は5%に減税し、さらに廃止をめざす。財源は大企業や富裕層に応分負担」などである。みらいは「消費税を引き下げるより、社会保険料の引き下げ」と主張。 自民党はこれまで、消費税は社会保障の重要な財源として位置づけて、消費税減税には反対してきた。消費税は、26年度予算で26・7兆円が見込まれているが、飲食料品の消費税は年5兆円となる。飲食料品の消費税をゼロとすると、それに代わる財源が必要となる。 高市政権は、その財源について、企業向けの税制優遇「租税特別措置(租特)」や各種の補助金の見直しや税外収入などを見込んでいるとする。しかし、これで税収減を補えるものではない。 自民は去年の参院選で消費税減税を掲げた野党に敗れ参院でも少数与党に追い込まれた。今回高市は、公約に消費税減税を加え、その問題を選挙後に開催する国民会議で検討するとし、悪賢く選挙の争点から外したのだ。 ◇階級対立を隠す「消費税減税」みらい以外は、与野党ともに物価高対策として消費税減税が掲げた。はたして消費税減税が物価高対策となるのか、それが問題だ。 消費税が下げれば、確かに消費者の支払い額は、その分少なくなる。しかしそれに代わる財源はなく財政悪化への懸念が強まる。またすでに普通国債の残高は1100兆円を超えている。金利は上昇の傾向にあるが、金利が上がれば国債の利払いが増え、国債費が増加し、財政悪化に拍車がかかる。円の信用は低下する。 さらに、円安が進めば物価高をもたらすことになりかねない。世界情勢もある。米・イスラエルによるイラン攻撃は、原油高をもたらしている。 減税を訴える各党はまた、それが経済対策になると言う。例えば共産は、「一律5%減税が物価高騰対策として最も経済効果がある」(2月1日NHK日曜討論)と主張する。共産は労働者の生活困難の対策としての物価高対策だけではなく、それが景気回復につながる「経済効果」をもたらすと言うのだ。 すでに見たように、消費税減税は物価高対策としても効果がないものであるが、それによって景気が回復すると言うのは、労働者を偽るものだ。 減税によって生活消費財の消費が増え、それによって景気回復につながると言うが、幾分単純化すれば、減税で税収は減り、政府支出による消費が減少し、全体の消費量は変わらない。消費減税によって労働者の生活消費財はわずかに増えるかもしれないが、それは景気回復とは別の話だ。 共産は、減った税収を補うために、富裕層・大企業への増税を言うが、それは景気回復への「経済効果」があるからだという理屈で、ブルジョアに媚びを売る。 資本主義社会は、労働者の利益と資本家の利益とは鋭く対立している。資本家は、自分の取り分が減る自分への増税に、簡単に賛成しない。資本家にも経済効果があると消費減税を説く共産党は階級対立の現実を見ない。 開催された国民会議では、消費税減税とともに「給付付き税額控除」について具体的な検討を始めた。働く現役世代に対象を絞り、所得や子どもの数などに応じて控除額を決めることなどが検討される。しかしこの検討は、労働者が資本の下で搾取されている資本主義社会の真実を覆い隠し、わずかなおこぼれを「低所得者への支援」として行なう欺瞞的なものだ。 ◇ふがいない野党を乗り越え闘おう!高市は資本の支配を維持するために、労働者を資本の下に縛り付けておこうとする。消費税減税を訴える野党は、結局、自民党と一緒になって、労働者を資本の下に縛り付けるのだ。それは労働者と資本との利害対立を覆い隠し、資本の支配の下での労働者の惨めな地位を根本的に変革する労働者の闘いを逸らすものだ。資本による支配の維持を図る高市と闘えない、ふがいない野党を乗り越え、労働者の闘いを共に構築していこう。 (佐) 【飛耳長目】 ★ベネズエラのマドゥロ大統領の拉致に続き、イスラエルのネタニヤフと共謀しイランのホメイニ師を殺害したトランプは、今やテロリスト、死刑執行人に成り下がった。かりにも一国の首長が、一方的に他国の首長(それがどんなに反人民的な独裁者であろうが)を有無を言わせず抹殺し、侵略戦争を仕掛けるとは、テロ国家を糾弾しながら自らがテロ国家となった★アメリカの労働者・市民は、こんなブルジョアでテロリストを国家の頂に置くことを承知しようか。直ちに抗議の声を上げ、トランプ追放の闘いに決起すべきである。高市も「法の下の秩序」を掲げるなら、それを破壊するトランプに対し、スペインのサンチェス首相と同様に、断固抗議の拳を挙げるべきだ。世界の労働者はこんなテロ暴挙を許さない★既にガザでは6万人、ウクライナでは7万人、イランではここ数日だけで千人を超す子供を含む人々が殺された。家を焼かれ、子を失い、親を殺され、人生を抹殺された人々の悲憤慷慨(ひふんこうがい)の叫喚(きょうかん)が聞こえる★そのことには一寸の思いをもたず、トランプはフロリダの豪邸(2・5万坪、128部屋)で飽食三昧し、今日も大統領執務室で、血で汚れた手で攻撃続行の署名をするのだ。許さでおくべきか。 (義) 【2面トップ】物価上昇で実質賃金低下だが利潤は増大、いかに闘うべきか高市政権は、物価上昇が経済成長にとってプラスであると考えるが、善の筈の物価上昇に焦りだした。それは、物価上昇を制御できず、労働者働く者の不満の高まりを恐れだしたからだ。では、物価上昇と経済成長及び賃金・利潤の関係について、いかに考えて闘うべきか? ◇GDPの修正策動高市は首相就任後、GDP統計の「基準改定」(15年基準より物価が上昇した20年基準に変更)を行い、各数値を上方修正させた。その結果、例えば24年度の名目GDPは26・9兆円の上方改定となり、642・4兆円になった。 26年度当初予算の国債発行額を小さく見せた「会計操作」と同様に(『海つばめ』1514号1面参照)、はたまた名目GDPが大幅に上昇しているかに誤魔化そうとしている。そして、「債務残高対名目GDP比」が下がり「財政出動の余地がかなり拡大する」(高市の御用人=永浜利広)という根拠を得たかに誇示している。 こうした理屈をこねて、高市政権は大胆な「経済安全保障への投資」(軍事力を高めるAI・半導体・航空などへの集中投資)を行い、経済成長を促そうとしている。しかも、物価が適度に進む現在は経済成長にとって好都合だとも強調している。 安倍政権の時代には、安倍も日銀もこぞって「デフレ」(物価下落や停滞)が経済停滞の原因だと考え、「年2%の物価上昇」を目標に掲げ、この目標達成のために大量のカネを市場にバラ撒き、物価を必死に上げようとした。だが、挫折した理由を総括できずに、岸田政権では「賃金と物価の好循環」という看板にすげ替え、高市は「積極財政」による「政府投資」を強調するが基本的に物価上昇に頼っている。 果たして、物価上昇が始まって以降、経済成長は進んだのか? ◇物価上昇は経済成長に寄与せず21年度の名目GDPは576・6兆円であり、24年度のそれは642・4兆円となり、この間の増加額は65・8兆円(年増加率は3・8%)になっている。設備投資が増大したと言われる25年を見ると、662・8兆円(速報値)に増え、21年度と比較した増加率は15%、年増加率は3・8%である。17~21年度の名目増加額はわずかに8・9兆円(年増加率は0・4%)に過ぎなかったのだから、確かに、21年度を過ぎてから物価上昇と共に急増している。 それでは、上記の数値を実質GDPで見るとどうなるか。 17年度では578・2兆円、21年度では576・1兆円であり、この間に2兆円も下落している。その後、いくらか上昇し24年度には586・9兆円になったが、21年度と比較すると10・8兆円の増加(増加率は1・8%、年増加率は0・6%)に過ぎない。また、25年末時点では590・7兆円(速報値)であり、21年度から14・6兆円が増加したのみで、増加率は2・5%、年増加率はたった0・6%である。 このように、消費者物価上昇を除いた実質GDPで見るなら、物価上昇の〝恩恵〟はほとんど無かったことが分かる。 他方、GDI(国民総所得)はGDPに対して輸出入金額の変動を加えた統計であり、より生活への影響が反映された数値になっている。21年度以降の実質GDIで観察すると、21年度は566・6兆円、24年度は577・5兆円である。つまり、この間の増加額は10・9兆円(増加率は1・9%、年増加率は0・6%)なのである。 しかも、実質GDIは同GDPよりも約10兆も少ない。それは、円安による物価上昇の影響の他に、外国との交易で「労働の高買い、労働の安売り」が起きていることを反映している。このGDIでも物価上昇による成長は見られない。 次に、GNI(国民総所得)という海外子会社などから入ってくる「企業利益」や海外で働く労働者の「所得」を加えた数値を見ていこう。 これによると、17年度の実質GNIは596・6兆円、21年度のそれは595・1兆円、24年度では613・2兆円であった。17年度と21年度の比較では1・5兆円も減少し、21年度と24年度の比較では実に18・1兆円も増加している。 それは、海外との取引結果を示す「経常収支」が近年大幅黒字であることと大いに関係している。「経常収支」の一項目である「第一次所得収支」(海外子会社が海外の労働者から搾取した利潤などの収支)を見ると、21年度に29・0兆円の黒字を計上し、24年度には40・8兆円、25年末には41・6兆円(速報値)もの大幅な黒字を叩き出し、「貿易収支」や「サービス収支」の赤字を補うという典型的な帝国主義的資本主義に純化している。 では、国内労働者の実質賃金の動向を簡単に見てみよう。 厚労省の発表によれば、22年~25年にかけて、大幅賃上げがあっても実質賃金は「4年連続で」前年より低下している。 その理由は、物価上昇による賃金の目減りに加えて、資本は非正規労働者の比率を22年以降再び増やし、さらに、資本の高度化(AI化など)のために黒字でも中高年労働者を解雇し、労働者の賃金総額を減らしているからだ。 ◇過少消費説や「おこぼれ論」は破綻既に見たように、物価上昇は「経済成長」にも、「賃金と物価の好循環」にも繋がらないばかりか、反対に、実質賃金の低下と生活悪化を招いている。 資本(特に大資本)は、原材料の価格上昇分も賃上げ分も製品価格に転嫁し、加えて、賃金総額を削減したのだ。その結果、資本の利潤はさらに増大している。それは、国内の「労働分配率」が低下した政府資料を見れば明らかだ。ここに、実質GDPや同GDIが大して変わらないのに、利潤が増大した秘密がある。 今や、「賃金を上げて需要を増やし経済活性化に繋げる」(過少消費説)という資本におもねる共産党や全労連幹部の見解も、資本のパイ(利潤)を大きくして、その中から賃上げの配分を望む連合幹部の「賃金おこぼれ」論も、完全に破綻している。 労働者は高市政権が繰り出す「経済成長論」に与せず、共産党や御用組合幹部を乗り越え、理論的組織的に団結して春闘を闘い、さらに「資本と賃労働」の関係を打破するために反撃しなければならない。 (W) 【2面サブ】高市の「働き方改革」労働時間規制の緩和を目論む高市首相は、2月の施政方針演説で「裁量労働制の見直し……などの柔軟な働き方の拡大に向けた検討を進める」と述べた。これを受け政府の成長戦略会議の労働市場改革分科会・第1回会議が3月11日に開かれた。裁量労働制拡大、労働時間の規制緩和が主要な課題とされている。 ◇裁量労働制の拡大裁量労働制とは、あらかじめ労資協定で決められた時間だけ働いたとみなし、この「みなし時間」を超えて働いたとしても、その分の賃金は支払わなくてもよいことになっている制度である(ただし、深夜労働や休日労働に対する割増賃金の支払い義務は残る)。 決められた労働時間よりも働いても残業代を支払わなくてもよい裁量労働制は資本にとって都合の良い制度である。 裁量労働制を採用している業務は、「専門業務型」と「企画業務型」で20業務があるが、さらに営業や経営コンサルタントなどへの適用拡大を求めている。 労働市場分科会で経団連の藤原専務理事は「導入企業からは働き手の能力を最大限発揮させて、成長意欲を一層喚起させるという声がある」とそのメリットを強調した。 経団連の独自調査では、裁量労働制で働きたい労働者は33%に上るという。しかし、2025年の厚労省の調査では裁量労働制が適用されているのは1・4%にとどまる。 実際に適用されているのがごく僅かであるのは、経団連が言うような「能力の発揮」とか「成長意欲の喚起」ということが、労働者のためのものではなくて、資本のために強制されたものであることの反映であろう。 資本は裁量労働制になれば、労働者が家庭の仕事とか子供たちの世話など自分の都合に合わせて働くことなど、労働を配分することができ、また仕事も自主的な創意工夫などへの意欲を持って働くことが可能となるかに言う。だが裁量労働制といっても、仕事の量やそれを行う労働の量を決めるのは資本の側であり、労働者の裁量が入り込む余地はほとんどない。決められた期間内に仕事を終わらせなければならず、もし終えることができなければ、残業代もなしに自ら標準の労働時間を超えて働かなくてはならない。それが嫌なら契約した仕事を成し遂げるために必死に働かなくてはならない。これが裁量労働制の本質である。 ◇労働時間の規制の緩和もう一つの労働時間の規制の緩和策は、労基法によって規制されている労働時間そのものを現在よりも延長しようとすることである。 分科会で、IT企業が中核メンバーとなっている新経済連盟(新経連)は、一律的な労働時間法制は多様な働き方の希望を阻害すると指摘、そのうえで「成長意欲があり、一定の基礎能力を持つ労働者」を残業規制の適用除外とするよう主張した。 また高市は、昨年11月の参議院予算委員会で「会社によっては時間外労働を上限規制以下のかなり低い水準で抑制していて、その結果生活費を稼ぐために副業を行う方がいる」「働き方改革に過剰に反応して、すごく低い一定水準以下で抑えていることで収入が減って副業をせざるをえない。そうなると余計働きすぎになって健康を損ねることを心配している」と現在の一律の残業規制を変える必要を述べている。 だが、あたかも労働者のためであるかに言って、労働時間の制限を緩和しようとする高市の理屈はまったくの欺瞞である。 現在の労働時間の規制は、1日8時間・週40時間。残業時間は過労死ラインとされる特別の事情がある場合には、労資協定(36協定)で月100時間未満、2~6か月平均で月80時間以内という上限が容認されている。そして過労死・過労自殺等は20年度802件から24年度には1304件へと増加している。 資本は収入を増やすためにもっと働きたいと思う労働者は多いというが、厚労省による「就業時間の希望」(22年「就業構造基本調査」)によると産業全体で「減らしたい」は20・3%に対して、「増やしたい」は僅か8・4%でしかない。「増やしたい」とする理由は、やむを得ず働くのであって、生活のためにもっと収入を得たいというのがほとんどだろう。そのために健康を害したりするとすれば、利潤獲得のために低賃金で働かせている資本に責任があるのであって、残業規制が厳しいためではない。実際、国際的にみても日本の労働時間は年間1617時間で、欧州諸国に比べて100時間程度長くなっている。 ◇犠牲を強いる資本との闘いの発展をにもかかわらず、資本はさらなる利潤増加のために、裁量労働制の拡大とか労働時間の規制緩和などを労働者に押し付けようとしているのだ。高市政権は、これらを実施することが日本経済の発展をもたらし、労働者の生活改善・向上につながるかのような幻想を振りまき、正当化している。 資本の利益のために労働に犠牲を押し付けようとする政府・資本に反対し、労働時間の短縮、賃金の引き上げこそ、労働者の要求である。しかし、労働の搾取に基づく利潤目的の資本による生産が克服されない限り、労働者の本質的な生活困難はなくならない。 労働者は、生活防衛のために闘うとともに、さらに一切の災厄の原因である資本の支配の克服を目指して階級的な闘いを発展させていこう。 (T) | |||||||||||