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労働の解放をめざす労働者党機関紙『海つばめ』

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郵政民営化の中で何が起きているのか?
郵政労働者は告発する!

■民営化の嵐の中で最大の御用組合の登場――JPU臨時全国大会議案批判
■郵政民営化――今、職場では/郵政現場からの報告
■恐竜化か、リリパット化か――郵政民営化のジレンマ
■西川善文著『挑戦――日本郵政が目指すもの』/民営化に賭けるトップの本音


憲法改悪と
いかに闘うか?


■改憲に執念燃やす安倍――「国民の自主憲法」幻想を打ち破れ
■労働者は改憲策動といかに闘うか
■国民投票法をどう考えるか
■安倍の「美しい国」幻想――憲法改定にかける野望


本書は何よりも論戦の書であり、その刊行は日和見主義との闘いの一環である。
マルクスが『資本論』で書いていることの本当の意味と内容を知り、その理解を深めるうえでも、さらに『資本論』の解釈をめぐるいくつかの係争問題を解決するうえでも助けとなるだろう。


全国社研社刊、B6判271頁
定価2千円+税・送料290円
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「不破哲三の“唯物史観”と『資本論』曲解』(林 紘義著)」紹介


全国社研社刊、B6判384頁
定価2千円+税・送料290円
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「天皇制を根底的に論じる『女帝もいらない 天皇制の廃絶を』(林 紘義著)」(『海つばめ』第989号)他

理論誌『プロメテウス』第54号
2010年10月(定価800円)

《特集》菅民主党のイデオロギーと“体質”
・神野直彦の思想と理論――菅直人のブレインは「曲学阿世の徒」
・原則なき寄せ集め政党――顕現するブルジョア的“体質”
反動的な「文化」の擁護に帰着――レヴィ=ストロースの「文化相対主義」批判


 
 
 教育のこれから
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  (全国社研社刊、定価2千円+税)
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まかり通る「偏向教育」、「つくる会」の策動、教育基本法改悪の動きの中で、“教育”とは何であり、いかに行われるべきかを、問いかける。  


 第一章  
教育基本法改悪案の出発点、
森の「教育改革策動」
 第二章  
破綻する「ゆとり」教育の幻想
 第三章  
“朝令暮改”の文科省、
「ゆとり」から「競争原理」へ
 第四章  
ペテンの検定制度と「つくる会」の教科書
 第五章  
歴史的評価なく詭弁とすりかえ
つくる会教科書(06年)の具体的検証
 第六章  
日の丸・君が代の強制と
石原都政の悪行の数々
 第七章  
憲法改悪の“露払い”、教基法改悪策動

●1428号 2022年6月12日
【一面トップ】 壮大な国家のバラまき――「新しい資本主義」を閣議決定
【1面サブ】 わが亡き後に洪水はきたれ――財源放置の補正予算、防衛費を増大へ
【コラム】 飛耳長目
【二面トップ】 教育への介入を策す菅(前首相)――参院選直前に高校で講演を企画
【二面サブ】 ウクライナ戦争の本質から目をそらして―ロシア史研究者の声明

※『海つばめ』PDF版見本

【1面トップ】

壮大な国家のバラまき

「新しい資本主義」を閣議決定

 つい先日(6月7日)、自民党総裁選出馬の時から唱えてきた「新しい資本主義」を具体化するとして、岸田政権はこの「グランドデザイン及び実行計画」を閣議決定した。しかし、総裁選の時に語った新自由主義批判や「分配重視」はトーンダウンし、「新しい資本主義実現本部」が出した「労働分配率」向上の文言も無くなった。今度の閣議決定は何を意味するのか。

◇岸田の変わり身の早さ

 岸田は当初、80年代以降の「新自由主義」による規制緩和や短期の株主重視の資本主義によって、中間層の伸び悩みや格差の拡大、自然環境への悪影響が噴き出てきたと言い、「新しい資本主義」によって、分配を重視して労働者の賃上げを促し、とりわけ非正規労働者の低賃金を引上げることに取組むと強調した。

 この時に謳った岸田の分配重視論について、既に我々は次の様に述べていた。「分配重視による経済成長論は、岸田政権の特徴なのではなく、バラまき派経済学の理屈でもあり共産党の昔からの主張でもある」(『海つばめ』1418号)。

 要するに、自民党の中で最大勢力を誇るMMT派は、既に、労働分配率の増加や実質賃金増加によって、「個人消費」が増え国民経済を牽引するとか、格差社会では人的投資が不足し長期的な成長が困難になると宣っていた。岸田の分配重視は岸田の発案ではなく、ブルジョア経済学によく見られる「過少消費説」の類であった。

 昨年末に打ち出した「新しい資本主義実現本部」の緊急提言では、「まずは成長の実現が重要」であるとされ、他方で、「労働分配率」を高めるなどの「分配戦略は、成長を支える重要な基盤である」と謳われた。要するに、成長が分配の原資を作り、次には分配が成長を促して経済の好循環に繋がると言うのだ。岸田は早くも分配重視を修正し、分配も成長も重要だと、いとも簡単に心変わりしていた。

 ところが、今度の閣議決定で、岸田は「計画的な投資による成長戦略」を前面に打ち出した。ここにも、MMT派の「計画的国家投資」というバラまき構想が垣間見えるが、もはや分配は成長戦略の従属的な位置づけに、または成長の梃子に変わったのである。

◇国家主導による投資で成長描く

 閣議決定した岸田の「成長戦略」の基本的な考え方と、最も重視する投資の4本柱を簡単に見てみよう。

 まず、岸田は過去の資本主義にあった自由放任や福祉国家や新自由主義の段階から、「新たなステージ」に進まなければならないとして、「市場か国か」ではなく、「市場も国家も」であり、「新たな官民連携」で改革し、経済を牽引し持続可能な経済社会を作らなければならないとする。 さらに、資本主義は市場メカニズムをエンジンとして、経済成長を生み出してきたのだから、「新しい資本主義」においても、「徹底して成長を追及していく」と述べ、成長の果実が分配に回らないといけない、さらなる成長のためには、「分配はコストではなく、持続可能な成長への投資である」と、分配は単なる支出や消費ではなく「投資」の一環だと言い出した。内閣は自画自賛、最低最悪の決定を行った。

 その投資の4本柱は次の通りである。①人への投資と分配、②科学技術・イノベーションへの投資、③スタートアップやオープンイノベーション、④GX、DXへの投資。

 ②から④では、AIや量子技術やバイオ等を使った社会全体の革新の必要性を説き、はやり言葉であるイノベーション、GX、DX等を並べて、これらに政府は毎年投資すると請け合う。

 例えば、気候温暖化対策であるGXに対して、政府は「10年間に官民協調で150兆円規模」の投資を行うと宣言し、その財源については、「GX経済移行債(仮称)」を先行して発行すると言う。他方、DXについては、幾ら投資するのかは不明であり、しかも言っていることが稚拙だ。DXは付加価値を生み出す源泉だと言い、「デジタル田園都市国家構想」を進めると大風呂敷を広げるが、その中には、クレジット利用手数料の透明化やマイナンバーカードの普及などの枝葉の問題までも並べている。

 要するに、岸田は政府が様々な分野に、大規模なカネを投資していくことで経済再建を行うと言いたいのだろうが、財政破綻状態の国家の借金をどうするかは全く考慮していない。ここにも安倍やMMT派による介入が見え隠れしている。だが、国家と言えども、無尽蔵に借金が可能なわけがなく、はっきりしているのは、国家財政の危機を局限にまで進め破綻させるということだ。

 政府の最低最悪の閣議決定として紹介したように、①の「人への投資と分配」は、岸田や自民党の退廃と反動性を示して余りある。

 岸田は労働者の賃上げや賃金差別の撤廃を講じる発言を封印した(口三味線だった)。その代わりに謳うのが企業法人税に対する「税額控除」の設定であり、その引上げである。例えば、3%を超える賃上げを実施した企業には、税額控除を行うというものだ。3%程度の賃上げ可能な大企業はあるだろう、だが、岸田が発言していた賃金差別の解消には何の役にも立たない代物だ。口先だけのいかにも岸田らしい発案ではないか

 また、岸田は企業間の「労働移動」が容易になるようなコンサルや教育訓練の投資を行うとしているが、これも「人への投資」と言うにはおこがましく、実体は企業への教育訓練用の補助金になるのがオチだ。

◇貯蓄を止め投資せよと

 この「人への投資と分配」で、岸田や官僚たちが目玉にしたいのが、「貯蓄から投資」へのシフトだ。次のように言う。

 「我が国個人の金融資産2000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有されている」、この貯蓄を投資に向かわせるなら、「企業価値向上が進み」、その「恩恵が家計にも及ぶなら好循環が生まれる」と。

 岸田は何を血迷ったのか。

 利子率の低い貯蓄などを止めて、金融投資を行えばもっと儲かるぞと扇動し、例えば、皆で株を買えば株価が上がり、株価が上がれば見かけの「資産価値」が上がる、しかも投資した労働者の所得も増える、一石二鳥だと焚きつける。

 さらに、NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)などにも投資させようと、これらをまとめて「資産所得倍増プラン」を年末までに公表するという(しかも今年の4月から高校家庭科授業で投資の授業が始まった)。

 こうして、岸田やMMTによる投資誘導は必ずや国家財政の破綻やインフレに帰着し、貯蓄から投資へのシフトは、「一人ひとりの国民の持続的な幸福を実現する」のではなく、その反対の極に向かわせることになるだけだ。MMT派が自民党の主流となり、その尻に敷かれる岸田には、それを阻止する力はない。 (W)

   

【1面サブ1】

わが亡き後に洪水はきたれ

財源放置の補正予算、防衛費を増大へ

 5月31日、歳出総額2・7兆円の補正予算が、自公と国民の賛成多数で成立した。財源は全額赤字国債の増発によるもので、岸田政権はアベノミクスを引き継いで国家的破産の道を突き進んでいる。

 過去最大となる総額107兆6千億円の22年度予算は3月22日に成立しており、予算開始から1月もたたず、4月26日に「総合緊急対策」を発表し補正予算が組まれた。

 物価高騰への緊急対策は、①油価格高騰対策1・5兆円②エネルギー・原材料・食料の安定供給0・5兆円③中小企業対策1・3兆円④生活困窮者への支援1・3兆円(低所得の子育て世帯に子ども1人当たり5万円給付等)などで、国費6・2兆円となる。

 これらのうち一般会計の負担は、本年度予算に計上した予備費から1・5兆円と今回の新たな補正予算の2・7兆円となっており、残りは「第2の予算」と言われる財政投融資によって賄う。

 本年度予算には、通常の予備費0・5兆円、コロナ対策の予備費5兆円などが盛り込まれていたのだから、緊急対策は全額当初の予備費で対応できる金額である。しかも、今回の補正で予備費1・5兆円を積み増している。

 当初予算で36・9兆円の新規国債の発行となり、今回の補正で国債発行額は39・6兆円に膨らむ。

 公的債務のGDP比は257%、普通国債の残高は1千兆円を超し、財政悪化に歯止めがかからない。これらはすべて将来世代に負担を背負わせることになる。

 予備費は、国会審議を経ないで政府の裁量で使い道が決められるもので、安倍の「消費税転用」と変わらず、財政を私物化するものである。安倍がそうしたように、参院選に向けて、財源の議論を避けた、人気取り票稼ぎのためのバラまき政策に使われる。

 政府は5月16日に、この6月までに策定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の案を発表した。自民党内では安倍が最高顧問の財政政策検討本部が、防衛費と財政を巡って暗躍し、彼らの主張が6月3日発表の政府修正案に反映された。

 「新たな国家安全保障戦略などの検討を加速する」とした上で、「防衛力を5年以内に抜本的に強化」、「国防予算を対GDP比2%以上」に関する説明が本文に盛り込まれた。

 財政運営に関しても、政府は18年に国と地方の基礎的財政収支PBを黒字化する目標を「25年度」設定としていたが、5月31日の骨太の方針原案は、「財政再建化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」としつつ、「2025年度」の年限は削られた。

 安倍の積極的な発言が目立っている。ウクライナ危機を契機に、米国の核兵器を自国に配備して共同運用する核共有、防衛費の対GDP比2%以上という目標の設定や、敵基地攻撃能力の保有などを主張する。

 岸田は核共有は否定したが、敵基地攻撃能力保有などは安倍と歩調を合わせ、5月23日の日米首脳会談で「防衛費の相当な増額を確保する決意」を表明した。安倍は防衛費の財源は「国債で対応していけばよい」などと全く無責任である。財源を語らない岸田も同罪である。

 ところが対する野党は、立憲・泉が防衛費について「真に必要な防衛力を整備する結果、当然増えることもある」と発言し、共産も日本が「急迫不正の主権侵害」を受けた場合に「自衛隊を活用する」というのだから、それに見合う防衛費が必要となり、限りなく自民に近づき、共に同じ穴の貉である。歴史的に反動的な民族主義という正体を晒したのである。

 岸田政権は、物価高騰対策として予備費を積み上げ財政を私物化し、規律のない借金を積み増し、防衛費の増大を図って労働者に敵対している。労働者は岸田政権を追い詰める闘いを断固進める。  (佐)


           

【飛耳長目】

★7月10日投開票の参院選挙目前に、立憲が公約を発表した。「物価高対策」「教育無償化」に加え、「着実な安全保障」を掲げ、「生活安全保障」の三本柱だという。19参院選敗北から「保守層の票を取らないと勝てない」ことを〝学んだ〟立憲は、「鬼門」の安全保障での路線転換を売り込もうというのだ★北朝鮮のミサイル発射とロシアのウクライナ侵攻で、プチブル層の民族主義的反発が高まり、共産党はこれに迎合して自衛隊活用にまで踏み込んだ。立憲・泉は「明確に合憲と理解してもよいのでは」と共産党を挑発し、共闘を迫る主張には、「日米同盟を基軸とした責任ある防衛戦略」という〝踏み絵〟さえ公約に用意した★泉は9条自衛隊明記には反対だが、「国防において自衛隊や日米安保は国民共通の前提だ」と、自衛隊合憲、日米安保堅持の保守勢力に取り入る。綱領に自衛隊解消と安保条約破棄を掲げる共産党とは一線を画したかだ★しかし志位は、「連立政権では自衛隊合憲」と御都合主義で「保守層の票」取り込みを策す。国政政党左派のブルジョア的頽廃は深まるばかりだ★広汎な労働者・勤労大衆の支持獲得には、偏狭な民族主義や保守層への迎合ではなく、資本の支配の真実の姿を明らかにし、未来社会の展望を率直に語っていくべきである。 (Y)


【2面トップ】

教育への介入を策す菅(前首相)

参院選直前に高校で講演を企画

 しばらく音沙汰がないと思っていた前首相の菅義偉が、神奈川の県立高校で同校の主権者教育の一環として三年生を対象とした講演を行う、という記事(神奈川新聞6月1日朝刊)を読んで驚いた。しかも講演日が、参院選の予定とされている公示日(6月22日)の1週間前だという。記事によれば、この講演は、県教委と同校が発表したもので、県教委お墨付きのイベントである。

◇これが主権者教育か?

 この決定に至ったのは、同校が地域の植栽活動に熱心に取り組んでいて、菅が横浜市で行われる国際園芸博覧会の自民党の特別顧問をしている関係で実現したという。

 しかし、こんな理由は見え透いた言い訳だ。恐らく地元の前首相という大物政治家の講演申し込み(?)に、無意識にか、あるいは止むを得ないと思ったのか分からないが、県教委や学校が承諾したのであろう。

 教育基本法では、特定の政治を支持・反対する政治教育を禁止している(同法14条)ことを知らなかったのだろうか?そんなはずはない。県教委はこれまでも選挙のたびごとに教職員に向かって政治的中立を喧しく叫んできたのだから。

 また県教委や高校は、主権者教育の一環だというが、なぜ腐敗政治を行った前首相の菅でなければならないのか?

 高校側は、菅氏を支持しているわけではない、政治参加を促すのが目的だなどと言い訳しているが、どんな政治に参加させようというのであろうか。複数政党の政治家を招くことくらい、考えつかないのか?学者やジャーナリストでもいいはずだ。

◇歴史を歪曲してきた自民党政権

 近年若者の政治離れは確かにひどい。二十代、三十代の投票率は各世代の中で最低だ。しかし、そうした状態を招いた大半の責任は、政治や教育にある。

 安倍政権のもとで、日の丸・君が代が押し付けられ、また教育基本法が改悪されて愛国教育や伝統主義が強制されてきた。歴史教育では歴史的事実が歪曲され、日本帝国主義の悪行(強制連行や南京大虐殺等)は隠蔽された。近現代史は軽視され続けた。

 若者のあいだでは政治の話はダサイとされ、話はもっぱら異性やアイドルの話ばかりだ。そもそも学校や家庭で真面目に政治の話もしたことがない若者に、急に政治に関心を持てというのが無理な話である(政治的に白紙の方が政権党にとって都合がいいということもある)。

 こうした若者たちに、前総理大臣の菅が選挙の公示1週間前に話をすれば、たとえ直接、政治や選挙の話をしなくても彼らが菅の話になびくのは必定であり、高校3年なら有権者もおり、事実上、政権党の事前活動である。

 公示日の直前に政権党の前党首であった政治家を招くということが、教育の政治的中立の違反になるという、わかり切ったことが県教委も高校も気づかない(?)ことの方が恐ろしい。政治教育が必要なのは県教委や教員の方だ。

◇参院選神奈川選挙区は激戦

 今夏の参院選は、岸田政権にとっては最初の国民の審判であるといってよい。昨年、岸田が首相に就任した直後の衆院選は、岸田にはまだ何の実績もなく、新内閣に対する期待感から予想以上に票が集まった。しかし今度の参院選は違う。

 この間、コロナ禍への対応、円安や物価高対策、ウクライナ問題、防衛問題等、半年以上にわたる岸田政権の評価が問われるからである。

 神奈川の選挙区では、改選4議席に加え、欠員1人の補欠選挙が同時に行われる。当選枠が5になることもあって、立候補者は過去最多の15名程と激戦が予想される。

 菅は、昨年の横浜市長選で盟友の小此木八郎を、不人気だった菅内閣支持率を挽回すべく、全力で支援したが、そのかいもなく「カジノ中止」の中山に大敗し、それが致命傷となって岸田に政権を明け渡したのである。

 鳴りを潜めていた菅が、今年になってから早々と参院選候補の三原じゅん子と並んだポスターを神奈川各地に張り出し、また各地の候補者の応援に駆けまわり、大いに健在ぶりを発揮している。今度の瀬谷西高校の講演会も彼の失地回復の闘いの一環なのである。

◇「教育の中立を守れ」では闘えない

 共産党は、4日の「赤旗」で、この講演会問題を取り上げている。そこでの主張は、講演会を「見直し」「教育における政治的中立性を確保せよ」という県教委への「要請」である。しかし、一国の総理だった人間が県教委を従えて堂々と「教育の中立」を侵そうと策動しているのである!

 もはや事態は、「教育の中立を守れ」という段階ではない。日の丸・君が代の強制や歴史の歪曲をやって「偏向教育」を行ってきたのはブルジョア政府なのである。憲法もそうだが、教育基本法はとうの昔に形骸化して、お飾りになっている現実を直視すべきである。

 資本主義の矛盾が各所に現れ、国家間の対立の激化や労働者大衆の生活が困難に陥ってくれば来るほど、ブルジョア階級は、愛国教育や軍国主義と言ったイデオロギー教育に狂奔してくる。労働者階級は、支配階級のイデオロギーに対して、「資本の支配はもう沢山だ」「賃金奴隷制廃止」「資本主義打倒」の労働者イデオロギーを対置して、階級的闘いを発展させていかねばならない。  (神奈川 K)


【二面サブ】

ウクライナ戦争の本質から目をそらして

ロシア史研究者の声明

 去る3月15日、「ウクライナ戦争を一日でも早く止めるために日本政府はなにをなすべきか」と題する声明が出された。声明に名を連ねているのはロシア史研究学者の東大名誉教授和田春樹はじめ、東大や北海道、早稲田などで歴史学や国際政治学を専門としている14人の学者たちである。

 声明は「このような戦争が継続することはウクライナ人、ロシア人の生命をうばい、ウクライナ、ロシアの将来にとりかえしのつかない打撃をあたえることになる。それだけではない。ウクライナ戦争の継続はヨーロッパの危機、世界の危機を決定的に深めるであろう。 だから、われわれはこの戦争を直ちに終わらせなくてはならないとかんがえる。ロシア軍とウクライナ軍は現在地で戦闘行動を停止し、正式に停戦会談を開始しなければならない」と訴えている。

 学者たちは5月9日にも「戦争が続けば続くほどウクライナ人、ロシア人の生命がうばわれ、ウクライナ、ロシアの将来に回復不能な深い傷をあたえることになる」として、改めて両国軍の戦闘行動の停止を求める声明を発表している。声明は戦争はウクライナ、ロシア両国にとって犠牲が大きいから両国は戦争を止めよというのである。

 犠牲がいかに大きいことかは明白である。声明が出されてから約2カ月、現在なお戦争は続き、ウクライナの多くの街が廃墟とされ、兵士、民間人のさらなる犠牲が生まれ、さらに戦争の影響は石油、天然ガス、小麦の輸出の途絶によって、世界的なエネルギー価格の高騰、食料不足として深刻な影響を与えている。

 だが、ウクライナ、ロシア戦争の犠牲の大きさを問題にする前に、その犠牲を引き起こした戦争の性格を明らかにすべきである。この戦争はかつてロシア(ソ連)の一部であったウクライナが、ロシアから分離し、独立国家となることに反対して、ロシアが仕掛けた戦争である。

 プーチンは、ウクライナ政府を「ナチス・ファシスト政権」とよび、「ウクライナ政府のロシア系住民への迫害から守る」ための戦争と呼んで、ウクライナへの軍事侵攻を正当化してきたが、実際には、ウクライナに主権を認めず、ウクライナはロシアの主権の中に含まれるとするプーチンの「大ロシア主義」に基づくものである。ウクライナの闘いは、民族自決権を否定するロシアの覇権主義に対する闘いである。

戦争は犠牲が大きいからウクライナもロシアも戦争を止めるべきだという声明は、民族自決権を否定するブルショア平和主義者の泣き言である。彼らにとってなぜ大きな犠牲をもたらす戦争が起こったのかということはどうでもいいのであり、もっぱら戦争による犠牲しか関心がないのである。

 さらに悪いことに、ウクライナ戦争は初めから直接的に「バイデンが推進する米国の新しい戦争」(和田春樹)といったり、ブチャでのロシア軍の残虐行為についても、「謎の多い事件であり」この事件と停戦交渉停止の「因果関係はどちらが原因で、どちらが結果だったかは分からない」(声明署名者、松里公孝東大名誉教授)と、さも停戦交渉を打ち切る口実にウクライナ側が仕組んだ可能性もあるかのような発言に象徴されるようにロシア側にも言い分があるとして、プーチンを批判するのは誤っているという態度をとっていることだ。

 「声明」はこうして、ロシアも悪いがウクライナにも非がある、どっちもどっちで戦争を行うのは悪いとして、この戦争がロシアがウクライナの民族自決を武力によって粉砕しようとしたことから起こったということを覆い隠してしまっている。

 「声明」は、国連でのロシアへ「非難決議案」に棄権した中国、インド、ブラジル、そして日本についても非難決議に賛成の立場を取ったが、憲法9条によって戦争を放棄した国であるから、停戦のための「公正な仲裁者」としての役目を果たすにふさわしいとして、これらの国々が停戦のためにウクライナ、ロシアに働きかけるべきだと訴えている。

 しかし、中国は国内では新彊ウィグルの少数民族を抑圧し、国外では「一帯一路」に見るように覇権拡大に走っている。インドも自国の利害関係からロシア非難決議に加わらなかったのであり、日本もロシアのウクライナ侵攻を利用して一層の軍備増強に向かっている。これらのブルジョア大国に頼って世界の平和をもたらすことが可能であるかのように言うのは、おかど違いも甚だしい。

 「声明」は、「すべての者がなしうるあらゆる努力をつくさなければならない。傍観者にとどまってはいられないのだ」と訴えている。結局、ブルジョア学者たちは、「戦争の犠牲」、「世界戦争の危機」を騒ぎ立てるだけで、中国、インド、日本などブルジョア大国にすがる以外になにもなしえないのだ。まさにブルジョア学者の無責任さと無力さを象徴している。

 ウクライナとロシアの戦争は、ウクライナの民族自決権のための闘争という問題を越えて、米国を先頭とするNATO諸国とロシアとの戦争の様相を濃くしていることは見逃せない。そうなるならば、欧米、日本、そしてロシアの労働者に向かって、「戦争反対」のための闘いを呼び掛けるべきである。「平和憲法」を持ち出して日本をウクライナ、ロシア戦争の「仲裁者」に適任などということは、自民党政府を美化し、助けることである。 (T)


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