●1501号 2025年6月22日
【一面トップ】 闘いに背を向ける立憲・野田 ――内閣不信任決議案提出断念
【一面サブ】 イスラエルによるイラン攻撃糾弾
【コラム】 飛耳長目
【二面トップ】 トランプを頂く米国は暗愚な排外主義大国へ
【二面サブ】 ドル基軸体制の危機 ――米国の凋落とともに深まる
《前号の校正》
※『海つばめ』PDF版見本
【1面トップ】
闘いに背を向ける立憲・野田
内閣不信任決議案提出断念
通常国会は22日までだが、内閣不信任決議案を単独で提出できる議席を持つ唯一の野党である立憲民主党は、不信任案を提出しないという。しかし石破政権は、自民党の裏金問題を誤魔化し政治改革を進めず、物価高対策でも有効な手立てを立てることができず手詰まりの状況だ。こんな石破政権に不信任案を突きつけずに、どうして立憲の唱える政権交代ができるだろうか。
◇闘おうとしない立憲・野田
野田は「政治改革も、選択的夫婦別姓も、年金も全部先送りしようとしたのは石破政権」(8日)だと批判するが、それは石破政権が不信任に値することではないのか。不信任案が提出されれば、石破政権は少数与党であり、野党が不信任案賛成で一致すれば可決する。石破が、不信任案が出されたら採決を待たずに衆院解散に踏み切ると言うのは、立憲を牽制するためだ。そして立憲・野田は日米関税交渉の最中に「政治空白」をつくることを懸念しているという(朝日10日)。
しかし政治の転換期に「政治空白」が生まれるのは当然だ。むしろ問題は、そこから本当に労働者大衆の未来を切り開いていく道が開かれるかだ。
トランプ関税は、衰退しつつあるアメリカ資本主義を、貿易相手国の犠牲で救おうとする帝国主義的策動だ。関税交渉は貿易相手国が、自国の利益を守ろうとする資本主義国家間の争いで、米中などは帝国主義国家間の覇権争いでもある。
石破は政権維持のために腐心しているが、野田はそんな石破に歩調を合わせて、不信任案を提出しないのだ。石破に絡み取られている。
◇野田は石破の「国難」に同調
11日には今年3回目の党首討論、12日には4月以来の2回目の与野党党首会談が行なわれた。前回石破は、トランプ関税は「言うなれば国難」として協力を求め、今回も「超党派での対応が必要だ」として開催を求めた。
野田は「国難だから協力する」と、党首会談に応じ、維新、国民民主、共産、れいわの野党党首も参加した。この時期の党首会談は、野党に不信任案を出させないという石破の狙いが在る。
さらに石破は日米関税交渉で一定の合意を得ることを、参院選でアピールする材料にして、選挙を有利に闘おうとしている。石破はご丁寧にも、党首討論の前日に党首会談を設け、「協力」の約束を取り付けることで、党首討論も「協力」の場にしている。
しかし、そもそも「国難」は、ブルジョア国家の利益が損なわれることに他ならない。資本家の利益は、労働者の搾取から生まれるのだから、資本家の利益と労働者の利益とは相反する。我々労働者は、ブルジョア国家の「国難」に与しない。
それは自国本意の排外主義につながるもので、労働者の国際主義と相反するものだ。「アメリカの言いなりになるな」と言う共産は、自国の民族資本を守ろうとするもので、労働者の国際的連帯による社会変革の展望を示すことはできない。
立憲のみならず共産まで、「国難だから協力」と党首会談に参加。これはこれらの政党が、資本主義社会の維持を目的とするブルジョア政党にほかならないことを示す。
◇党利党略の維新、国民に頼る
石破政権は、学術会議の統制強化を目論む学術会議法案を成立させる一方、裏金問題を曖昧にし、物価高対策や夫婦別姓問題を放置する反労働者的な政権だ。党首会談や党首討論は、不信任に値する石破政権を厳しく追及する場にすればよい。関税問題で与野党共に「協力」では話にならない。
野田は、不信任案を出すに当たって、維新と国民民主に共同提出を検討したが、石破政権は不信任に値するのだから、維新と国民民主にはからずとも、さっさと不信任を出せば良い。
維新は学術会議法に賛成し、高校無償化では自公維で制度設計を進めるなど、自公政権寄りで、国民民主からは前から素気なくされているのに、野田はまだ共同提案にこだわり、これらの政党と共同提案できないから、不信任案を提出しないと言う。なんとも情けない政党だが、立憲のブルジョア政党としての本質の現れだ。案の定、党首討論は「不信任触れず 迫力欠く討論」(朝日12日)と評される始末だ。
◇歴史を前に進める労働者の闘いを
石破政権は13日、「経済財政運営と改革の方針」(骨太の方針2025)を閣議決定した。「賃上げを起点とした成長型経済」の実現を目指すとするが、これまでの賃上げは、経済成長があって、ようやくわずかなおこぼれに預かったに過ぎない。
企業は賃金を抑え、企業の利益を確保する、それがブルジョアの「成長」だ。会社が利益を上げれば、労働者にも利益がまわるという「トリクルダウン」はおこらず、大企業が内部留保を増やしただけで、労働者の実質賃金は低下し続けている。
骨太方針の「減税より賃上げ」は、野党が軒並み消費税減税などを唱える中で、それに対抗しようとするだけのものだ。「賃上げこそが成長戦略の要」などは、労働者・働く者を誤魔化すためのものに過ぎない。
政権は、「参院選で消費税を下げるような公約は、どんなことがあってもできない」(2日森山幹事長)と見得を切り、そして11日の党首討論で石破は、消費税減税には反対する、現金給付案については政府の中で検討しないと言った。しかし、その舌の根も乾かぬうちに、「2万円給付」を参院選公約に盛り込むことを表明した(13日)。
こんな石破政権に不信任を突きつけないのは、小ブルジョア的なリベラル政党である立憲が、ブルジョア政党に追随しているからだ。石破と同じ穴のムジナだ。労働者は、「賃上げを起点とした成長型経済」と労働者を偽る石破政権とともに、それとまともに闘おうとしない立憲等の野党をドブに投げ捨てよう。労働者の団結した力で資本家と闘い、断固賃金アップや生活条件の改善を闘いとり、労働者を抑圧する資本の支配からの解放をめざし労働者の階級的闘いを発展させよう。 (佐)
【1面サブ】
イスラエルによるイラン攻撃糾弾
6月13日、イスラエルは突如イラン各地に大規模な空爆を行った。イランは「宣戦布告にも等しい」として報復を宣言し、100機以上のドローンを発射。両国の軍事的応酬はその後も続き、大規模な戦争となる危機をはらんでいる。
◇手前勝手な「自衛」という口実
イスラエルの攻撃は、首都テヘランをはじめ6都市に及んだ。中部ナタンズの核関連施設を含む百以上が攻撃目標となり、ウラン濃縮施設や弾道弾ミサイル関連拠点が破壊されたほかに、軍最高司令官ホセ・サラミ将軍や核開発に携わる科学者らが死亡、数十の市民も負傷した。続いて14日には石油・ガス施設などにも攻撃を続けている。これに対してイランはイスラエルの大都市テルアビブなどに弾道ミサイルで反撃を行い、軍事的な応酬がエスカレートしている。
ネタニヤフ首相はイランを攻撃した理由について、「イスラエルの生存を脅かす明白かつ差し迫った危機だ」として、「自衛のための措置だ」と正当化。そして、「脅威が取り除かれるまで作戦は続く」と述べ、今後もイランへの攻撃を継続する姿勢を示した。
だが、イランのウラン濃縮の状況を取りあげて、「イスラエルの生存を脅かす、差し迫った危機だ」というのは本当か。イランは原発用の燃料などよりも高い濃度のウラン保有を増やしてきたというのは事実である。しかし、国際機関も核兵器に利用できるまでの濃度になっていることは確認してはいない。
イランは今年4月から米トランプ政権との間で、経済制裁解除の見返りとして核開発を制限する合意を目指して交渉を続けてきた。6月15日にも、仲介国オマーンで6回目の交渉が行われる予定であった。その矢先のイランへの攻撃で、イスラエルの行動は交渉をぶち壊し、イランとの対立を激化させるものである。
◇米国も大きな責任
イスラエルのイラン攻撃について米国のルビオ国務長官は声明でイスラエルの単独行動だと強調、米国は関与していないと述べた。しかし、イスラエルは攻撃について事前に米国に通知したと言っている。もし、米国が本気で攻撃を止めさせようとするなら、そうすることもできたはずであり、攻撃が行われたのは米国が黙認したのも同じだ。実際、トランプは「(攻撃は)素晴らしい」と言い、イスラエルの攻撃を「自衛のため」と正当化している。
米国にとって、イスラエルは中東における米国の覇権ための要石の役割を果たしてきた。米国は核保有国イスラエルに対して大規模な軍事援助を行う一方、イスラエルと対立するイランには核開発阻止のために経済制裁を行うなど厳しい態度をとり、またイスラエルのパレスチナ人民への野蛮な弾圧を支持してきた。
ネタニヤフにとって、イランを後ろ盾としてしてきたイスラム武装組織であるヒズボラやフーシ派を軍事攻撃によって弱体化した現在、イラン政府を転覆するチャンスと見て、攻撃に踏み切ったのである。米国はイスラエルのイランへの大規模な攻撃の責任を負っているのだ。
◇労働者は覇権争いに反対する
イラン政府は、イスラエルによる攻撃によって米国との「交渉は無駄になった」として、交渉の継続をしないとの態度を明らかにした。イスラエルの攻撃は中東の緊張を激化させ、イランの核開発を促進させる契機となるかもしれない。
労働者はイスラエルのイラン攻撃を断固糾弾する。だからと言ってイランをに与しない。イランもイスラム宗教国家として労働者の階級的運動を弾圧しているからであり、イスラエルや米国と中東での覇権を争っている国家だからである。労働者がめざすのは、階級や搾取、差別のない社会であり、国境のない全世界労働者の協力と共同の社会の実現である。 (T)
【飛耳長目】
★富士山麓の広大な原野・東富士演習場で、陸上自衛隊による「総合火力訓練」(67回目)が今月8日に行われた。戦車・機動戦闘車50両、各種火砲60門、航空機20機、弾薬76トン(8・7億円)、総勢2900人、防衛大生等5400人が見学★「総火演」は毎年実施されてきたが、例年と異なるのは、まず一般公開(例年2万人以上が見学)されなかったこと、離島での戦闘、主に離島上陸を試みる敵を迎撃する訓練に特化したこと、ウクライナ侵攻を意識した塹壕戦闘を重要視し、「電子化」「AI化」を駆使したことである★例年のショー的なものから、より実践的なものとなった。それは台湾海域を含む度重なる中国の軍事演習やウクライナ侵攻を強烈に意識してのことだ★自公政権は「台湾有事は日本の有事だ」(安倍)と勝手に叫び立てて、南西諸島への自衛隊配備(西南シフト)を進め、島民の避難計画まで作る有様だ。今にも中国が与那国、石垣、宮古島等へ侵攻するかの危機感を煽り立てる★かつて中国侵略を正当化するために、「満州は日本の生命線だ」と叫び立てたことを我々は忘れない。労働者は如何なる帝国主義戦争にも断固反対し、世界の労働者と共闘して、中国や日本で、軍拡を進める自国政権打倒のために立ち上がる。 (義)
【2面トップ】
トランプを頂く米国は暗愚な 排外主義大国へ
「ノー・キングス(王はいらない)」を掲げた反トランプの大規模集会が14日、軍事パレードに抗議して行われ、全米各地で数百万人が参加した。ワシントンで行われた陸軍創設記念の大規模軍事パレードは、軍隊を私物化し、トランプ誕生祝いを兼ねていると批判された。しかし自ら〝国王〟を自称するトランプは、軍隊を称賛し、排外主義の実動部隊として、軍への依存を深めている。
◇青い州に対するトランプの復讐
6月6日にロサンゼルスにある企業をICE(移民税関捜査局)が〝不法移民〟摘発名目で強制捜査し100名以上を拘束した。トランプの白人優位の人種差別思想に基づく、排外主義的政策による移民に対する公権力の襲撃に他ならない。これに対して労働者・市民、学生の抗議が高まり全米に広がっている。抗議に対してトランプは、7日に州兵、海兵隊の導入を州知事の同意なく決定配備した。その数は州兵4千名、海兵隊7百名という大規模なものである。
抗議行動はロサンゼルスのICE施設周辺など極めて限られた地域で、平和的に行われていたにもかかわらず、トランプは抗議に参加する人々を「動物」(イスラエルの血に飢えた虐殺者・ネタニヤフはハマスやパレスチナ人を動物と呼んでいたことを思い起こせ)「外国の敵」「侵略者」と呼び、「反乱」を取り締まるために軍を動員したと正当化した。軍動員に対してニューサム・カリフォルニア州(加州)知事は「権力の乱用」「知事の要請のない州兵動員は違憲だと訴え、差し止めを求めて連邦裁判所に提訴し」トランプを批判し対立している。12日には、加州のガソリン車規制法を無効にする決議にトランプは署名したが、決議は5月に議会で可決済みであり移民摘発に合わせたトランプの攻撃に他ならない。
トランプは執拗にニューサム知事を個人攻撃する。彼が次期大統領選の民主党有力候補者だからであり、加州では2000年代に入ってからすべての大統領選で民主党が勝利してきた民主党の強固な地盤だからである。加州の人口は4千万人、大統領選の選挙人の数は54名で最大。州のGDPは24年4兆8千万ドルと日本を上回る。シリコンバレーを抱え世界最大のIT産業集積地である。人種構成はヒスパニック系39・4%、白人36・5%、アジア系15・5%、黒人6・5%の構成から明らかなように、多くの移民を受け入れて発展してきた。
◇減る支持に焦るトランプの自作自演
大きな混乱が発生していないにもかかわらず、軍を動員し危機を煽り、デモ隊を挑発し混乱を生み出そうとするのは、政策の行き詰まりがある。大見得を切った「ガザ・ウクライナ戦争終結」が、ネタニヤフとプーチンの手玉に取られ、停戦の兆しすら見えず、ウクライナ戦争支援のトランプ政策は、支持27%、不支持52%となっている。トランプ関税も英国と合意した以外の進展はない(ニューサム知事は相互関税の停止を求めて裁判)。
最大の標的とした中国とは5月11日に追加関税の115%引き下げに合意したが、中国はレアアースの輸出再開を遅らしたと、米国は半導体規制を発動。今月10、11日に英国で2回目の協議を行い(レアアース規制でフォードが車両生産を中止する等、米国側に大きな影響が出ていた)米国が半導体輸出規制を緩和する等譲歩して、中国がレアアース輸出解禁などに合意したが、米国に製造業が復活する目に見えるような成果を挙げてはいない。
TSMCやソフトバンク、オープンAIグループは、トランプの大統領就任早々、米国に数百兆円の投資を表明し、トランプの歓心を買った。しかしデータセンターや半導体製造、研究施設では、期待するような労働者の雇用は生まれない。
国内に最先端工場が必要とする設備を製造する工場は存在せず、すべてを輸入で賄うと製造コストは高くなる。トランプの思惑通りの製造業の復活は無理である。
関税政策の支持34%、不支持51%。移民政策も支持45%、不支持44%。トランプが目玉とする大型減税を含む26年度連邦予算案に対する不支持が53%。共和党支持者の67%が賛成(民主党は89%が反対)するが、医療支援などが削減され、共和党支持者の割合が高い低所得層の世帯では、年収が1600ドル減少すると試算されている。
消費者物価は5月時点ではまだ前年比プラス2・4%だが、今後トランプ関税の影響でさらに上昇することは確実である。最新のトランプ支持率は38%と5~6月の平均値47~48%を大きく下回った(調査結果は6/13JETROビジネス短信)。
ロサンゼルスでの〝不法移民摘発〟や「外国の敵」への軍隊動員は、トランプが支持率を上げるために、支持・不支持の拮抗している移民問題に焦点を当て注目を集めるための〝自作自演〟である。
白人優位の移民排斥の排外主義者トランプは、公然と反旗を翻し歯向かう〝不法移民〟に寛容な加州に、4月28日に署名した「移民法の執行を妨害している州や都市への連邦補助金の打ち切りなどの措置」を適用するチャンスを狙っていたのである。この大統領令は「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」と呼ばれる〝不法移民〟に寛容な州や都市への圧力を強化する大統領令で、今後民主党の地盤であるシカゴやニューヨークなどに対する攻撃に利用されることは容易に想像できる。
◇分断克服は資本と闘う労働者の役割
トランプ2・0で鮮明になったのは、法律無視の態度と、トランプ党に変わった共和党の議員が過半を占める議会の形骸化である。大統領就任日に「独裁者になる」と豪語したトランプは、米国を白人優位の反エリートでキリスト教を規範とする排外主義の立場で大統領令を連発。その無効・違憲判断を求める訴訟が100件以上起こされ裁判所で審理されている。そのうち「差し止める判決が数十件下されており、その多くは民主党所属の大統領が任命した判事らによるもの」と言われている。トランプに対して民主・共和支持者で米国民の態度は真っ二つに分断されている。
トランプに対する分断を生み出した根源は、資本主義が生み出し拡大してきたものであり、その克服は民主党・共和党に依存する事や政治組織を嫌う無党派の運動ではなく、労働者階級の党派性で、資本の支配と自覚的に闘う組織的闘いによって可能となる。 (古)
【2面サブ】
ドル基軸体制の危機
米国の凋落とともに深まる
トランプは、戦後のドル基軸通貨、自由貿易、米国の安全保障に他国は「ただ乗り」してきたと言い、WTOや各種協定から脱退してフリーハンドを得て、「ただ乗り」の代償を関税などで負担させ、米国の産業競争力を回復すると宣言している。このトランプ発言から浮き彫りになるのは、米国の凋落とドル通貨体制の危機である。
◇超大国の凋落
トランプが「相互関税」を発表した4月初め、米国債の投げ売りが発生した。
それは世界貿易の縮小と米国内の物価高騰を懸念した投資家の反応であったが、米国経済に対する不信の表明でもあった。
米国は長年にわたり国際収支の赤字が続いている。貿易収支の大幅赤字はもちろん、経常収支の黒字が減少し続けた裏で「対外純債務は26兆ドル(約4千兆円)にまで拡大していた」(りそな資料、25・4・9)。
超大国・米国の凋落に焦りを見せるトランプは、米国復活のためなら何でもやると言い、手始めに関税強化策を発動したが、関税で米国製造業を復活させる即効薬にはならない。
トランプ関税による製造業の復活は至難の業であり、国際収支の改善にも役立たない。それゆえ、国家信用が債権の形態とった米国債が投げ売りされる事態になったのである。
これを一時的現象だとして見るべきではない。戦後の米国の世界支配の動揺・解体は急ピッチに進んでいる。以下、それを見てみよう。
◇IMF体制崩壊
金を世界貨幣とする「金本位制」の停止は第一次大戦と共に行われ、各国は銀行券と金との兌換を停止し、金の自由な輸出を禁止した。国家の意のままに財政膨張策を行い、軍事費を調達するためには、金を貨幣として流通させることは出来なかったからである。
だが、「金本位制」の停止は世界共通の貨幣をなくし世界経済を分裂・対立させることになり、帝国主義戦争と世界恐慌を激化させた。
ケインズを始め、当時のブルジョアたちは金の役割を知っており、簡単に金と手を切れなかった。それゆえ、第二次大戦中に新たな「世界通貨体制」が模索された時には(ドル基軸に反対したケインズ案や米国のホワイト案などが検討された)、金との繋がりにこだわっていた。その結果、金を失った英国から、世界の金準備の大半(200億ドル)を有した米国に覇権は移り、戦後の通貨体制は、金に裏付けられたドルに対して各国通貨を固定させ、為替を安定させる「金ドル本位・固定為替制」というIMF体制(45年12月に35カ国で調印)に変わった――金1オンス=35ドルに固定されたが、市場で金との兌換はできず、政府間の交換のみが許された。
だが、ドルは世界貨幣としてバラ撒かれるや下落し、米国の国際収支も赤字が続き、「60年にはついに対外流動債務が金準備を上回るにいたった」(『年次世界経済』、経済企画庁71年版)。ドルに対する信認はもろくも崩れ、金投機が始まり、米国の金準備は流出し、国際収支の赤字は「未曾有の規模」(同上)に拡大したのである。
こうして、71年8月、米国は金との交換を停止した。
その後の世界資本主義は、どの国の通貨も金との交換性を持たない、ただ、ドルを世界の基軸通貨として利用する体制、従って各国の為替もドル為替に相対して変動する体制に移って行った。
◇ドル基軸の危機
金との交換性を一切無くした各国通貨は、ただ各国の強制力をバックに流通する紙幣(不換紙幣)に転じるしかないが、第一次大戦終了後のドイツや戦時中の日本では、国家が紙幣を印刷して流通に投げ込み激烈なインフレを起こしていた――ドイツでは政府が紙幣を直接に流通させ、日本は国債の日銀直接引受けや軍票を発行。
戦後、その反省の上に立って、ブルジョアは紙幣ではなく、政府が経済的・軍事的な必要から国債を発行し、次に中央銀行が市場を介して国債を購入し貨幣発行権を得ることや日銀の貸付という「取引上の都合」で貨幣を発行する形式を採用するようになった。
こうした信用貨幣は紙幣とは違うというわけだ。
だが、信用貨幣は金との兌換があるからこそ信用貨幣なのであって、それが廃止された信用貨幣はただ国家信用という形式に隠れた紙幣に他ならない。従って、信用貨幣=中央銀行券は流通に押し出されるにつれて減価せざるを得なく、戦後の各国は恒常的なインフレにさいなまれ、また、たびたび通貨危機に陥った。
さらに、現在のドル基軸体制は、超大国である米国のドル信認の下で各国の信用貨幣の交換を保証してきたが、基軸体制そのものが動揺と危機を深めている。
というのは、米国の最近の国際収支は60年代をはるかに超えて大幅な赤字が続き、「対外純債務は未曾有の額」(前述)になり、利払いも増えドルの国際的信用は下落の一途にあるからだ。他国がドルを持ち利用する限りでドル価値は維持されているだけであり、ドルの形式的な特権はとっくに形骸化している。
トランプには、ドルの価値が維持されていることは、円安や元安が維持されていることの証左であるように見え、日本や中国はドル基軸を利用して為替安を作り米国に安い製品を輸出し、「米国の製造業を奪った」と抗議するのである。
ドル基軸体制は動揺している。というより、この体制は米国の圧倒的な経済力の上にできた一時的なもの、かりそめに過ぎなかったということである。トランプの登場によって米国の凋落が明らかにされ、ドル体制に危機感を覚える人々が増え、ケインズに習って「特定の通貨や国に依存しない世界通貨体制」を再評価すべきだと言う学者(岩井克人)も登場し出した。
しかし、ケインズの「世界通貨」とは、超国家的中央銀行券、つまり金に従属した通貨ではなく、金を支配する通貨のことであり、国家として分裂・抗争する世界資本主義を捨象した幻想の産物であった。
労働者は私的労働を基礎にした商品・資本の交換の矛盾の現れが貨幣であり、資本主義体制の矛盾の産物が世界の通貨体制であることを学び、これらを克服した共同体社会を目指して闘っていかなければならない。(W)
《前号の校正》
1面トップ記事6段目の営農戸数規模別比率の数が、10~19戸において、21・9%ではなくて、26・6%の間違いでした。
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