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●1392号 2020年12月13日 【一面トップ】トヨタ労組、自民と連携へ――労働者を地獄に引きずり込む 【1面サブ】領土問題は国際主義の立場が重要――尖閣問題で中国非難の愛国共産党 【コラム】飛耳長目 【二面トップ】『プロメテウス』59号近日発売 特集「MMT派経済学批判」 MMT派経済学を斬る――無概念で品性欠如の大衆扇動の経済学 【二面サブ】米ダウ3万ドルを突破――経済停滞でなぜ株高? ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 トヨタ労組、自民と連携へ 成果主義賃金制度導入で資本の軍門に下ったトヨタ労組は、11月17日に今度は選挙での推薦候補に政権与党である自民党と公明党の候補者を新たに追加する方針であることを発表した。企業内においては資本との協調路線、労資一体の組合運動を実践し、来年からは新たな賃金制度である成果主義賃金制度の導入を組合自ら進んで受け入れ、「自動車産業100年に一度の変革期」を資本と一体となって共有することを資本に約束し、新たなトヨタマンに変貌すべく組合員に対する統制を強めている。 ◇トヨタ労組の大きな存在感 今回の決定は、トヨタ労組を中核とするトヨタ労連の決定であり、トヨタ労連は組合員数35万7千人を擁する労組の連合体であり全国各地に加盟組合がある。所属する上部団体の自動車労連の最大の組合であり、トヨタ自動車の日本経済に対する存在感の高まりに準じてトヨタ労組の存在感もまた労働運動において高まってきた。今回の推薦政党に自民党を含めるという発表が大きなざわめきを生んだ背景である。 連合傘下のUAゼンセンや自動車総連等が組合として自民党候補者の組合推薦を正式に決定していない中でのトヨタ労連の方針は連合傘下の組合や連合本体が自民党推薦に動く突破口におそらくなるであろう。 連合の神津会長は19日の記者会見で「選挙方針への影響は全くない。大騒ぎする話ではない」と火消しに躍起となった。「連合も政府・与党を含め、政策要請を結成以来やってきている」と説明。政策実現のための労組と与党の連携は、通常の活動を逸脱したものではないと強調した。 連合幹部も支援先が与党に変わるわけではないとした上で、「連合執行部が傘下労組に求めている『立・民支援』ではなく、議員を個別に見極めて支援するとのメッセージだ」と言っている。 もちろん今回の方針が、自民党候補者に推薦を1本化した訳ではないし今後もそうはならないだろう。彼らは、票を武器にトヨタと一体になりながら、自動車産業の要求実現の圧力団体に労組を変質させようとしている。 全トヨタ労連は「自動車業界を理解してもらえる議員であれば、党にこだわらず協力しないと政策実現の実行力やスピードを得られない」と語り、労働者の権利や生活、労働条件改善ではなく「自動車業界の理解」が最優先課題だというのである。 ◇トヨタ資本=自動車産業の要求まで組合活動の役割 「100年に一度の自動車産業の変革期」と地球を覆うコロナ禍の中で、自動車資本は生きるか死ぬかの競争を世界中で繰り広げている。このような中で労資協調を掲げる労組の運動もこれまでの組合員を企業の労務管理に従わせ、生産に協力し資本の許容する賃上げを要求するだけの運動では、資本から求められている役割を果たすことにならないということである。 社長の豊田章男がトヨタ労組に対して危機感が足りない、労組とこんなに距離が離れているとは思わなかったと組合との交渉の中で発言した。組合は直ちに反省謝罪し成果主義賃金の導入に同意し軍門に下った。そして今回の政権与党との連携の動きである。 企業の枠の中で資本による労働者支配の役割を組合が担うだけではなく、政府に対してトヨタ資本=自動車産業の要求までを組合活動の役割に含めようというのである。彼らはその手段として37万5千人の票と運動を差し出そうとしているのだ。 11月29日に配信した産経新聞は「自民党では連携が選挙にまで及ぶことへの期待が高まっている。特に敏感なのが愛知県選出議員で、約10人は25日、国会内で情報交換し、同労連との連携強化に向け県連や党本部主導での関係構築を求める声が上がった。若手は「選挙の時にあの『軍団』の動きが止まるだけでも助かるのに、連携となれば本当にありがたい」と強調する。 ◇自民党との連携は〝必然的〟帰結 世耕弘成参院幹事長も20日の記者会見で「われわれは基幹産業として自動車産業が発展するような政策を次々と打っている。重要な局面を迎えているわけで、労組側との意見交換はやぶさかではない」。連合会長が選挙に影響がないと煙に巻こうが、現実は来年に行われる衆院選挙に向けて進んでいる。 全トヨタ労連が自民党との連携に踏み出せば、旧同盟系民間企業の労組(UAゼンセン、電力総連など)は堰を切ったように全トヨタ労連に追随する可能性がある。「19年参院選の投票先を連合静岡が組合員に調査した結果によれば、比例区で政党名を記入した組合員の45%が自民党に投票したと発表されていた」(2020年1月17日付中日新聞)。連合会長の神津の出身組合である基幹労連の2017年4~5月の調査でも、自民党支持率が23%とトップであった。 組合員が離合集散を繰り返す立・民や、野党連合と色あせた反戦平和に固執する共産党に失望し自民党支持になったとしても不思議ではない。ましてやブルジョア的労働運動で資本の労働者支配を担い資本に買収されてきた旧同盟所属の労組が、自民党との連携に踏み出すのはむしろ必然的帰結ですらある。 全トヨタ労連の方針転換は彼らの思惑とは関係なく、新たなブルジョア的労働運動の再編につながるであろう。それは官公労を排除するか屈服させ、独占資本の労組に連合を純化させることによって、労資一体となって資本の要求と利益を追求する体制の確立に道を開くだろう。我々はトヨタ労連の方針が労働者を地獄に引きずり込む入口なることを暴露しなければならない。 ◇磐石な支配体制も崩壊は避けられず トヨタの労働者支配は今のところ鉄壁である。 現場労働者の大半は、高卒やトヨタ学園出身の技能教育とトヨタマンとしての集団行動を刷り込まれた未来の現場管理職候補や最近比重を高めてきた期間工から登用された正社員によって占められている。 入社後労働者は、現場の中でグループ分けされ、軍隊的なピラミッド組織で直属の現場チームリーダーのもと、仕事はもちろん休日の様々な行事への参加や、コロナ禍で中止になったが毎年3万人を超す参加者の大運動会、都市対抗大会常連の野球チームやラグビーなどの応援に半ば強制的に参加させられている。さらに、多くのトヨタ所属のオリンピック選手を抱え、技能五輪への若手現場社員の出場など、トヨタは労働者の資本への帰属意識を高める為の仕組みを作り上げ、労組もそれを積極的に組合活動の一部として行っている。 しかしいくら磐石な支配体制を作り上げていようとも、労働者が資本に支配され搾取されている限り、それが崩れ去る状況が必ずくる。そうした中で我々は、労働者の闘いに明確な方針を提起し、労働の解放を勝ち取るため、先頭に立って闘いぬく。 (愛知 古川) 【1面サブ】 領土問題は国際主義の立場が重要 尖閣問題で中国非難の愛国共産党 日中外相会談で来日していた王毅国務委員兼外相が、先月24日茂木外相との会談後に、共同記者会見で尖閣をめぐる発言をしたが、26日に共産党志位委員長はわざわざ記者会見を行い、「驚くべき傲岸不遜な暴言」と非難し、さらに、「(茂木外相が)王氏の発言に何ら反論もしなければ、批判もしない」、「中国側の不当で一方的な主張だけが残る事態になる。極めてだらしがない」と強く批判した。 24日の記者会見で王外相は、「真相が分かっていない日本の漁船が釣魚島周辺の敏感な水域に入る事態が発生している。中国側としてはやむを得ず、必要な反応をしなければならない」、などと語っていた。 この王外相の発言には自民党でも、「王氏への反発が噴出」。「『偽装漁船』と事実でないことを言っていて決して看過できない」、「日本が弱腰との印象を与えた」、「共同記者発表の場で茂木氏が反論すべきだった」などの発言が続いた(毎日新聞11月27日)。 見られるように、志位委員長が王外相の発言を「暴言」だと騒ぐのは、政府を「弱腰外交」と非難する反動的な立場と同じで、こうした非難や批判は階級意識ある労働者の立場とは相容れない。 志位委員長は、領土の「実効支配」ということを持ち出し中国の覇権主義を批判しているが、政府・自民党や右翼と同じ反動的民族主義の立場である。中国の自国本位の覇権主義を打破するために、中国の(そして全世界の)労働者・働く者を信頼し、その闘いに依拠して歴史を進めようという姿勢は全く見られない。 「中国のさまざまな行動に対し、国際社会が国際法にのっとった批判を正々堂々と行っていくことが、世界と地域の平和と安定にとって大事だ」と志位委員長は主張するが、「尖閣諸島は国際法に基づく適法な先占取得」という政府の主張に与していて、国際法で謳う「無主地先占」の原則が、私有財産を根底とするブルジョア的なものと理解せず、それを絶対化し、それに追随している。 本来、土地や島は(そして海も)人類共通の財産であり、人類の共同利益のために使用されるべきである。たまたま無人の土地や島を先に見つけたからと自分のものにするというのは、克服すべき狭隘な利己主義である。 中国が急速に発展した資本主義国家として帝国主義化を強め、東シナ海や南シナ海などに進出し緊張が強まっている。一方では、アメリカの数々の帝国主義的蛮行や日本から中東への自衛隊派遣もまた帝国主義的な深化である。帝国主義国家の対立が強まる中(依存しつつ)、暴力的な悪逆が横行し、人類存続の脅威となっている。帝国主義は資本の巨大化がもたらす。資本の支配と闘う世界中の解放を願う仲間と連帯して闘おう。 (岩) (労働者党ブログ参照) 【飛耳長目】 ★大統領選で示された米国の深い「分断」について藤井光同志社大教授は、二大政党支持者が惹かれる「物語」の違いを指摘する(2日の朝日夕刊)。共和党支持層のQアノンの陰謀論と、民主党支持層の「多様性」を肯定するリベラルな価値観の象徴的なTVドラマ「クィア・アイ」★藤井は、前者の従来の政治の裏切りと、後者の対人関係での負の記憶という、どちらも「傷」からの癒しの「物語」だと。言い得て妙だが、かつての米国の繁栄の復活を夢見る国益優先の反動家と、寄生的な金融やITで先端を行き、華やかな都会の生活に個人主義的な満足感を求めるリベラル、どちらも利己的な価値観にすぎない★どちらも頽廃深めるブルジョア社会の根底的原理としての私的利益追求の利己主義で、労働者と資本家との階級的対立とは別もの。人種差別や国家主義として現われる利己主義での敵対性は明白だが、多様性は否定しようもない現実である。だが、社会性統一性があって多様性の意義や価値もあり、相互依存的だ。多様性だけを独立させ美化すべきではない★日本では鬼滅ブーム。家族愛を根底にしたオカルト物語としか思えず、家族主義もまた利己主義の一形態であり、同じく資本主義大国の頽廃と爛熟を象徴していないか。 (Y) 【2面トップ】 『プロメテウス』59号近日発売 特集「MMT派経済学批判」 MMT(現代貨幣理論)とは、貨幣概念の欠如したケインズ理論である。MMT派は、貨幣とは債務証書であり、主権国家の貨幣は無制限に発行可能である、つまり国家は無制限に債務を負うことができ、そのことによって、経済を活性化させ、資本も労働者も万々歳になるというものである。『プロメテウス』59号の特集は、4つの論文で構成されている。最初に林紘義氏の2つの論文(「悪質で品性欠如のヤクザ経済学」と「MMT理論と労働者・働く者の闘い」)があり、次いで、渡辺宜信氏による「概念無きMMT派の貨幣論」が続き、最後に、鈴木研一氏による「ファシズムに誘う松尾匡理論批判」が登場する。 ◇国家を万能の神に祭り上げるMMT 林氏は、MMTの大御所とされるL・ランダル・レイの著書『MMT 現代貨幣論入門』を取り上げ論じている。林氏は、レイの理屈を「苦痛に耐えつつ、一応目を通したが、若い時、宇野弘藏の本を無理して読まなくてはならなかった時と同様」の気持ちになったと述懐している。なぜなら、MMTとは、ケインズ理論から出発して、さらに空虚なリフレ派理論の上を行く、新しい装いをこらした一層空虚な労働者・働く者に対する目つぶしであるからだ。 MMT派は「貨幣は商品である」という19世紀の古典派経済の認識を認めるが、そこから発展して「貨幣とは債務証書」だとする。林氏は「貨幣は商品であるという前に、商品こそが貨幣である」と論じ、全ての商品は内在的に貨幣であり、その中から一つの商品が貨幣として押し出されてくるし、こうした前提があるからこそ、貨幣は価値尺度や交換手段として、また蓄蔵貨幣や世界貨幣として機能することができると言う。こうした認識の無いMMT派は貨幣の概念にたどり着けないと喝破する。 「政府の債務の計算尺度として通貨である」というMMT派の貨幣=債務証書論については、貨幣についての概念を正しく認識して初めて、貨幣の一機能である「計算貨幣」についても理解しうるのだが、MMT派は反対に、貨幣の「計算貨幣」としての機能から貨幣そのものを説く、または「計算貨幣」が貨幣の唯一の機能であるかに思い込んでいると批判している。 MMT派は、国内経済の生産や流通とは無関係に、この経済の外部にある政府部門が発行した国家の債務が貨幣だと位置付ける。さらに国家の債務は、国内経済部門では債権となり貯蓄となると言いふらし、かくして国家=万能の神だとMMT派は夢想するのだから、彼らにつける薬は無いと言うべきだ。このように林氏はMMTの本質を突き批判しているが、詳細は本誌を熟読されることをお勧めする。 もう一つの林論文では、安倍政権の量的緩和策の行き詰まりの中で出て来た財政膨張策はMMTに称賛されるまでになっていることを明らかにし、国家の財政支出がゆくゆくは1930年代の財政膨張と同じく、軍備拡張や戦争に結びつく可能性があることも示唆している。 ◇概念無き貨幣論とマクロ会計恒等式を具体的に批判 渡辺論文では、レイの『MMT』と、この本を監訳した島倉原の『MMTとは何か』を関連して取り上げている。レイの貨幣論については、林論文と重ならないように展開し、「貨幣は権力の債務証書、債務の記号や証拠にすぎない」というMMTの命題を具体的にまた歴史的に検証し、彼らの無概念を逐次暴露している。 レイは古代メソポタミアの部族ないし村落共同体の内部においてさえ、国家権力者が債務証書を発行していたと主張し、まるで、共同体の中に私的所有に基づく生産物の交換(商品交換)と掛け売買があったかに論じる。さらにレイは、その後にオリエントに広がった貴金属貨幣もまた、権力者が発行した債務証書だったと言い、この債務証書は租税を媒介にして国家に還流していたと言うに至る。 こうしたMMT派の「貨幣=国家の債務証書=債務の記号」論は、歴史的事実に反していること、貨幣と債務証書を混同していること、従って、理論とは言えない空念仏に過ぎないことを具体的に論証している。 本論文の後半は、レイの「マクロ会計恒等式」についてである。レイは、国内経済内部では、儲けた企業や人がいれば、他方は損をしているのであるから、国内経済全体を見るなら、常にプラスマイナスゼロであり、いくら頑張っても民間部門の黒字は生まれない、だから民間部門が黒字になるためには政府部門の負債(赤字)が必要だと言うのである。これを恒等式にすれば、「政府の赤字=民間の黒字」である。 国内経済部門の外から、つまり政府が債務証書を発行しなければ、国内経済は黒字にならないと言い、それは「マクロ会計」にて実際に証明できると言うのだ。筆者は、この「マクロ会計」を実際に検討し、その矛盾と破綻を明らかにしている。 ◇ファシズムに誘う松尾匡の「反緊縮」政策 特集の最後は、鈴木氏による松尾匡の「反緊縮」政策批判である。 日本では、マルクス経済学者を自認する松尾匡(ソ連崩壊後に「ソ連は国家資本主義」だと、我々から20数年も遅れて大谷禎之介らと共著を出した)が「反緊縮」の先頭に立ち、山本太郎などに大きな影響を与えてきた。今では松尾は、「薔薇マーク運動」と称して、共産や立憲の議員だけでなく、労働者や学生や保守系議員らも巻き込んで「反緊縮」運動を展開し、さらに新左翼系雑誌と言われる『情況』にも論文を載せている。 松尾は、レイの『MMT』の解説を中野剛志と共に執筆するなど、今や日本のMMT第一人者である(本人はMMTではないと言うが)。そうした背景もあり、筆者が批判した松尾の著作は実に5つにのぼる。 松尾は財政のバラ撒き論者であるから、当然にして「アベノミクス」の賛美やケインズ経済に追随するハメになる。実際、松尾は安倍政権が景気を回復させ、労働者の生活改善をもたらしたかに吹聴し、景気が悪いのは総需要不足だからと、ケインズの有効需要説を蒸し返している。こうした松尾の理論や政策の根底には、シスモンディの過少消費説やこれを引き継いだマルサスやケインズの理論が混在していると筆者は指摘する。さらに筆者は、政府による無制限なバラ撒き政策が永久に可能であるかに語る松尾に対して、日銀が政府発行の国債を買い取ったとしても、国家の借金は借金であり、消えて無くなるものではないこと、別の形に姿を変えて矛盾を深化させていくことを具体的に明らかにする。 昨年松尾は、バラ撒き論を基にした「反緊縮経済政策モデルマニュフェスト2019」を発表した。このマニュフェストには、「ベーシックインカム」を目玉にした社会保障政策や国債の無制限な日銀引受や財政再建不要論などが盛り込まれているが、松尾はこれらを「安倍のリフレを超克して福祉国家思想と新しいケインズ主義と融合させた経済政策」だと自慢していると言う。 しかし、松尾理論、つまりMMTとは、行き詰った資本主義を救済しようとする国家による究極のバラ撒き政策に他ならず、これを実行して行くなら戦前のような経済の国家主義化に繋がると筆者は警告する。そして筆者は、観念的で無責任で、山師のようなMMTや松尾理論なるものに対する闘いは、労働の解放を目指す理論と結び付くことによって、真に闘っていくことができると力説している。 以上、特集のさわりについて紹介したが、本誌は非常に興味深いものになっている。『海つばめ』読者の皆さんをはじめ、多くの労働者、学生が本誌を研究されるよう呼び掛ける。 (W) 《購読希望の方は、全国社研社または労働者党(党員)まで。定価は800円、郵送料200円です。》 【2面サブ】 米ダウ3万ドルを突破 コロナ禍で経済停滞が続く中、株価が高騰している。11月24日、米ニューヨーク株式市場で、主要企業で構成するダウ工業株平均は史上初めて3万ドルに達した。25日、日本の株価も1991年以来29年振りに2万6千円余の高値を記録した。 なかでも米国の株価高騰を牽引したのは、業績が好調な巨大IT企業である。コロナが今後デジタル化を加速するという見方からITやネット事業を行う企業の株が買われた。例えばアップルは3月の底値から株価は倍増した。 この間景気が好転したわけではなく、むしろコロナ感染拡大で悪化した。にもかかわらず、なぜ株価は上昇したのだろうか。 コロナ対応策として各国政府は巨額のカネをばら撒き、超低金利政策をとってきた。米国では、3月、中央銀行である連邦準備理事会は政策金利を0%前後に引き下げる一方、必要なら国債を無制限に買い上げることを宣言した。これを受けて長期金利も急低下し、1%を割り込んだ。 日本でも早くからゼロ金利政策やマイナスの超低金利政策がとられ長期金利も10年以下の国債では利子は付かないような状況になった。これに加えて、日銀のETF(株式指数連動型投資信託)購入(今年の累計約6・9兆円)による株価下支え政策がとられてきた。 各国政府は、コロナ支援や停滞した景気を振興させるためとして大量の借金(国債の発行)を行い、巨額の財政支出を行う一方、国の負担を軽減したり、投資を促すために超低金利策をとってきた。銀行預金や国債の利子が低いために、大量のカネが株式市場になだれ込み、ITやネット事業株を中心に買われ、株価を上昇させた。 米ジャーナリストのジュリアン・テットは、3月以降の株価上昇の要因についての国際決算銀行(BIS)の調査報告を踏まえて、米国の場合、金融緩和が「半分近く」とし、低金利策については、低金利のために投資はテクノロジーを用いたり、情報技術分野を専門とする開発・運営する巨大テック企業に集中した結果だとし、次のように述べている。 「米国の株式が高騰した一つの理由は、新型コロナのパンデミックでデジタルプラットホームがさらに力を持つようになり、投資マネーが巨大テック企業に殺到したことだった。実際、巨大テック企業の人気は今、加熱しており、S&P500種株価指数に占める割合は45%に高まっている。 米JPモルガンは最近のリポートで、テック、通信、そして米アマゾン・ドット・コムを加えたビックテックが占める割合の合計は、『株式市場やクレジット市場のいずれにおいても過去50年間で最大だった』と証言している。2000年代の信用バブル(ITバブルのことー引用者)の熱気的な時期でさえ、金融業界の占める割合は『わずか』20%強に過ぎなかった」。 「そして最も重要な3点目は、もし金利が2月の水準のまま据え置かれていた場合、『株価の長期構成要素が9月4日実績よりも米国株でおよそ18%低くなっていた』ことが分かった。その結果今年の米国株の反騰の半分が低金利がもたらしたとしている」(「低金利の罠 BISが示す」日経9・3) IMFも6月下旬に提出した「国際金融安定報告書」では、「株価は大幅に割高」となっていると、「実体経済との乖離」を警告している。 現在の株価はバブルの様相を呈している。コロナワクチンの投与が始まったとは言っても、コロナ収束の見通しは何時になるか、景気はどうなるのかは明らかではない。にもかかわらず、株価が史上最高にまで騰貴している。株式の価格は、利益配当額を一般利子率で除した金額としてあらわされる。額面100円の株券で5円の配当があり、利子率が2%だとすれは、この株券は250円で取引されるだろう。利子率が低くなれば、業績が不振で配当が少額であっても株価は高くなる。そして、将来業績が上がり、配当額が大きくなると予想されれば買手は増え、株価は高くなる。 超低金利、金融緩和の下でカネは株式になだれ込んで、株価が高騰しているのである。しかし株価が騰貴したと言っても、生産が拡大しない限りは、社会の富が増え国民生活が豊かになるということを意味するわけではない。実際の富を生みだすのは労働者の生産的労働だからである。 実体経済と乖離した異常な株価高騰はバブルであって、いずれははじけ、膨らんだ〝富〟が見せかけの空疎なものであることを思い知らされるだろう。 (T) |
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