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●1493号 2025年2月23日 【一面トップ】 実質賃金低下を打破せよ! ――賃金闘争は「景気回復」のためではない 【一面サブ】 女性差別撤廃委への拠出金除外 ――国連勧告の皇室典範批判に抗議 【コラム】 飛耳長目 【二面トップ】 ドイツ2・23議会選挙 ――移民か経済か揺れるドイツ 【二面サブ】 ウクライナ抜きの〝停戦〟交渉 ――米・ロ首脳が合意 ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】実質賃金低下を打破せよ!賃金闘争は「景気回復」のためではない大企業労組から賃上げ要求が一斉に出され、25春闘が本格化している。連合の賃上げ目標は「ベアと定期昇給を合わせた賃上げ率は、全体で5%以上、中小企業で6%以上」である。他方、全労連などでつくる国民春闘共闘の賃上げ目標は「10%以上」だ。果たしてこれで労働者の生活を守れるだろうか。 ◇企業の顔色を伺う労組幹部全トヨタ労連は賃上げ要求額について、もったいぶって「非公表」だとしつつも要求額を次のように明かした。 加盟する307組合のうち、製造系の121組合が「経営側に要求書」を提出し、「平均要求額は去年よりも1727円高い1万7939円」(名古屋TV、2・12)。 他方、全本田労連は昨年の「1万3500円」から「1万3千円」に引き下げ、また、スズキやマツダやスバルなどの労組は軒並み「非公表」とし、前年並みかより少ない要求額を出したようだ。 また鉄鋼大手の各労組は「業績見通しが厳しい」との理由で、昨年の「3万円」から「1万5千円」に大幅にダウンさせ、NTT労組も昨春闘が「厳しい結果だった」からと、「賃上げ率5%から3%」へ引き下げて、経営陣に〝気遣い〟を見せる。 マスコミ各紙は「ベア要求 今年も高水準」と大見出しで飾ったが、「高水準」の要求はどこにあるのか? 大手労組の「賃上げ要求額」は全体的に昨年を下回っているのだ。これでは労働者の生活を守れない。 ◇利潤減少を解雇で補う連合が発表した24年春闘「最終集計結果」によると、賃上げ率は「ベア」(基本給引き上げ)が「平均3・56%」、定期昇給を入れると「5・10%」。企業にとって、定期昇給分は毎年新採用する労働者と定年退職する労働者で相殺されるので、大して脅威にならない。 しかし、「ベア」は労働者に支払う毎月の賃金総額を上昇させ、一時金や退職金支払いにも影響を与える。労働力不足が進み、各企業は労働力確保のために賃上げを容認し、「初任給」も引き上げている。毎年行なうなら、新基軸の事業で成功し「特別利潤」を得るか、労働強化などで搾取率を高めないと企業の剰余価値(利潤)は減少する。 企業は昔も今も、賃上げによる利潤の減少を手っ取り早く回復させる常套手段を採用する。正規労働者を非正規労働者に切り替えることや「早期希望退職」という名の中高年労働者を狙い撃ちにした解雇攻撃などだ。 この「早期希望退職者」は上場企業で毎年1万人に迫り、24年には1万人(電機・通信が多い)を突破。東京商工リサーチによれば「募集企業が前年比16社増となり、募集人員も同6848人増と3倍に急増して3年ぶりに1万人の大台を超えた」。 企業と協調する(「経営参加」もその一種)労組であればあるほど、その幹部は企業の業績を気遣って大幅な賃上げを遠慮し、闘いを組織せずにお茶を濁して早々と妥結し、さらに「早期希望退職」策動も容認し、常に労働者を裏切り続ける。 ◇差別賃金を廃絶せよ非正規労働者に対する差別賃金解消の動きも非常に弱い。 全労連(共産党系)は非正規労働者の生活を守るという目的で「最低賃金1500円」を掲げている。だが、フルタイム(1日8時間、週5日)で働いた場合でも、月賃金は24万円で、社会保険料や所得税が引かれるなら、手取りは月約20万円、年240万円。母子(父子)家庭や介護する親を抱える家庭では、とても生きていけない。一人世帯でも家賃・光熱費を払えば食うのがやっとだ! 最低賃金引上げは改良ではあるが、決して非正規労働者に対する差別を解消しない。労働者は雇用形態や性別や職種・職務の違いによる賃金差別の廃止を強く望む。 ところが、労組幹部や共産党らは、「職種・職務が同一ならば同一賃金を払え」というスローガンを何十年と唱えてきた(総評時代以来!)。それゆえ、安倍政権が「日本から非正規を追放する」と大言壮語し、「同一労働、同一賃金」を掲げて「労働基準法」を改定した時、彼らはこの安倍の策動を見抜けなかった。 安倍政権は経営者や管理者の職種・職務は普通の労働者とは異なると見なし、また非正規労働者の労働内容が正規労働者と同じであっても、非正規労働者は〝指導や管理を受ける〟職域にいると見なした。 その結果、職種・職務での賃金差は一概に差別でないと宣言され、非正規労働者に対する〝極小賃金〟も合法化され、資本の飽くなき利潤追求のテコになった。組合幹部や共産党らの責任は重大である! 彼らは労働の種類や質を持ち出して賃金(労働力の価値)を求めたために、安倍の理屈に反論できず、搾取の現実も明らかにできなかった。 ◇大幅な賃上げを物価高騰が収まらない。昨年12月の消費者物価指数(「帰属家賃」を除く「総合」)は前年比で+3・7%、今年1月になると+4・1%に加速した。食料品や家庭用品などの生活必需品目で見れば+10%以上がざらだ。米は+70%だ! 23年と24年の春闘で、「大幅賃上げ」を勝ち取ったと自慢した労組幹部は「賃上げと景気の好循環」が進みだしたと言った。だが24年平均の「1人当り実質賃金」は政府統計でさえ「前年比0・2%減」だ。労働貴族と揶揄される組合幹部が牛耳る労働運動では、今年もまた「実質賃金」がマイナスになりかねない。 利潤(剰余価値)は労働者の労働を搾取して創造されるのに、労組幹部は経営者と一緒になって、資本自身が利潤を稼ぎ、ここから賃金が分配されると思い込んでいる。だから労組幹部は企業経営を気遣い、また「景気回復」と結びつけて賃金闘争を指導する。その結果、春闘は「談合春闘」と化し、賃上げは小さく、差別や解雇も許す。この現状を打破するために、労働者は搾取のメカニズムを学び、また労働の解放と結びつけて闘っていかなければならない! (W) 【1面サブ】女性差別撤廃委への拠出金除外国連勧告の皇室典範批判に抗議日本政府は1月27日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)に、同事務所への日本による拠出金の使途から、女性差別撤廃委員会(CEDAR)を除くことを求めるとともに、今年度予定していた委員の日本訪問を取りやめることを伝えた。同委員会が去年10月、日本政府に対し、皇位が男系の男子が継承すると定めている皇室典範を改正するように勧告したことに対して、抗議の意志を示すものだという。 ◇国連女性差別撤廃委員会の勧告女性差別撤廃条約は、女性に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とし、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的としている。「女性に対する差別」を明確にし、締約国に対し、政治的及び公的活動、並びに経済的及び社会的活動における差別の撤廃のために適当な措置をとることを求めるものだ。1979年の第34回国連総会において採択、81年に発効、日本は85年に締結した。 女性差別撤廃条約の実施状況を審査するのが女性差別撤廃委員会で、委員会の2024年の日本への勧告に、「選択的夫婦別姓の導入」などと並んで「男系男子に皇位継承を限定している皇室典範の改正」が掲げられた。 これに対し外務省は、「皇位につく資格は基本的人権に含まれないことから、皇位継承の資格が男系男子に限定されることは、女性に対する差別には該当しない。皇位継承のあり方は国家の基本に関わる事項で、委員会で皇室典範を取り上げることは適当ではない」と抗議した。 しかし、皇室典範で「皇位継承資格が男系男子に限定される」ことは、明白な「女性に対する差別」である。勧告への抗議は、「人権尊重」と建前では言いながら、女性差別撤廃に背を向け、皇室典範に固執する日本政府の反動性を示すものだ。 それは、ガザ地区のパレスチナ人虐殺などでイスラエルのネタニヤフらに逮捕状を発布した国際刑事裁判所(ICC)職員らに、制裁を科す大統領令にトランプが署名して報復したのと同様の大国主義的対応の現れだ。 ◇差別撤廃の闘いは、資本との闘いと共にしかし国連の勧告が意図するように、皇室典範改正で女性も皇位継承できるようにすれば良いということでは決してない。 石破首相は今年1月の施政方針演説で、憲法改正は「皇位の安定的な継承は極めて重要であり、とりわけ皇族数の確保は喫緊の課題」など述べている。これは天皇制を維持するために皇室典範等を含めて改定を図るということだ。しかし、憲法改定の最優先事項は、天皇制廃棄の問題である。 「国民主権」や徹底した「民主主義」を謳いながら、「〝民主〟憲法の下で身分制度の〝象徴〟(日本国民の〝象徴〟ではなくて)が憲法の最初に置かれている〝矛盾〟」(林紘義『女帝もいらない 天皇制の廃絶を』全国社研社、52頁)を取り上げなければならない。 共産党は、「『国民統合の象徴』が男系男子に限られるべき合理的理由はありません。日本のジェンダー平等の推進にとっても重要な課題であり、同委員会の勧告は当然の内容です」(『赤旗』2月8日)と言うが、「憲法は天皇について『日本国の象徴』『日本国民統合の象徴』と規定しています」と、現憲法の天皇制を擁護の立場で言うのだ。しかし天皇制は、天皇という特別の存在を認める差別そのものだ。共産党は憲法を永遠化し、天皇制を、そして資本の支配を永遠化する。 女性労働者の多くが、資本の支配の下で非正規雇用や賃金などの差別状態に置かれ、生活苦に陥っている。労働者は、資本の支配を一掃する闘いとともに、女性差別を始め労働者への差別撤廃を勝ち取る闘いを進める。 (佐) 【飛耳長目】 ★70代の夫婦が、宝塚市の病院改築費用254億円をポイと寄付した。カネがあるところにはあるものだ。77歳のO氏は情報機器メーカー・キーエンスの創業時の技術者で、現在は300万株(時価総額1800億円)をもつ大株主だ★年配当金だけでも10億円になる。高齢になって使い途がなく寄付したのだろうか。いずれにしても労働者からの剰余価値で積み上がったカネなのだから、労働者に返したらよかろう。同じ金持ち階級でも87歳になっても権力と金欲にしがみつく男がいる★フジサンケイG代表の日枝久だ。40年もフジテレビに君臨し、現社長以下9人の取締役はかつての部下なので、誰ももの申せない。例の事件後取締役会で、何と闘うのか「おまえら闘わず辞めるのか」と怒鳴り、進退を問われ「ならばおまえが辞めろ」と恫喝した★杉並区で250坪の豪邸(時価12・5億)に住むこの男は、かつてはフジテレビ労組を結成し、女性社員の地位向上を訴えたと言うからお笑い物だ。フジテレビをバラエティー番組の頂点に押し上げたのは彼だ★視聴率稼ぎのため女性職員や女子アナを動員して人気タレント連中をかき集め(慣習化)、資本から多額の広告料(毎年1500億円余)をせしめた。大資本の広告塔としてのテレビがブルジョアマスコミである所以だ。 (義) 【2面トップ】ドイツ2・23議会選挙移民か経済か揺れるドイツ2月23日、ドイツ議会の選挙が行われる。自由民主党(FDP)の政権離脱で社会民主党(SPD)・緑の党のショルツ政権は瓦解し、選挙で政権交代が確実と言われている。米国大統領選挙とトランプ2・0の〝衝撃〟の陰に隠れていたが、ドイツにおいても重要な政治闘争が闘われている。 ◇選挙に至る経過ドイツ経済は24年もGDPマイナス0・2%と2年連続で景気後退が続きVWのリストラ計画などドイツ製造業は深刻な状況を迎えている。トランプ政権がスタートし、ドイツに対する圧力が高まる中で行われる議会選挙に至る経過を振り返る。 選挙が決定したのは昨年11月7日にショルツ首相の財務大臣解任発表時に議会選挙を行うと表明したことに端を発している。財務大臣は連立政権を組むFDP党首リントナー。解任理由は25年度予算案の方針をめぐって財政規律を訴える財務大臣と景気刺激を求めるショルツ(SPD)らとの対立が解消できなかったからであるが、支持率が低迷するショルツ連立政権にとどまるより、政権を離脱して選挙を戦うほうが有利と判断したのだろう。ショルツ政権は12月16日議会の信任投票で不信任となり12月27日に議会解散がなされ2月23日総選挙が確定した。 ◇再び浮上した移民問題1月29日の議会――ドイツは解散後も新たな連邦議会が招集されるまで現在の議会が続く――に野党、「キリスト教民主/社会同盟」(CDU/CSU以下C/C)が「移民政策の厳格化を求める決議案」を提出し、極右翼政党「ドイツの選択肢」(AfD)が賛成投票し可決された。ドイツでは排外主義的な極右政党と協力することは「タブー破りの協力」と激しい反発を招いた。C/Cは可決された決議案以外に移民法改正案を提出したがこれは、欠席する議員も出て反対多数で否決された。2日には首都ベルリンで16万人を超える大規模な排外主義への抗議デモが行われた。 一方、ドイツ公共放送ARDが公表した調査では、ドイツ国民の68%が難民受け入れを削減すべきと回答。1月第一週に行われた世論調査でも、移民・難民問題が37%(14%増)、経済が34%(11%減)(前回比)と難民問題が経済に変わって「最も重要な政治課題」に切り替わった。移民反対の世論が高まる中でC/Cは、移民排斥の決議案や法案を提出。支持率21%で2位(1位はC/C32%)のAfDに流れる票を掠め取ろうと、移民排斥の法案を提出した。 難民・移民問題が選挙争点のトップにたったのは、12月22日にクリスマスマーケットで車を暴走させ6人死亡、2月13日にはデモ隊に車で突入し36名が負傷など、事件が移民、難民の〝犯行〟と言われ、ドイツ国内で衝撃をもって報道されたからだ。このような〝犯行〟が、国内の反移民感情を高めAfDなどの「反移民」に正当性を与えた。 ◇統一後の差別と分断で伸びたAfD2013年にCDUから分離し、反ユーロ主義からスタートしたAfDは反移民のドイツ民族主義政党へと深化していった。AfDは旧東ドイツで大きな影響力を持つが、これは1989年東西ドイツ統合で誕生した「ドイツ連邦共和国」を主導したのは旧西ドイツであり、実態は西ドイツによる東ドイツの併合で、憲法、法律、健康保険や年金、国歌も全て西ドイツの制度であった。 「ドイツ統一から30年以上経った今も、旧東ドイツ人は旧西ドイツ人から軽蔑され、差別されている。旧東ドイツは、ドイツの全ての悪の根源とされている」(23年出版「西ドイツがでっち上げた東ドイツ」)。旧東ドイツ人について、「弱虫で醜く、愚かで、怠惰で、能力がなく、悪趣味で、奇妙な振舞いをし、外国人を嫌い、国粋主義的でナチスの思想を信奉する人々」という記事が19年8月23日有力誌のシュピーゲル誌に掲載された。 21年段階でも旧東ドイツの製造業・サービス業に従事する労働者の平均年収は旧西ドイツより21・4%低い(日本はそれよりも遥かに低い)。ドイツ国内に根深く残る旧東ドイツに対する差別や経済的格差と分断に、移民・難民の流入によって、移民労働者と仕事をめぐる対立が強まった。移民と住民との間で、生活・文化・宗教などの共生は進まず、AfDの排外主義的ポピュリズム政治に対する支持を生みだした。 ドイツ経済がマイナス成長に陥る中で旧東ドイツ地域のみならず格差と分断は深まり、移民問題が最大の争点になった。AfDは、1月11日の党大会で「ドイツを再び強国に!」とトランプが掲げてきた「再び米国を偉大に」の引き写しのスローガンを演壇から何度も連呼し盛り上がったという。排外主義で民族主義極右のAfDは、これまで以上に存在感を高めている。 ◇EUとトランプの米国亀裂深まる米副大統領バンスは、14日ドイツのバイエルンで毎年開催されている「ミュンヘン安全保障会議」で、「最も懸念している脅威は、内側からの脅威、米国と共有する基本的価値観から離れている」と、EUを批判した。 バンスの言う「内側からの脅威」とは、ドイツはヘイトスピーチを規制し「言論の自由」を制限し、AfDが政権に入ることを拒まれていると問題視した。バンスらは、白人優位の立場で移民排除を掲げ、ナチズムの傾向のあるAfDも移民排除を掲げるポピュリズム政治で共通である。 一方ホワイトハウスで傍若無人に振舞うマスクは、1月9日にAfD党首ワイデルとX(旧ツイッター)で対談し「ワイデル氏はとても賢明だ。明確に言いたい。おかしなことなど言っておらず良識的だ。AfDだけがドイツを救う」と、AfDに対する支持を公然と表明している。ワイデルは「AfDはナチズムとは違う」とマスクに応じた。 フェイクと誹謗中傷の、マスクとワイデルの対談を垂れ流すのが、トランプの米国流「基本的価値観」である。マスクは取材で、ドイツ政治に発言する権利を問われて、「ドイツに大規模な投資(1万2千人が働くテスラの大工場がベルリンにある)をしている」と、資本家の立場で答えた。 移民排除を掲げ公然とナチスを賛美している極右政党AfDを支持し、政権に入ることが拒まれていると批判するバンスの立場が、EUとの亀裂を生み出し、助長しているのだ。 (古) 【2面サブ】ウクライナ抜きの〝停戦〟交渉米・ロ首脳が合意米・トランプ大統領とロシア・プーチン大統領は、12日電話で協議し、ウクライナの停戦で交渉を開始することで合意。ウクライナ・ゼレンスキー大統領には合意決定をトランプから後に電話で伝えられただけである。ロシアの軍事侵攻と闘っている当事国ウクライナをのけ者にして、勝手に決める〝停戦〟とは、偽りの〝平和〟でしかない。 ◇併合4州返還なし占領地からの軍隊撤退もなし12日、トランプは記者団に、プーチンとの会談を報告するSNSへの投稿で、「ロシアとウクライナの戦争による多くの死を食い止めたい」という考えで一致したと停戦合意の意義をアピール。 交渉に臨もうとしている米国の考えは、12日にブリュセルで開かれたウクライナ防衛のためにEU各国などが参加するラムシュタイン会議でのヘグセス国防長官の演説に表されている。ヘグセス演説は、これまでウクライナが停戦の条件と訴えてきたものをことごとく覆す内容で、支援してきた参加国に激震を与えた。 ヘグセスは、ロシアに奪われた地域について、「2014年以前の国境に復帰させるという幻想的な目標を捨てるべきで、この目標を追求すれば戦争の苦しみを長引かせるだけ」と否定した。 そして停戦後再びロシアの軍事侵攻が起きるのを防ぐためとしてNATOへの加盟、国境地帯に平和維持部隊を配置することについても、「ウクライナの恒久的な平和は強力な安全保障に基づく必要があるものの、米国はウクライナのNATO加盟交渉は戦争終結に結び付くとは考えていない」と拒否した。 ウクライナとロシアの国境の緩衝地帯に派遣される平和維持部隊への米軍の派遣についても「これらの部隊が平和維持軍としてウクライナに派遣されることになっても欧州軍および非NATOの任務として派遣すべきで、(NATO加盟国に加えられた攻撃は、加盟国全体への攻撃とみなす)第5条は適用されるべきではない」、「米国はウクライナには軍を派遣しない」と述べた。 NATOに加盟していないウクライナのことは純粋に欧州の事であって米国が加盟するNATOとも関係がない、欧州のことは自ら欧州で対応すべきである。したがって米国は平和維持部隊が設置されたとしても軍隊を派遣するつもりはないというのだ。しかし、米軍の関与なしに、強力なロシア軍を相手にその侵攻を欧州らの軍隊で抑止することは困難だろう。 ◇プーチンの帝国主義政策を肯定トランプの停戦条件は、プーチンの言い分とほとんど同じである。会談では「紛争の根本原因を取り除く必要性」にも及んだといわれている。プーチンにとっての「紛争の根本条件」とは、ウクライナがロシアから分離・独立したことである。ウクライナはロシアと一体であり、その一部であるウクライナがロシアから勝手に分離・独立し、しかもEUやNATO加盟に走ろうとした、EU加盟はロシア経済にとって打撃であり、NATO加盟はロシアの安全を脅かす反動的企てである、軍事侵攻はロシアとウクライナの一体性を回復し、ロシアの安全を確保し、平和を取り戻すための正当な措置である、というのがプーチンの言うロシアとウクライナの紛争の「根本原因」である。 プーチンは、ゼレンスキー政権に対して、ファシスト勢力に支持された政権だと非難し、軍事侵攻を正当化してきた。トランプの政策は、ウクライナの主権を否定し、ロシアの影響下に組み入れようとするプーチンの帝国主義的政策を事実上是認することである。ウクライナ支援は米国にとって重荷となっている。現在の米国に「世界の警察官」となる力はない。ヘグセスがラムシュタイン会議で米国は欧州よりも「インド太平洋地域における中国との戦争抑止を優先する」と述べたように、ウクライナは欧州の問題として、関与から手を引き、「最大の競争相手」である対中国に力を集中するのだと言う。トランプはEU各国に対しては、軍事費負担を引き上げるよう迫り、ウクライナに対しては、米国からの経済援助はあり得るかもしれないが、それはウクライナに埋蔵されているレアアースと引き換えだと言っている。 ◇ミュンヘン会談の再現かトランプとプーチンによるウクライナの頭越しの停戦合意は、かつてのヒトラーにチェコの一部の割譲を認めたミュンヘン会談を思い起こさせる。第一次大戦によって失った領土回復を目指すヒトラーは、ドイツ系住民が多いことを理由に、現在のチェコのズデーテン地域の割譲を迫った。1938年、この問題を話し合うために独、英、仏、伊4カ国首脳による国際会議が開かれたが、当該国のチェコは呼ばれなかった。そして英首相チェンバレンは、秘密会談で戦争回避のためにヒトラーに屈し、ズデーテン割譲を認めた。当初、このチェンバレンの宥和策は平和をもたらしたと称賛された。しかし、それはつかの間の〝平和〟に終わり、翌39年にはヒトラーとスターリンの「独ソ不可侵条約」によるポーランド分割を経て、第二次大戦に突入していった。 ウクライナの頭越しの停戦合意は、ウクライナの計り知れない犠牲をよそに、戦争で獲得した占領地域の自国への併合を国際的に認めさせようとするプーチンの思惑と負担軽減のためにウクライナの関与をやめたいとする米国との帝国主義的思惑によるものである。 トランプの言う停戦が実現したとしても、プーチンが将来にわたってウクライナ侵攻を止めるとは言えない。ウクライナのみならず、東欧諸国などへ軍事的な圧力を強めていく可能性も否定できない。トランプとプーチンの停戦合意は、ミュンヘン会談の二の舞にならないという確たる保証はない。トランプの「恒久平和を実現する」とは、まったくの空文句である。 トランプの政策は、ウクライナを支援してきたバイデン政権政策の転換である。しかし、転換と言っても、米国の国家的利益の追求ということでは同じである。バイデンは米国の国際秩序を維持するためにウクライナを支援したが、その巨額の負担はウクライナの関与からの離脱というトランプの政策を生み出す一因となった。トランプにとって、ウクライナへの負担から免れることが国家的な利益である。帝国主義者のいう「平和」は、自分の都合によっていつでも破られる口先だけの「平和」である。 ウクライナの自立は、ロシアの侵攻に反対するウクライナはじめ、ロシアを含む世界の労働者の闘いにかかっている。さらに戦争をなくし「平和」な世界を勝ち取っていくためには、帝国主義、資本の支配を一掃していかなくてはならない。 (T) | |||||||||||
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