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●1487号 2024年11月24日 【一面トップ】 米国の最高権力者に復帰 ――トランプの勝利で亀裂深まる世界資本主義 【コラム】 飛耳長目 【二面トップ】 「年収の壁」問題を考える ――「年収の壁」をめぐり政府と野党の 協議はじまる 【二面サブ】 入党の決意表明 ――「マルクス主義に貫かれた国家資本主義論 に感動」 ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】米国の最高権力者に復帰トランプの勝利で亀裂深まる世界資本主義米国大統領選は、大接戦という事前のマスコミ予想を覆して、大差でトランプの勝利となった。トランプは、バイデン民主党政権の物価対策失敗や不法移民急増による治安悪化に照準を合わせて攻撃し、返す手で、AIやIT化の波に取り残されたと感じる製造業労働者らに向かって、「製造業を復活」させ「偉大な時代を取り戻す」と扇動し、かつては民主党支持層であった製造業労働者、生活困窮者、非白人層を引き寄せた。 ◇米国製造業の復活を賭けて米国経済は08年のリーマンショック以降、製造業や農業などが長期に低迷し、歴代の政権によって「政策金利」の引き下げや補助金バラ撒き策が行われたが、大した効果は出なかった。 この「閉塞状況」を打ち破ろうと、16年の大統領選で、「米国第一」を掲げたトランプが泡沫候補から一躍共和党の大統領候補になった。「雇用を守る」ために輸入関税を引き上げる、「中国製造2025」を掲げて世界一の製造強国を目指す中国の台頭を阻止すると叫んで勝利した。製造業が中国に「負ける」なら、米国の安全保障が崩壊すると言うトランプは中国からの輸入を制限し、高度技術の輸出を阻止する中国封じ込めを開始した。 このマネをしたのが、21年に大統領になったバイデンである。バイデンは中国との覇権をかけた闘いを「ゼロサム・ゲーム」だと公言し、中国からの輸入製品に高関税をかけ、軍事転用の恐れがあると称して半導体技術や設備などの輸出を阻止し、軍事的・経済的「対中包囲網」を作り強化してきた。 米国の支配階級が製造業の衰退を阻止しようとしているのは、単に労働者の雇用を守るという表向きの理由だけではないのは明らかであろう。しかし、今回の大統領選では、トランプの方がハリスより「製造業復活」を強く押し出し、「雇用を守る」という労働者向けのトーンを高く響かせた。それが選挙結果に大きな影響を与えることになった。 ◇経済に強いと印象付けることに成功16年からのトランプ政権の4年間と、21年からのバイデン政権の4年間が比較された。とりわけ、物価や雇用などを始め、経済問題に注目が集まった。 トランプは、中国製EV自動車に関税率50~60%をかけて自動車産業を守ると吹聴し(ほとんど輸入されていないのに)、また、他の輸入品についても関税率を引上げて「製造業を守る」と叫びたてた。さらに、バイデン政権下で「不法移民が増え、治安が悪化した」とも煽り、政権を奪取したら移民流入を阻止すると国家主義を振りかざして〝強い権力者〟を演出した。加えて、バイデン政権は物価高騰を阻止できなかったと批判し、トランプ在任中は物価高がなかった、自分なら物価高騰を阻止できたとも豪語した。トランプは〝経済に強い〟と印象付けることにも成功したのだ。 他方、バイデンが降板し急遽後継ぎ候補となったハリスは、女性の保護や生活困窮者の救済を訴え、物価高騰はトランプ時代からのものであり、バイデン政権で発生したわけではないと反撃したが、トランプの攻勢に有効に反撃できなかった。 ◇低所得者ほどトランプに投票選挙結果の分析が行われ、それらがロイターやAP通信などで報道されている。 今回の選挙の課題を尋ねた調査によると、「経済・雇用」が39%と最多で、「移民」が20%、「人工妊娠中絶(規制)」は11%、「医療」が8%と続いた。「有権者の景況感の認識」では、「経済が不調だと答えた人の割合が、4年前の前回選挙時の14%から24%に大きく増えた」。これらの意識の変化を反映して、トランプ共和党は若者・中年層(18歳~44歳)、低所得者、非白人の支持を20年の大統領選より増やし、反対にハリス民主党は減らしている。 例えば、「世帯所得別に投票行動を前回と今回の大統領選で比較」した分析によると、民主党が獲得した票は「世帯年収10万ドル未満の全ての層」で減少している。 しかも、「最も減少幅が大きかったのは2万5000ドル未満の層で、56%から50%に減少し、所得水準が低いほど民主党の得票率が低下している」。 この様に、バイデン政権下で経済が悪化したと感じた有権者が多く、民主党支持が多かった若者・中年層や黒人層から多くの票がトランプに流れた。貧困世帯層にとって、食料品や家賃が2割~5割と高騰し、さらに保育料が他のOECD諸国より高く、貧困層では保育料が可処分所得の3割、4割を占め(資料は統計サイトのStatistaより)、生活は困窮している。 こうした人々は少なからず「現状を何とかして欲しい」と「鼻をつまんで」(米国AEIの報告)トランプに投票したし、民主党は共和党と大差ない政党であると評価して目の前の僅かの光を求めて、民主党から共和党支持に鞍替えしたのである。 ◇資本主義が諸悪の原因だトランプは「米国第一」を叫ぶ国家主義者であり、女性差別を温存する人物であり、また「黒人は綿花労働に戻れ」と黒人蔑視を扇動する右翼勢力や保守的宗教勢力と結びついている。だが、選挙戦になると本性を隠し、ポピュリスト(エリートと対決し大衆を守るという大衆迎合扇動者)よろしく労働者や貧困者の生活向上を公約に掲げ、経済政策を優先させると息巻いた。中国製品に限らず全ての輸入品の関税率を引上げることで「製造業を保護する」、「ドル安政策」で輸出を増やし「法人税減税」も行い国内経済を活性化させる、「残業代免税」「年金免税」などで所得を増やし生活を守ると豪語して、低所得者・労働者層の票をかすめ取った。 「ドル安」や「関税率引上げ」が進めば国内物価の上昇に繋がり、民主党の物価高騰を非難したことと矛盾する。しかし、トランプにとって矛盾した言動などはお構いなしである。米国の〝強い権力者〟を演出し、また労働者を守るのは自分だと売り込んだ。 トランプの言動に迷わされ、またトランプに「鼻をつまんで」投票したのは、米国の産別労働組合などが経済主義・組合主義に浸かっていることとも関係していた。 なぜなら、米国内で発生している貧困の増大(22年の「貧困率」=総人口に対する「貧困ライン」を下回る人々の割合は18%。OECD加盟国38カ国の中ではコスタリカの20%に次いで2番目の高さ――Statistaより)や、所得格差の拡大(23年度第4四半期において所得階層の上位10%が国の富の66・9%を保有、下位50%の世帯が保有する富はわずか2・5%――Statistaより)が米国資本主義そのものに起因していることを認識せず、資本主義と闘う姿勢が皆無であったからである。さらには、資本主義を止揚する労働者階級の闘いが未成熟であることの現れでもあった。 ◇トランプの勝利で亀裂深まる世界―資本主義の衰退を加速トランプの共和党は、上院と下院でも過半数を制し、トランプの代名詞である「米国第一」という唯我独尊の政治を内外で強めようとしている。そのためにトランプは最側近や熱心な支持者を要職に据えて第二次政権作りを急いでいる。 ホワイトハウスの次席補佐官や国境管理の担当者に「不法移民強制送還」論者を、環境保護局長官には気候温暖化懐疑を振りまき「EV自動車補助金打ち切り」や「化石燃料規制緩和」を主張する人物を採用。 また国防長官には、陸軍出身で「能力主義」による強靭な軍隊作りを主張するFOXニュースの司会者を抜擢し、EV自動車・テスラの経営者であるマスクと投資家のラマスワミを「政府効率化省」を新設してトップ2に据えた。 だが、政権入りしたマスクにとって、EV自動車への補助金が打ち切られるなら痛手だ。さらに、テスラ上海工場が4年前に稼働して世界販売を伸ばし、今後メキシコにも工場建設を目論んでおり、中国や南米と対立を深めるのは得策ではない。いずれ、政権内で意見の違いが顕在化するであろう。 外交関連では、トランプは国務長官や国家安全保障担当に対中強硬派やウクライナ支援を批判した人物を選んだ。 こうした顔ぶれを見るなら、大統領選で喧伝した「米国第一」を内外で貫徹できるかに見える。 だが、「不法移民強制送還」を強行すれば、メキシコを始めとする中南米諸国との間で軋轢が生まれ、再び「パリ協定」から離脱するなら、EUを始めとする世界各国から非難が出るのは必至だ。 そればかりか、選挙で公言した通りに「全輸入品に10%~20%、中国製品には50~60%の関税」を実行するなら、世界中で関税合戦が勃発するかもしれない。 他方、中国はトランプによる関税引上げに備えて、報復関税を課すことを盛り込んだ「輸出入関税条例」を「関税法」に格上げすることを決めた。 こうして、トランプ関税が強行され、「中国包囲網」が更に強まるなら、米中間の国家対立は緊迫の度を増し、それにつれて、世界の貿易や資本移動は冷え込み、世界資本主義は縮小する。そうなれば、トランプが目論む製造業復活も物価引下げも失敗に終わらざるを得ない。 なぜなら、労働力の移動はもちろん、多くの原材料や中間製品や完成品の輸出入によって、また、中国をはじめ世界に資本投下を行うことによって、米国資本は巨額な利潤を得てきたのであり、その米国資本主義の足を引っ張ることになるからだ。 「トランプ再来」によって、米国と中国のみならず、世界資本主義の亀裂と衰退が加速されることは否定できず、労働者に対する矛盾のしわ寄せは一層強まるであろう。 トランプと習近平は世界資本主義の覇権を争う帝国主義の頭目であり、彼らと共同歩調をとる自国政府に労働者は決して与みしない。労働者は自国政府打倒のために、さらに「労働の解放」のために闘う決意を固め、前に向かって進まなければならない。 (W) 【飛耳長目】 筆者の娘から聞いた話を書きます。 ★私は都内に住む労働者(40歳女性)で、夫婦共働き、子供が一人います。今、「103万や130万円の壁」が政治的取引となつて大騒ぎしています。しかし、私は関心をもちません。というのは、それらは夫への扶養が前提となっているからです★夫への扶養とは、自力で生活できない妻が夫に面倒をみてもらい、養ってもらうということです。今や女性の社会進出は進み、共働き世帯は私たちの父母世代の3倍、1200万世帯にもなっています。男女問わず、そして夫婦問わず女性も同等に働く時代です★扶養されている方々は好き好んでそうしているわけではありません。当節の物価高や住居費(都内平均月14万円)や光熱費、教育費などの高騰の中で、〝例え少しでも多く〟(税負担なしで)稼がないと生活できないからです。特に、育児中の女性や年金では暮らせないお年寄りがそれに甘んじています★103万円だとかに多くの政治的時間を費やす前に、どうして夫婦が同等に働けないのか、どうして妻が夫に扶養されねばならないのかの根本的対策に時間を費やすべきではありませんか★まずは保育施設や男女育児休業の完全化、高齢者への公的支援こそ優先すべきです。党利党略で進めることに反対です。(義) 【2面トップ】「年収の壁」問題を考える「年収の壁」をめぐり政府と野党の
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<参考>林 紘義著作集 全六巻 |