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●1423号 2022年3月27日 【一面トップ】 「管理春闘」を打ち破れ――労働者独自の闘いこそ重要 【1面サブ】 さらに深まるトヨタの労資一体化――「労使協議」から「労使経営会議」へ! 【コラム】 飛耳長目 【二面トップ】 ブルジョア秩序に拝跪――国連憲章、憲法9条で平和求める共産党 【二面サブ】 スタグフレーションの危機も――日銀、大規模緩和策を継続 ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 「管理春闘」を打ち破れ労働者独自の闘いこそ重要大企業の春闘集中回答が去る16日(3月)にあった。報道によれば、電機や自動車や重工などの大企業は、昨年のベア(基本給の昇給)ゼロ~1000円を上回る「満額回答」で応えたという。これに対し、産業別組合・金属労協の組合幹部は記者会見で「手応え」があったと発言。だが、この「満額回答」に労働者は本当に満足できるのか。労働者の団結が強まったと言えるのか。 ◇賃上げ=「物価上昇と景気回復」のまやかし岸田政権は安倍に見習って、昨年秋から経団連・連合詣を行い、「3%を超える賃上げ」を要請してきた。それはなぜか? 岸田の目的は労働者の生活改善のために賃上げを願ったのではない。本当に生活改善のためであれば、3%どころの賃上げで済むわけがない。安倍が「3%賃上げ」を経団連に要請したと同様に、岸田も「3%賃上げ」で「2%の物価上昇」とこれらをトリガーにして景気回復を願望しているに過ぎないのだ。 これにまず呼応したのが経団連であり連合であった。経団連は既に、欧米の賃金に比べて日本の賃金が低いことを日本の低成長の大きな要因だと述べていた。また、労使協調を地で行く連合幹部も経団連と考えは同じであり、自民党は13日の党大会で運動方針に連合と連携すると明記した程だ。 しかし、賃上げが物価上昇に結びつき、景気の好循環につながるというブルジョアの古くからの屁理屈は一度として証明されることは無かった。 労働者の実質賃金がいくらか上昇した時代、90年代半ばまでの時代は、石油ショック後のインフレやバブル経済による物価上昇が今とは比べものにならない程に大きく、生活を守るために、大幅賃上げを求めて果敢に闘う労働者の姿が多く見られた時代であった。 この時代の労働者の賃上げ闘争は、時に労働組合幹部の思惑を超えて激しい闘いになった。そこでようやく物価上昇の後追いであるが、賃金引上げを勝ち取ることができたのである。この時代を生きた労働者なら、賃上げが物価上昇をもたらしたのではなく、物価上昇が賃上げ闘争を必然化させたことを皆知っている。 まして、安倍政権時代の何年もの「管理春闘」の実践が物価上昇に繋がらなかった経験からも、ブルジョアの屁理屈は完璧に破綻している。2%超の賃上げがあったにも関わらず、「年2%の消費者物価上昇」さえも実現できなかったのだから。 ◇労働者の闘いを解体する「管理春闘」賃上げが物価上昇に繋がり、景気回復に連動すると本当に思うなら、まず、非正規労働者に対する、また女性労働者に対する賃金差別を一掃し、「同一労働(時間)同一賃金」を実現すればいいのである。組合も「内部留保を吐き出せ」と言うだけではなく、差別賃金をまず一掃するために断固として闘うべきではなかったか。 安倍や経団連の賃上げ容認は矛盾していた。一方で景気回復につながると言うが、他方で、労働者の賃上げが資本の利潤を抑えるからだ。だから、安倍や経団連は(また連合幹部も)労働者の大幅賃上げを求める闘いを警戒したのである。自分達の矛盾した考えの中から編み出したのが「管理春闘」であった。 しかし、「管理春闘」を打破できなければ、労働者は実質賃金さえ守ることができない。非正規労働者の貧困も救済できない。 今年の「管理春闘」もまた過去と同じ轍を踏み、政府の「管理春闘」の手の内にある。 なぜなら経団連も連合幹部も、たった2%の賃上げに「期待以上だ」とコメントしているからだ。 30年ぶりの激しい物価上昇が始まろうとしている。2%の賃上げでは、実質賃金は「1%以上のマイナスになる」(ニッセイ基礎研究所など)と言われている。何一つ闘いが高揚しないままでは、中小零細企業の労働者の賃上げはさらに厳しい状況になるだろう。労働者はこうした現状を許すのか? 組合幹部の責任を問わないのか? ◇製造業は国内の不調を「海外収益」で補強日本の大手製造業が「満額回答」をした理由をマスコミは次のように解説している。「製造業の業績回復が背景にある」、「自動車大手の業績は、原材料の高騰や半導体不足による減産などに悩まされながらも、堅調な需要や円安に支えられて回復基調にある」(22年3月17日、『朝日』)と。他のマスコミも同様だ。 ところが、例えば自動車企業(輸送機器業界)の利潤は国内の労働者からの剰余価値だけではなく、その多くを海外子会社、関連会社から「回収」したものが合算されている。つまり「海外収益」が多く含まれている。 自動車は既に海外で、内外の全労働者数に対して、半数近くを雇用し、とりわけ東南アジアや中国の低賃金労働者から日本や欧米の子会社の労働者よりも数倍の利潤(搾取した労働分だ)を稼ぎ出している。海外子会社、関連会社の「収益率」(投資残高比較)を見るなら、欧米ではわずか4~5%なのに、アジアでは20%~30%超である。 海外「生産比率」をみても、自動車業は断トツであり、いかに海外進出で利潤を稼ぎ、国内に「回収」しているかが分かるのである。 これは自動車業界だけではない。他の電機や化学の製造業も、また非製造業(運輸や通信サービスや小売りなど)もまた、急速に海外進出を進めている。 要するに、日本の資本は共通して、特にここ10数年間、国内の生産減少や売上高減少をアジア進出でカバーしてきたのである。だから、日本の労働者は、「管理春闘」によるいかさまの「満額回答」(実質賃金が昨年より1%も低下する)に屈するのではなく、団結した労働者の力で資本との闘いを貫徹し、そのことで、より搾取されているアジアの労働者をも励まし、連帯を示すことができるのである。 (W) 【1面サブ】 さらに深まるトヨタの労資一体化「労使協議」から「労使経営会議」へ!トヨタの春闘がどこよりも早く終了した。2月23日に行われた「労使協議会1回目」で豊田社長は「異例ではありますが、賃金・賞与について『会社と組合の間に認識の相違はない』(組合要求は16日に提出)ということを、このタイミングではっきりお伝えしたい」と語った。1回目の「労使交渉」で組合の要求を受け入れる発言をしたことは、「トヨタ自動車創立以来、始めてのこと」とマスコミでも大きく報じられた。 今年の春闘において日産、ホンダ、マツダ、三菱も満額回答で妥結した。「百年に一度の変革期」の競争を勝ち抜くためには、労働者の反発を抑え労資協調の組合との関係を維持し続ける事に資本が利益を感じているからに他ならない。 トヨタは2018年にベアを非公開にして以降、春闘の表舞台から姿を消した。18年以降のトヨタの春闘(「春の労使協議会」)を簡単に振り返る。 3回目の「労使協議会」(3月9日)で豊田章男をして次のように言わしめた。「従来の『労使協議』から抜け出し、全員参加の『経営会議』のようになってきたと思っております。そんな話し合いをしてくれた皆さんに感謝申し上げます」と。トヨタの春闘はついに、22年に「全員参加の『経営会議』」に〝昇華〟したのだ。その有様を明らかにし、それを打ち破る手掛がどこにあるのかを考える。 豊田章男の攻勢が開始されたのは、18年に「100年に一度の危機感を本当に持っているならば……『私と一緒に闘ってくれないだろうか』と、寂しい気持ちになった」と振り返ったことに始まる。19年に「会社、組合とも生きるか死ぬかの状況がわかっていない」と「労使協議会」で会社幹部、組合に対して怒りを発し、賞与は例年の夏冬同時発表に対して夏のみ回答し、冬は秋の「労使協議会」で回答した。組合は「状況認識の甘さを深く反省」し、豊田章男の軍門に下った。 19年5月には、自動車工業会会長の立場で「終身雇用は難しい」と発言し衝撃を与えた。20年から「労使協議会」は役員・幹部、基幹職代表・組合の並びを三角形に配置、組合は「人事評価に基づく配分」を基に賃上げを要求した。豊田章男は「もっともっと競争力を。高い賃金は競争力を失う」と発言し、ベアゼロで組合要求を下回る回答で妥結した。春闘集会は中止(コロナ禍を理由)。組合は支持政党に自民党を含めると発表し、翌年の衆院選立候補取りやめを示唆。21年には成果主義賃金体系に移行。組合はベア要求を公表しないで、「過去はベアの上げ幅で、グループ、産業全体を引っ張ってきた部分もあったが、このやり方では仲間の幸せにつなげていくことは難しい」(西野委員長)。そして、会社は賃上げ、賞与を満額回答。 「労使協議会」では今後、「カーボンニュートラル」「デジタル化」の「二本柱」を労使一体で取り組むことを決定した。組織内候補の衆院議員の立候補を取りやめ自民に議席を譲る。 22年の2回目の「労使協議会」で副社長を務めた河合おやじ(肩書)は「19年までのこの時期は「春闘」一色で、満額獲得のために、職場会や拡大職場会などを開催し、朝も昼も、いたるところで「ガンバローコール」をやり、最後の100円玉を積み上げることに向かって取り組んでいたことを思い出しました。」19年以降トヨタから組合運動が過去の「思い出」として語られるまでに姿を消した。「第3回労使協議会」に向けて西野組合委員長は「自動車産業全体への貢献・持続的成長の原動力となるトヨタで働く一人ひとりの成長と能力発揮、および、デジタル化の観点から議論させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします」と卑屈に発言した。 豊田章男から「全員参加の経営会議」と言われ、会社役員から春闘を「思い出」として蔑まれながら、会社に〝拝跪〟するための「労使評議会」に嬉々として出席する組合執行部など不要である。 トヨタの仲間たち!労働者の誇りを取り戻そう!労働者は賃金と引き換えに身も心も売り渡したわけではない! (古川) 【飛耳長目】 ★3月3日、「平和の守護者」と名付けられたビデオ教材がロシアの全国の学校で流され、小6から高3までの500万人が強制的に視聴させられた(産経新聞3・15)。国営テレビの司会者が12歳の人気歌手を諭す内容で、まずウクライナが長年ロシアと歴史や文化を共有してきたのに拘わらず、14年に親欧米勢力が不当に権力を奪取。その後ロシア系住民を殺害し続けてきたため、ロシアが立ち上がる必要があった。またウクライナがNATOに加盟することで起こる戦争を未然に防いだと力説★「ウクライナで戦争が起きているかの映像は、別の戦争のもので、ゲームから取ってきたものもある」、「SNSで拡散している市街地への爆撃や市民の殺害動画は、全てフェイクだ」と教え、学校ではプーチンの意図に沿った授業を進めること、教師は政府の公式発表以外は信じさせないよう指導せよと命じている★戦争にプロパガンダはつきものだ。日本でも戦前、教師が天皇制愛国主義をたたき込み、子らを戦場へと駆り出した。しかし逆から見ると、どんなに報道統制が強まろうとも、SNSなどを通じてこの戦争の真実がロシア国民にじわじわと浸透し始めていることを物語る。ロシアの教師達よ、戦争の真実を教えよ。全ての労働者よ、プーチン政権打倒に立ち上がれ! (義) 【2面トップ】 ブルジョア秩序に拝跪国連憲章、憲法9条で平和求める共産党ロシアのウクライナ侵攻は、屈することのないウクライナ労働者人民の果敢な闘いによって反撃されているが、残虐な無差別爆弾などによって街が破壊され、労働者人民の悲惨な大虐殺となっている。我々労働者はプーチン政権の侵略戦争を決して許すことができない。ここでは、「社会主義・共産主義の社会をめざして」の旗を掲げる共産党の闘いの提起は、その目標に近づくものになっているのかを検討し、労働者はどのように平和を求め実現すべきかを考えたい。 ◇ブルジョア体制維持のためのプーチン非難の合唱2月24日にプーチンは、米国や北大西洋条約機構(NATO)の脅威が迫っている、「ロシア、そして国民を守るにはほかに方法がなかった」と主張し、親ロシア派組織とウクライナ軍の対立が続く同国東部での「特別軍事作戦」の実施を宣言、「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つ」と警告しつつ、「ウクライナ領土の占領はない」とも話し、ウクライナに本格侵攻した。 国連のグテーレス事務総長は、「ウクライナの領土保全と主権を侵害するものであり、国連憲章の原則に反していると考えている」、バイデン米国大統領は、「侵攻の始まりだ」、岸田首相は、「ロシアの行為はウクライナの主権、領土の一体性を侵害するもので認めることはできない。強く非難する」とした。そして共産党志位は、「国連憲章、国際法の基本原則に反した侵略行為」、「独立承認と派兵指令のすみやかな撤回を強く求める」とした。志位の主張は、世界のブルジョア支配層と同じであり、今あるブルジョア支配体制の維持を図るために、プーチンを非難したといえる。 ウクライナのゼレンスキー大統領は「我々は自分たちの地で何をも誰をも恐れない。誰にも何も渡さない」と「戦時体制の導入」を決めた。プーチンのような侵略者に対する抵抗運動は当然であるが、労働者組織であれば「自分たちの地」を「誰にも何も渡さない」ためではない。むしろ「労働者は祖国を持たない。かれらのもっていないものを、かれらから奪うことはできない」(共産党宣言)のであり、労働者は国を守るためでなく、労働者の階級闘争を抑圧するプーチンの侵攻を撃退するために闘うであろう。 ◇現実を無視して志位は「憲法9条を生かせ」と呼びかける志位は、「ウクライナの主権と領土を侵し、国連憲章、国際法を踏みにじる、まぎれもない侵略行為であり、断固糾弾する。ただちに軍事行動をやめ、撤退させることを強く求める。国際社会が、ロシアのウクライナ侵略反対の一点で団結し、侵略をやめさせることを呼びかける」、「いま国際社会が、『国連憲章を守れ』という根本的な要求とともに『国際人道法を守れ』とみんなで声をそろえて言うべき大事な場面になっている」、「相手が軍事や力の論理、核兵器で威嚇してきた場合に、『こっちも軍事でいこう、力でいこう、核でいこう』となれば軍事対軍事の果てしない悪循環になり、戦争につながる一番危険な道に落ち込む」、そして「核兵器で世界の諸国を威嚇するものであり、今日の世界において、決して許されるものではない」、「日本は憲法9条を生かし、平和的解決に力を尽くすべき」とした。 バイデンは、「破滅的な人命の犠牲と苦しみをもたらす計画的な戦争を選んだ。この攻撃がもたらす死と破壊はロシアだけに責任がある」、EUは、「ロシアは、正当化できない行為で国際法を著しく犯し、欧州と世界の安全保障と安定を損なっている」と最大限の言葉で非難して、直ちに敵対的な行為を中止するよう要求し、岸田は、「力による一方的な現状変更の試みであり、明白な国際法違反だ」、「米国をはじめとする国際社会と連携して迅速に対処していく」とした。志位もやはり、ブルジョア的世界秩序を侵すプーチンを非難したが、「憲法9条を生かした平和」を加えている。 志位が「憲法9条を生かした平和」を加えたのは、武力によらない「平和的解決」を言うためである。しかし9条の下で既に日本は世界5位の軍事力を持ち、アメリカの核の傘に覆われ、その核の「威嚇」を頼りに防衛されている現実は触れられていない。 志位は、「この危機に乗じて憲法9条を攻撃し、国連は無力だと言い募る議論をする」人がいるが、「そうした議論が行きつく先はどこか。『力の論理』をひたすら信奉することです。それではいま世界で『力の論理』を最も野蛮に行使しているのは誰か。プーチン大統領ではありませんか。『力の論理』に『力の論理』で対抗することを否定し、紛争の平和的解決をとことん追求しようというのが、国連憲章であり、憲法9条です」(2・27)と提起する。労働者の階級的闘いに未来を切り開く力があることに信頼を置けない志位は、国連や憲法9条に頼るしかない。 ◇階級的闘いの前進をしかし、安保理はロシアのウクライナ侵攻を非難する決議をロシアの拒否権行使によってできなかった。これに代わって国連総会は、「ロシアを非難し、ウクライナからの即時撤退を求める決議案を採択したが、ロシアに対する軍事的措置、非軍事的措置は、安保理での非難決議が採択されなかったので、何ら実際にとれなかったのである。 そして、今回の事態のみならず、これまでアメリカのイラク侵攻、ロシアのシリア内戦への軍事介入などの数多くの紛争を国連は抑止し、解決できなかったのであり、どうして国連が無力だと言えないであろうか。そして、「9条を守れ」といっても、既に述べたように、そもそも自衛隊という軍隊を有しているのだから、守られていない。志位は、「『力の論理』に『力の論理』で対抗することを否定し」と言うが、力対力はブルジョア社会の現実である。我々はこの現実から問題を立て、ブルジョア社会の社会主義的変革のための労働者の階級的闘いを準備しなければならない。 (佐) 【二面サブ】 スタグフレーションの危機も日銀、大規模緩和策を継続物価上昇が止まらない。総務省が18日発表した2月の全国消者物価指数(2020年=100)は、価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が100・5と、前年同月比0・6%上昇した。上昇は6カ月連続である。特に目立つのはエネルギー価格だ。 原油高騰の影響で,電気代、ガソリンなどのエネルギー全体では20・5%の上昇となり、1981以来41年ぶりの上昇となった。エネルギーの内訳では、電気代が19・7%、ガソリンが22・2%、灯油も33・5%と大幅に上昇した。しかもこれらの数値には2月24日から始まったロシアのウクライナ侵略の影響は「直接反映されていない」(総務省)と言うのだ。 原油高による輸入コストの上昇などで、輸入に依存する食料品の多くも値上がりしている。小麦粉9・2%をはじめ輸入牛肉や調理カレーは2桁の上昇で、外食全体でも1・1%の値上がりである。 統計から除かれた野菜などの生鮮食料品の値上がりは1割以上であり、政府統計が示す消費者物価の上昇率が、いかに現実離れしているかは明らかである。また政府の統計では、これまで高額に設定されてきた携帯電話料金の引き下げなどを入れているために、消費者物価の上昇は実際の生活実態とはかけ離れたものになっている。 しかし、これだけにとどまらない、3月に入ってメーカーから発表された主な値上げを見ると、明治が4月からチーズ、ピーナツクリームなど食品24品目を5・4~7・9%、5月からカレーなどレトルト食品143品目を3~11%、雪印メグミルクが3月半ばから5円、マクドナルドがハンバーガーを10~20円、味の素が調味料を6月より2~13%、ローソンがサンドイッチなど50品目を3月より5~8%値上げ等々とずらりと並んでいる。 ◇欧米は大量緩和策を転換、ゼロ金利解除へ消費者物価を押し上げている主な要因は、新型コロナによる生産の縮小、運送費の高騰だけという訳ではない。このほかに、景気振興策として政府がばら撒いたカネや新型コロナで休業した企業支援や職を失ったり、休職したりした労働者に対する生活補助策として支給した大量のカネが物価上昇をもたらしているのである。 米国では、消費者物価の上昇率は昨年12月で前年同月比7・0%、その後も上昇を続け最近では8%近くまで高まった、これはレーガンが財政拡張政策を行った1982年以来、40年ぶりの高水準である。 中央銀行に相当する米連邦準備理事会(FRB)は、新型コロナ以前に過剰生産に見舞われていた企業救済に加えて、新型コロナ禍に対応するために、ゼロ金利と量的緩和を導入、国債など過去に例のないペースで大量に購入し、保有資産は2年で4兆ドルから9兆ドルへと倍増させた。巨額の緩和マネーは急速な物価上昇をもたらしたのである。 国家財政は巨額の債務を抱え、消費者物価の上昇は労働者、大衆の生活を直撃している。このため、大量緩和策を転換、インフレ抑制に向けてFRBはゼロ金利政策を止め、また保有資産を減らす量的引き締め策に転じることになった。 金利については0~0・25%から0・25~0・50%に引き上げる。利上げは0・25%ずつとして今回を含めて22年度中に7回、23年度中にも3~4回行い、最終的には2・8%程度にすると想定している。一方、利上げ開始後、新型コロナ前の2倍に膨らんだFRBの保有資産も減らしていく方針だという。大量緩和策の転換は、米国のみではなく、英、仏、独ら西欧諸国も同じだ。 インフレ抑制のための利上げとはいっても、財政支出に依存してきた経済が引き締め政策によって悪化する可能性もあり、緩和政策を予定通り続けられるという確実な保障はない。これは現在の資本主義に内在する矛盾である。 ◇金融緩和策に固執する日銀欧米諸国が緩和政策から金融引き締めに転換する中にあって、日銀はこれまでの緩和政策を続けるという。黒田日銀総裁は18日の記者会見で「物価上昇の大半が輸入価格で、金融を引き締める必要もないし適切でもない。予想物価上昇率や賃金の上昇率がさらに物価の上昇をもたらす二次的な波及があれば金融政策の変更もあり得るが、日本はそういう状況に全くない。物価が2%程度になる可能性もあるが、現在の金融政策の必要性を意味していない」と述べている。 黒田は、物価上昇は輸入商品に関するもので、一時的な要因だから緩和政策を続けていくという。しかし、物価上昇は原材料やエネルギーの高騰によるものであり、日本はその大半を輸入に依存している。ロシアの世界輸出に占める割合は、原油12%、天然ガス25%を占め、小麦はウクライナとロシアで3割を占めている。ウクライナ情勢の影響を一時的な問題と済ませることは出来ない。 黒田はこれまで緩和政策によって需要を喚起し、投資を活発にすると大見得を切ってきた。しかし、約9年も大規模な緩和策を続けてきたにもかかわらず景気回復の兆しも見えず経済は低迷を続けてきた。 欧米がインフレ抑制のために金利を引き上げるのに対して、日本は〝超低金利〟を継続すれば、円の為替レートは低下する。米国の金利引き上げ宣言で、ドルと円の為替レートは1ドル=114円台から1ドル=121円にまで低落した。これは始まりに過ぎない。米国の金利引き上げが2回、3回と続いていけば、さらに円安は進むだろう。 〝円安〟になれば輸出が増加し、生産が拡大するというのが黒田の御託宣であるが、実際には輸出は伸びず貿易赤字が定着してきたのが現実だ。というのは、かつての輸出産業であった鉄鋼、造船、電器、化学産業は衰退し、自動車などは国内の生産を拡大するよりも海外に投資する企業が増えたからだ。 〝円安〟は、輸入物価の上昇をもたらす。原材料や食料品の多くを輸入に依存している日本にとって、〝円安〟は企業にとって生産コストを増加させ、その負担は労働者の賃金の圧迫、労働条件の悪化をもたらしてきた。かつてのような円安が輸出を促進するような日本の経済構造ではなくなってきている。 現在の物価上昇が続けば、企業や労働者の負担を増加させ、経済の衰退を加速させることになるだろう。黒田日銀の金融緩和継続政策は、インフレと不況の共存=スタグフーションをもたらしかねないのである。 (T) |
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