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●1393号 2020年12月27日 【一面トップ】破綻するブルジョア社会保障――75歳以上の医療費2割負担に 【コラム】飛耳長目 【二面トップ】ベーシックインカムは賃金奴隷制温存策――賃金労働制の変革こそ貧困脱出の道 【二面サブ】奴隷ビジネスの横行――技能実習制度を直ちに廃止せよ ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 破綻するブルジョア社会保障 政府は75歳以の医療費窓口負担を単身世帯で年収200万円以上を対象に現行の1割から2割に引き上げるという。高齢者の医療費の急増によって現役世代や公費の負担が増えるのを軽減するためだという。だがこれは、高齢者と現役世代を対立させ、医療保険制度の破綻をごまかす政策である。 ◇急増する医療費、ひっ迫する財政 現在では、75歳以上の国民は、「後期高齢者」として、「前期高齢者」(65~74歳)と現役世代の加入する医療保険と区別された「後期高齢者医療保険」に加入することになっている。 「後期高齢者医療保険」制度が出来たのは、少子高齢化で高齢者が増え、その医療費が増える一方、高齢者の医療費を支える現役世代の負担が重くなったために、現役世代の医療保険制度と区別して後期高齢者の医療制度を考えなくてはならなくなったからである。2008年の発足時には1300万人が国民健康保険から後期高齢者医療制度に移行してきている。 現在この内容は、75歳以上の窓口負担は1割で、70~74歳の2割、現役世代の3割に比べて軽くなっている。医療費1割の患者負担を除く残る9割の医療費のうち、5割は公費(国、都道府県、市区町村)が、4割は現役世代の加入する保険(国保、健保)が負担することになっている。 75歳以上の1人当たりの年間医療費は2016年度では平均91万円で、現役世代の平均額18万円の約5倍に相当する。 政府の予測では後期高齢者の割合は、「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が75歳以上になりはじめる2025年には、総人口1・2億人のうち、19歳以下が15%、20~64歳が54%、65~74歳が12%、75歳以上が18%で、6人に1人が75歳以上の超高齢化社会となる。 現役世代の負担はここ10年の高齢化の進展によって年1600億円程度のペースで増加してきたが、このままだと増加ペースは2022年度からは3000億円の規模に増加、2025年度には8・2兆円になる。1人当たりに換算すると20年度6・3万円であったのが25年度には8万円になると予測されている。 ◇医療費増加の負担を高齢者に押し付け そこで政府が持ち出してきたのが、後期高齢者の自己負担を現行の1割から2割に倍増させることである。負担を求める収入の線引きをどこにするかについて、厚生労働省は5つの案を提示したが、菅は対象者が約520万人の年収170万円を、公明党は同200万人の240万円を主張し対立、結局はその中間の200万円となった。但し窓口負担増を最大で月3000円に抑える経過処置(施工後3年間)を設ける。これによれば、負担が1割から2割になるのは約370万人(全体の13%)で、現役世代の保険料で負担する支援金は2025年で840億円削減となる。75才歳以上の窓口負担は現在の年間平均8・1万円から2・6万円増加、経過措置終了後は3・4万円増加すると見込まれている。 医療と日常の生活が切り離せない高齢者にとって、窓口負担が一挙に倍増することは大きな打撃だ。 病気になっても経済的な理由での受診を手控える患者は少なくない。医師会が8年前に行った「患者窓口負担についてのアンケート」によると、経済的な理由で受診しなかった経験があると回答したのは3割負担患者で11・5%、2割負担で10・2%、1割負担で6・6%となっている。そして各々の半数強が症状が悪化したと回答している。 一挙に負担を2割にするなら、そのために病院に行けない患者も増えるだろうし、そのために症状を悪化させかえって医療費を増やすことも予想される。高齢者が増え、そのために現役世代や国家の財政支出が増加するからといって、そのしわ寄せを年収200万円という年金暮らし中心の低収入の高齢者に押し付けようという政府の政策は、問題の解決にはならない。 ◇「全世代型社会保障」の欺瞞 政府の行おうとしている後期高齢者医療費2割負担は、安倍政権が2019年末に打ち出した「全世代型社会保障」に基づく政策である。 「全世代型社会保障対策会議」の「中間報告」は「従来の社会保障は年齢による画一的な取扱いがなされることが多かったが、年齢を基準に『高齢者』と一括りにすることは現実に合わなくなっている。現在の高齢者を過去の高齢者と比較すると、肉体的にも精神的にも元気な方が増加している。……現在就労している60歳以上の方で、70歳以降まで働くことを希望している高齢者は8割にのぼる。今後は、『高齢者』や『現役世代』についての画一的な捉え方を見直し、生涯現役(エイジフリー)で活躍できる社会を創る必要がある」と述べた。 すなわち、これまでの社会保障は高齢者に偏っていたが、これからは、年齢にかかわりなく全世代に社会保障がゆきわたる「全世代社会保障」に変えていくことが必要だというのである。 こうして安倍は、消費税を10%に引き上げるに際して増税分の5分の4は財政再建に充てるという約束を反故にし、生活に困らない金持ち階級までも含めた所得制限なしの、乳幼児の保育無料化のために転用した。それは社会保障とは関係のない、政権維持のための人気取りの政策、国家財政の私物化によるバラまき政策であった。 安倍は社会保障費が高齢者向けのものが多くなっていることは正常でないかのように批判したが、社会保障本来の意味の歪曲である。社会保障の本来の意味は、病気など労働によって自らの生活を支えられない人々に対する社会の支援である。 ブルジョア国家が社会保障を政策として掲げる以前には、労働者は病気や怪我などで働けなくなった場合に備えて、おカネを出し合って助け合う自主的な相互扶助を行っていた。 歳をとれば誰でも体力が弱り、様々な病気を抱えるようになる。したがって社会保障費のうちで高齢者の比重が重くなるのは自然のことである。高齢者も現役の労働者であった時には自らの労働によって自分の生活を支えると共に高齢のために労働からリタイヤした労働者の生活を支えていたのであり、高齢者に対して社会が支援をすることは当然のことである(「全世代型社会保障」の批判については、労働者党参院選選挙パンフ④「消費税の『全世代型社会保障』への〝転用〟を許すな」参照)。 にもかかわらず、社会保障費で高齢者への比重が重いことを制度的な欠陥であるかにいう政府の「全世代型社会保障」論は、労働からリタイヤし、資本にとって利潤獲得に役立たなくなった高齢者を社会のお荷物扱いにする資本の立場を反映している。 労働の搾取を廃絶した将来の社会(社会主義社会)においては、生産された消費財のうちから高齢者、障害者、疾病者はじめ、幼児ら労働を行えない人々の生活のために充てられることになる。 ◇労働者はいかに闘うべきか 年収200万円以上の高齢者の負担を1割から2割に引き上げるという政府の政策によって、軽減される現役世代の負担は年900億円弱である。これは、20年度の現役世代から75歳以上の高齢者の医療費への「支援金」6・8兆円から8・2兆円へと増加する増加分の僅か約6%にしか相当しない。1割から2割への引き上げは年収200万円の低収入の後期高齢者にとっては大きな打撃をもたらすだけで、政府のいう現役世代の負担軽減にも、国家財政の支出軽減にも役立たない。 共産党「赤旗」(12・11)は、政府の決定は「血も涙もない冷酷な政治」であり、「撤回を求める」として、志位の記者会見発言を次のように紹介している。 「後期高齢者医療制度を導入した際、高齢者の医療費のうち45%が国庫負担だったものを35%切り下げ、それを現役世代に肩代わりさせるとともに高齢者自身の負担に転換するしかけをつくったとして、『後期高齢者医療保障制度は、国庫負担=公助を減らし、現役世代に肩代わり=共助に頼らせる。そして、高齢者自身の負担に求める。この矛盾がいま噴き出している。公助=国庫負担を引き上げ元に戻すことが唯一の解決だ』と述べました」。 国庫負担を増やすことが根本的解決だというのが共産党の主張である。しかし、国家財政は国内総生産(GDP)の2倍にも匹敵する膨大な赤字を抱えている。 急速な少子高齢化で医療費ばかりではなく、年金、介護をはじめとする社会保障費は膨張するばかりである。社会保障全体に支払われた給付費は、2018年度の約121兆円(GDPの21・5%)に、さらに65歳以上の人口がほぼピークとなる2040年度には約190兆円(同24・0%)に膨らむ。 共産党のいうように国家が負担金を増やせば解決するという問題ではない。国家は打ち出の小槌ではない。無から有を生み出せはしない。ブルジョア国家は生涯安心して生活できるという「福祉国家」を謳ってきた。だが、それはまったくの幻想であること、ブルジョア社会保障はもはや破綻していることを暴露している。ブルジョア国家は、今やその破綻を労働者とその家族へ負担を押し付けごまかす以外になすすべを知らない。 労働者は高齢者の2割負担に反対するが、それは根本的な解決ではない。 現在の高度に発展した生産力を前提とすれば、労働者ははるかに豊かな生活を送ることは可能である。そのためには、労働者が作り出す社会の富のうえにあぐらをかき、労働者を支配している資本の支配する現在の社会の根本的変革が必要である。自らの労働によって社会を支えている労働者が不安定で酷い生活を強いられているのは、搾取を基礎にした資本の体制にこそその原因がある。 医療をはじめとする社会保障問題の根本的解決の道は、労働搾取の資本の体制に反対し、その克服を目指して労働者が階級的に団結し闘い抜いていくことにある。 (T) 【飛耳長目】 ★安倍の趣味(息抜き)は外遊であった。豪華な政府専用機で飛び回った。8年余に、その数80国・地域、延べ176回にも及ぶ。勿論その主たる目的は資本の利益と外交交渉等であるが、一回につき約2億2千万円、総額90億円を超す費用とあらば、これは趣味の範囲を遙かに超えた大名旅行だ★菅の趣味(息抜き)は官房長官時代からの会食である。ほぼ毎日、高級ホテルや料亭で財界や取り巻き連中と飲み食いし、雑談し、その数は9~12月で154回、1ヶ月30~50回に及ぶ。先日は二階ら7人で上等なステーキを食ったと批判された★「5人以上の会食は控えるように」(西村経産相)との呼びかけに、彼らのコロナ対策のいい加減さと緊張感の無さが暴露された。5人だろうが2人だろうが人数が問題なのではない。その空間に無症状感染者がいれば、感染リスクは高まるのだ★首相たちの贅沢奢侈が官房機密費や例え自前(?)であったにしても、所詮全て税金であることに変わりは無い。非正規労働の失業者が85万人(総務省統計局労働力調査20年10月分)を超え、医療労働者は骨身を削って日夜奮闘し、我々労働者の懐は益々寒々しくなると言うのに、権力者は何と金を無駄に使うことか★来年が読者諸氏にとって飛躍の年でありますように!(是) 【2面トップ】 ベーシックインカムは賃金奴隷制温存策 米国上下両院で9000億㌦(約93兆円)の新型コロナ対策が21日に採決された。高所得者は除外するものの、大人、子供問わず1人600㌦の現金支給が盛り込まれた。日本では4月に、安倍政権が政権維持の人気取りで30万円支給の方針をゴタゴタの末、一律1人10万円の特別定額支給をしたが、こうした現金給付について、ベーシックインカム(BI=すべての個人に「最低限所得補償」として、定期的に一定額の現金を支給する)の一種と見なして、BIの議論が盛んだ。はたしてBIはどんな福祉政策なのか? ◇〝左派〟も右派も「ベーシックインカム」 BIが大きく取り上げられているのは、コロナ禍で感染症対策の行動規制によって収入を失ったのだから、現金給付で生活支援をすべきといった、一時的な緊急対策ということだけではなく、永続的な福祉政策として優れているからだといいはやされている。 コロナ禍にあって、現行の福祉行政が頼りにならず、不安定な非正規雇用の増大、拡大する格差で進む窮乏の中、失業保険や生活保護といった個別的な社会保障ではほとんど対応できていない(生活保護で見ると、厳しい審査や受給者差別があって、月収が生活保護基準以下で暮らす人のうち、日本では2割前後しか実際には受給していない――朝日12月16日「耕論」――)状況があって、「新たなセーフティーネット」として、また、格差を是正することができるなどと、BIは〝左派〟からも右派からも、もてはやされている。 〝左派〟は、BIによって現行の社会保障が切り捨てられることへの懸念があって慎重姿勢でありながらも、「所得再配分機能が働く」(社民党)、「生存権を保障する」(共産党)などと現金給付に積極的な評価だ。立・民や公明は、現金給付よりも医療、介護や保育などのサービスを誰でも公平に受けられる環境を整備するための「ベーシックサービス(BS)」を検討し、国・民は現金給付と税還付を組み合わせた制度創設を謳っている。 右派は菅政権の経済ブレーンに収まっている竹中平蔵の発言に特徴的だが、「BIを導入することで、生活保護が不要となり、年金も要らなくなる。それらを財源にすることで、大きな財政負担なしに制度を作れる」、そうしたブルジョア国家の負担を軽減する意図で、BIの導入を策動している。BI導入によって雇用調整がしやすくなるという経営側の見方もある。 BIの国際NGO、ベーシックインカムアースネットワークの理事でもある山森亮同志社大教授は16日の朝日「耕論」で、「『私たちは無条件に生きる権利がある』と皆が認め合うことができる社会――。この思想を最も純粋に制度として表したのが、ベーシックインカム」などと言っているが、「皆が認め合う」ことの実際は、労働者が資本家に賃金奴隷として生きることを認められることで、どこがすばらしいことなのか、搾取や貧困の現実を認め合えというのだ。 ◇うまい話には気を付けよ さて、困窮する国民を救済するために、BIにしろBSにしろ思惑はともかく、政府による福祉行政の転換を求めていることは同じで、BIと現行の福祉とをどう組み合わせるとか削るとか、方法論に違いがあるにしても問題は財源ということになる。 財政が火の車になっているにもかかわらずMMT派ばりに、さらに借金を増やしたってインフレさえ気を付ければ問題ないという無責任な財政膨張論と、税金の取り立て方を工夫すれば(富裕層から取り立てればいいとか簡単に言うだけだが)負担は抑えられるといった空論に収斂する。BIは、国家財政に依存するだけで、「働かざる者、食うべからず」という生産的労働の意義を蔑ろにしている。高齢者や子どもらの生活を保障できるのも、生産的労働あってのことである。 大勢は国家のカネを大盤振る舞いして人気取りするか、福祉削減にBIを利用できるかどうかということでしかない。 労働者は生活困窮打開のために、ブルジョア行政に改善要求を突きつけて闘うのは当然であるし、断固闘う必要があるが、資本主義こそが貧困の元凶であることを直視して、労働者は労働による収入確保を求めるし、安易な雇用調整に反対して闘うであろう。失業に対する経営責任のみならず、ブルジョア行政にも雇用と生活のために闘うであろうが、国民全てに現金の一律支給などという要求は労働者のものではない。 「セーフティーネット」は、資本の支配にとっての「安全網」でもあり、ブルジョア国家が労働者の命を守ろうとするのは、客観的には搾取体制維持のためであることを忘れてはならない。 BIについての議論は、コロナ禍によっていっそう雇用環境が悪化し、中低所得層の困窮が深刻な状況になったという背景がある一方、社会保障費用を抑制して、累積する国家の借金を軽減させたい思惑も強く表れている。 資本主義であっても、税による公平、社会保障を通じた所得再配分によって福祉国家が実現できるという幻想は、資本の行き詰まりの中で破綻をさらけだしている。BI論はそうしたブルジョア体制を変革する主体の労働者の闘いを捻じ曲げるものである。我々は資本の体制変革の闘いへの結集を呼び掛ける。 (岩) 【2面サブ】 奴隷ビジネスの横行 日本の出生率低下が止まらず、将来の労働力不足、とりわけ若い労働力が決定的に不足することが明らかになり、政府は技能実習生の受け入れ枠の拡大(17年)や新しい在留資格である「特定技能」を作る(19年)などの対策を取ってきた。だが政府は、かねてから批判のあった技能実習制度を廃止せず、その結果、技能実習生をめぐる奴隷ビジネスが横行するに至っている。 ◇技能実習生を〝転売〟 20年の2月、衝撃的なニュースが伝わった。人材派遣会社の「コネクト」(名古屋)や「MTS」(長浜)が共謀して、失踪したベトナム人技能実習生を化学薬品会社に送り込み、時給をピンハネしていたことが明るみに出たからだ。 だが、これは氷山の一角にすぎなかった。人材派遣会社やブローカーは、失踪した技能実習生を集め、あるいは、いい仕事があると失踪をそそのかして別会社に送り込み、時給や斡旋料をピンハネしていたのである。 最近も、群馬の派遣会社「東新産業」が在留資格のないベトナム人6人を沖縄の工場に派遣していたと「琉球新報」が報じた(20年12月10日)。 また、建設現場から失踪したベトナム人に近づき、斡旋料をむしり取った上に、在留資格を偽造して長野の農家に送り込んでいたブローカー事件(11月13日)や人材派遣会社「ソシアリンク」(東京)が在留期限の切れたベトナム人技能実習生らを食品工場に80人も派遣していた事件をNHKが報じた(12月18日)。 技能実習生の多くは貧困家庭の若者や親たちであり、家族への仕送りと貯金もできるとの宣伝を信じ、日本の技術を習得すれば母国に帰っても役立つと思い、多額の借金――労働力輸出の仲介会社に支払う手数料や渡航費の数十万円、さらに失踪せず技能実習を満了した時に返却される保証金がある場合には合計で100万円程に上る――をしてまで、希望に満ちて来日する。 なぜ失踪する動機が生まれるのか。技能実習生は母国の仲介会社と日本の受け入れ団体である監理団体などと調整し来日する。その後、監理団体から指定された会社に就職する。だが、技能実習生は、監理団体から指定された職場から自由に転職できず、契約満了までただ我慢して働かなければならない。 その為、しばしば極少賃金や1日10時間を超えるような長時間労働などを強いられても拒否できず、会社経営者の意のままに働かされる。さらに会社側から暴力、暴言、セクハラを受けることもあり、体調を崩したり自殺に追い込まれたりする例が後を絶たない。 それらに耐え切れず逃げ出せば、「不法滞在」となり国外退去処分となる。処分を喰らって帰国すれば債務だけが残る。 だから、奴隷扱いされる職場では我慢の限界であるが、できるだけ長く働きたい実習生のジレンマを〝解消する手段〟として人材〝転売〟事業が成り立つ。 ◇奴隷ビジネスマンたち 技能実習の資格で滞在する外国人は19年末時点で約41万人であり、前年より約25%も増えている。今ではベトナム人が中国人を抜いて最多となり、全実習生の半数を占めるようになった。ベトナム人の技能実習生の実態を長年調査してきた巣内尚子氏は次のように述べている。 「ベトナムでは、政府がかねてから『労働力輸出』政策を掲げ、労働者の送り出し人数の目標値を設定しているほか、政府が送り出しを担う仲介会社に事業免許を付与するといった仕組みができている」(『奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態』花伝社、16頁)。 こうした送り出し側の仕組みと日本の技能実習制度が結びつき、来日した実習生を食い物にした奴隷ビジネスがはびこるというわけである。 先の紹介例でも分かるように、失踪した実習生は非常に多く、また近年急速に増えている。「失踪した実習生は11年の1534人から18年は約6倍の9052人に。ベトナム人失踪者は64%と際立つ」(「朝日」20年2月19日)。 失踪理由は、法務省によれば、受け入れ企業による労働条件違反(「最低賃金」以下、残業代未払いなど)や寮費(小部屋に十数名を押し込み1人2万円徴収など)や水道光熱費などの不当天引きや暴力などである。 その一方で、さらに驚くことが起きている。 技能実習生を保護するはずの監理団体が、ベトナムの仲介会社から失踪した場合の「違約金」を得るという「裏契約」をしていたのだ(「朝日」20年6月24日)。この「違約金」は、ベトナムの仲介会社の手数料に上乗せされ、結局は実習生に皺寄せされていた可能性が高いという。 監理団体は大して儲からないから「裏契約」に走ったのではない。「受け入れ企業は監理団体に対し、技能実習生の監理費を納めている」。例えば、「受け入れ企業に技能実習生を紹介すると、1カ月につき1人当たり3万円程度の監理費を受け入れ企業から徴収している」(同上、72頁)。数をこなせば、監理団体は莫大なカネを手にする。 ◇直ちに技能実習制度を廃止せよ 政府と監理団体と就労企業と派遣業者は(さらには海外の仲介会社も)、債務を負ってまで希望を抱いて来日した若者たちをその場限りの使い捨て部品として扱い、絞りカスも出ない程に搾取しつくしている。そして、若者たちを心身ともに追詰め、失踪や自殺にまで追いやっているが、政府等は自責の念も無いのだ。 国策奴隷ビジネスを恥じない共同執行人たちは断固糾弾され、その責任は、末代まで追及されなければならない。だが、こうした奴隷ビジネスの横行を許しているのは、「国際貢献」や「技術移転」を名目に、外国の労働力を奴隷化する制度を作り上げ推進してきた政府にこそある。 過酷な技能実習制度にもかかわらず、アジアの若者たちが広範な職種・作業に就労し、この制度の矛盾ゆえに、奴隷ビジネスが再生産されている。それは、非正規労働者を急増させてきたと同様に、行き詰まり劣化する日本資本主義の一断面である。 (W) |
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