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●1425号 2022年4月24日 【一面トップ】 「自衛隊活用」の志位共産党――「急迫不正の侵略」は中ロ想定か 【1面サブ】 改憲派の国家主義的策動――緊急事態条項の〝復活〟 【コラム】 飛耳長目 【二面トップ】 ジョブ型雇用拡大策す大企業――中高年に早期退職を強要 【二面サブ】 国連改革の幻想――ウクライナ危機を契機に国連改革案 <お知らせ> ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 「自衛隊活用」の志位共産党「急迫不正の侵略」は中ロ想定かウクライナ侵攻による国防論議の高まりの中で、「ウクライナ侵略とそれを口実にした9条破壊、改憲は許さない」と言っていた共産党志位委員長が、「日本共産党の値打ち」を宣伝するために出版した『新・綱領教室』の発表を機に、厚顔にも「自衛隊活用」を強調し、論議を呼んでいる。志位が一生懸命売り込んでいるからか、『新・綱領教室』はこの文章を書く時点では〝入手困難〟であるが、共産党綱領の俗物的見地の反動性を確認しておこう。 ◇独りよがりな「熱い問題」の提起「参院選で共産党がいい結果を収める上でも、広い国民のなかで綱領を大いに語り躍進を果たしたい」(赤旗4・14)と、国会内での『新・綱領教室』出版発表記者会で言っているように、志位は「昨年の総選挙以降、党綱領に対して一方で批判や攻撃が加えられている」、「『日米安保条約』『憲法と自衛隊』『天皇の制度』『社会主義・共産主義』などはとても熱い問題」(同前)だと語っている。 昨年の総選挙で、「野党共闘」で闘ったにもかかわらず比例票で24万票減らし、議席も2議席減らす結果に終わった共産党は、有権者の理解が不十分だったからという的外れな総括をしているわけだが、共産党の正しさに期待する支持者の中でさえ、「熱い問題」について志位共産党は正しい立場なのか疑問が広がっているのであろう。 しかし、「熱い問題」と言われる客観的な情勢があるとはいえ、『日米安保』や『憲法と自衛隊』、『天皇制』、『社会主義・共産主義』などに限らず、共産党の主張は健全な意識の労働者からは冷淡に受け止められている。 共産党は2020年の綱領改定で、中国について、「社会主義を目指す国」という規定を削除した。「これは不破や志位らが、天下の大バカ者であることを白状したに等しい」(『海つばめ』1369号2020年1月19日)と、当時我々は批評した。「今のロシアは言うまでもなくスターリン支配下の旧ソ連や、毛沢東の支配下の中国も、旧〝実権派〟の孫子(まごこ)の鄧小平や今の習近平らも、みなブルジョア的存在であり、すでに「社会主義」的存在でないばかりか、むしろ帝国主義的存在にさえ転落していることは周知のこと」(同前)だからである。 この綱領を改定した28回大会決議は、さらに総選挙に向けて、野党連合政権に日米安保条約の廃棄、憲法9条の完全実施など共産党独自の見解を持ち込まないと表明した。志位は、「この(綱領)改正案は共産党に対する誤解、偏見を取り除くうえで、大きな力を発揮する」と述べたが、どんな力を〝発揮〟できたのか。迷妄な理屈をまき散らした責任こそ問われる。 共産党は共闘のためにと言って、これまで自分の原則だと言ってきた安保条約破棄や自衛隊解消をとりさげ、差別的身分制の天皇を認めるなどしてきたのである。志位は国・民の玉木代表との会談で、安保条約も自衛隊も天皇も認めると述べ、共闘を呼び掛けた。玉木が手柄欲しさに与党にすり寄るような政治屋だという正体を見抜けないような志位の提案では、「熱く」なるどころか、白けて当然ではないか。 ◇主権侵害に自衛隊活用を自慢志位は「憲法9条の完全実施―自衛隊の解消を目指す方針に変わりはありません」と言いつつ、「一定の期間、民主的政権と自衛隊が共存していくわけです。その期間に、万が一、急迫不正の主権侵害があった場合に、自衛隊を含めてあらゆる手段を用いて国民の命と日本の主権を守るというのが党の立場です」(前出出版発表記者会)と誇らしげに言う。一貫性のないことを言っている自覚がないことに見られるように、自衛隊は解消する方針だが活用するということは、現状でも反動派が喜ぶ自衛のための軍備拡大を容認することになるだろう。 プーチンによるウクライナ侵攻を奇貨として反動たちは、ロシアが北海道を襲うだとか、中国による台湾有事近しなどと騒ぎ、軍備増強を叫んでいる。こうした挑発的なデマが流布されている時、これまでと同じならば空想的観念的な平和主義者として共産党は振舞ったであろうが、「急迫不正の主権侵害」に自衛隊を活用すると言い出した今、「民主的政権」(共産党がそう認めるかどうかだけであってあいまいである)であれば当然(そうでない場合は?)、自衛隊を活用するし、そのための維持・増強も認めることになるしかない。 共産党は、自衛隊も天皇制も「将来の国民合意によって廃止する」と、棚上げするだけだ。 かつて「非武装・中立」論の社会党が、自衛隊について「違憲・合法論」を押し出し、どんどん右に寄って行ったのだが、志位の「急迫不正の主権侵害に自衛隊を活用する」という理屈も、自滅への道を掃き清めることになるしかない。 2020年に改定された綱領で自衛隊について、「事実上アメリカ軍の掌握と指揮のもとにおかれており、アメリカの世界戦略の一翼を担わされている」と、日本の支配階級の自主性を否定し、「日本政府は、アメリカの戦争計画の一翼を担いながら」、「海外派兵を既成事実化」していると、日本のブルジョア政権の帝国主義化を明確には認めず、「海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(「自衛隊」の解消)に向かっての前進をはかる」と、願望が書かれているだけである。 こうした自衛隊への評価が「自衛隊活用」を導いたのである。対米従属論から抜け出せず、日本資本主義における革命戦略を民主主義革命(「ついで社会主義革命」とついでに言っているが)と規定し、労働者の闘いを捻じ曲げてきた共産党は、反動と共に軍国主義への道を進もうとしている。 (岩) 【1面サブ】 改憲派の国家主義的策動緊急事態条項の〝復活〟衆院憲法審査会は3月3日、憲法を改正しなくてもオンライン国会を開けるとする意見が各党間で大勢だとする報告書を、賛成多数で決めた。 これは、憲法56条で国会の本会議を開く要件として、「総議員の3分の1以上の出席」が必要だと決められている「出席」について、緊急事態が起きた場合などに限って、オンライでの出席も含まれると解釈できるとした報告である。 ここに、現憲法から外された緊急事態条項の〝復活〟が目論まれている。 ◇支配階級が保持したい緊急事態条項緊急事態条項は、新憲法発布時にアメリカの圧力により「戦力の保持」などとともに軍国主義を削ぐために削除された条項で、その復活は戦後の自民党保守派の課題の一つであり、2012年4月の自民党憲法改正草案には「緊急事態」の項目が設けられた。2018年3月の自民党は、当時首相の安倍の「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という改憲案を受けて、「9条改正」、「緊急事態条項」、「参院選「合区」解消」、「教育の充実」の「改憲4項目」条文素案を公表した。3月13日の自民党大会でも岸田は「改憲4項目」を「今こそ取り組まなければならない課題だ」とした。自民党憲法改正推進本部最高顧問に就いて改憲の旗印を振る安倍は、「9条改正」とともに「緊急事態条項」を「喫緊の課題」としている。 自民党は、今年4月7日の衆院憲法審査会で、緊急事態の対象として「大規模自然災害事態」「テロ・内乱事態」「感染症まん延事態」「有事、安全保障事態」を明記することを主張した。2018年素案では、「緊急事態条項」には「大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるとき」としているのである。 新型コロナ感染症の流行が2020年から徐々に拡大し、緊急事態の対象に「感染症まん延事態」を加え、必要性を強調し、さらにウクライナ戦争を利用し「テロ・内乱事態」、「有事、安全保障事態」が盛り込まれた。労働者・働くものへの資本による搾取・抑圧が強まり国家間の対立が深まる中で、労働者の階級的闘いの発展や、帝国主義的な軍事行動に対する抗議運動を鎮圧する法的根拠としての「緊急事態条項」であり、改憲であるという自民の国家主義的政治の本音が如実に語られた。 ◇国家主義的策動といかに闘うか自民・維新らの改憲策動に対して、共産党らの「9条を守れ」、「憲法を守れ」では闘うことはできない。「戦力は、これを保持しない」と謳う9条がありながら、この条文の下で自衛権を持つとし、世界5位の軍事力の自衛隊が存在している。集団的自衛権もあると2014年安倍内閣は閣議決定しているが、日米安保こそ日米の集団的自衛権であり、立派に集団的自衛権を行使している。「9条」も「憲法」もある状態で、それらが骨抜きになり、すでに守られていないのが現実である。 岸田は、1月の施政方針演説で「敵基地攻撃能力を含め検討する」と言っているが、他国への核攻撃も辞さないという敵基地攻撃能力のあるアメリカの核の傘によって日本は守られているのであるから、これもすでに敵基地攻撃能力を行使している。そして、いまでは「敵基地攻撃能力」を持つ自前の軍備を増強しようとしている。 「9条を守れ」、「憲法を守れ」というのではなく、自民・維新らの国家主義的政治の現実を暴露し、追い詰める労働者の階級的闘いを進めなければならない。 ウクライナ戦争は、ブルジョア国家同士が自制し、戦争を回避する能力を持たないことを、再び三度明らかにしている。平和のために人類の発展のためには、国家的対立に陥るブルジョア国家を廃絶するしかない現実が突きつけられている。 それぞれの国の労働者は、自国のブルジョアジーに対する階級闘争を推し進め、労働者の国際的連帯を強めていかなければならない。 (佐) 【飛耳長目】 ★ロシアの労働者の平均月収は46ルーブル・約4万円で、年収は694ルーブル・約61万円程である(2019年ロシア国家統計局、1ルーブル=0・8円、現3月)。それは日本の約7分の1にあたり、タイなどアジアの新興国と同じ水準で、決して高いとは言えない★また、ネネツなど石油・天然ガスを産出する工業地区は高く(月5万、年74万円)、山岳地帯のタゲスタンは低く(月8千、年13万円)、その貧富の差は5・5倍もある。男女の賃金格差も大きく、女子は30%も低い★一方、プーチン皇帝はと言うと、年収は1400万円(平均の22倍)で、72㎡のアパートに住み、国産車数台をもち、慎ましく生活している(所得申告書より)。しかし、それを国民の誰もが信じてはいない★囚われの身のナワリヌイ氏が暴露したように、黒海のリゾート地に1400億円の「プーチン宮殿」があり、劇場・カジノ・映画館・アイスホッケー場、それに柔道場まである。他に別荘20ヶ所、航空機43機、ヘリコプター15機、車700台など、総資産額は22兆円。本人は否定するが、オリガルヒ(新興財閥)と共にため込んだものである。まさに皇帝の名にふさわしい★皇帝よ、安全な場所に隠れ住まず、戦の最前線に立ち、己が成すその惨たらしさを見よ! (義) 【2面トップ】 ジョブ型雇用拡大策す大企業中高年に早期退職を強要岸田政権の「新しい資本主義」に同調する経団連の旗振りによって、ジョブ型雇用が大企業を中心に急速に広がっている。ジョブ型雇用については、既に何回か『海つばめ』紙上に掲載したが、最近の動向を踏まえて再論する。 ◇ジョブ型採用と平行して首切り大企業のジョブ型雇用採用が拡大している。3月31日付「朝日」によれば、富士通は記者会見で、既にジョブ型人事を幹部社員に先行して導入し、労組と合意を図りこの4月から全社員に広げると述べた。 富士通はIT企業から高度デジタル通信技術を活用した市場サービス分野への転換を図るために、このジョブ型を採用したと述べている。富士通は新たに求める職務に対応した人事を断行したというわけである。 しかし、企業の新機軸の高度な求めに応じられない中高年労働者はどうなるのか。 富士通は「国内社員の4%にあたる人材を入れ替えている」、「3月末に国内の50歳以上の幹部社員3031名が早期退職に応募して退職している」(「日刊ゲンダイ」4月14日)と、白状している。 要するに、「早期退職」を名目に退職金をいくらか上積し、中高年労働者を中心に首切りを行ったのである。ジョブ型雇用は職務に必要な労働者を雇用する形式をとる。企業がその雇用形式を採用し、富士通の新機軸・新職務を厳格に実行するなら、即応できない中高年の労働者は人事異動も降格もなく、即、首になる。 だが、そうするなら摩擦が大きいと富士通は、「オンライン」で職務を明確にした「試験」を行い、「合格点」を取れなかった労働者を別職務(賃金引下げ)に降格し、残った労働者を中心に「早期退職」という金銭解雇で追い出したのである。 富士通幹部は「高齢者にとっては厳しいシステムになりました」(同上)とジョブ型雇用に対応できなかった労働者自身の責任であるかに言っているが、社内の「人材」をふるいにかけ淘汰し、同時に、高度な「人材投資」のための余地を作ったのである。 全ては企業存続のため、競争に打ち勝つため、労働生産性向上のため、持続可能な利潤増大のためであった。企業にとって、解雇した労働者が非正規になろうと、転職できなかろうと知ったことではないのだ。 ◇早期・希望退職が年2万人も富士通の例をとって、現在進められているジョブ型雇用への転換を紹介したが、中高年労働者を狙い撃ちにした解雇攻撃が多発している。 「東京商工リサーチ」は主な上場企業を対象に毎年調査を行っている。それによると、20年の早期・希望退職の募集は、約1万9千人、21年は約1万6千人であり、22年も「21年と同等かそれを上回る可能性が現実味を帯びている」と述べている。 もちろん、この早期・希望退職募集には、コロナで業績不振を理由にした赤字リストラの企業も入っているが、通期決算が黒字企業でもデジタル分野の強化やEV化のために大型募集を行っていると言う(例えば、ホンダ2000人、パナソニック1000人など)。しかも、これらの数字は公表に応じた上場企業のみであり、非公表企業を加えればさらに増える。 また募集人員に対して、いつも応募数がオーバーしていることを考えれば、肩叩きされなかったが、会社に残っても居場所がなくなり、〝生き地獄〟になると自ら応募した労働者も多かっただろう。全企業をつぶさに調査するなら、実際の数字は軽く2万人を超え、2倍以上の数万人に上るだろう。 こうして大企業では、先端分野に新しい人材を当てはめる余地が作られている。今後、ジョブ型雇用が加速するのは必至である。しかも、高度技術を持つ一部の専門職と会社経営者らが高給を食み、その他の労働者の賃金は軒並み切り下げられ、一層の格差社会に突入するのは明らかである。 ◇欧米で進む格差拡大フルタイムとパートタイムで賃金差別をしないというのもジョブ型の建前である。欧米各国は人種や性別などで差別してはならないと規定し、日本の同一労働同一賃金の先鞭をつけてきた。だが実体は違っている。 総務省の資料によれば、フルタイムに対するパート労働者の平均賃金比率は、EU先進国が7~8割程であるのに対し、米国が6割に満たず日本と大きな差がない。 他方、米国の男女間、人種間の差別は依然として解消されていない。例えば、フルタイムで働く白人男性労働者の賃金1ドルに対して、同じくフルタイムで働く女性の全国平均賃金は約78セント、ラテン・アメリカ系女性の平均賃金は約56セントで、賃金格差は歴然としている。 また、ジェトロによれば、ユーロ圏の失業率は、20年末で8%を超え、ドイツやフランスでも失業率は日本(完全失業率約3%)より高く、特に若年層(25才未満)の失業率はドイツを除けば、2割~4割りだ。 国際通貨研究所は、不平等度を示す「ジニ係数」をEU諸国の17年と19年で比較し、フランス、イタリア、スペイン、デンマークなど13カ国で増え、格差拡大が進み、「勝ち組」「負け組」の二極化が進んでいると報告している。その結果、「各地で反EU、反グローバル化を提唱するポピュリスト政党が台頭する形になった」と述べている(20年12月9日)。 ◇ジョブ型は差別を廃絶しないジョブ型雇用や同一労働同一賃金を法制化すれば、自然と非正規労働者や女性に対する差別や格差が解消されるわけではない。 欧米で、〝立派な〟賃金・就労の差別禁止法を作り、厳守することを企業に求めてきたが、それでも、非正規や女性や人種に対する差別は無くならなかった。むしろ、ジョブ型先進国のEUで「ジニ係数」が大きくなっているように、格差は拡大気味である。 非正規や女性の賃金が安いのは、労働者の労働を搾取する上で、より安い賃金でより強搾取する恰好の対象だと資本は考えているからだ。 資本は非正規や女性の労働能力を同じ人間の、同じ時代に生きる等しい能力と認めず、劣った労働力と見なし、永久に差別するのである。一切の差別の解消は労働の搾取廃止と共に勝ち得ることができる。だから労働者は資本主義の克服をめざすのである。 (W) 【二面サブ】 国連改革の幻想ウクライナ危機を契機に国連改革案ロシアのウクライナ侵略をめぐって国連改革問題が浮上している。「平和維持」のための国際的な機関とされる国連が、ロシア軍のウクライナの「ジェノサイド」(集団殺戮)を止めさせる行動をとることが出来ないからだ。 ◇国連の無力さを露呈国連が行動できないのは安全保障理事会の常任理事国のロシアが反対しているからである。プーチンは、ウクライナへの軍隊派遣は、ウクライナ在住のロシア人への虐待を救済するためであり、ロシア軍はウクライナ軍や軍事施設を攻撃しても、民間人を殺傷したり住宅や学校など生活施設を破壊していない、民間人を無差別に殺傷したりしているというのはウクライナ政府の「作り話」だと否定、軍事侵略を正当化して、攻撃を止めようとはしていない。 国連の安全保障問題を討議、行動を決定するのは米、英、仏、露、中の5つの常任理事国と10の非常任理事国であるが、常任理事国は拒否権をもっており、その内1カ国でも反対すれば行動を決定することが出来ない。 現在の国連組織が出来たのは、1920年につくられた国際連盟が第二次大戦勃発を防ぐことが出来なかったという反省の下であった。国際連盟には大国米国が参加しなかったために、「平和維持」のための力がなかったとして、第二次大戦の戦勝国のうち5つの大国が拒否権を持つ常任理事国となる現在の国連が組織された。 しかし、常任理事国すべての一致という制度は、今回のウクライナ問題への国連の対応に見られるように国連の無力さを明らかにしている。 ◇フランスの改革案こうした中で、様々な改革案が提起されている。 その一つはフランスの提案である。「大量虐殺、人間性に対する犯罪」の場合には、常任理事国の「自発的な義務」とする、「但し国連憲章の修正を必要とない」という。 しかし、こうしたことが期待できるだろうか。ウクライナの場合をみても、ロシアによる都市や村をまるごと廃墟にする無差別破壊攻撃は「大量虐殺」「大規模な戦争犯罪」であることは明らかである。にもかかわらず、ロシアは国連の場で公式的にこれを否定しているし、フランスの意見に対して、ロシアは拒否権を制限することそれ自体に反対している。 ヴィタリー・チェルキン国連大使は言う。「拒否権のあるおかげで、連日我々は、国連安保理内で作成される文書をめぐり妥協点を模索せざるを得なくなっている。……どこかの国が決議を阻止するというプレッシャーがあるから、我々は何でもかんでも投票にかけるのではなく、5カ国すべての常任理事国が投票する確信がもてる詳細に検討した文書のみを投票にかけるようになる」。 拒否権があるから理事会は実りある有効な対応策をつくることができるというのは、拒否権を正当化する理由にもならない。というのは、拒否権は問答無用と議論を止める絶対的な権利だからである。 拒否権は大国である5つの常任理事国だけが持つ特権である。ロシアは、2015年にはすでに2回拒否権を行使してきた。ボスニアとヘルツェゴビナ紛争でのスレスニッツアでのイスラム教徒8千人の大量虐殺に関しての国連非難決議とウクライナにおけるマレーシア航空機墜落事故犯人らの刑事上の罪を追及する国連の国際法廷設置提案の拒否である。 拒否権を行使してきたのはロシアばかりではない。米国は国連創設以来80近くのもの拒否権を行使してきたが、その半数以上はパレスチナを弾圧しているイスラエルへの批判に関してのものであり、1990年代はじめからの14の拒否権行使についてはイラクへの軍事介入など中東に関してのものである。 ロシアにしても米国にしても他国からの批判を許さず、自国の利益のために拒否権を行使しているのである。 ◇新たな組織案実効性のない無力な国連に代わって新たな組織をつくることを訴えているのがウクライナのゼレンスキーである。ゼレンスキーは、次のように述べている。 国連改革案としては、常任理事国が当事者の場合、拒否権を行使できなくすること、常任理事国が拒否権を使って硬直した場合、10カ国の非常任理事国の採決と国連総会の決議に従うこと、今回のロシアのように常任理事国自ら戦争を引き起こした場合、永久とされている常任理事国としての資格を一定期間停止すること──の3つである。しかし、どんな改革も国連憲章(第108条)では常任理事国は拒否権を持つということを定めているので実現できない。したがって、国連とは別に「新たな国際機関」を創設すべきだという結論に至った。 国連とは別の「国際組織」を創るといっても、軍事的・経済的に大きな影響力を持っている大国が参加しない組織は力を持たないし、また利害を異にする大国が対立しあっている国際社会において、平和維持のための国際組織など空想的である。実際に、国連総会の決議が米国の意志と離れると、米国は「単独行動主義」を謳って国連総会の決議を無視して〝有志連合〟という形でイラクに軍事侵攻したのである。 ◇常任国入りを策す日本政府国連改革が叫ばれる中、日本政府は、米国らと一緒に拒否権行使に説明を義務付けるという提案国になるとか言っている。自民党は常任理事国を増やし、日本もこれに入るべきだと主張しているが、帝国主義国家として国際的な発言権を強めようとする下心が透けて見える。 「平和のための国際連合」というのは幻想である。国連を牛耳っているのは米、露、中、英、仏ら常任理事国となっている帝国主義大国であり、これらの大国の意志を無視しては実効力を持ちえない。世界の平和の実現は、帝国主義、反動勢力に反対し、それの一掃のために国際的に連帯した労働者の闘いである。 (T) <お知らせ> 5月の『海つばめ』発行は、15日、29日です。 |
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