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労働の解放をめざす労働者党機関紙『海つばめ』

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アベノミクス」を撃つ
カネをバラまくことで国も経済も救えない。


著者・林 紘義
全国社研社刊
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「アベノミクス」を徹底批判

崩れゆく資本主義、「賃金奴隷制」の廃絶を
資本の無政府主義の横行闊歩そして蔓延する国家の無政府主義


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=3000円(+税)
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序 章=世界恐慌の勃発とその必然性 第一章=“株式”資本主義の横行とその「論理」 第二章=“株式”資本主義の“暴走”と堀江、村上“現象” 第三章=日本版“新”自由主義とその結末 第四章=“金融重視”政策のとどのつまり 第五章=銀行救済と「公的資金の投入」 第六章=歯止めなき財政膨張と近づく国家破産 第七章=“グローバリズム”と労働者階級 第八章=階級的闘いを貫徹し資本の支配の一掃を 

『「資本」の基礎としての「商品」とは何か』


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=1600円(+税)
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《全九回の報告及び講義のテーマ》
第一回 「資本」とは何か?
第二回 「冒頭の商品」の性格について
第三回 「労働価値説」の論証
第四回 「交換価値」の“質的”側面と貨幣の必然性
第五回 商品の「物神的性格」(“呪物的”性格)
第六回 貨幣の諸機能と“価格”(貨幣の「価値尺度」機能)
第七回 紙幣(もしくは“紙幣化”した――して行く――銀行券)とインフレーション
第八回 特殊な商品――労働力、資本、土地等
第九回 『資本論』(「商品」)と社会主義

林 紘義著作集 全六巻


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=各巻2000円(+税)
●お申し込みは全国社研社または各支部・党員まで。

第一巻=「労働価値説」擁護のために
第二巻=幻想の社会主義(国家資本主義の理論)
第三巻=腐りゆく資本主義
第四巻=観念的、宗教的迷妄との闘い
第五巻=女性解放と教育改革
第六巻=民族主義、国家主義に抗して


●1511号 2025年11月23日
【一面トップ】 高市の対中挑発断固糾弾!
        ――「台湾有事」は「日本の有事」と発言
【一面サブ】 残業規制の緩和策動
        ――搾取労働を強化する高市政権
【コラム】   飛耳長目
【二面トップ】 火に油を注ぐ高市
        ――政府の借金は余裕があるとうそぶき
【二面サブ】  追い詰められつつあるトランプ
        ――NYに急進左派のマムダニ市長
       ※『海つばめ』PDF版見本

【1面トップ】

高市の対中挑発断固糾弾!

「台湾有事」は「日本の有事」と発言

 11月7日、高市首相は、衆院予算委員会で、中国を名指しで「台湾有事」は「日本の存立危機事態」にかかわると答弁した。首相が公式の場で中国を名指しで「台湾有事」は「日本の有事」と述べたのは高市が初めてであり、戦争を挑発する危険な発言である。

◇「存立危機事態」とはなにか

 衆院予算委員会で、日本が「集団自衛権」を行使できるとする「存立危機事態」に当たる具体的事例についての質問に対して、高市は、次のように答えた。

 中国軍が台湾への海上封鎖を軍艦で行い、それを解くために米軍が来援すれば、「それを防ぐために(中国軍の米軍への)武力行使も予想される」、「単に民間の船を並べ通りにくくすることは存立危機事態には当たらないと思うが、実際には戦争という状況の中での海上封鎖であり、ドローンも飛び、いろんな状況が起きた場合は別の見方ができる」、「武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高い」、台湾をめぐって米中の軍事衝突が起これば、それは「日本の存立危機事態」になることがあると言うのである。具体的に中国の名を挙げて、「台湾有事」は「日本の有事」として、自衛隊の戦争参加の可能性を首相として公式の場で語ったのは、高市が初めてだ。

 「集団自衛権」が発動できるという「存立危機事態」という言葉が安全保障政策に導入されたのは、2015年安倍政権が制定した安全保障関連法によってである。「存立危機事態」というのは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」とされている。

 それまで、日本が武力を行使できるのは、日本が直接攻撃を受けた場合に限定されていた(「個別的自衛権の発動」)。しかし、安倍政権は、それを憲法が禁止している「集団的自衛権発動」に拡大したのである。そしてその発動の要件が「存立危機事態」とされた。

 軍事衝突をもって、直ちに「存立危機事態」として、集団的自衛権発動の可能性を言う高市発言は、安倍政権よりも更に武力行使の条件を緩めた。

◇中国に対する戦争を挑発

 さらに問題なのは、政府のトップである首相が、現実となっていない「台湾有事」を「存立危機事態になる可能性がある」と国会で発言したことだ。

 安保法成立以来、特定の国と結び付けて「集団的自衛権による武力行使」を論じた首相はいなかった。相手国との緊張が激化することに配慮して、特定の国の名を出すことを避けてきた。ところが高市は、その配慮を捨てて「台湾有事」が「日本の存立危機事態になりうる可能性がありうる」と発言した。

 しかも、その僅か一週間前の10月31日には、中国の習国家主席との首脳会談で日中両国の「戦略的互恵関係」推進について合意したばかりである。
「戦略的互恵関係」とは、当時小泉首相の靖国参拝で冷え込んだ日中関係改善のため、2006年に安倍首相と胡錦涛国家主席との間で交わした共同文書で謳われた概念で、「日中両国がアジア及び世界に対して厳粛な責任を負うとの認識の下、国際社会と共に貢献する中で、お互いに利益を得て共通利益を拡大し、日中関係を発展させること」(外務省)である。

 日中首脳会談では両国の「戦略的互恵関係」の推進と建設的かつ安定的な関係の構築を確認、習主席の来日も話し合われたにもかかわらず、それに続く国会での、「台湾有事」発言である。

 一連の高市の発言は中国を激怒させ、中国外務省は、「中日関係の政治的基礎を著しく破壊し、中国人民の感情を大きく傷つけた。14億の中国人民は絶対に許さない」との強烈な非難声明を発表した。中国政府は日本へのツアーの自粛を呼びかけ、「東京―北京フォーラム」の延期を決めた。

◇日本や中国の帝国主義に反対する

 高市は「台湾有事は日本有事」だとして、日本の更なる軍拡を推進し、日米軍事同盟を強化しようとしている。こうした高市の政治は中国を挑発し、両国の対立、反目を激化させるものである。

 日本は、15年の「集団的自衛権行使」を含む安保関連法制定以来、急速に軍備増強を図ってきた。岸田政権は、それまで「専守防衛」の立場から保有を否定してきた敵基地攻撃能力、そして軍事費をNATO並みのGDP比2%にする軍拡を含む安保関連3文書を閣議決定するなど、大軍拡への道を開いた。

 対中関係では、米国の中国包囲網構築とも呼応して、南西諸島の軍事要塞化が進められている。16年に与那国島に沿岸監視隊が配置されたのを皮切りに、19年には奄美大島、宮古島、23年には石垣島に陸上自衛隊駐屯基地が開設され、地対艦ミサイル、地対空ミサイル部隊を配備した。

 また西南諸島への輸送力強化のために「海上輸送群」が、25年広島・呉を本拠地として新設され、さらに鹿児島・馬毛島では航空自衛隊の基地が建設されつつある。完成すれば飛行訓練及び燃料・弾薬の備蓄基地となり、有事の出撃、補給基地となる。

 労働者は日本の対中戦争準備に断固反対する。それと共に、中国による台湾の軍事的統合や東南アジア及び太平洋地域への軍事的膨張・囲い込みにも反対である。台湾の在り方は中国政府による軍事的な手段によって決められるのではなく、台湾人民の自主的な意見に委ねられるべきである。軍事力・経済力を背景とした膨張・囲い込みは緊張を激化し、多大な犠牲を生み、人々を苦しめるだけの戦争の危機を深めるばかりだからである。

 中国と日本・米国との対立は、自国の国家的利権、資本の利益の確保・拡大をめぐる醜悪な私利私欲の帝国主義国家同士の対立であって、労働者がどちらの側も支持できないのは当然である。

 自国本位の帝国主義が存在している限り、国家的な紛争・戦争はなくならない。「資本による支配と搾取と闘う」という同じ立場に立つ労働者は国際的連帯の立場に立ち、帝国主義に反対して団結し、闘いの輪を広げなくてはならない。 (T)


【1面サブ】

残業規制の緩和策動

搾取労働を強化する高市政権

 「責任ある積極財政」を掲げる高市政権は、成長分野への労働移動や人手不足分野での人材確保を進める労働市場改革を打ち出している。しかしその改革と称する労働時間規制の緩和は、搾取労働を強めるものである。

◇搾取労働強化の規制緩和

 高市政権は、11月4日に「日本成長戦略本部」を設置し、初会合で設置を決めた「日本成長戦略会議」を10日に開き、その中で「総合経済対策に盛り込むべき重点施策」をとりまとめた。そこで掲げられた課題の一つが「労働市場改革」だ。「処遇改善、成長分野への労働移動又は人手不足分野での人材確保を進めるため」、「働き方改革関連法施行後5年の総点検」として、「心身の健康維持と従業者の選択を前提に、労働時間法制に係わる政策」を検討するとした。それは労働時間規制の緩和であり、罰則付きの時間外労働の上限規制の緩和のほか、規制の例外としての裁量労働制や高度の専門性を持つ専門職の拡大を意図した。

 高市の成長戦略である「責任ある積極財政」を進めるために、資本の支配の下で労働者をより効率良く資本の利益のために働かせる必要があるのだ。労働者の「心身の健康維持」を前提などと謳うが、労働時間の規制を資本に都合良く緩和する。

「重点施策」では、「賃上げ環境整備」を挙げ、「『稼ぐ力」強化と賃上げの好循環の実現」と言うが、賃上げを餌に、資本家が利益をあげることに労働者を駆り立てようとするのだ。高市は石破が掲げた最低賃金の目標「2020年代に1500円」について、「事業者から相当な不満の声があがっていた」(14日)と述べ後退させ、月給にして24万円程度の労働者のささやかな生活向上さえおざなりにし、中小企業などの資本家におもねる。

◇厳しくなる労働者の状況

 実質賃金は今年に入って連続9カ月マイナスであり、物価高の中で労働者の生活は困難を増す一方で、労働現場では、過重な仕事や強いストレスが原因による過労死等の状況は、悪化の一途をたどっている。厚労省今年6月発表の24年度の「過労死等の労災補償状況」によると、20年度802件の「過労死等」は24年度1304件にまで年々増加している。そして教員について見ると、15~24年度の10年間に、全国で38人の公立小中学校教員の過労死が認定されている(朝日11月16日)。公立学校教員は、今年5月に教員給与特別措置法が改正され、教員の教職調整額を引き上げ、代わりに残業代の不支給を継続する措置が取られ、残業を改善するどころか温存させるものとなっている。

 現在の残業時間の規制は15年、高橋まつりさんの「過労死(自殺)」事件など多発する「過労死」を背景に、「働き方改革」の一環として行われた。19年施行の「働き方改革関連法」は、長時間残業による過労死や健康被害を防ぐために、残業時間上限を原則月45時間・年360時間とし、臨時的な事情がある場合に限って、労使の合意によって年720時間以内、2~6か月平均80時間以内(休日労働を含め月100時間未満など)とする罰則付きの上限規制が定められ、月45時間を超えることができるのは、年間6か月までとなった。

 しかし残業の上限が月100時間まで認められるこんな規制さえ、人手不足の資本からは規制緩和が求められる。政府、資本側は、裁量労働制の対象を「ホワイトカラー」に拡大すべきとか、副業促進に向けた規制緩和が必要とか、「働きたい人が働ける社会」とすべきなどの提言をしており、高市の規制緩和はその資本の要求に沿った搾取労働の強化でしかない。

 労働者は高市政権、資本に対して、搾取強化と闘い、徹底した労働時間規制法制を勝ち取るとともに、過酷な労働を強いる資本主義の廃絶をめざし階級闘争を闘う。 (佐)


    

【飛耳長目】

★師走近づく。世相を幾つか問う。まず、高市政権の「いの一番の物価高対策」というものが、小学生でも思いつく「お米券」「割増商品券」の配布ときた。雁首揃えて、議員諸先生方はこんなにも無能なのか★米の増産を取りやめて、「流通に任せる」と鈴木農相はのたまう。この元官僚は理屈は言うが、結局は「何もしない、ほっておく」と言うに等しい。彼の自宅にもまた〝ただ米〟が積まれているのか★大阪維新の好きな「身を切る改革」に同調して、高市らは「上乗せ分」(首相・閣僚分)を当面支給しないと決定。しかし、我々の主張は「労働者並みの賃金を」だ。そう言えば、公設秘書の会社に政党助成金を2千万も注ぎこんでいた「身を肥す」男もいたな★N党の立花が逮捕された。SNSを使ったあくどい虚報を垂れ流し、人を人とも思わぬ言動で遂に御用。NHK職員を懲戒免職され、パチプロから地方議員を経て政治屋の悪党になった★参政党の神谷が「スパイ防止法」を作れと、高市に迫った。言論や表現、集会、報道の自由を制限し、政府が不都合な情報を報道したり、反対すれば「スパイ行為」として弾圧・厳罰に。神谷は戦前の特高警察による弾圧をこよなく愛す★師走の別名は「春待月」と言う。春に向かって、「空寒き冬」を労働者の闘いで吹き飛ばせ! (義)


【2面トップ】

火に油を注ぐ高市

政府の借金は余裕があるとうそぶき

 高市政権は25年末の「政府債務残高」が1451兆円(25年10月公表のIMF推計値=簿価)という危機的水準になっていること、また、債務が膨らみ続け、歳出予算の「国債費」(国債購入者に毎年支払う元金と利子)も巨額になっていることを知りながら、「積極財政」の名のもとに国債を大胆に発行し、政府の借金をさらに増やそうとしている。

◇高市のフレーズ

 高市は自民党の総裁選やその後の所信表明演説などで、政府の借金残高を恐れる必要がないかに繰り返し述べた。

 「政府純債務残高の対国内総生産(GDP)比を穏やかに引き下げるように配慮する」(10・4自民党総裁選での公約)。

 「純債務残高対GDP比でいいますと、今だいたい86・7%。これはG7の中で見ると米国とかイタリアの方が上だ」(10・9テレビ東京のインタビュー)。

 「政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していく」(10・24所信表明演説)と若干修正。

 このように、高市は「政府債務残高」や「政府純債務残高」に対する「対GDP比」(GDPは名目値)というフレーズを繰り返し唱える。

◇政府債務をGDPと比べる理由

 その理由は以下である。  まず、国債などの政府債務を総額で示し債務の元本を縮小する方針を、高市は封印している。これが基本になっている。

 だから、国家の借金残高を「対GDP比」で示し、経済成長によってGDPを増やせば「政府債務残高対GDP比」は減少すると考えている。

 高市は「責任ある『積極財政』」を掲げ、カネを注ぎ込んで高いGDP成長率(名目的であろうと)を実現し、その上で、政府債務残高のGDP比を引き下げることによって、「財政の持続可能性」と「マーケットからの信認」を得ようとしている。

 だが、「積極財政」を進め、国債を増やしていくなら、国債の金利上昇リスク(市場圧力)は高まり、高市の希望とは裏腹に、市場の「信認」を得られない。

 また、「国債費」が年々増大し、政府の予算編成さえ難しくする!

◇「純債務」という屁理屈

 さらに、高市は「政府債務」ではなく、「政府債務」から「政府金融資産」を差し引いた「純債務」なるものを持ち出している。なぜか?

 「政府債務」から「政府金融資産」を差し引けば、政府の債務はずっと小さくなるからだ。しかも、高市はこの金融資産の中に、政府の外貨準備金、外為特会の積立金などの他に、株投資や円安などで膨らんだ年金積立基金(GPIF)を含むOECDデータを利用する。政府の金融資産は潤沢だと見せたいからだ。

 この年金積立基金には、外貨建て金融資産がかなり含まれる。円安が進めば実態は変わらないのに外貨建資産は膨らみ、それだけ「純債務」は小さくなったように見せられる。

 この円安効果を高市は歓迎する。だが、円高になれば元の木阿弥だ。

 高市は円安で物価が高騰し続けていても、また、インフレ懸念が生まれ始めていても、一向にお構いなしである。こうした高市と経済ブレーン(『海つばめ』1510号2面参照)による誤魔化しのテクニックによって、日本の債務残高はたいしてことがないと見せかけ、「積極財政」路線に国民を抱き込もうとしている。その行き着く先については追って触れる。

◇政府債務の対GDP比

 ここで、「債務残高」と「純債務残高」の「対GDP比」について具体的にIMFの数値で確認しておこう。

 まずは、「政府債務残高の対GDP比」を見る。

 25年末の「政府債務残高」は、22年の1392兆円から59兆円増えて1451兆円になる。

 これに対して、25年末の名目GDPは22年の561兆円から71兆円増えて632兆円になると推計されている。

 これらから計算すると、「政府債務残高の対GDP比」は、22年は248%、25年は230%になり、18%も下がる。高市が喜ぶとおりである。しかし、この名目GDPは、円安を契機にした物価高騰によって増えた数値が含まれていて実質の数値ではない。

 実質GDPを見ると、コロナ後の22年が549兆円、24年が556兆円、25年が562兆円である。

 実質GDPを分母においた「政府債務残高の対GDP比」を計算すると、22年が254%、24年が258%、25年も258%と、むしろ上がっている。

 このように実質GDPを分母にして計算するなら、「政府債務残高の対GDP比」は上昇しているのだ。それは政府債務の上昇に比べて、実質GDPの伸びがわずかであるからだ。名目GDP比とはかなり違った数字になる。

◇「政府純債務対GDP比」の罠

 次に、「政府純債務残高の対GDP比」もIMFデータで見ておく。

 20年のそれは162%であり、これをピークに次第に減り続けて25年末には130%になる。既に述べたように、この数値は政府金融資産が投資運用や円安で膨らみ、政府債務残高は増額したが「政府純債務」が小さくなったこと、かつ、GDPが名目で表されていることを反映している。

 ところが、高市はテレビ東京のインタビューで、OECDが公表した24年のデータを基に「政府純債務残高の対GDP比」は「86・7%」と公言した。OECDデータでは、年金積立基金が政府の金融資産の中に入っていることを知り、高市はそれを利用したのである。

 しかし、「運用規模が世界最大級の年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の資産を差し引けば、見かけの債務は減ります。ただ、現実的に年金資産を借金返済に使うことは難しく、財政健全化指標として不適切(である)」(25・10・30東京新聞)。

 要するに、政府予算で使えない年金基金を含んだ政府金融資産を下地にし、円安などで数値が減っているのを証拠にして、政府債務は減少しているぞ、健全化しているぞ、と労働者を誤魔化すのだ。

◇一時の宴に終る

 高市の「積極財政」の具体化案が自民党に提出され、21日にも閣議決定される。

 物価対策を行うと言いながら、物価高騰の原因を探り解決を図るのではなく、カネをバラ撒く対症療法でお茶を濁すのみである。

 物価対策だと言って、「お米券」を配るようだが、米価格の高騰を沈める対策にならない。米の労働生産性が低いにもかかわらず(米1kgを生産する労働時間はイタリアの2倍に上る)、米農家の保護だと言って小土地私有小生産を抜本的に改善せず、高い米を労働者家族に押しつけているではないか!

 また、物価高騰の引き金になっている円安も抑えようとせず、むしろ歓迎さえしている。これでは、物価対策はできない。

 また、高市政権の経済政策の「肝」と言われる「危機管理・成長投資」には、莫大なカネが用意され、防衛力増強のためのカネも山積みされようとしている。安倍政権の時はデフレだったから上手くいかなかったが、今は違うとばかりに、政府による投資拡大を行えば、毎年、高い経済成長率が実現し、かつ、財政も改善するかに夢想する。

 高市も経済ブレーンも、資本主義経済の本質と限界を知らない。だから、何度失敗しても同じことを繰り返すのだ。

 あげくに、「積極財政」で財政悪化と信用不安がさらに進み、物価高騰が収まらなければ、労働者の生活破壊は一層進む。「積極財政」は一時の宴で終わり、行き詰まりと破綻はそんなに遠くない時期に明らかになろう。今から断固反撃しよう! (W)


【2面サブ】

追い詰められつつあるトランプ

NYに急進左派のマムダニ市長

 11月4日に投開票されたニューヨーク(NY)市長選、バージニア(VA)、ニュージャージーで行われた州知事選において15から10ポイントの得票率差をつけて民主党が勝利したことから分かるように、トランプに反対する動きが活発化している。

◇急進左派を市長に押し上げた理由

 特筆すべきは、NY市長選で34歳の民主党所属、インド系イスラム教徒の「民主社会主義者」を自認する新人候補者ゾーラン・マムダニ氏が世界経済の〝中心〟ニューヨークで、「大番狂わせ」で当選したことである。しかし、マムダニの当選は、番狂わせでもNYの有権者の一時の気まぐれでもない。トランプが、大統領選勝利の要因でもあった当選すれば物価はすぐ下がるという約束が、文字どおりの〝空約束〟でしかなく、専制的に振舞うトランプに抗議する意思をNYの有権者は、マムダニを当選させることによって明確にした。

 マムダニ当選は、トランプと闘えずに支持率が低迷する民主党内で、若者やマイノリティーなどは、主流派に代わって〝社会主義者〟、〝急進左派〟のサンダース上院議員と政治的立場を共有するマムダニを押し上げることで、トランプと闘う決意を明らかにしたのである。

 民主党は、NY市長選で本命と目されたクオモ前NY州知事が無所属で出馬せざるを得なくなり、前NY市長のアダムスも出馬を表明していたが、9月に出馬を取りやめ、事実上クオモとマムダニの一騎打ちになった。クオモはセクハラ問題やトランプ支持の大口献金者との関係が批判され、アダムスは、昨年収賄罪で起訴(その後、起訴取り消し。トランプの口添えとも言われている)されるなど、腐敗・堕落が明らかとなり候補者を選出する予備選挙でマムダニに敗北していたのである。 マムダニが市長選で掲げた、「家賃の凍結」「公営バス無料化」「保育の無償化」「公営市場設置」に対する、「ポピュリズム政治」という批判に対しては、その財源として、大企業の法人税を4・25%引き上げ、富裕層の所得税を2%引き上げるという主張を対置した。

 経済的格差が拡大し貧困化率がとりわけ高いNYにおいて、これらの要求は労働者、若者・マイノリティーらの生活困窮者にとって切実であることは、AP通信の調査によれば、投票で有権者が重視したのが生活費(56%)であることからも明らかだ。高騰する家賃の為に、収入の半分が家賃の支払いに消える。

 NYの相対的貧困率(平均収入の半分以下)は25%と全米一高い。一方、百万ドル以上の富裕層が一番多く居住する(約35万人、資産総額は3兆ドル/24年)超格差社会である。NYは多様な人種が共存している。ヒスパニック28%、黒人系20%、アジア系15%などで構成される移民都市である。トランプの排外主義的な移民政策に対する反発が、マムダニ支持に繋がったことは容易に想像がつく。

◇VA知事選敗北でTACO復活か

 NY市長選敗北以上に、バージニア(VA)知事選敗北がトランプ政権にとっては深刻と言われている。VAでは民主党は15ポイントの大差で共和党から知事の座を奪還。その理由がトランプ政権発足以降、失業率が0・6ポイント上昇し、関税による物価上昇などトランプの経済政策の悪影響が強く表れ民主党勝利をもたらしたと言われている。とりわけ勝敗を左右する無党派層の投票先が、VAでは前回21年の選挙では、54%が共和党に投票したが今回は、59%が民主党に投票(共和党は40%)した。26年11月に行われる中間選挙で、VAでの敗北が全米で再現する悪夢をトランプは恐れている。TACO(トランプはいつもおじけづく)の復活である。

 14日に発表された220品目を超す食料品の相互関税撤廃は、破綻するトランプの経済政策(61%が「トランプが経済状況を悪化させたと回答」10月CNN)への弥縫策に他ならない。11月からトランプは「米国を再び手ごろな価格に(メーク・アメリカ・アフォーダブル・アゲイン)!」を使うようになった。このスローガンは、大統領就任日に発表した優先事項の1つ「米国を再び手頃な価格でエネルギー大国に」からとったものであるが、米国のエネルギー価格は、25年9月に前年比2・8%上昇し、24年5月以来最大の増加を記録した。

 輸入関税による影響で、消費者は今年輸入関税の55%を負担し、輸入関税が継続された場合、26年度末には消費者負担は70%に増大すると予測されている(フォーブス・ジャパン)。トランプは、有権者の反発を抑えるために、関税で得た収入から全国民に最低2千ドルの配当金を支払うと発信し、カネで釣る最低の愚民化政策に依拠するほど、追い詰められつつある。移民排除を進めた結果、製造業の再建に必要な技能労働者が不足し、技術を持つ移民受入の発言をする等、トランプの岩盤支持層MAGAとの軋轢も深まりつつある。

 米国の若者・労働者は、急進左派の政治を乗り越え、〝労働の解放をめざす〟闘いに立ち上がり、共に闘おう。 (古)

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