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労働の解放をめざす労働者党機関紙『海つばめ』

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郵政民営化の中で何が起きているのか?
郵政労働者は告発する!

■民営化の嵐の中で最大の御用組合の登場――JPU臨時全国大会議案批判
■郵政民営化――今、職場では/郵政現場からの報告
■恐竜化か、リリパット化か――郵政民営化のジレンマ
■西川善文著『挑戦――日本郵政が目指すもの』/民営化に賭けるトップの本音


憲法改悪と
いかに闘うか?


■改憲に執念燃やす安倍――「国民の自主憲法」幻想を打ち破れ
■労働者は改憲策動といかに闘うか
■国民投票法をどう考えるか
■安倍の「美しい国」幻想――憲法改定にかける野望


本書は何よりも論戦の書であり、その刊行は日和見主義との闘いの一環である。
マルクスが『資本論』で書いていることの本当の意味と内容を知り、その理解を深めるうえでも、さらに『資本論』の解釈をめぐるいくつかの係争問題を解決するうえでも助けとなるだろう。


全国社研社刊、B6判271頁
定価2千円+税・送料290円
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「不破哲三の“唯物史観”と『資本論』曲解』(林 紘義著)」紹介(『海つばめ』第1048号)


全国社研社刊、B6判384頁
定価2千円+税・送料290円
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「天皇制を根底的に論じる『女帝もいらない 天皇制の廃絶を』(林 紘義著)」(『海つばめ』第989号)他

理論誌『プロメテウス』第54号
2010年10月(定価800円)

《特集》菅民主党のイデオロギーと“体質”
・神野直彦の思想と理論――菅直人のブレインは「曲学阿世の徒」
・原則なき寄せ集め政党――顕現するブルジョア的“体質”
反動的な「文化」の擁護に帰着――レヴィ=ストロースの「文化相対主義」批判


 
 
 教育のこれから
   「ゆとり」から「競争」
   そして「愛国教育」で
   いいのか
 林紘義 著 7月1日発売

  (全国社研社刊、定価2千円+税)
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まかり通る「偏向教育」、「つくる会」の策動、教育基本法改悪の動きの中で、“教育”とは何であり、いかに行われるべきかを、問いかける。  


 第一章  
教育基本法改悪案の出発点、
森の「教育改革策動」
 第二章  
破綻する「ゆとり」教育の幻想
 第三章  
“朝令暮改”の文科省、
「ゆとり」から「競争原理」へ
 第四章  
ペテンの検定制度と「つくる会」の教科書
 第五章  
歴史的評価なく詭弁とすりかえ
つくる会教科書(06年)の具体的検証
 第六章  
日の丸・君が代の強制と
石原都政の悪行の数々
 第七章  
憲法改悪の“露払い”、教基法改悪策動

●1424号 2022年4月10日
【一面トップ】 ロシアによる大虐殺糾弾――「停戦協議」を尻目に、攻撃を継続
【1面サブ】 対ロで広がる軍備拡大――ブルジョア国家の軍事同盟に期待はできない
【コラム】 飛耳長目
【二面トップ】 インフレの爆弾抱える――金利指し値で無制限の国債購入
【二面サブ】 沈む時代――教育荒廃の現場から

※『海つばめ』PDF版見本

【1面トップ】

ロシアによる大虐殺糾弾

「停戦協議」を尻目に、攻撃を継続

 ロシアのウクライナ侵攻から約1カ月。ウクライナ政府は、NATO加盟をやめて「中立化」を認めることを明らかにし、両国の「停戦交渉」が行われてきた。しかし、ロシアは「停戦」に向けての交渉継続を謳いつつも、なお無差別殲滅攻撃を行うなど、野蛮な侵略行為を続けている。

◇ウクライナの停戦構想

 ウクライナ、ロシアは双方とも、一致点が見つかったとして停戦交渉を行ってきた。その一致点とはウクライナの「中立化」である。ウクライナを「中立」の立場にするということは、ロシアの影響を断ち切り、欧米のような資本主義国として、EUに加盟し、NATO参加しようとしたゼレンスキー政権にとって後退である。

 一方、プーチンにとって、ウクライナの「中立化」だけでは不満足だろう。プーチンの軍事侵攻の意図は圧倒的な軍事力によって一気にウクライナを制圧、ゼレンスキー政権を打倒し、傀儡政権を樹立し、ロシアの勢力下におくことであった。当初プーチンは、「ゼレンスキーの退陣」「非武装」を唱えていた。しかし、ロシアの軍事侵略に対するウクライナ人民の必死で、勇敢な闘いによって、一気に制圧するというプーチンの野望は頓挫し、ゼレンスキー政権を相手に「中立化」で停戦交渉に応じることになったからである。

 停戦のためのゼレンスキー政権の具体的提案は、ウクライナがNATO加盟を放棄する代償として、ウクライナの安全を保障する機関の設立を求めるというものである。そのメンバーとして、アメリカをはじめイギリス、フランス、中国、ロシアの国連の安全保障理事会の常任理事国ほか、ドイツ、トルコ、ポーランド、イスラエル、イタリア、カナダを挙げた。

 想定されているのはNATOと「同等以上」の強力なものという。ウクライナが攻撃を受けた場合、保証国は3日以内に会議を招集し、軍事支援を行わなくてはならないとしている。(3・31、「日経」)。

 さらに、ロシアが一方的に編入したクリミア半島は「今後15年以内」の話し合いできめると帰属問題を棚上げし、ロシア派が支配する東部のドネツク、ルガンスク地域については停戦合意に含めず、別にウクライナ、ロシアの両首脳で話し合うこと、今回の戦争でロシアが占領した東部地域については「開戦前の状況に戻す」こと、である。

 しかし、「東部2地域の全州の解放」を目指すとしているロシアは、「開戦前の状況に戻す」ことに同意はしないだろう。また侵略の当事国であるロシアを含んだウクライナ「中立化」保証のための機関が生まれるという展望はないし、仮にできたとしても無力なものになるだろう。

 ロシアはウクライナが「中立化」を認めたことで、停戦を目指すといっても、本当にゼレンスキー政権転覆の意図を放棄したのかは定かではない。プーチンは「停戦」を口にしながらも、東部地域に軍隊を集中し攻撃を行い、他の地域でも砲撃を続けている。プーチンにとって「停戦」交渉は、軍の体制を立て直し、新たな攻勢のための準備であるかもしれない。いずれにしても、ウクライナ情勢の行方は、現在のところ定かではない。

◇NATOにもロシアにも反対

 ゼレンスキーはNATO加盟を止め、ウクライナの「中立化」に同意したことは、大きな「譲歩」だといっている。しかし、労働者にとってプーチンの独裁体制のロシアにも、欧米帝国主義国の軍事同盟であるNATOにも属さないという意味での「中立化」は「譲歩」ではない。労働の搾取を原理とする資本の支配からの解放をめざす労働者にとって、欧米の帝国主義陣営にもロシアの国家資本主義の陣営にも反対だからである。ウクライナとロシアの労働者の連帯と団結こそが労働者の立場である。

 しかし、欧米帝国主義の覇権の東への拡張と軍事大国ロシアの覇権主義とのせめぎ合いの挟間にあって、ゼレンスキーは欧米帝国主義=NATOを選んだ。彼は自由主義的資本の立場からNATO加盟を目論んだのである。これは、プーチンのロシアに脅威を与えるとして軍事侵略に口実を与えることになった。もちろんNATO加盟を謳わなかったならばプーチンのウクライナへの軍事侵略は起こらなかったということを意味しない。プーチンは、旧ソ連崩壊後、かつてのソ連圏に属した東欧諸国が次々に独立し、NATOに加盟したのに対抗し、かつての帝政ロシア版図の復興=大ロシアの実現を目指しているからである。

◇欧米帝国主義とロシア国家資本主義の対立

 ウクライナ悲劇の責任は、プーチンの覇権主義にだけあるのではなく、欧米帝国主義にもある。米バイデンらは、プーチンのウクライナ侵略を非難し、自分たちが「平和の味方」であるかに振る舞っている。しかし、米国は1962年、ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設しようとした時、米国を危機に陥れる暴挙として、核戦争の一歩手前まで緊張を激化させた。また、ソ連崩壊後、米国が世界の唯一の超大国となった時には、欧米のようなブルジョア「民主主義」の体制こそが最良の社会制度であるとして、中東を「民主主義化」するといって戦争を仕掛け大量の軍隊を送り、多くの人民を殺傷し、これに反発して中世の暗黒社会を理想化するイスラム急進主義(IS)が台頭するなど泥沼の状況を生み出した。

 プーチンロシアの無差別攻撃によって、ウクライナは都市が丸ごと廃墟と化し、多くの人々が殺傷され、生き残った人々も住む家も食料もなく、寒さに凍えながら爆撃に耐える生き地獄の様相を呈している。こうした悲惨な状況を生み出した根底には、欧米の帝国主義とロシアの国家資本主義の覇権争いがある。

 労働者は、プーチンの野蛮な軍事侵略に反対して闘っているウクライナの人々の闘いを支持する。それと同時に欧米の帝国主義(及びそれを支援しする日本)を信頼せず、資本の支配に反対して、その克服のために闘う。帝国主義、反動勢力の支配が存在する限り、野蛮な戦争をなくすことは出来ない。世界の恒久平和、国境を越えた労働者の協同を実現していくのは、労働者の連帯と階級社会克服を目指す労働者の国際的な連帯と階級的な闘いである。  (T)

   

【1面サブ】

対ロで広がる軍備拡大

ブルジョア国家の軍事同盟に期待はできない

 プーチンのウクライナ侵攻で危機感を強めた〝西側〟が、ロシアからの防衛のために軍備増強を進めている。プーチンがNATO拡大に対抗しようと戦火を開いたことが、一層の軍備増強を招いたのだ。プーチンは失地回復、大ロシアを夢想したかもしれないが、人々を苦しめるだけの、利己的な民族主義(熱狂的なファシストを見よ)の反動性を満天下に示した。

 〝西側〟盟主である米国のバイデンは先月28日に公表した2023会計年度の予算教書で、国防費を22年度比4%増の8133億ドル(約100兆円)にするよう議会に求めた。中国への対応に加え、ロシアへの抑止力強化のため要求額の伸び率が拡大、欧州に展開する米軍の演習や訓練、基地の整備費用などに充てる基金の「欧州抑止イニシアチブ」に22年度比14%増の42億ドルを要求、NATO加盟国支援の予算を含めると69億ドルである。NATO未加盟のウクライナへの武器供与(対戦車ミサイルや地対空ミサイルシステムなどの提供を想定)や経済支援などにも6・8億ドルを投じる計画だ。

 バイデンはウクライナが米国の同盟国ではないからと、ロシア軍がウクライナ国境に軍隊を集結させていた時点で、ウクライナを防衛する義務はないと、プーチンにも兵力を派遣するつもりがないと言明し、侵攻を招くような外交としての失敗をし、権威失墜した挽回のためであろうか。武器供与が「火に油」になる恐れもある。だが、けっしてウクライナ人民はNATOの手先としてロシアと戦うわけではない。

 これまでロシアとは対立よりも協力を優先してきたドイツのショルツ首相は、先月27日、国防予算におよそ13兆円を積み上げ国防費のGDP比を2%に引き上げると発表。NATOは国防費支出を24年までにGDPの2%以上に増やす目標を掲げているが、加盟30カ国中、21年時点で達成していたのは10カ国、未達の国が多かった。ドイツも1・53%であったが2%となると、22年のGDPからの試算では、755億ユーロ(約10兆円)となり、インドやロシアを上回り、米国と中国に次いで世界3位(20年は7位)になるという。過去の大戦の敗戦国として軍備は〝控えめ〟であったが、経済力に見合った軍事力を保持して、ブルジョア的にうまく立ち回ろうということであろう。

 ロシアの侵攻を受けて開かれた臨時のEU首脳会議閉幕後の先月25日、EU議長国フランスのマクロンは、「この悲劇的な瞬間に、あえて言うならば、我々には欧州が再び強国になる以外の選択肢はない」と述べている。マクロンは安全保障に関するEU統合の推進論者であり、EUの自立性を高めるべきとの立場だ。

 〝西側〟といっても一枚岩ではなく、米国の影響力が大きいNATOとの軍事協力も加盟各国の思惑がある。東欧を中心に、NATOとの協力深化を望む国が増えるだろうし、EUの戦略の見直しもあるだろう。

 デンマークも国防費を33年までに2%へ引き上げると発表。ポーランドは、2・1%から3%に増やすと表明、ルーマニアやリトアニアなどは少なくとも2・5%への増加を目指している。国防費のGDP比目標の引き上げや予算増額を表明した欧州の国は少なくとも17カ国に上るという。

 ブルジョアたちの〝安全保障〟は戦争準備でしかない。国家の対立を乗り越えて闘おう。 (岩)


       

【飛耳長目】

★現実世界の混沌をエネルギー問題から考えてみた。ロシアのエネルギー産業は国家予算の4割強を占め、欧州のロシアへのエネルギー依存度は高く、特にドイツは天然ガスの55%を頼る★ロシアの野蛮なウクライナ侵攻は、潤沢な軍事費で維持する軍事力と、エネルギー供給の生命線を握られた欧州の弱点を過信した暴挙だった。プーチンの計略は誤算だった★目を転じて、エネルギー問題は地球温暖化抑止と直結している。世界的に見れば、資本主義的発展はアフリカ大陸を筆頭に広大な地域を残し、成長を目指す諸国のエネルギー需要増は必至だ。難問解決の国際協調は成るのか★こうした時、未来のエネルギー源たる核融合研究に歴史的成果との報が相次いだ。欧州の共同研究施設で2月、5秒間核融合を維持、過去2倍のエネルギー発生に成功。米でもレーザー核融合実験で、投入エネルギーの7割(過去の8倍)の出力に成功★核融合は核分裂よりも核廃棄物は格段に少なく、CO2排出も暴走事故も原理的にない。幾多の技術的課題をクリアする度に国際的競争と協力も強まり、今世紀半ばには発電可能な実証炉が完成とも★人類が賢明かつ有効に使用できるなら、新しい未来は切り開かれる。そのためにも、領土・国益に執着する反動勢力を一掃する必要がある。  (Y)


【2面トップ】

インフレの爆弾抱える

金利指し値で無制限の国債購入

 日銀は長期金利の上昇を抑えるために、2月14日に続いて、3月29日から複数日にわたり、10年物国債の利回りを0・25%に指定した「無制限の国債購入」(連続指し値オペ)を始めた。日銀の連続指し値オペは初めてである。この日銀の行動は何を意味するのか。

◇物価上昇の「質の違い」?

 日銀が利回りを指定して国債を無制限に買うのは、金利上昇圧力が高まっている日本の金融市場に断固とした姿勢を示すことにあった。

 既に、企業間で取引される原材料や製品価格が1年前に比べて10%上昇し、消費者物価も食用油が3割、ガソリンや電気代が2割、玉ねぎが7割程も、相次いで上がっている。

 にもかかわらず黒田は、3月18日の日銀会合後の記者会見で、景気回復を優先し金利を押さえるために、国債を無制限に買うと述べた。

 黒田は、「日本は金融緩和を引き締める必要もないし、適切でもない」とし、欧米との物価上昇の「質の違い」を理由にあげた。

 その「質の違い」とは、欧米では昨年来から日本を上回る「景気回復が進み」、「賃金上昇とセットで物価も上がっている」、だが日本の上昇は「原油や食料品など輸入価格の影響による一時的なもの」だと。

 日銀は金利を上げて景気を冷やすことを極端に恐れる。かつて、70年代半ば、「石油ショック」をきっかけに発生したインフレを抑えるために、金利を引上げた結果景気が冷えたこと、80年代後半の「バブル経済」に金利引上げなど金融引き締め策を講じた結果、その後の「長期低成長」が続いたこと、これらが頭から離れないようだ。

 黒田には、資本主義が「利潤のための生産」、「生産のための生産」を行い、常に資本の過剰を生成することを理解しない。またバブル期に発生した過剰な資本を徹底的に整理できなかったゆえに、その後の長銀や信金などが破産したという反省もない。だから、黒田日銀にとって、景気を冷やす金利引き上げは、もっての他なのだ。

 しかし、物価高騰が進めば、市中金利の上昇は避けられず、国債の流通利回りも上昇圧力を受ける。国債の流通利回りが上がるなら、政府が発行する新規国債や借換債の金利が上昇する。

 そうなれば、政府の「国債利払費」が増えて予算計上に影響を与える。さらには、日銀がブタ積みしている国債の時価が下落することになる。

 だから、日銀は一方で物価高騰を避けなければならず、他方で、国家の借金政策を継続するために金利上昇も避けなければならない。

◇〝インフレ現象〟発生まで金利抑制と

 今後、物価がさらに上昇しても、インフレが爆発したと判断しない限り、黒田は金利を抑え続けるようだ。しかし、物価の上昇が続けば、市中金利は上昇圧力を受け、銀行は貸出金利を上げるようになる。そうしないなら、銀行は実質的な損害を被るからだ。

 実際、民間銀行大手の三井住友は「10~15年住宅ローン固定金利」を19年4月の1・53%から徐々に引上げ22年4月の金利を2・17%にした。

 だから黒田が国債の長期金利を剛腕で抑え込んでも、物価高騰が続けば、銀行金利は上昇しブレーキが利かない恐れがある。それでも、黒田は国債利回りを0・25%以内に抑え込むつもりなのだ。

 黒田は13年の日銀総裁就任当時、「年2%の物価上昇」を不況克服の証と見なし、「異次元の量的緩和策」を開始した。その後、安倍の財政支出の助けを借り、次には、ゼロ金利やマイナス金利を導入してきた。

 それでも、消費者物価指数は2%を超えなかった。さらに菅政権の時に、携帯電話の通信料引き下げ(△50%)が行われ、消費者物価指数は大きく押し下げられた。この携帯電話通信料を除けば、現在の消費者物価指数は対前年比2%をとっくに超えているだろう。

 にもかかわらず、黒田は「無制限の金利指し値オペ」によって、円安がさらに進み、輸入物価上昇と国内物価への波及があろうと、銀行の貸出金利が上昇していこうと、米国のような〝インフレ現象〟が見えるまで国債を買い続けようとしている。

◇インフレに点火する可能性

 丸々9年間、日銀はあの手この手で量的緩和を実行してきた。だが、黒田の言うように、今なお経済回復の兆しは見えない。産業の刷新がなされず、新たな設備投資が進まず、銀行から民間への貸付もたいして行われなかった。

 だから、政府が借金までして財政を膨張させ、そのカネが市場に出ていくように日銀が低金利政策を講じた(国債の大量買い入れ)が、多くのカネは「日銀当座預金」に積まれたままである。

 日本の大企業は90年代以降、長期低迷を打破することができず、ただ、労働者の非正規化を図り賃金引下げによって利潤を確保してきた。大企業は半導体や液晶や通信機器などの部門で世界との競争に敗れ、次々と撤退していった。大企業の面々は、新たな儲け口を切り開くために、また国際競争力を強化するために、海外投資を増やしていく。とりわけ大きな市場であり、成長著しい中国やASEANに直接投資を急増させていったのである。

 しかし、大企業や政府にとって、国内の停滞をそのままにすることはできない。だから、岸田政権は「新しい資本主義」を掲げて登場し、それまでの市場まかせではなく、国家主導で経済停滞を打破しようと、国家による〝国内投資〟を始めたのである。

 この岸田の国家主導の経済によって経済回復が進み、民間企業が新たなカネを必要とする事態になれば、日銀当座預金や投資屋のカネが生産と流通部面に流れ込むことを意味する。

 その時には、黒田の願いが叶い、毎年数%の物価上昇が起きるにとどまらず、本格的なインフレの始まりになるかも知れない。

 インフレは単なる価格の高騰ではない。インフレは日銀券(信用貨幣であるが、何の内実を持たない無価値な紙幣だ)の価格標準の下落を意味し、その日銀券が流通に入ることで物価高騰を引き起こす。従って、インフレは為替変動(円安)や需給差による一時的な物価高騰では収まらず、一定の期間続くことになる。

 その意味で、日銀が市中利回りの上昇を封じ込め、「無制限の買いオペ」による「利回り指定」を続けることは、一層の円安と物価上昇を招き、さらに岸田政権の国家投資と生産拡大が進展するなら、将来のインフレの点火剤になりうる。しかし、MMT派に転向した岸田政権はインフレを簡単に制御できると能天気だ。  (W)


【二面サブ】

沈む時代

教育荒廃の現場から

 神奈川の『資本論』学習会で発行している会報への投稿を紹介します。

ーーーーー

 「O先生、出口をふさいで!」 同僚はひきつった表情で怒鳴りながら、私にそう言った。パニックを起こしたような戸惑った表情で逃げようとする女子生徒。その生徒は遅刻が多いという理由で大量の反省文を書かされ、連日大きな罵声を何時間も(時には夜の7時以降まで)浴びせられながら指導を受けていた。

 明らかにその生徒はなぜ怒鳴られているのかを理解できておらず、激昂する教師を前にパニックを起こして逃げようとし、同僚は退路を塞ぐように私に要求している。私は収容所の看守となっている自分達を発見した。数分の遅刻により何時間も居残り指導を受けていたその生徒は長時間の指導の果てに2階の職員室から飛び降りようとさえした。

 大阪維新の会が政治の実権を握る大阪府では、人事評価を給与に反映させる制度が施行されている。相対評価により上位5%の「優秀」職員は給与1・183倍にアップし、下位5%の「良好でない」職員は給与が0・.835倍にダウンする。そのための参考として教員自身の評価シート「自己申告シート」に数値目標を記入することが求められる。

 教育の具体的数値目標は、例えば多くの生徒が大学の一般入試を経験する進学校ならば進学実績の上昇を目標とするだろう。しかし、貧困や生活不安と隣り合わせの暮らしで、経済的な理由により進学は望めず、なんとか学校に行くことで精いっぱいという生徒が多い大阪府南部の多くの公立高校では、「遅刻欠席の数が一桁になるよう努力する」や、「ルールを守るよう心がけるというアンケートの項目の肯定的回答割合を90%以上にする」といったようなことが教員の具体的数値目標となる。

 そこで各教員は学校で「遅刻は3回で反省文と振り返り」といった統一的ルールで指導にあたるが、生徒はパニック障がいや高機能自閉症、発達障がいなど支援が必要な場合が多く、明らかにそうした統一的ルールにはそぐわない。そうなると「何時間も怒声をあびせて反省文を書かせるということが生徒にとって必要な支援である」と誤解する教員が多くなり前述のような光景が繰り広げられる。

 そのほかにも、指定された通学路を通らなかった、体育祭の恒例行事に日本体育大学伝統の体操をしなければならないことに疑問を述べた…などなど些細な理由でも長時間にわたる指導を行わなければならず、私を含み教員は毎日生活指導に膨大な時間を割き、職員室はいつも生徒を叱責する怒号が鳴り響いていた。

 こまごまとしたマニュアル的なルールに基づき、反省文を手に脅迫的な態度で指導する。こうした脅迫的な指導は生徒の心を閉ざし、見せかけの従順さを強制する。そして教員の心までも蝕んでいく。こうした指導に真面目に取り組んでいた同僚はある日、職場に出勤しようとすると突然足が動かなくなった。私がその府立高校に在籍していた短い間に、一人の若い同僚は退職し、一人は心を病んだ。

 マルクス『資本論』第1部第5篇第14章に「学校教師が生産的労働者であるのは、彼がただ子供の頭に労働を加えるだけでなく企業家を富ませるための労働に自分自身をこき使う場合である」という言葉があった。社会の再生産機構としての教育は社会や政治の影響を受けやすい。安倍政権の諮問機関として教育再生会議が作られて以降、その傾向が特に強くなった。

 教育再生会議にはブラック企業として名高いワタミの渡邉美樹社長が名を連ねていたことは記憶に新しい。上記のような、定められたルールの妥当性に疑問を持たず教員の成果のために子どもの消耗を強いる教育ほど、資本家にとって都合の良いものはないだろう。

 令和4年度のGDPは過去最高というニュースがある一方で、日本人の実質賃金は下がり続け、格差の広がりはとどまるところを知らない。文科省は今、「教育の市場化」を進めつつある。資本の教育支配がかつてないほど進んでいる昨今、教師が自分の仕事に求められていることに無批判であることは、権力の内面的強化に無自覚に加担していることに他ならない。

 『資本論』を読み進めてゆくと、重商主義者や古典派経済学者が労働と価値及び貨幣の関係を正しくとらえていないという批判が繰り返し述べられている。労働こそ実体であり、交換される価値や貨幣は形態である、労賃という形態が剰余労働の搾取を覆い隠している、そしてその剰余労働の搾取によって資本主義的生産様式は成り立っている、とマルクスは指摘する。

 働けば働くほど貧しくなるという労働と資本との倒錯したあり方を鋭く指摘する『資本論』の論理性は、まるで天動説から地動説への転換のようだ。日経新聞までもが資本主義の危機を唱えているこの時代に、旧態依然とした資本のための教育が低所得世帯も多い公教育の現場で行われている現状で、子供に「頑張ればなんとかなる」と叱咤激励することは、沈みゆく船の乗組員に持ち場を離れず頑張ることを強制するようなものだ。

 乗り込んだ船が沈みゆきつつある舟であることを知るためには、船と外界の関係を正しく把握しなければならない。資本主義的生産様式という外界に我々の職場や学校その他が沈みつつある。

 今、社会がその崩壊に向かって突き進みつつあることを象徴するように、破滅型犯罪が毎週のように起こっている。SNSが普及して技術的に人がつながることが容易になった一方で、どうしようもなく個人は孤立している。

 ロシアが帝国主義そのものの侵略戦争を勃発させ、日本もまた軍備増強に力を入れつつある2022年3月、この大規模な破壊の時代のそのあとを見通す視座を獲得するために、今後もマルクスの著作を研究していきたい。 (教育労働者 O)


   
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