●1491号 2025年1月26日
【一面トップ】 深まる世界の分断と格差 ――第二次トランプ政権が発足
【コラム】 飛耳長目
【二面トップ】 自己弁護に堕した日銀「レビュー」 ――心理や期待に働きかける金融政策を正当化
【二面サブ】 不可能かUSスチール買収 ――トランプは愛国心と国益を叫ぶ
※『海つばめ』PDF版見本
【1面トップ】
深まる世界の分断と格差
第二次トランプ政権が発足
1月20日、民主党バイデン政権に代わり、共和党トランプ政権が発足した。「米国を再び偉大な国家に」(Make America Great Again)をスローガンに「米国第一主義」を謳う、トランプ政権の誕生は利害を異にする国際社会の分裂と軋轢をさらに深め、階級矛盾を激化させ、労働者人民の犠牲を強めていくことは必至である。
◇「国際秩序の再構築」謳う
国際秩序について、新政権の国務長官に指名されたマルコ・ルビオは、上院承認公聴会で、「戦後の国際秩序は時代遅れなばかりか、有害だ」と訴え、「再構築する必要がある」と強調した。「国際秩序が時代遅れ」とする主な理由は、中国をはじめとする他国の経済的発展によって、米国の影響力が後退してきたことである。
ルビオは「米国は自由の核心的利益より国際秩序を優先し続けたが、他国は自国にとって最善の利益だと認識する行動を今後も取り続けるだろう」という。その代表として念頭に置いているのは中国である。
「我々は中国を国際秩序に迎え入れ、彼らはその恩恵をすべて享受してきたが、その義務や責任をすべて無視した」、「我々を犠牲にして世界的な超大国の地位を手に入れた」とルビオは中国を批判している。米国にとって今や中国は「最も強力で危険な敵」である。
「米国を再び偉大な国家に」、「国際新秩序の再構築」というトランプの政権のスローガンは米国中心の国際秩序を取り戻そうという米帝国主義の願望を表している。
◇「米国第一主義」は「孤立主義」にあらず
国防長官に指名されたピート・ヘグサスは、「力による平和重視」を唱え、「平和のためには、真の抑止力が必要」として、「軍事力の拡充を目指す」、そのためには「軍需産業の基盤を活性化する」と述べた(上院承認委員会発言)。
またヘグサスは、「安全保障政策」について自国の軍事力の強化を図るとともに、日本や西欧諸国など同盟国・友好国との協調を訴えている。
米国の最大の競争相手国である中国に対しては、「同盟国や友好国と連携し、インド太平洋における中国からの侵略を抑止する」と述べている。
トランプ政権が日本をはじめ韓国やNATO諸国に対しては、米国の軍事負担は大きすぎるとして、米国の負担を軽減するために、各国に軍事費の拡大、負担増を迫ってくるのは必至である。
台湾については、トランプは「台湾は米半導体チップビジネスですべて奪った。彼らはとてつもなく裕福だ」と述べたが、米国の台湾〝防衛〟の見返りとしての代償を期待してのことだ。
一方、ヘグサスは中東政策に関しては、「イスラエルの防衛政策を断固支持する」とバイデン政策の継承を明らかにした。イスラエルは米国の中東支配の要だからである。
以上の発言から明らかなように、トランプの「米国第一主義」は自国のことに集中し、他国のことに関わらないという「孤立主義」を意味するものではない。「米国第一主義」は、自国の利益のために、他国に負担を強いる利己的「自国優先」の帝国主義政策である。
◇大衆の生活を圧迫する産業保護=関税策
他国への高関税政策はトランプの主要政策の一つである。トランプは外国からの安価な製品がラストベルトに象徴されるように国内の製造業を衰退させ、輸入が増加し貿易赤字が拡大、大量の失業や貧困を生み出している、として国内産業を保護するために高関税を課すことを謳っている。
中国に対しては40~60%、カナダ、メキシコに対しては25%、これらの国は米国の3大輸入国である。その他日本などには10~20%という具合だ。
トランプは、関税による他国からの輸入を規制することによって、国内産業を復活させ、雇用を生みだし、労働者の生活を改善させることが出来るという。
しかし、高関税による輸入抑制は、自国民に外国の安価な商品に代わって国内の高い商品を買うことを余儀なくさせることであり、労働者の生活は改善するどころか反対に悪化することは避けられない。
また、国内で生産できない外国からの輸入品についても、関税を上乗せされた高い価格の商品購入を余儀なくされることを意味する。
トランプ関税によって、平均的な中所得世帯に年間3900ドル(約60万円)の追加負担が生じるという試算もある(朝日、1・20)
また、一方的に他国に対して高率の関税を課すことは、相手国の米国に対する報復関税を招き、米国の輸出の縮小をもたらす。
米国の穀倉地帯で大規模にトウモロコシ生産を行っているガーグルが会長を務める米大豆協会の研究によれば、「米中貿易摩擦の再燃で米国大豆の対中輸出は年1400万トン~1600万トン減る見通し。貿易摩擦がない場合からほぼ半減する。トウモロコシも同84・3%減、これほどの需要減を補う市場は存在しない」という。(同上)
トランプの第一次政権では中国の報復関税で、米国の主要輸出品の大豆やトウモロコシは25~30%も減少し、2018年夏から19年末までだけで、米国の農産物の輸出は270億ドル(現在のレートで約4兆円)の打撃を受けたという。
さらには、米国に輸出していたグローバルサウスの諸国の米国離れを促進し、米国が最大の競争相手とする中国へのグローバルサウス諸国の接近も起こり得るだろう。
トランプの独りよがりな高関税政策は、世界経済を混乱させ、米国の復興どころか反対に衰退をさらにすすめ、労働者の生活困難、負担をさらに増加させることになるだろう。
◇反動的な人種差別政策
不法移民追放もトランプの重要政策の一つである。トランプは、「米国史上最大規模の強制送還」を始めると宣言した。トランプは大統領令で犯罪歴のない移民も逮捕できる裁量権を広げるほか、米・メキシコ国境に配置する州兵の規模を拡大したり、国境沿いに無許可移民の国内への侵入を阻むための壁建設をしたりすると言っている。
トランプは不法移民を「麻薬の持ち込み、犯罪、暴力」の徒と非難、国内の治安を乱し、労働者から職を奪っているとして、国外追放を叫んできた。トランプの不法移民に対するこうした非難は、失業や低賃金、物価高など生活苦に苦しむ底辺の人々の心を〝つかみ〟、大統領選勝利の一因となった。しかし、トランプの移民に対する非難は、まったくの卑劣なデマである。移民が白人らに比べて殺人や性犯罪などの犯罪が多いという統計はない。
米国の不法移民は約1100万人、そのほとんどは賃金も待遇も低い、生活不安定の非正規労働者である。労働者人口のうち、農業の半数、建設業の15%ほどは非正規の移民が占めている。もし移民が強制移転されれば、米国の国内総生産(GDP)は最大6・8%低下するという試算もあるように、低賃金の移民によって経済は支えられてきたのである。不法移民が国外に追放されれば、経済は成り立たなくなるだろう。
一方、イーロン・マスクは移民の全面的な規制に反対、ITなどを担う高度の知識、技術を持った移民を積極的に受け入れるよう主張しているが、将来全面的な移民規制を唱えるトランプとの意見の相違が問題になるかもしれない。
トランプは労働者の生活不安の原因が移民のためであるかにデマを振りまき、労働者の移民に対する敵愾心を煽り、労働者間の分断を進めてきた。
トランプのみならず、政権の閣僚の一員に任命されたイーロン・マスクは、ヨーロッパではイギリスやドイツで、移民排斥を掲げる親ナチスの右翼組織(「ドイツのための選択肢」など)に支援金を出したり、新聞への寄稿論文で2月に行われるドイツの総選挙に向けて有権者に右翼政党への投票を呼び掛けるなどの策動に走っている。人種差別はトランプ政権の本性であり、断固糾弾されるべきである。
◇「米国第一主義」は米国衰退の現れ
トランプの威圧的な「米国第一主義」は、国際社会における米国の相対的地位の低下、衰退の反映である。トランプは地球温暖化を抑制するためのパリ協定から再離脱し、「掘って、掘って、掘りまくれ」と石油、天然ガスなど温暖化を促進する化石燃料を増産しようとしているが、米国の衰退はこうした目先の利益で働く者を分裂させ、政治支配を強めようとするトランプのような反動的なポヒュリスト大統領を生み出したのである。
かつて米国はその圧倒的経済力、軍事力を背景に、国際社会の盟主的存在として世界に君臨してきた。しかし、日本、西欧諸国の経済的発展、続く中国国家資本主義の急速な帝国主義化によって、米国は後退してきた。2013年のオバマの「米国は世界の警察官ではない」との発言は、その表れである。
米国は、米国中心の国際秩序を維持するために、世界中に軍事および経済援助を行い、さらに米軍の直接の軍事的介入などを行ってきた。しかし、中国が帝国主義的大国として米国の覇権を脅かす存在となったように、米国の支配は後退してきた。
トランプの「自国第一主義」は、国際秩序に無関心な「孤立主義」を意味するものではない。米国の覇権を維持するためのトランプの自国優先の「米国第一主義」は、米中の対立をはじめ世界的な国家的な対立、軋轢を深めるであろうし、また労働者の犠牲を強めることは避けられない。日本もまたその影響を免れない。
こうしたなかで、国境を越えた世界の労働者の資本に対する共同の闘いという国際主義に立った、労働者の階級的発展をめざす意識的な闘いが求められている。 (T)
【飛耳長目】
★今年は昭和100年にあたる。それを期してマスメディアでは「昭和の重大ニュース」なる特集が組まれるという。何れにしても「昭和」と聞くと何かしら暗いイメージが付きまとう★戦後復興を成し遂げ、高度経済成長を経て日本が飛躍的な経済発展を遂げ、国民が豊かになったのは確かに昭和であった。その時代、様々な事件が起きたが、最大のものと問われれば、なんと言っても太平洋戦争であろう★天皇制と軍部独裁により国民を未曾有の死と塗炭の苦しみへ陥れ、国内は焦土と化し、21万人もの命を奪った原爆被害、4人に1人の死者を出した沖縄戦、6千人もの若者の命を散らさせた特攻作戦、南方の島々での玉砕など列記に際限がない★南方での戦争犠牲者を見るならば、例えば、南太平洋ではフィリピンで52万人、東部ニューギニアで13万人、ソロモン諸島で12万人、硫黄島で2万人が玉砕している。しかし、今もって112万柱もの未収容の遺骨が眠る★戦後、この「反省」の元に日本は出発した。しかしどうだ、昭和100年の軍事費は8・7兆円にも及び、「台湾有事は日本有事」だとして南西諸島にまで自衛隊基地を構築し、今や日本は帝国主義軍事大国となった。再び戦争に向かって亡霊が騒ぎ始めている。 (義)
【2面トップ】
自己弁護に堕した日銀 「レビュー」
心理や期待に働きかける金融政策を正当化
昨年12月19日、日銀は1年半に及ぶ検証結果だと自負する「金融政策の多角的レビュー」を公表した。90年代初頭におけるバブル崩壊以降の金融政策を総括し、今後に生かしていくというものである。しかし、この「レビュー」は内在的な分析をせず(できず!)、自己弁護に終始している。
◇過剰生産恐慌の一側面
日銀レビューは、バブル崩壊とその後の金融危機(97年の山一証券の破綻など)を振り返るが、これらの経済危機の原因についての分析はない。ただ、日銀は99年に政策金利をゼロにまで押し下げたが景気は戻らず、01年に国債を買い入れて市場にカネを流す量的緩和策で不況を打開しようとしたと述べるにとどまる。
80年代に進んだ「バブル経済」は、資本の蓄積と拡大再生産が急速に進展した結果だ。利潤の飽くなき追求を使命とも原理ともする資本主義の頭目たちは、好況の後に、仮に停滞があっても大したことはない、労働者の首切りや合理化で乗り切れると信じて疑わない。
経済活況時には、生産的資本の拡大と共に貨幣資本の蓄積も進む。貨幣資本の蓄積は生産的資本が搾取した剰余価値からの転化であり、拡大再生産の原資となる。同時に、生産的資本は金融機関から借り入れた貨幣資本を再生産に注ぎ込む。
だが、過剰生産の兆しが現われるなら、行き場を失った貨幣資本は株や土地に流れ出す。「資産バブル」は過剰生産と共に、また独自な貨幣資本の運動(市場にカネを流し価格を釣上げて利ざやを儲ける等)によって発生する。そして、ついには、過剰生産と貨幣資本の過剰が、従って債務が一気に顕在化する。
マルクスは経済循環の局面では、「貨幣資本の過多」は「現実資本」の蓄積の結果でありうるし、また独自な貨幣資本の運動の結果であり、さらには「現実資本」の停滞の結果であると述べ、次のようにまとめている。
「循環の一定の段階では絶えず貨幣資本の過多が生ぜざるをえないのであり、またこの過多が、信用の発達につれて増大せざるをえないのである。そこで、また同時に信用の発達につれて生産過程をその資本主義的諸制限を超えて推進することの必然性、過剰取引や過剰生産や過剰信用が発展せざるをえない」(『資本論』第3巻32章、原書523~4頁)。
「バブル経済」は株や土地価格が騰貴した単なる「資産バブル」ではなかった。バブルとその崩壊は、マルクスがいうように資本主義的生産様式から発生したのである。しかし、90年代に入り5年以上も経て後に、なぜ金融機関が相次いで倒産したのか。これについても、日銀は何も語らない。一体、何のためのレビューであったのか?
一言付け加えるなら、「バブル経済」の崩壊によって株や土地価格が崩落し、「過剰信用」が一気に露呈したが、政府による救済によって、「過剰信用」の反動(金融機関の倒産、企業への貸し渋りや貸し剥がしの横行)がいくらか先延ばしされたに過ぎなかった、ということである。
◇「インフレ期待」で消費拡大という観念論
安倍と黒田・日銀は「アベノミクス」という「量的質的な大規模金融緩和」によって、人々に「インフレ期待」を抱かせることが可能だ、「2年以内に年2%インフレ(物価上昇)」を実現すると政府・日銀が公言することで、企業や家庭は必ず「先行投資」を開始する、その結果、カネが回りだし消費が増えると大見得を切っていた。
日銀は人々の心理に働きかけるという金融政策を開始した。
具体的には、短期金利の指標である「日銀当座預金の付利」の一部をマイナス金利に引き下げ、10年物などの長期国債も大量に買い上げて長期金利をゼロ%付近に固定した。日銀は政府が景気刺激策として行う膨大な財政支出(国債発行)を知りながら、これを買い支えた。政府の国債発行は、年80兆円規模で、コロナ対策時期には年百兆円にも達した。
だが、2年たっても10年たっても、「年2%」の物価上昇も、消費拡大も実現せず、誰も「景気回復」の兆しを感じることが無かった。このことは、13~19年にかけての民間の「実質消費の伸び」が「年平均0・0」であったことからも言えた。
日銀の金融政策は挫折し、政府の膨大な借金と政府の借金の尻ぬぐい(日銀の大量な国債保有)という未曾有の困難を残した。しかも、日銀は大企業の株式なども大量に買い入れていた。日銀のこの目的は株価高騰を演出し、さも経済回復が起きているかに見せかけること、企業の名目的資産価値を高めることであった。だが、こうした人々の期待や心理に訴える観念的な政策や「架空資本」を実質価値と見なす経済学は最初から挫折が約束されていたのだ。
そして、欧米との金利差が拡大するにつれて、日銀の低金利政策は通貨安=円安を招き、輸入価格の高騰を国内に波及させ、労働者の生活を直撃している。
今では日銀が保有する長期国債残高は24年9月末時点で583兆円に膨らんでいる。長期金利の市場利回りが上昇すれば、国債の市場価格(時価)は下落し、日銀の保有国債に「含み損」が発生するが、既に「含み損」は20兆円ほどになっている。従って、今後の利回り上昇や物価上昇、また売却額次第で「含み損」は「実損」に転化する可能性がある。
さらに、金利上昇によって「日銀当座預金」(536兆円、同9月)に対する「付利」が今より1~2%上がり、これが2~3年継続するだけで日銀の「自己資本」(14兆円、同9月)を超える。日銀は債券や金融商品の売買益を「自己資本」に注ぎ込み続けるか、それが出来なければ外部から資本注入を受ける羽目になる。そうなれば、日銀信用は崩落する。
また、民間では低金利のもとで不動産などへの「貸出集中」が顕著になり、これらの貸出残高はバブル時期を超えており、非常に不安定な状態になっていることも記しておく。
◇開き直る日銀
こうした現実を無視して日銀は「大規模な金融緩和」を評価する。
「当初想定したほどの物価上押し効果を発揮しなかった。……(だが)経済・物価を一定程度押し上げる効果があったと評価できる」、金融市場を歪めたという「副作用はあったものの、現時点においては、全体としてみれば、わが国経済に対してプラスの影響をもたらした」と。
さらに、次の文章は未曾有の困難を抱えることになった金融政策の結末を何ら反省せず、反対に開き直るものだ。
「大規模な金融緩和は、期待に働きかけることで、予想物価上昇率に一定の影響をもたらしたとみられる。……ただし、わが国の予想物価上昇率は、適合的な期待形成の影響が大きい傾向があり、過去の経験などにも強く影響を受けて形成されてきた。賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方の転換は容易ではなく、期待への働きかけだけで物価上昇率を2%にアンカーするほどの有効性はなかった」。
つまり、レビューは安倍・黒田の金融政策は正しかったが、「期待への働きかけ」が社会の慣行的迎合的な〝体質〟によって阻害され、それゆえに日銀の目標は達成されなかったと結論する。
そもそも、人々の「インフレ期待」を持ち出したこと自体が論外であるのに、日銀は自らの失敗を労働者や世間のせいに責任転嫁するのである。そして、日銀は今でも、「インフレ期待」の有効性を盲信するのだから呆れ果てる。ブルジョアの経済学とはこんなものであろう。 (W)
【2面サブ】
不可能かUSスチール買収
トランプは愛国心と国益を叫ぶ
◇保護主義で腐朽化
今回の買収は、23年12月に経営危機に陥ったUSスチール(US)に対してクリフス社が71億ドルで買収を持ちかけたが、USが拒否。日鉄が141億ドルで買収することをUSが合意した。
USは1901年設立の鉄鋼会社で、60年代までは、ピーク時には34万人の労働者を雇用する世界最大の鉄鋼会社として、資本主義発展の屋台骨ともいえる存在であった。
しかし23年の粗鋼生産量は約1500万トンで世界24位と低迷している。粗鋼生産1トン当たりの利益は日鉄が世界最高の150ドル(24年4~6月期)、USは50ドル弱と大きな差がある。生産量、利益ともにUSは日鉄に大きく劣り、世界市場で競争力はなく、企業として存続するには合併しかなかったという事だ。
米国の鉄鋼産業は朝鮮戦争が終わった53年、賃金・価格の統制が撤廃されるや圧倒的な価格支配力を持っていたUSなど各社は、賃金と鉄鋼価格のセットでの値上げを実施してきた。労働協定改定のたびに賃上げを繰り返した結果、70年代には鉄鋼業の賃金は製造業平均の60%増と言われた。
USは設備投資を先送りにして、効率の悪い平炉や小型高炉を中心に粗鋼生産を行ってきた。最新の生産設備を臨海部に建設し、原料受け入れから加工・出荷まで一貫して行う日本の鉄鋼会社との競争に太刀打ちできないUSなど米国鉄鋼業界は、米国政府に輸出規制(1968年の日欧と輸出自主規制)を働きかけ、次々と新たな保護政策(「市場秩序維持協定」「トリガー価格制度」「鉄鋼セーフガード」)を要求し、腐朽しつつ存続してきた。
◇保護主義で腐朽化
今回の買収は、23年12月に経営危機に陥ったUSスチール(US)に対してクリフス社が71億ドルで買収を持ちかけたが、USが拒否。日鉄が141億ドルで買収することをUSが合意した。
USは1901年設立の鉄鋼会社で、60年代までは、ピーク時には34万人の労働者を雇用する世界最大の鉄鋼会社として、資本主義発展の屋台骨ともいえる存在であった。
しかし23年の粗鋼生産量は約1500万トンで世界24位と低迷している。粗鋼生産1トン当たりの利益は日鉄が世界最高の150ドル(24年4~6月期)、USは50ドル弱と大きな差がある。生産量、利益ともにUSは日鉄に大きく劣り、世界市場で競争力はなく、企業として存続するには合併しかなかったという事だ。
米国の鉄鋼産業は朝鮮戦争が終わった53年、賃金・価格の統制が撤廃されるや圧倒的な価格支配力を持っていたUSなど各社は、賃金と鉄鋼価格のセットでの値上げを実施してきた。労働協定改定のたびに賃上げを繰り返した結果、70年代には鉄鋼業の賃金は製造業平均の60%増と言われた。
USは設備投資を先送りにして、効率の悪い平炉や小型高炉を中心に粗鋼生産を行ってきた。最新の生産設備を臨海部に建設し、原料受け入れから加工・出荷まで一貫して行う日本の鉄鋼会社との競争に太刀打ちできないUSなど米国鉄鋼業界は、米国政府に輸出規制(1968年の日欧と輸出自主規制)を働きかけ、次々と新たな保護政策(「市場秩序維持協定」「トリガー価格制度」「鉄鋼セーフガード」)を要求し、腐朽しつつ存続してきた。
◇トランプが招いた猜疑心の日米関係
バイデン大統領は3日「この買収を阻止する」と表明。日鉄は、バイデン・全米鉄鋼労働組合(USW)・クリフス社を相手に訴訟を起こし、自民や経団連も買収の禁止命令撤回を要求。クリフス社のCEOは、「日本は中国より邪悪だ」「1945年から何も学んでいない」と、トランプに倣い猜疑心と対立を煽った。
USWの会長は日鉄の買収に対して、「我々の工場の将来を脅かし、国家安全保障を危険にさらすことは明らかだ」と語っている(日経1・11)。USWは国家安全保障の立場から反対し、労働者の生活防衛を真剣に考えず、クリフス資本の買収に期待するブルジョア的な労働運動に堕している。
米国資本主義の発展を牽引した鉄鋼業、USはその象徴的存在である。バイデンが「国家安全保障」を持ち出し反対したのは、米国第一を掲げ、国益と愛国心を叫ぶトランプと根本においては同じだからである。
バイデンは、来年の中間選挙で民主党を勝利させるために、USWの政治力を手放すことが出来なかった。国益を振りかざす権力者の前に企業の経済的合理性などかすんでしまう。
トランプは就任後、大統領選での圧勝を力に、米国の国益を前面に押し出した帝国主義的政治を貫くことは明らかである。就任演説でトランプは、米国は「何世代にもわたる愛国者たちによって築かれてきた」、彼らは「工場労働者であり、鉄鋼労働者」、「彼らは共に鉄道を敷き、摩天楼を建て」と語った。そのレールもビルの鉄骨もUSによって作られたのである。「邪悪」発言が生まれる舞台は広がりつつある。
トランプ政権に対抗して日本の国益を守れという民族主義的動きが高まることは不可避である。トランプが掲げる米国第一のポピュリズム政治は、猜疑心を生み出し他国の民族主義を刺激する。労働者は民族主義の現れを警戒し、暴露し、国際主義の立場で闘い、団結を固めよう。労働者党に結集し共に闘おう! (古)
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