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●1405号 2021年6月27日 【一面トップ】 労働者は要求する――「五輪貴族」と権力亡者のための〝祭典〟、東京五輪を即時中止せよ! 【1面サブ】 金権政治の温存ではないのか――河井元法相への地裁判決 【コラム】飛耳長目 【二面トップ】 新たな段階に踏み出したミャンマー労働者の闘い――国軍の労働者弾圧を断固糾弾する! ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 労働者は要求する 菅はG7首脳の支持を得たと吹聴し、コロナ禍での東京五輪の実施――それも「有観客」での――を決め、しゃにむに突き進んでいる。誰のため、何のための五輪強行か、我々はその〝秘密〟に迫り、金銭欲・名誉欲・権力欲にまみれた五輪推進勢力を糾弾し、東京五輪中止を強く要求する。 ◇我々は延期でなく中止を要求してきた 我々は、昨年春、安倍が東京五輪の一年延期を発表したとき、「なぜ中止ではなく延期か――安倍やバッハのための半端な決定は有害」だと宣言した。 「人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証し」として一年後に開催するとの安倍発言に対し、そんな保証はどこにもない、「ただ五輪を開きたい、開くしかない、それ以外安倍が権力者として生き延びるすべがないという願望と執念と野望」の現れでしかないと断じた。 そして、一年延期してでも「そんなお祭り行事や浪費を強行しようとするなら、ありとあらゆる無理や困難や障害がぞろぞろと山と出てくるのであって、ただそれだけでも実際的に不可能ではないか。/きっぱりと中止した方がはるかにすっきりするし、妥当、適切な選択であり、全世界の労働者の利益であるのは一見して明らかである」と論じた(「海つばめ」1379号、2020年4月5日)。 今、この指摘はますます正当性を帯びている。菅政権の五輪推進策は矛盾だらけ、穴だらけ、〝あちら立てればこちら立たず〟で、沈没寸前の泥舟のごとくである。 ◇パンデミック下の五輪の自己矛盾 菅は、「今は普通はない」と〝御用専門家〟の風評を脱しようとするかの尾身発言にいたく立腹し、「尾身を黙らせろ。越権行為だ」とわめき、専門家有志の提言が出る前に、「観客上限を五〇%または一万人とする」「有観客」実施を発表。だが、問題は、「有観客」か「無観客」かではなく――もちろん前者の方が感染リスクを拡大させることは明白だが――、そもそもパンデミック下で何故、五輪を開催するのかということであろう。 今、東京や大阪で感染者数は下げ止まり、リバウンドし始めている。ワクチン接種が進んでいるとはいえ、より感染力が強いデルタ株に急速に置き換わっている。そんな時に、世界中から10万人近い選手・関係者が押し寄せれば、空港検疫をすり抜け、ウィルスが国内に持ち込まれるのは避けられないだろう。 選手たちをバブルの中に閉じ込める――それはそれで選手間の交流と連帯を妨げ、檻の中の動物扱いする〝非人道的〟行為ではないのか――としても、取材陣はその本性上、各地を飛び回るだろう。それがリスクを拡大させない保証はない。 万一、国内だけはリスクを回避できたとしても――そんなことはほとんどあり得ないことだが――、世界に目を転じれば、コロナウィルスは依然として猛威を振るっており、アジアでも南米やアフリカでも感染者・死者が急増している。ワクチンも足りず、選手団を送りたくても送れない国が数多くある。そんな状況で五輪を強行して何が「コロナと闘う連帯の証し」(菅)か。むしろ、コロナ禍で強行される東京五輪は、〝格差と分断の証し〟となるだろう。 東京五輪は、世界中からのウィルスの集積地に、また東京発のウィルス(〝東京五輪型ウィルス〟?)の出発点にならないと誰が断言できようか。人類の運命に深刻な打撃を与えずにはおかない催しを強行しようとする菅や五輪推進勢力の無責任さ、手前勝手、利己主義ほど腹が立つことはない。 ◇権力亡者=菅の薄汚い野望 菅は感染リスク拡大のリスクを冒してまで五輪を開催する意義を国民に説明すべきだとの尾身らの意見を聞き流し、代表質問では思い出話で煙に巻き、抽象的に「連帯」のおしゃべりでごまかしてきたが、彼が真実を語ることができないのは当然である。 何故なら、菅の本音は――安倍がそうだったとのと同様――五輪が始まれば、国民の不満は弱まり、五輪後の総選挙で自民党が勝って政権の座を保つことができるだろうという、卑しむべき打算、手前勝手な思惑、飽くことなき権力欲だからである。そもそもパンデミック下で五輪を強行する意義などどこにもないのだから、そんなことを菅に語れと要求する方が愚かなのだ(志位は代表質問で菅に迫って見せたが)。 菅はまた、「国民の安全安心を守ることが自分の責務だ」などともっともらしく語ったが、菅にそんなことを言う資格があるのか。コロナ対策、医療体制の確保、ワクチンや治療薬の開発・確保で常に後手に回り、挙げ句はGoToキャンペーンで感染者を拡大させ、一万五千人近い死者を出している責任は安倍・菅政権にある。よくも「安全・安心を守る」などと言えたものだ。国民の「安全・安心」を損ない、命の危険を拡大してきた者こそ安倍であり、菅ではないか。冗談も休み休み言えというものだ。 今、必要なことは、菅や五輪推進勢力の薄汚い本性を徹底的に暴露し、労働者・働く者に闘いを呼びかけることであろう。 ◇呪われた東京五輪 もともと、東京五輪は、安倍が〝フクシマ〟は「アンダー・コントロールだ」と世界中に大嘘をついて招致した催しだ。東京五輪は「災害から復興した証し」として開催されるはずだった。ところが、今や誰もそんなことは言っていない。言えるはずがない。何万人もの被災者が故郷に帰れず、汚染水はたまるばかりで海洋放水せざるを得ない有様だ。だから、安倍は「人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証し」と言い換え、菅は「コロナと闘う連帯の証し」などといい加減なことを言うのだ。 つまり、初めから大義名分がない五輪、嘘と偽りで塗り固められた五輪なのだ。 加えて、近年、五輪は、「ぼったくり男爵」ことバッハIOC会長を筆頭とする五輪貴族、放映権を独占して大もうけするNBCなどのメディア、スポンサー企業として金儲けを企む大手企業、運営組織を牛耳る広告代理店等々、五輪に巣くう勢力の特権と利権の巣になっていることは周知の事実である。だからこそ、これら勢力は、何が何でも五輪を開催しなければならないと画策するのである(有観客になったのも、無観客だとスタジアムで五輪関係者ばかりが目立つからという面もあるが、それ以上にチケット収入の確保のためであろう)。 バッハにとって開催中止ではなく、延期を持ちかけてきた安倍の提案は渡りに船だったのである。その間に開催費はうなぎ登りとなり、大会経費は招致段階での7340億円から4兆円近く、約5倍に膨れ上がる見通しとなっている。その大半は、国と東京都が負担することになるが、その元は税金、つまり労働者から搾り取った剰余価値である。 権力亡者と五輪貴族を満足させるために、それでなくてもコロナ禍で日々の生活も危うい労働者たちが何故、こんな莫大な負担をしなければならないのか。 それ故にこそ、労働者・働く者の代表として、我々は東京五輪即時中止を要求するのである。菅政権がそれはできないというのならば、菅政権を打倒するしかないと我々は結論する。 (鈴木) 【1面サブ】 金権政治の温存ではないのか 河井元法相への地裁判決 6月19日東京地裁は、河井克行元法相の19年参院選広島選挙区での巨額買収を認め、懲役3年、追徴金130万円の実刑判決を出した。裁判で公表されただけでも、県内の首長や地方議員、後援会員や陣営スタッフなど総計100名に総額2871万円という未曽有の規模と額の買収事件であった。 今回の判決では、地方議員への「当選祝い」や「陣中見舞い」が収支報告書へ記載されていても、買収の意図が認められれば買収であるとして、すべての現金授受を買収と認めた。しかしこのことをもって「画期的」で「金権選挙の抑止になる」(地元紙の識者評)、などと評価するのはとんでもないことであろう。折々に際し「餅代」「氷代」などと地方議員や国会議員へばらまかれる現金授受を〝慣行〟として認めたり、収支報告書に記載さえすれば政治団体の名目での寄付=買収を認めるなどというのは、そもそも司法の怠慢であって、「選挙の公正を害し」(判決文)ている点では司法も河井と同罪なのだ。この判決を見ていくと、自民党のみならず司法の底なしの堕落と腐敗が見えてくる。 まずは落選した自民党前職の溝手の問題をとり上げよう。溝手は河井と同時期に、元県議会議長だった県議に対して党支部を通じて50万円を提供し、元議長も「選挙応援の趣旨を感じた」と公言している。この溝手の行為は200万円を提供した河井と同じなのだから、司法は溝手も同時に起訴し断罪しなければ片手落ちであろう。そうでなければ、金額が50万円なら買収しても罪に問われないと裁判所が公言するようなものではないのか。 さらに100人にも上る被買収者も公選法上被買収罪に問われなければならないが、いまだ誰一人として起訴された者はいない。この点について判決では、わざわざ「検察官の訴追裁量権を逸脱するものとは到底言えない」などと触れている。オイオイ、一人二人はともかく100人全員を被買収者として認定しながらそれを見逃がそうというのでは、裁量権の逸脱どころか職務の放棄・怠慢ではないのか。被買収者と認めた40人もの首長、地方議員のうち、今なお30人もの議員が居座り続けている。議員の金権腐敗に司法が手を貸して良いのか。 さらには買収資金の出どころの問題だ。今回、陣営スタッフへ提供された221万円だけが、自民党本部から提供された1億5千万円の中から支出されたと認められたが、その全体は検察によって闇に捨て置かれたままだ。裁判を通じて、買収資金は別の裏金から支出されたもので党本部からの資金提供は実は2億円だったという疑惑も出ている。となれば党本部への強制捜査は不可避のはずだ。この件に口をふさぐ今回の判決は、安倍・菅との三者ぐるみの巨悪犯罪の隠蔽としか言いようがない。 以上どれをとっても、この判決は自民党による組織的な金権選挙の問題を河井個人の問題にすり換えるものであって、金権選挙をむしろ温存するものだと言わねばならない。県連会長の座をめざした河井の野望は金権選挙に帰着したが、金権選挙の根底は金権政治つまり企業との癒着であり、さらにその根底はブルジョアジーによる階級支配、すなわち働く者への搾取であり働く者への寄生の永遠化である。 労働者の闘いは、政治資金規正法や歳費法の改正といった金権政治の結果にではなくて、その原因であるブルジョアジーによる政治支配の打破に、またそのための労働者階級の政治進出の拡大に向けねばならない。不平等な選挙制度をただちに廃止せよ! (広島・IZ) 【飛耳長目】 ★安倍、麻生、甘利が顔を揃えた「半導体戦略議員連盟」が、兆単位の半導体開発を国家的事業(日の丸半導体)として推進せよと気勢を上げた。すると、菅らは「政府新戦略案」を出し、特例として国家的に取り組むことを約した。その背景には半導体の供給不足に危機感を顕わにする大資本の要求や、米中の激しい覇権争いがある★習近平が5兆円を投資し、国家的事業として生産を増強、70%の国内供給を目指すのに対し、バイデンは日韓と協調してこれまた5・5兆円の投資を表明した(日本の投資は2千億円)★半導体は、スマホやPCから家電、交通や銀行、企業のシステム、自動車、はては軍事兵器、宇宙開発に至るまで無くては成らぬものとなり、「産業のコメ」と言われる★かつて世界シェアの50%以上を占めた日本の半導体は、今や台湾(22%TSMC)、韓国(21%サムスン)、中国、米国に抜かれ10%にも満たない程に低落している★大幅なシェア低下は、「日米半導体協定」(86年、91年)による日本の半導体潰しや東芝・日立・富士通らの総合家電が、半導体事業分離化の決断に欠けたこと等が原因だ★再び半導体の世界的な研究・開発競争、囲い込みが始まった。資本主義は英知の結晶物を我が物とすべく激しく争いあうのだ。 (是) 【2面トップ】 新たな段階に踏み出したミャンマー労働者の闘い 2月1日の国軍による軍事クーデターに対する抗議は、住民らの鍋たたきに始まり、国軍系企業の製品の不買、医療施設など公務員の不服従運動、縫製工場労働者らが立ち上がる街頭デモに発展した。スーチー率いる国民民主連盟(NLD)の連邦議会当選議員らで組織する連邦議会代表委員会(CRPH)は、国軍の特権を認めた現憲法の廃止を3月末に宣言、4月には、国軍に対抗する国民統一政府(NUG)を発足させ、国軍の弾圧から市民を守るための組織として国民防衛隊を設立した。国軍・治安部隊は無差別に発砲し、すでに870人を超える労働者市民が殺害されている。ミャンマー労働者は弾圧にもかかわらず勇敢に闘いを継続している。 ◇政権を簒奪した国軍に抗議デモの広がり クーデターの2日後、ミャンマー全土の病院や医療施設の労働者が最初に立ち上がり、ストライキを行った。労働組合のナショナルセンター、ミャンマー労働組合総連盟(CTUM)は、2月8日に最初のゼネストを呼びかけ、以降政府からの逮捕の脅しや抑圧の強化にもかかわらず、3月8日まで数百万規模の軍部に対抗する不服従運動という名の全面ストライキを展開した。 ごみ収集労働者、消防士、電力労働者、民間銀行員、被服産業労働者を含む幅広い部門の労働者が街頭デモに参加した。教師たちは生徒たちと一緒に運動に参加し、十万人規模のミャンマー教員連盟を含む教員組合が職場放棄した。 地方自治体や商務省、電力エネルギー省、運輸通信省、農業・畜産・灌漑省では職員がストライキに参加し、多くの部署が閑散となった。運輸部門では鉄道従業員のストライキで鉄道サービスは停止された。 労働者は、軍の支配下にあるミャンマー石油・ガス企業、ミャンマーナショナル航空、鉱山、建設現場、被服産業工場を閉鎖に追い込み、さらに軍系列の銀行、金融企業、病院、石油会社、卸売市場や小売業に対してボイコットを行い、軍の経済的権益に打撃を与えている。(Labornet2021・3・31) 6月から始る新学期は、40万人の教員の半数以上が停職処分にもかかわらず職場放棄し不服従に参加、教員と生徒の不服従のために開始できない状況になっている。労働者は弾圧に屈することなく、軍事政権打倒のために闘っている。 ミャンマーの人口は約5200万人(2014年)、15歳以上の就業者2149万人は農林水産業1073万人(52%)、製造業140万人(7%)、卸売・小売業192万人(9%)などで、GDPは農林水産業28%、製造業27%、商業・貿易19%となっている。製造業は、縫製・製靴・プラスチック整形・食品加工など労働集約型産業が主で、衣料労働者約70万人が製造業の約半分を占めている。その衣料労働者が労働運動の中心にあり、国軍に対する抗議運動でも大きな役割を担っている。 ◇労働者の国軍に対する闘いの背景 2011年からのテインセイン政権下のいわゆる「民政移管」後、それまでの軍事政権下における欧米の経済制裁が解け、急激な外資導入をもたらした。日本は、戦後ミャンマーと国交樹立し戦後賠償を行い、その後は政府開発援助(ODA)へとシフトし、その間一貫して軍政との安定した二国間関係を維持してきた。「民主化」以降は、官民連携の投資が加速し、現在約4百社の日本企業(名だたるトヨタ、スズキ、キリンなど)が進出し、その中で国軍とのかかわりを指摘されている日本政府関連機関、大企業が少なくないのである。日本はODAなどの経済協力によって国軍を支えてきたと、ミャンマーの労働者市民から非難されるゆえんである。 欧米の経済制裁の期間、軍事政権に急接近したのが中国である。国際的に孤立するミャンマーを助けるとともに、帝国主義的伸長とともにミャンマーへの経済進出を図ったのである。しかし中国との協力プロジェクトであるミッソンダム建設やレッパダウン鉱山開発などは、地元住民の強制立ち退きなど住民を犠牲にして中国の経済利益を優先するものであり、住民の反発を強めた。軍事政権を支える中国は、労働者市民からも非難され、抗議運動においては中国製品がボイコットされている。 外資にとっての最大の魅力は安い労働力と潜在性に富む市場であるが、労働者には劣悪な労働環境、長時間労働、解雇などが強いられ、労働者は2009年から10年には外資系の衣料品工場で大規模なストライキで資本と闘った。 2016年からのスーチー政権はその市場経済をさらに推進し、労働者の状況は改善されなかった。低賃金、強搾取など劣悪な労働条件の改善、解雇撤回を求める闘いが頻発し、19年には再び衣料品部門の大規模なストライキとなった。 ミャンマーの最低賃金は日給4800チャット(日本円で360円、18年)という低さである。20年1月には最低賃金法の改正に先立って、ヤンゴンの5千人以上の労働者がデモで闘った。 コロナ禍は海外資本に依存するミャンマー産業に打撃を与えた。投資と注文物量は急減し、職場閉鎖と解雇、賃金削減、労組弾圧がさらに頻繁になった。通貨チャットの対ドル相場は2月以降で20%急落し、輸入品を中心に物価上昇が深刻化している。労働者の生活困難は急速に深まり、労働者は生活を守るために闘いを強めている。 ◇国軍の残虐な無法な弾圧の実態 国軍は90年代に国軍系企業を創設。国軍系企業は、銀行やホテル、製鉄など幅広い企業を傘下に持ち、国内経済に強い影響力を持つ。株式は国防省のほか、フライン最高司令官ら国軍の現役、退役幹部らが個人で保有し、ミャンマー国内の8割の企業が軍と何らかの関係を持っているといわれる。優良な国営企業を民営化して傘下に収め、外資と合弁を組むことで成長し、残った国営企業は軍人らの天下り先となっている(NHKWEB3・15)。国軍系企業と並んで民間企業が財閥企業として台頭し、これらも国軍と強固な関係を築き、さまざまな事業で利権や恩典を享受し成長した(JETRO2018・4・5)。 数万人の縫製労働者が不服従を始めた理由も、軍部が労働者の権利を後退させるのが明らかだったためであるといわれる。不服従運動は、国軍に支配されている資本との闘いでもある。 国軍は抗議デモに対して、放水や警棒で排除しようとしたが、2月9日にはついに治安部隊が発砲し、流血を引き起こした。戦車、装甲車、兵士を展開しデモへの圧力を強めた。2月27日、軍事政権はすべての労働団体を公式に禁止し、翌日、前例がない恐ろしい弾圧を加え、18人が殺害された。「私の頭は血だらけだが屈しない」というスローガンが登場した。NLDは、3月4日国軍を「テロ組織」と宣言した。3月27日の「国軍記念日」には、治安部隊が発砲などで抗議デモを弾圧し、91人が殺害された。恐怖感で委縮させるのが国軍側の戦術だが、労働者大衆はひるむことなく、果敢に闘いを継続している。 国軍は、クーデター直後からスーチーが「違法に無線機を輸入し使用した」などと、難癖に近いようなもので訴追して自らの正当性を演出し、メディアの免許を剥奪、ジャーナリストを逮捕し、報道への圧力を強めている。またNUGを非合法化し、NUGの閣僚らを大逆罪で指名手配し、民主派勢力への弾圧をさらに強めている。しかし、足元の国軍や警察の内部から不服従の動きがあり、国軍兵士十人が任務を離れ、少数民族の武装勢力に合流19人の警官がインドに逃げたなどと報じられている(朝日3・6)。軍人のなかでも「軍は単なる人殺しのギャングになり下がってしまった」(元少佐)と批判が出ている(NHK国際報道4・30)。 ◇軍事政権に対する今後の労働者の闘い 労働者大衆の軍事政権に対する高まる抗議運動の背景には、民主化運動を弾圧する国軍に対する怒りとともに、労働者を解雇や強搾取で抑圧を強める国軍系及び民間財閥企業、外資系企業に対する労働者の怒りがある。 資本と闘って労働者大衆の生活を改善しようとしないスーチー政権への不満でもある。労働者大衆は、専制的な国軍支配とともに、強欲的な資本の支配とも闘っている。 「数十年間続いたミャンマー民主化運動は、主に裕福で外国で教育を受けた階層が主導した。だが今度は違う。催涙弾と銃弾と正面から闘っている彼らは、ミャンマーの二大主要都市であるヤンゴンとマンダレー出身の学生と工場労働者・鉱山労働者だ。闘争の最前線にはこの十年の民主化過程で育ったZ世代(90年代中後半から2010年代初中盤までに生まれた世代)の労働者がいる。彼らは軍部に対抗しているが、西欧やスーチーのNLDに同じ幻滅を感じている」と言われる(Labornet2021・3・31)。 実際、軍事政権に対する断固とした闘いは、「民主主義と自由」を守るというNLDの民主化運動の闘いを乗り越えて、社会の根底を支えているミャンマー労働者の資本の支配に対する闘いに発展している。労働者を搾取で苦しめる資本の支配と闘わないNLDでは、国軍との闘いは妥協的な不徹底なものになる。 国軍のロヒンギャ虐殺問題で、19年にハーグ国際司法裁判所に出廷したスーチーは、その事実を全面的に否定し国軍を擁護し、自らが支配階級として国軍と並んで立っていることを内外に示した。これはブルジョア政治家スーチーの限界である。 国軍が進める強権的な少数民族の排除やその自治の要求の拒否では、民族対立、憎悪を煽るだけになる。民族の対立ではなく接近と融合を図り、労働者が民族国家を克服し統一する社会主義的展望を持ってこそ、少数民族問題は解決の糸口を見出すことができる。 またレッパダウン鉱山やティラワ工業団などの開発は、土地とともに全生産手段を社会の共有とし、社会全体で生活に必要な物を計画的に生産し分配する共同体的生産のもとでこそ、住民の真の生活向上をはかるものに転化し住民の理解を得ることができるであろう。 NLDの民主化運動を乗り越えて、劣悪な低賃金、過酷な労働に苦しむ労働の改善を要求し、資本との闘いが進んでいる。資本と結託し利権や権益を温存する国軍と国軍に結びついた企業を解体し、資本の支配を一掃する、労働者の支配をかち取る労働者の党的闘いを構築する必要がある。ミャンマー労働者の闘いはそのような方向に進むであろう。 国軍はその自らの支配の維持のために「民主主義と自由」を認めず、闘う労働者を弾圧している。スーチーは制限された民主主義制度の下ではあるが、単独政権を成立させた。しかしスーチー政権が求める「民主主義と自由」は、資本主義のもとでの「民主主義と自由」である。それは国軍のクーデターを呼び込んで瓦解した。軍事政権の専制支配を打ち破る労働者の闘いは、資本の支配を克服する闘いに高まってこそ、本当の労働者の勝利の実現に向かうであろう。 抗議運動は、広範な労働者が闘いに立ち上がり、民主化を求めることに止まらず、資本の支配との闘いを内包している。ミャンマー労働者の決然とした断固とした闘いは、我々日本の労働者にも限りない力を与える。ミャンマーは最後のフロンティアと言われているが、むしろ彼らの果敢な闘いは、世界の労働者の資本とその支配の支柱となっているブルジョア政府打倒の闘いを鼓舞する嚆矢になるであろう。社会主義といつわる国家資本主義国である中国の専制支配に苦しむ隣の中国労働者階級にも限りない力を与えるものである。 (大阪・佐々木) |
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