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●1418号 2022年1月16日 【一面トップ】 人への投資で経済成長うたう――岸田の22年度予算案を斬る 【1面サブ】 労働者党第6回大会開催さる――中央体制を強化し闘いを進める 【コラム】飛耳長目 【二面トップ】 「ルールある社会経済」から「強い経済」へ――志位共産党のブルジョア的堕落の深化 【二面サブ】 原発は「持続可能な経済活動」か?――原発の再評価と小型炉の研究開発に雪崩れ込む世界 ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 人への投資で経済成長うたう 昨年末(12月24日)に閣議決定された22年度の政府当初予算案は、歳出総額が107兆円にものぼる。岸田は「新しい資本主義」を掲げ、その中でも、分配=賃上げなどの「人への投資」を重視することによって経済成長をうたう。果たして、本当に多くの労働者の賃上げが期待でき、実現され得るのか? ◇福祉労働者への賃上げ策動 予算案では、岸田の分配重視を象徴するかに、看護・介護・保育などの職種の収入を3%程度引き上げることが謳われている。この予算総額は600億円であり、10月から実施される(その間は21年度の補正予算を使う)。 「介護、保育は月9千円、看護は月1万2千円程度増える」(21・12・25「朝日」)予定だという。「朝日」が引用する福祉関連労働者の「平均月収」は、例えば、看護では40万円、保育は32万円程だが、民間施設に働く看護労働者の「残業代を除く平均賃金」は31万円に届かず、保育の場合は24万円半ば、介護はさらに低く24万円弱に過ぎない(21・11・15「東京」)。 民間は公務よりかなり低賃金である上に、「委託費」として岸田の賃上げ分が民間施設に回ってきたとしても、その使途は「弾力運用」が可能とされており、労働者へのストレートな賃金アップに繋がるかは甚だ疑問である。「委託費」の8割は人件費と国は想定しているらしいが、実際は「5割を切る」事業所もある(同上)というのだ。 ◇官製賃上げに屈するな 福祉労働者の賃上げ分が、政府から福祉施設の経営者に補助金として支給されることによって、労働者全体に賃上げが波及するわけがない。こんなことは、百も承知の岸田は、経団連へ足を運んで賃上げを陳情し、さらに、賃上げ3%企業への「法人税引き下げ」や賃上げ企業が有利となる「入札制度」に取組むと言う。それらの相乗効果によって、全国的な賃上げが進むかに算盤を弾く。 確かに、大企業では、多少の賃上げが行われるかも知れないが、それも一過性で終わるのがオチだろう。安倍がやった「官製春闘」が一時的な、それもみみっちい賃上げで終わったと同様に、財界頼みの岸田の官製賃上げ策が全国的な労働者の賃上げに繋がる保証はどこにもないのだ。 生産手段を持たない労働者は、資本(企業)に労働力を売ることによってしか生きていけない。労働者は資本に雇用され労働力を商品として売るが、この労働力の商品価格が賃金なのである。だから、労働者は誰もが同じ立場、同じ階級にいると自覚し、お互いに団結し、生活を守るために賃金闘争を闘うのである。賃金闘争は搾取の廃絶の闘いではないが、利潤追求を動機とも目的ともする資本(企業)との闘いの一部分なのである。 しかし、全国の労働者による決然たる賃金闘争によってしか、大幅な賃上げを勝ち取ることができないことは、これまでの歴史が教えている。国家の財政(法人税、所得税、消費税さえも労働の一部だ)による官製賃上げの策動に屈し、微々たる賃上げで〝満足〟し、国家にますます依存することは労働者にとって敗北なのである。 ◇岸田の分配重視の理由 それでは、岸田はなぜ労働者の賃上げを策し、なぜ分配を重視するのか。 岸田は首相就任当初、非正規労働者への処遇改善に取り組む、現在の格差を改善し中間層を作り、それによって個人消費を増やし、経済成長に繋げるかに主張した。 しかし、岸田は昨年11月「新しい資本主義実現本部」を立ち上げ、次のように「緊急提言」を発していたのである。 「1980年代以降、短期の株式価値重視の傾向が強まり、中間層の伸び悩みや格差の拡大、下請け企業へのしわ寄せ、自然環境等への悪影響が生じており、政府、民間企業、大学等、地域社会、国民・生活者が課題解決に向け、それぞれの役割を果たしていく必要がある」。 「新自由主義」による規制緩和ではなく、企業が「人的資本」を重視し、「イノベーションを起し」、それを政府が支援することを基本として「終戦直後に続く第二の起業ブームを起こすことを目指す」、そのことで、「幅広く生産性向上を促進し」「豊かな中間層を生み出し」、ひいては労働者の賃金上昇を促し消費が拡大する。「日本の労働分配率は先進国と比較して低い」、これを改善して進める「分配戦略は、成長を支える重要な基盤である」。 すなわち、岸田の分配重視は、非正規労働や女性差別を利用した雇用形態を是正することでも、非正規労働者を支援することでもない。 岸田の福祉労働者などへの官製賃上げは、コロナ禍で不満が募り、また離職者が相次いでいることに対する対策であるに過ぎない。 岸田の分配重視とは、デジタルやロボットや脱炭素などの「イノベーションを起す」ための「人的投資」のことである。岸田は、分配=「人的投資」を重視することで経済成長を促し、持続的な資本主義の発展を描き、その結果、「豊かな中間層」を生むことで賃上げが可能になると言っているのである。 しかし、「人的投資」による「イノベーション」と言うからには、さぞかし革新的で大規模なものを人は想像するが、予算案を見ると、企業の職業訓練や失業対策に対する国家からの補助金に過ぎない。何と〝ちんけ〟なことか! ――せめて、最新技術を学ぶための公的で大規模な職業訓練学校を設立するなどの構想を出せばいいのに。 ◇MMT派と共産党が共闘? 分配重視による経済成長論は、岸田政権の特徴なのではなく、バラまき派経済学の理屈でもあり、共産党の昔からの主張でもある。 例えば、自民党のMMT推進団体(財政政策検討本部)の座長となった西田昌司は、「労働分配率の増加や実質賃金増加を政策目標にすべきなのです。国民側に所得が分配されるほど個人消費が増え、国民経済を大きく牽引する」と言い、評論家の中野剛志は「低所得者は、その所得を教育に十分に充てられない。このため、低所得者の割合が高い格差社会では、人的資本に対する投資が不足せざるを得ない。その結果、格差社会では、長期的な成長が困難になる。こういうわけで、分配による格差の是正は、長期的な成長をもたらすと考えられるのである」と言う。 MMT派は、共産党が不況の根源を個人消費の不足と説明してきた理屈と同じなのである。MMT派と共産党の共闘はこれからも続くであろうし、実際にも松尾匡のバラまき運動と共闘しているのだ。 (W) 【1面サブ】 労働者党第6回大会開催さる 中央体制を強化し闘いを進める 12月下旬、全国の支部から選出された代議員を結集して開催された労働者党第6回大会は、圧倒的な多数をもって、党を維持して闘いを進めていく方針を決定した。 労働者党の活動及び理論的中心であった林党代表を突然の死によって失うという大きな損失を被ったが、困難を乗り越えて労働者の党的闘いを押し進めることを決意したのである。 大会では、国際情勢と国内情勢について確認したが、『海つばめ』等の論説に見解は示されており省略し、ここでは大会で決定した我々の活動の総括と、今後の闘いの方針を紹介する。 ◇党的闘いの継続と発展を決意 19参院選では労働者の代表を国会へ送り込むことは達成できなかったが、選挙を総括した19年10月の第5回大会では、党の闘いを改革し、前進をあらゆる面で追求し、その結果と成果をふまえて、22参院選を闘うかどうかを次の大会で最終的に決定すると決議した。 しかし、課題とした中央体制の強化や党改革の成果は結実せず、20年3月には、「政党の名は続けるが、国政選挙(衆院選及び参院選)が闘える力がつくまでは撤収する(但し、地方選は別)」と方針を変更した。 その直後4月に林代表が病魔に罹り、指導体制は厳しい条件となったが、中央機関紙『海つばめ』の月2回の発行、理論誌『プロメテウス』の年2回の発刊、各支部での『資本論』学習会や宣伝活動、労働運動への参加や集会闘争など党活動は維持されてきた。 今大会の最大の課題は、依然として中央組織の強化であったが、今回は代表委員2名増員で選出され、党代表は選出せず合議制でやる、代表委員以外の出版担当や事務担当は継続、こうして闘う党の体制を補強した。 大会の討議では、我々が進んできた闘いの方向を前向きに貫き通すこと、選挙への参加という課題については、地方選挙でやる条件があれば考えていくこと、党の力をつけ国政選挙にも復帰することが確認された。 その他、支部の「資本論学習会」、セミナー開催、林同志の単行本刊行、街宣・宅配、ネットによる発信などの宣伝活動、「党友制度」の継続・拡大、林同志の追悼集会を行うことなどの我々の当面の方針を、活発な議論によって決定した。 政治状況を見るなら、「新しい資本主義」を掲げて登場した岸田政権は、「成長と分配の好循環」を唱え10万円給付などバラまきの借金依存政策と、軍備増強や「憲法改定」などの反動的政策を進めようと安倍・菅政治を継承し、それに対する野党は「政策立案型」路線(立憲)や「やさしく強い経済をつくる」(共産)などと言って、労働者の階級的な闘いを解体している。このような状況において、我々は資本の支配に反対し、労働の解放をめざす闘いを断固推し進めていく決意を強固にした。働く仲間の結集を心から願うものです。 (佐) 【飛耳長目】 ★IT技術の発展で入手できる情報量は格段に増え、ツイッターの140字の制限された情報でさえ、大きな影響力を持つことがある。だがその信頼性は玉石混淆で、見極めが必要だ★大統領選で敗北したトランプの「選挙を盗まれた」との扇動は現在進行形で、共和党員の53%が信じているという。日本でも自民党と繋がる企業がDappiの名で野党攻撃の虚偽情報を流したと告発されたが、10万人超のフォロワーがいた★国家機関も無縁ではない。安倍の数々の疑惑での公文書偽造と隠蔽、国の基幹統計である勤労統計と建設受注統計の不正は、官僚組織の劣化だけでなく、政権を粉飾する工作でもあったことが明るみになった★経済指標として重要なGDPは市場取引される財貨・サービスを対象とするが、例外的に自給農家の自家消費分なども含んでいる(帰属計算)。だが、農水省発表の食料自給率では同じ自家消費分は含まれず、農業保護政策正当化のために低くなるように操作されている★労働者党大会は機関紙誌の充実とネットの積極的活用を確認した。それは、商業新聞のファクト・チェックに負けない、「社会的経済的発展の現実に合致することを唯一の基準とする」マルクス主義に立った情報発信として進めていく決意表明だ。 (Y) 【2面トップ】 「ルールある社会経済」から「強い経済」へ 共産党の志位委員長は、新年号「赤旗」の「この国の政治を変える」と題する本田由紀・東大教授との「新春座談会」で、これまでの「ルールある社会経済」に変えて、これからは「やさしく強い経済」をつくろうというスローガンを掲げていくことにしたい、と語っている。この転換は共産党の堕落の深化を示している。 ◇なぜ、「強い経済」なのか なぜ、「ルールある社会経済」から「やさしい強い経済社会」への転換なのか。志位の言う理由は次の3つである。 第1は、2013~20年の7年間に実質国内総生産の伸びは米国25%、ユーロ圏が14%なのに日本は6%と世界で最も「成長できない国」になっていること。 第2は、新型コロナで感染者が医療崩壊を招いたことに見られるように「危機に弱い国」になったこと。 第3は、半導体のシェアは現在では10%で、自前で調達できなくなったが、半導体に見られるように「競争力を失った国」になったこと。 つまり日本は「もろく、弱い社会」になってしまった、というのである。 これまで共産党は「ルールある社会経済(資本主義)」を掲げてきた。それは、〝新自由主義〟政策の下では、資本の原理であるむき出だしの利益追求が図られる一方、労働者などの貧困や生活苦は個人の努力不足のためであり、個々人の努力によって解決されるべき問題(〝自助〟)だとして放置されてきた、これに対して、労働者については賃金引上げ、労働時間の短縮、正規と非正規との差別を止めさせるなど待遇の改善を行い、中小の下請け企業については取引条件の改善をはかる、さらに大企業・富裕層に対して課税強化をはかるなどによって、国民生活の改善、向上を実現していくというものであった。 「ルールある社会経済」といっても、経済の発展が前提である。ところが、世界第2位の経済大国と言われた日本経済は、バブル崩壊以降低迷を続け、衰退し、競争力も弱い、もろい国になってしまった。「ルールある経済社会」実現で、生活改善・向上という前提が失われたのである。 こうして、「ルールある経済社会」に替わって「強い経済社会」が共産党の新たなスローガンとして登場したのである。 ◇「強い経済社会」とは資本への迎合 志位は日本経済の3つの「弱点」を克服し「強い経済社会」の実現を訴える。だがこれは、共産党が批判してきた自民党やあからさまな階級協調主義政党である国民民主党や連合幹部らの主張と一体どこが違うのか。 自民党や資本は経済の発展こそ国民生活の安定、改善をもたらすとして、企業の国際競争力強化や衰えた経済成長の回復を訴え、国民民主党、連合も労資協調による企業、経済の成長を唱えてきた。 対談者の本田は「強い経済」提唱について「資本主義批判という点からすれば妥協でないか」と次のように言っている。 「志位さんのおっしゃった『強い経済』という方向が、問題含みの資本主義を延命することを暫定的に主張してしまうことになると思いながら、いまの資本主義が滅ぶとか、資本主義を変えていかなきゃいけないと思っていない人たちに、共感・賛同してもらうためには、こうした打ち出しが必要だとも感じます。/『やさしくて強い経済』というスローガンを打ち出すとおっしゃったのは、日本共産党の資本主義に対する批判という点からみれば、相当主義を曲げていただいたのではないでしょうか」。 「資本主義への妥協ではないか」という疑問は、どれほど本田自身の考えを反映したものであるかは分からないが、まさに「妥協」どころか「追随」そのものである。 ◇マルクスの主張の歪曲 ところが志位は『資本論』の労働時間や児童の就労を規制するイギリスの工場法についてのマルクスの記述を引き合いにだして「強い経済」のスローガンはマルクスの主張でもあると強弁する。 「長時間労働によって労働者階級は肉体的にも精神的にも健康を失ってしまう。……そのことによって、イギリスの資本主義の全体が行き詰まっていくのです。/工場法をつくってどうなったか。マルクスは『資本論』で、イギリス資本主義の『驚くべき発展』が起こったと言っています。つまり工場法によって、労働者が肉体的にも精神的にも健康を取り戻して、そのことが社会全体に活力をもたらしたと。マルクスはそのことをすごく肯定的にとらえているわけです。/そういう意味での『強い経済』をつくっていくことは、私たちの主張を曲げるわけでもないし、反対に、私たちがめざすものなのです。資本主義が健全な発展をとげれば、それだけ先の社会主義に進む豊かな条件が作られますから」 しかし、「工場法」の制定の意義を「資本主義の健全な発展」をもたらしたことだなどということは、マルクスの主張の歪曲である。 マルクスは労働日制限の意義について、第1インタナショナルの「労働日の制限を、それなしには他のいっさいの解放への努力が挫折するよりほかはない一つの予備条件として宣言する」との決議を引用している。 労働日制限の最大の意義はまさにここにある。労働者がより多くの自由な自分のための時間を持つこと、学び、考え、活動する時間なしには、労働者の解放をめざす闘いは発展しない。これこそが、労働時間規制(短縮)の最大の意義だとマルクスは訴えているのである。 確かに、労働日や児童労働の規制は、肉体的、精神的に委縮した労働力に替わって、健康的な労働力を得るということでは資本にとっても利益となった。しかし、それは資本の搾取に対する労働者の闘いなしにはあり得なかった。資本の下では労働者の健康や労働時間の規制を謳った保護立法は労働者の階級闘争の結果であって、資本が進んで行ったためではない。 マルクスが標準労働日の制定について、「長い期間にわたって資本家階級と労働者階級とのあいだに多かれ少なかれ隠然と行われていた内乱の産物なのである」(『資本論』1巻、第1編、第8章、「労働日」)と言っているように、労働者階級の資本家階級に対する文字通り命をかけた、血にまみれた闘いの産物であったのであり、それは資本のあくなき搾取から自らの生命と健康を守るための闘いとして闘われたのである。 ところが志位のように、それは労働者の肉体的、精神的な健康をもたらし、社会全体に活力を与え資本主義の発展をもたらした、といって資本主義の発展に意義をみいだすように言うことは、資本に反対し闘った労働者の階級闘争の歴史を冒涜することである。志位は労働者保護を謳った社会政策は、資本主義の健全な発展のために必然であり、必要というブルジョア社会政策学者と同じ立場に立っているのだ。 ◇共産党の改良主義破綻の末路 志位は「強い経済」は資本主義批判という立場から見れば「妥協」ではないかという発言に対して「決して妥協でもなんでもありません」と次のように言う。 「日本経済が衰退してしまったら、これは先に進む条件がなくなるわけで、共産党としては困るわけです。/まともな発展の軌道を進んでこそ、暮らしにとっても、その先の社会に進むうえでも、希望が拓けていくわけですから。〝やさしくて強い経済〟というのは、決して科学的社会主義の立場を曲げているわけではありません」。 だが、これこそ「ルールある経済社会」という改良主義、日和見主義路線の破綻の告白である。「ルールある経済社会」は、先に述べたように資本主義の改良(=資本の規制によって、国民生活改善・向上を約束するもの)であった。しかし、肝心の経済が衰退してしまって、「豊かな生活」を実現する余地がなくなってしまった。だから今度は、まず「強い経済」、つまり資本主義の繁栄に向けて取り組まなくてはならないと言うのだ。共産党の言う「ルールある経済社会」にせよ「やさしい強い経済社会」にせよ、資本主義の繁栄に依存していることを暴露しているのである。 レーニンは19世紀末から20世紀にかけての独占資本主義を「死滅しつある資本主義」と呼んだが、現在の日本も世界中に資本を輸出し、国内の労働者のみならず世界の労働者を収奪、搾取する世界有数の帝国主義国家である。日本経済は富を生産する生産的部門は縮小し、軍隊、官僚、警察、金利生活者など不生産的な部分を拡大するとともに、企業と国家の癒着など腐朽し、寄生性を深めている。日本の衰退はその現れである。 労働者の進むべき道は、腐朽と寄生性を深めている資本主義の支配を根底から打倒し、搾取のない社会を実現することである。にもかかわらず、共産党は、資本主義の繁栄を取り戻すことが課題だというのだ。資本主義の改良という共産党の改良主義・日和見主義は公然たる資本への追随に行きついたのである。 (T) 【二面サブ】 原発は「持続可能な経済活動」か? 去る1月3日、欧州委員会は天然ガスの他に原発も「持続可能な経済活動」に含めて「EUタクソノミー(分類)」を適用し投資を呼び込めるようにするという原案を示した。各国に意見を求め今月中に正式決定するのだという。22年中の原発廃止を決定しているドイツ新政府や水力発電が6割以上を占め残りは再生エネルギーで賄おうとしていたオーストリアは反発しているが、フランスを初めポーランド、チェコなど多くの欧州諸国はこれに追随すると見込まれている。 仏大統領マクロンは、これまで老朽原発を廃止して原発比率を現在の7割余りから5割前後に削減するとしていたのだが、昨年のCOP26会議直前の10月12日に突然方針を転換し、既存原発の維持の他に「小型モジュール炉(SMR)」の開発・導入、水素戦略の強化を発表した、等のことが背景にある。 昨年9月には、米英豪による対中国包囲網の一環としてAUKUSが締結されたが、これは従前のフランスとのディーゼル潜水艦開発契約を破棄し、新たに米が原子力潜水艦の建造技術を提供するというものだ。アメリカは原潜向けの小型原子炉輸出によって原子力産業の活路を開こうとしているとも言われている。 イギリスは既に一昨年(20年)11月に「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」を発表し、大型炉の他にSMRの開発を進めていくことを闡明している。これを受けて、航空エンジン大手のロールス・ロイスは昨年8月には小型モジュール炉の開発に乗りだすことを発表し、16基のSMRを設置できると見込んでいるという。 先の仏マクロンの方針転換はこうした動きを受けて、むしろ原発大国の強みを生かして〝グリーン水素〟戦略も強化しEU内での指導権を確保していこうとするものである。日本もまた例外ではない。表立った動きこそ目立たないが、政府は既に2030年の電源構成をこれまでと同じ原発20~22%に据え置き、既存原発の再稼働とSMRや高温ガス炉(熱伝導に高温ヘリウムガスを使用しその高温を利用した水素製造も行う)の研究開発に力を入れていくとしているのであり、製造会社である日立や三菱重工はアメリカやカナダの会社と共同で研究開発に力を入れている。中ロ等も同様であり、ドイツなど一部の国を除いて世界はこぞって原発の再評価と研究開発に力を入れ始めているのだ。 ところで、SMRや高温ガス炉などは既存大型原発と比べて安全性も増し、モジュール化することによって建設工期や経費も低減できると喧伝されている。しかし、こうした小型炉は既に50年代から研究開発が進められていて決して新しい技術ではない。それが今まで実際に運用されてこなかったのは主として「規模の経済」が働かず経済的優位性が確立できなかったからだとも言われている(「自然エネルギー財団」など)。安全性についても、規模が小さいので自然冷却が可能で非常電源停止等によるメルトダウンのリスクも低減するといった程度で、高レベル放射性廃棄物の問題や廃炉費用等々の問題は既存原発と同じである。ここ十数年の再エネ単価の低減や電力グリッド技術の発展等を考えれば、既存原発に限らず小型炉や革新炉にメリットはない。それはひとえに原発会社や電力資本、それに群がる投資家や核技術を維持し押し進めたい資本の国家の思惑からきているのだ。 (長野、YS) |
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