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●1402号 2021年5月9日 【一面トップ】 過熱する脱炭素競争――排出処理は「社会的再生産」の一環 【1面サブ】 新刊紹介(5/15発行) 『種は蒔かれた――労働者・働く者の代表を国会へ』刊行 【コラム】飛耳長目 【二面トップ】 「小さな政府」から「大きな政府」へ――バイデンの米国再構築策 【二面サブ】 「与党全敗」の衆参3補選――自民支持者も見限る菅政権を追い詰め打倒しよう! ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 過熱する脱炭素競争 米国・バイデンが主導した「気候変動サミット」が4月末に開催された。「パリ協定」に復帰したバイデンは、世界を牽引すると豪語し、2030年のCO 2削減目標を1990年比で50~52%とぶち上げた。これに引っ張られた菅も従来の消極姿勢を変え、2013年度比で46%削減を宣言。中国やロシアも独自の削減目標を掲げ、いかにも国際協調が謳われたかに見える。こうした目標に対する世界や日本の取り組みを簡単に紹介すると共に、環境問題に対する労働者の基本的な立場を明らかにする。 ◇「パリ協定」と国際世論で腰を上げた資本 これ程に世界の頭目たちによって温室効果ガス削減が叫ばれるのは、言うまでもなく地球の温暖化が資本主義を脅かしているからである。環境問題には気候温暖化以外に、海洋汚染(重金属類の堆積、マイクロプラ類の溶融・浮遊)なども緊急な課題であるが、そんなことは後回しとばかりに無視されている。 確かに、気候変動に関する分析によれば(IPCCなど)、産業革命以前を基準にして平均気温上昇が1℃にも達しており、このまま温室効果ガスが排出され続けるならば、今世紀末の温度上昇は4℃~5℃に達すると評価されている。 そうなれば、海面上昇による土地消失、巨大台風発生や豪雨による災害頻発、生態系の破壊、食料生産の後退、砂漠化、永久凍土溶融(メタン放出)などが懸念され、経済的損失が甚大になると言われている。 だから、「パリ協定」には、今世紀末までに気温上昇を基準値から2℃以内に抑えることが宣言され、経過目標値として50年の温室効果ガスを「実質ゼロ」にすることが謳われている。 その懸念ある温室効果ガスのうち、約9割が工場や火力発電所などから排出されるCO2であり、残りはメタンやフロンガスなどと言われる。それ故に、現在焦眉の課題になっているのはCO2削減についてであり、「脱炭素」が叫ばれるゆえんである。 ◇変わらぬ資本の本性 「パリ協定」に合意した各国の資本は、国際世論にも押されて「脱炭素」に向けてようやく重い腰を上げた。この優柔不断で後ろ向きの姿勢はCO2排出をどんなに非難されようと儲けが増えなければ生産設備の改革に手を付けず、国家の規制や圧力がないと動かない資本の本性を暴露している。 機械制大工業の初期の時代、炭鉱資本は裸の女性や少女をしばしば男と一緒に採掘現場で手掘り作業や搬出作業の残酷な労働をさせていたが、それは石炭採掘機の価格より女性や少女の労働力の価格の方が小さく、より大きな儲けにつながったからである。炭鉱資本は道徳律に反していると非難されても手掘り作業をさせ続け、国家により女性や子供(10歳未満)の労働が禁止された後に、初めて採掘機を採用したのである(『資本論』第13章など参照)。 21世紀の高度な資本もまた、2百数十年も前の低度な炭鉱資本の本性と何も変わっていない。資本はどこまでいっても資本なのだ。 ◇日本の「脱炭素」 日本はCO2排出量の4割を電力部門が占める。また鉄鋼業が14%、走行中の自動車が16%、家庭が15%等々と発表されている。従って、排出量の大幅削減を達成するためには、火力発電所や鉄鋼生産の抜本的改革が差し迫っている。 政府は「エネルギー基本計画」の改定を行い、その中で電源構成を見直すとしている。石炭火力については、30年までに発電効率が悪い旧式の発電所を無くし、アンモニアとの混焼石炭火力に順次切り替え、将来はアンモニア火力にする構想だ。 合わせて太陽光発電や風力発電を増設し、また停止している原子力発電を「カーボンニュートラル達成のマスト」(甘利)だとして復活させる算段だ。さらに自民党はこの4月、原発の新増設を推進する議員連盟を発足させ、顧問に安倍や甘利らを据えた。 鉄鋼業では、現在の炭素還元方式を水素還元方式に変えるか、既存設備に脱炭素用フィルターを追加するかで迷っている。EUのミタルやチィッセンなどが既に水素還元方式の試験設備を作っているのを見ると、日本の鉄鋼業界は相当に遅れている。 自動車業界では、EV自動車か水素電池(水素と酸素で発電)自動車かで路線が分かれている。どちらもまだ量産体制の前提となる給電、給水素ステーションが国内では完備せず、米国のテスラや中国のEVメーカーに先行されている。 また、トヨタはガソリンの代わりに水素やバイオ燃料を使うエンジン方式を独自に提案するなど、今後の開発競争、市場獲得競争は激化する一途であり、生き残りをかけた熾烈な闘いと産業の再編が始まろうといる。 ◇「脱炭素」競争と労働者の立場 資本主義が剰余価値の生産を推進動機とする社会である以上、また世界の資本間競争に明け暮れる社会である以上、資本による「脱炭素」が矛盾なく進むことはない。 仮に「パリ協定」に接近することができても、太陽光パネルや風力発電やバイオ燃料などの大量生産によって、森林や田畑が減り、EVの大量生産による原材料・資源争奪戦争がさらに激化するのは必至である。また水素を産業に利用する動きもあるが、そのためにはさらに電力が必要になるなど、「脱炭素」競争によって新たな自然への侵害も懸念されている。 さらに、産業の再編に伴う労働者の解雇や賃金切り下げ、物価の上昇なども十分に起こりうる。労働者はこれらを断固として跳ね返す力を身に付けると同時に、気候温暖化などの環境破壊を引き起こし、また今後も起こし続ける資本主義を打倒しなければならない。 歴史的にも人々は自然に働きかけ、自然法則を利用するなど、常に自然の恩恵を得て来た。かつての人々は自然に対して盲目であったが、現代では自然全体と生物体の物質代謝に対する科学的な解明ができる力を持っている。 人々の生産活動と生活は、常に排出が伴う。それらの排出を完全に処理し、また自然に返し、さらに再利用する過程は本来、社会的再生産の一過程である。だが、資本主義の下では、産業の排出処理は価値を生まない「空費」とされ、排出物が垂れ流されてきた。その結果、温暖化を招いて来たのだ。資本主義は今や害悪に転化している。 ◇「脱成長コミュニズム」論の矛盾 地球温暖化と闘うためには、「パリ協定」に代表されるグリーン・ニューディールでは不十分だとか、加えて経済の「脱成長=スローダウン」が必要で、70年代後半の経済に戻すべきだとか、さらに「脱成長」は資本主義では不可能であるとかの論調がかしましい(サンダース、ネグリ、ハート、斉藤幸平など)。 「低成長」や「脱成長」の話は古くからエコロジストや社会民主主義者によって発せられ、ある時はマルクスを批判し、ある時はマルクスを利用してきた。最近は気候温暖化が待ったなしの状況にあってか、盛んに『資本論』を利用し「脱成長」を権威づける傾向が強い。 資本主義の頭目たちに頼っていては、「パリ協定」さえ守ることができないと判断するのは全く正しく、世界の労働者は自国の政府と資本に「パリ協定」以上の早期実現を迫って行く必要があると同時に、資本主義の限界をも明確に自覚していくべき時である。 しかし、斉藤氏らは生産力の質的意味を理解せず、ただ生産力の発展は不要であり、70年代の世界で充分であるかに言う。 その一方で、EV自動車などの「脱炭素」開発は必要であり、政府は「国家改造の大型投資」のために財政支出(増税?借金?)をすべきだとも言う。 つまり人々は欲望を抑え我慢し、生活水準を下げ続けて温暖化を阻止せよと宣うのだ。この矛盾した斉藤氏らの主張を実現するには、国家による強制か、市民によるファシズム的運動が必要となるが、そういうことか。 それとも搾取の廃絶による生産及び教育・福祉の社会化を基礎にした物質代謝の完全制御か。 反動に堕すことはやめるべきだ。 (W) 【1面サブ】新刊紹介(5/15発行) 『種は蒔かれた――労働者・働く者の代表を国会へ』刊行 本書は、2019年参院選に10人の候補者を立て、確認団体として闘い抜いた労働者党の選挙闘争の報告である。 元々は、昨年暮れに発行された『プロメテウス』59号の第二特集として企画されたが、第一特集「MMT派の経済学批判」が膨張したため、独立した冊子として刊行された。 結果的には、労働者党の2019年参院選闘争の政策・主張・闘争記録から結果と総括までがほぼもれなく掲載され、その闘いの全貌を知ることができる報告となった。 全体は、「序に代えて」、第一部「労働者党の主張・政策」、第二部「期間中の闘い」、第三部「闘い終えて」、資料という構成になっている。 「序に代えて」では、参院選参加の趣旨と基本方針が明らかにされ、第一部は、「安倍のバラまき政策」批判、「野党共闘路線」の不毛性、「共同体原理の適用」による介護問題解決の提起、「労働者党の憲法改定試案」、「年金問題」解決策が提起されている。 特に安倍が参院選の金看板として掲げた「消費税の転用による全世代型社会保障」政策に対する根底的な批判は、今まさに菅政権がやっているコロナ対策に名を借りた野放図な財政膨張政策に対する批判にもなっている。 第二部は、10人の候補者たちを先頭に闘われた選挙闘争の生々しい記録で、第三部は、選挙闘争の総括。国会議員を誕生させることができなかった原因を摘出し、労働者党は闘いを継続して発展させることを高らかに宣言している。 なお、本書冒頭に本書を故林紘義・労働者党代表に捧げるとの「献辞」と経歴、追悼文が、巻末には林氏の著書目録が掲載されている。。 本書を多くの労働者・働く仲間に持ち込み、新たな闘いの出発点とすることが期待される。 全国社研社刊(税込み価格990円) (S) 【飛耳長目】 ★森友学園の国有地売却に至る公文書改ざんの全ての経緯を詳細にまとめた「赤木ファイル」が明るみにされようとしている★ファイルを作成した赤木俊夫氏は、改ざん加担を悔い自死したが、妻の雅子さんは、夫の死の責任を問う裁判を起こし、財務省にファイル開示を求めていた。赤木氏の一周忌の際、直属上司の池田靖氏は、雅子さんにファイルの存在と大阪地検に提出したことを認め、音声テープにこの発言が残されていた★国会での野党議員の追及に国側は「訴訟に関わることで、回答を差し控えたい」と、ファイルの有無さえ答えず、審理が続く大阪地裁の任意提出の求めには「探索中」との珍妙な回答をしていた★つい最近の報道番組で直撃取材を受けた池田氏は、当初は財務省からの圧力を伺わせる応対だったが、最後には一周忌の際は「真摯に対応した」と発言の真実性を認めた。彼は全てを知る中心人物である★大阪地検特捜部はファイルを入手しながら、安倍夫妻の関与がなかったことにする台本に従い佐川宣寿理財局長をはじめ財務省関係者38名全員を不起訴にした。だが、官僚の隠蔽工作は現場職員の〝良心〟には勝てなかったのだ★開示がどれくらい行われるか不明だが、新証拠による財務官僚38名と安倍夫婦の追及は必至だ。 (Y) 【2面トップ】 「小さな政府」から「大きな政府」へ バイデン新大統領は「米国再構築」を目指す大規模な国家財政の出動と、国家の経済関与を伴う経済政策を打ち出した。これは80年代以降、世界の主要な資本主義国家でもてはやされてきた、経済は資本の自由な活動に委ねるべきだとする〝新自由主義〟の行き詰まり、破綻を象徴している。しかし、「小さな政府」から「大きな政府」の転換で米国の「危機」を克服することが出来るのか、それが問題である。 ◇「大きな政府」への転換の背景 バイデン政権は、1月の新型コロナ対策1・9兆ドル(約200兆円)、続いて3月末には、インフラ整備・雇用のための「雇用計画」として2・3兆ドル、さらに4月28日には子育てや教育支援を柱とする1・8兆ドルの「家族計画」を発表した。新型コロナ対策を別として、「雇用計画」と「家族計画」を合わせればその規模は約4兆ドル(約435兆円)の巨額である。 「大きな政府」への転換の契機となったのは、新型コロナ禍と国内外の経済的、社会的矛盾の深化である。 新型コロナはまたたく間に広がり多くの死者、患者を生み出す一方、大量の失業者、休業者を出すなど経済・生活に大きな打撃をもたらし、ワクチン配布、治療など医療や生活困窮者の支援など国家の財政は膨張した。 しかし、困難はコロナ禍だけではなく、コロナ禍以前から経済の停滞、失業者の増加、貧富の格差の拡大など米国社会の矛盾は深まっていた。 「小さな政府」がもてはやされるようになったのは、1973年の石油危機以降のことである。世界はインフレと不況が共存するスタグフレーションに陥り、「大きな政府」は行き詰まっていた。 80年代の共和党レーガン政権は企業の自由な活動こそが経済発展をもたらすとして、企業に対しては減税、規制緩和を行う一方、労働者に対しては〝自己責任〟、〝自助〟を押し付け、社会福祉など労働者などの低所得者に対する施策の縮小、「小さな政府」に転換した。 1996年には、民主党のクリントン大統領も「大きな政府の時代は終わった」と宣言、米国政治を牛耳ってきた共和党、民主党は共に金融自由化、グローバル化の波に乗り、〝新自由主義〟の道をつき進んできた。 国家による規制を緩和し、資本の自由な活動に経済を委ねるという〝新自由主義〟=「小さな政府」は、米国のみならず世界の主要資本主義国の合言葉となってきた。2008年、利潤追求のためにサブプライムローンの低所得者までも投機に撒き込んだリーマン・ショックをきっかけとした世界的な恐慌は、〝新自由主義〟の破綻を告げるものであった。しかし、その後も〝新自由主義〟は継続されてきた。こうした中で、IT企業の経営者など富裕階級の収入は増加する一方、一般労働者の賃金はほとんど増えず、貧富の格差はますます拡大、失業者、生活困窮者も増加してきた。 バイデンは施政方針演説で、「(企業や金持ち階級が豊かになれば、投資が活発化し景気が良くなり、低所得層の生活もよくなるという)トリクルダウン理論は、これまで機能しなかった」と述べたが、景気低迷、持てる者(金持ち階級)はますます豊かになり、持たざる者(労働者)はますます貧しくなる貧富の格差の拡大など社会の矛盾は深化し、「小さな政府」から「大きな政府」への転換の契機となったのである。 ◇大規模な「雇用」「家族」計画 「雇用計画」では、老朽化した道路、橋、高速道路、港湾、航空など交通インフラの更新と新設、高速インターネット普及、地球温暖化対策としてグリーンエルギーの開発・普及などによって雇用増加を目指すとしている。 一方「家族計画」では、幼児教育の無償化、大学進学・卒業支援拡充、保育支援拡充、子育て世帯、低所得者世帯に対する減税枠拡大、有給休暇、病気休暇など、中低所得者層を対象に教育、福祉分野での支援を謳っている。 バイデンは、「米国を築いたのはウォール街ではない。中間層と労働組合だ」、経済の土台はブルーカラー労働者が支えている、「インフラ投資で生まれる雇用の9割近くは大学卒資格が不必要だ」と述べ、「雇用」「家族」計画がブルーカラーのためであると訴えている。 それは経済格差が深刻化し、彼らの間に政治への不信、不満が広まっているからだ。連邦準備制度理事会(FRB)によると、所得上位1%の保有資産は過去30年間で約8倍に増えたが、下位50%は約3倍強にとどまっている。トランプ前政権時の減税は、大企業や富裕層を潤したにすぎない。 バイデンは、1昨年からのコロナ蔓延で、2000万人の労働者が職を失ったが、その一方では、650人の億万長者の純真は、4兆ドル以上に膨らんだ、「底辺を引きあげ、中間層を起点に経済を成長させる時だ」と、政治への不満、怒りを高める労働者に訴えている。 4兆ドルの「雇用計画」「家族計画」の財源は、大企業や富裕層へ課税の強化によって賄うという。(個人所得税の最高税率は37%から39・6%へ、年収100万ドル超の高額所得者のキャピタルゲイン税率は20%から39・6%へ引き上げ)。 ◇目的は資本の支配の強化 バイデンは、「米国再建計画」をルーズベルトのニューディールの伝統の復活だとしている。 1930年代の世界大恐慌に際して、民主党ルーズベルト大統領は失業者救済のためにテネシー渓谷開発をはじめ道路修理、学校、公園、運動場の工事など大規模な公共事業を実施する一方、労働組合活動に関しては団体交渉権、最低賃金を制定、企業の規制、富裕者に対しては課税強化など、いわゆるニューディールを実施した。 それは労働者の階級的運動に同情し、助けるためではなく、危機に陥った資本の体制を救い、立て直すためであった。 しかし、生産は恐慌前の水準を取り戻すことは出来なかったし、なお失業者の数は千万人を超えた。そしてニューディールは資本の反撃によって骨抜きにされ後退した。景気回復、失業の解決は戦争をまたなくてはならなかったのである。 共産党の「赤旗」(5・2)は、「家族計画」について「政府による介入や富裕層や大資本の利益を守ることから国民の利益を守り労働者のための経済をつくる方向へ変わった」という米大学教授の発言を紹介し、持ち上げている。 しかし、失業者の救済や労働者の権利の承認などを行ったニューディールが燃え広がる労働者の資本に対する闘いを鎮め、危機に陥った資本の体制を救い、立て直すためだったように、バイデンの「雇用」「家族」計画も、失業、生活悪化に苦しむ労働者の不満、怒りをそらせ、ブルジョア国家の下に統合し、資本の支配を安定、強化しようとするためである。 バイデン計画はそれにとどまらない。バイデンは中国をはじめとする競争国を念頭に米国の未来に対して「将来の競争に勝つためには、家族や子供たちに対しても一世一代の投資をする必要がある」と述べたが、そのための大規模な投資を含む「雇用計画」であり、「家族計画」である。「雇用計画」の中には、外国からの商品輸入、外国への投資を規制する「バイ・アメリカン」を強化する政策、そして、最強の競争相手である中国に対抗して、ITなど最先端分野の技術研究・開発を推し進めることが謳われている。「米国再構築」計画は、米国が最強国家としての地位を維持するためであって、労働者はどんな幻想も持つことは出来ない。 (T) 【2面サブ】 「与党全敗」の衆参3補選 菅政権発足後初の国政選挙で、菅首相の政局運営に大きく影響すると注目された衆参の3補選は4月25日投開票され、「与党全敗」の結果であったが、どこも投票率の大幅な低下に見られるように、菅政権を追い詰める闘いの盛り上がりに欠けていた。 ◇自民党支持層の〝反乱〟――広島 接戦となった参院広島再選挙では、事実上の野党統一候補の宮口が約37万票(48%)を獲得し、約34万票(44%)の自民公認の西田におよそ3万4千の差をつけて当選した。これは党本部にたいする自民党支持層の〝反乱〟であった。 政党支持率では、自民が42%、公明5%と合わせると西田の基礎票は47%。対する宮口の基礎票は、立憲・共産・国民・社民を合わせても15%にすぎず、34%の無党派層も宮口にすべて流れたわけではない(宮口66%、西田21%)。残りの宮口の票は主に自民党支持層からで、その27%(9千票分)が宮口に流れた。 理由は明白だ。失職した河井案里に支給された1億5千万円が買収資金に使われたのではないかという疑問に、党本部が口をつぐみ続けているからである。「安倍さんや菅さんが説明責任を果たさにゃいけん。それまでわしは応援はできん」と、自民支持者たちからそっぽを向かれたのだ。 むろん多くの自民支持者が棄権の道を選んだ。このことは投票率が前回19年の44%からさらに11%(25万票分)も下がったことに示されている。19年参院選には自民党は候補者二人合わせて57万票だったから、今回23万票も減らした減少分と符合している。他方、野党側も前回の国・民と共産を合わせた40万票からおよそ3万票減らしている。 これを見れば、宮口の勝利は、野党側への積極的な支持というよりも、自民とりわけ党本部に対する自民支持者の拒否反応によってもたらされたというわけだ。 ◇破綻避けられない呉越同舟の〝勝利〟――長野 長野補選の結果、自民の小松が32万6千、野党共闘候補で立・民の羽田は41万6千と9万票近い差。投票率は44・40%と19参院選の54・29%から10%も下がり、補選は投票率の低下傾向があるとはいえ戦後最低を記録。 羽田と野党3党及び「信州市民アクション」との選挙協定の「2050年原発ゼロをめざす」「日米同盟に偏らない外交」等について国・民と連合から難癖がついた。両者の推薦は維持されたが、連合長野会長の根橋は直接の応援演説等には一切関わらず、報告に訪れた羽田に「次も同じというわけにはいきませんよ」と釘を刺したという。 野党側は、今回の補選では全ての衆院小選挙区で羽田が優位を占め、この勢いを次期衆院選にもと意気込むが、問題は共産に国・民や連合がどう対応するか、また、野党共闘側がどのような選挙協定を結ぶかにかかってくるだろう。 小松に「日米同盟に偏らない外交」について追及された羽田は「軍事と外交は別だ、アメリカとの軍事的同盟は必要だが、外交はもっと独自の立場をとるべきだ」などとどっち着かずの曖昧戦略で切り抜けたが、それは自民党や資本の立場と本質的にはあまり変わらない。 仮に野党連合政権ができたとしても、アメリカに強く迫られたらどうするのか。安保法制の廃止でさえ危ういのであり、旧民主党鳩山政権と同じ轍を踏まないという保証はない。〝野党と市民との共闘〟路線は破綻を運命づけられている。 ◇共産の美化する野党共闘の内実――北海道2区 衆院北海道2区補選の投票率は史上最低の30%、前回の半分程度だ。収賄罪で在宅起訴された自民の吉川議員辞職による選挙で自民が不戦敗を選択し、立・憲、国・民、社民、共産の4野党統一候補となった立・民松木に対する信任投票の色合いが濃いものであった。 得票は松木5万9千、自民党野田幹事長代行の支援を受けた鶴羽2万7千、日本維新の会山崎2万2千、自民党員の長友1万5千、他2名。 統一候補の松木は今まで4期衆院議員をしてきたにもかかわらず圧勝できなかったが、当然だ。松木は政治信条や信念のかけらも持ち合わせない人物で、自民党を出発点に自由連合、自由党、民主党、除籍され新党大地、維新の党、民進党・希望の党、国・民、立・民と渡り歩いてきた保守政治屋にすぎない。 野党共闘路線の共産でさえも内部から候補を統一する必要があるのか疑問が出されていたほどだが、告示半月前に野党4党が政策協定に合意、共産が新人の出馬を取り下げ松木に一本化した。 立・憲は国・民と連合におもねるため、共産色をできる限り薄め隠そうとした。長野での政策協定のごたごたの後、当初の政策協定を白紙に戻し、原発、消費税については触れなくした。候補者の街頭演説に共産を呼ばず、共産との距離感を演出。松木と共産が並んで訴えたのは、共産が候補のスケジュールを調べて街頭で待ち受け、応援演説をした一度だけという。共産の持ち上げる野党共闘の内実はこんなものだった。 (北海道 合田) |
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