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労働の解放をめざす労働者党機関紙『海つばめ』

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郵政民営化の中で何が起きているのか?
郵政労働者は告発する!

■民営化の嵐の中で最大の御用組合の登場――JPU臨時全国大会議案批判
■郵政民営化――今、職場では/郵政現場からの報告
■恐竜化か、リリパット化か――郵政民営化のジレンマ
■西川善文著『挑戦――日本郵政が目指すもの』/民営化に賭けるトップの本音


憲法改悪と
いかに闘うか?


■改憲に執念燃やす安倍――「国民の自主憲法」幻想を打ち破れ
■労働者は改憲策動といかに闘うか
■国民投票法をどう考えるか
■安倍の「美しい国」幻想――憲法改定にかける野望


本書は何よりも論戦の書であり、その刊行は日和見主義との闘いの一環である。
マルクスが『資本論』で書いていることの本当の意味と内容を知り、その理解を深めるうえでも、さらに『資本論』の解釈をめぐるいくつかの係争問題を解決するうえでも助けとなるだろう。


全国社研社刊、B6判271頁
定価2千円+税・送料290円
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「不破哲三の“唯物史観”と『資本論』曲解』(林 紘義著)」紹介


全国社研社刊、B6判384頁
定価2千円+税・送料290円
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「天皇制を根底的に論じる『女帝もいらない 天皇制の廃絶を』(林 紘義著)」(『海つばめ』第989号)他

理論誌『プロメテウス』第54号
2010年10月(定価800円)

《特集》菅民主党のイデオロギーと“体質”
・神野直彦の思想と理論――菅直人のブレインは「曲学阿世の徒」
・原則なき寄せ集め政党――顕現するブルジョア的“体質”
反動的な「文化」の擁護に帰着――レヴィ=ストロースの「文化相対主義」批判


 
 
 教育のこれから
   「ゆとり」から「競争」
   そして「愛国教育」で
   いいのか
 林紘義 著 7月1日発売

  (全国社研社刊、定価2千円+税)
  お申し込みは、全国社研社
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まかり通る「偏向教育」、「つくる会」の策動、教育基本法改悪の動きの中で、“教育”とは何であり、いかに行われるべきかを、問いかける。  


 第一章  
教育基本法改悪案の出発点、
森の「教育改革策動」
 第二章  
破綻する「ゆとり」教育の幻想
 第三章  
“朝令暮改”の文科省、
「ゆとり」から「競争原理」へ
 第四章  
ペテンの検定制度と「つくる会」の教科書
 第五章  
歴史的評価なく詭弁とすりかえ
つくる会教科書(06年)の具体的検証
 第六章  
日の丸・君が代の強制と
石原都政の悪行の数々
 第七章  
憲法改悪の“露払い”、教基法改悪策動

●1429号 2022年6月26日
【一面トップ】 軍備増強、改憲を前面に――岸田自民党の反動的な参院選公約
【1面サブ】 ブルジョア議会政治の堕落――野党の政治も腐って行くだけ
【コラム】 飛耳長目
【二面トップ】 金利差拡大に動けぬ日銀――円安進行と物価高騰に無策
【二面サブ】 破綻を露呈した年金制度――物価上昇下の年金削減

※『海つばめ』PDF版見本

【1面トップ】

軍備増強、改憲を前面に

岸田自民党の反動的な参院選公約

 岸田政権が発足して約半年、初めての国政選挙(参院選挙)を迎えるが、16日自民党の選挙公約が発表された。公約パンフは、「外交・安全保障」をトップにあげ、同時に憲法改定についても「早期実現」を打ち出すなど、岸田自民党政権の軍備増強、改憲重視の姿勢を鮮明にしている。

◇軍事費を2倍のGDP比2%に

 公約は全部で7項であるが、その第1番目に「外交・安全保障」問題を挙げている。このことについて高市政調会長は、公約発表の記者会見で「外交・安保をもってくることが、国民の関心の方向性にかなったもので、自民党らしさを打ち出せるものと考えた」と語った。

 公約は「普遍的価値に基づく国際秩序の維持・発展に主導的役割を果たす」、「ODAを拡充し、国際保健や経済安全保障等を戦略的・機動的に推進」「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け、米・豪・印・欧州・ASEAN、太平洋島嶼国、台湾等との連携を強化」など、米国と連携して中国包囲網を構築することを謳っている。

 そしてそのために、来年度から5年以内に軍事費のGDP比2%を目指して軍事力の抜本的強化を図ること、日本へのミサイル攻撃を含む武力攻撃に対して「反撃能力」を保有することを謳っている。

 この「反撃能力」については、敵基地への「先制攻撃」をも含むこと、「攻撃基地」だけでなく「指揮統制機能等」も対象となること、すなわち軍司令部のみならず政府中枢をも攻撃の対象とすることが自民党内の議論で明らかにされている。これは「専守防衛」の範囲を一挙に乗り越えて、軍備を拡大することである。

 岸田は、アジアの大国としてアジア各国を訪れ、中国の進出が「国際的秩序」を阻害するものとして訴えてきた。また、日本の首相として初めてNATOの会議に出席し、NATO諸国との軍事的な連携を謳ってきた。

 日本の軍備増強、米国との軍事同盟、軍事行動の一層の強化は、アジアをはじめ世界に資本を投下し、国内のみならず国外の労働者を搾取している日本の国家の利権と資本の利益を守るためである。

 さらに公約は「防衛生産・技術基盤の維持・強化のためより踏み込んだ取り組みを推進します」としている。

 自民党の国防議員連盟は、22年度予算で約2200億円の研究・開発費を、来年度以降5000億円以上に増やし、5年以内に1兆円にする提言を首相に提出、同時に軍事産業の維持・強化のために一般競争入札が原則の装備品調達の仕組みを改め、随意契約を取り入れることを申し入れている。政府の軍拡に便乗し日本の軍需産業は兵器の国産化推進や研究・技術開発などで、利益拡大を追求している。

◇憲法改悪の反動的な意図も

 公約は、第3項目として「新しい〝国のかたち〟を創る」として「憲法改正」の「早期実現」を掲げている。

 その内容として①自衛隊の明記、②緊急事態の対応、③合区解消・地方公共団体、④教育充実を挙げているが、自民党の改定の目的は、軍事力を放棄した「平和憲法」のもとで存在する現在の自衛隊を軍隊として憲法に明記し、合憲的存在とすることであり、大規模な反政府デモの高まりなど「緊急事態」のもとで、政府が憲法に謳われている国民の権利を制限し、反政府デモを禁止することが可能になるということである。

 自民党は、一挙に全面的な憲法改定が困難だとして、教育や平等のための選挙区の問題を持ち出し、それと抱き合わせで、自衛隊、緊急事態条項の明記という憲法改定をたくらんできた。

 自民党が今回の参院選で、公約として軍備増強について軍事費の2倍化(GDP比2%)、「反撃能力の保持」とか、憲法改定に関しては、自衛隊の明記、緊急事態の対応など具体的に挙げているが、自民党がもし参院選で勝つことになれば、これらの公約が選挙で認められたとして、これら反動的策動を積極化するだろう。

◇「分配」を放棄し、「資産倍増」へ

 岸田は総裁選では、「新自由主義の弊害は、格差拡大として現れている」として、労働者の賃上げ、富裕層への課税強化による「分配」重視による「令和版所得倍増」を謳う「新しい資本主義」を掲げた。

 しかし、公約からは「分配」重視、富裕層への課税強化は消え、「所得倍増」は「資産所得倍増」に変わった。

貯蓄から投資の流れを加速し、日本の個人金融資産2000兆円の過半を占める現金、預金を投資に向けることで「資産所得の倍増」を目指すというのだ。

 その具体策として挙げられているのは少額投資非課税のNISAの拡充や公的年金に上乗せする個人型確定拠出年金(iDeCо)の加入対象年齢を現行の64歳以下から70歳程度までの引き上げなどの制度改定である。

 貯蓄を取り崩して株式など債券投資に向けることによって所得を倍増させると言うのだ。

 現金貯蓄を投資へといっても、子育て世帯で預金ゼロの世帯は14%、100万円台21・5%もいる(育児メディアHagukumuの調査)し、貯蓄は労働者にとっては老後の生活のためであり、それを賭博=投資に賭ける危険をおかすことはできない。結局、「資産所得倍増」など、社会を支える労働を軽視する絵空事でしかない。

 物価上昇、重税、低賃金、差別、生活に苦しむ労働者を置き去りにし、軍備増強に突き進む岸田自民党は、労働者の生活などおかまいなしなのである。 (T)

   

【1面サブ1】

ブルジョア議会政治の堕落

野党の政治も腐って行くだけ

先の国会会期末を控えた中で立憲の提出した「内閣不信任案」をめぐる野党の動向は、現在の議会政治の堕落を象徴していた。「内閣不信任案」は、与党の自民、公明に加え、維新や国・民なども反対に回り、否決された。共産、社民は賛成、れいわは棄権して欠席。マスコミは「野党間で広がる距離」(6・10朝日)などと報じた。

「内閣不信任案」提出の動きに岸田が、「政局至上主義」と批判したと報道されたが、安定多数にあぐらをかいて、派閥の政争に明け暮れている自民総裁岸田ならではの物言いであった。岸田こそ〝政局〟の中に身を置いて、最大派閥首領の安倍に追従した「政局至上主義」政治をしている。

 立憲は不信任案提出で、参院選に向けて有権者に存在感をアピールしたかったが、「政策立案政党」と言ってきた手前、提出にはためらいがあって、「判断に迷っていた」(党関係者)という(6・9 jiji・cоm)。 労働者が支持できるような「批判政党」でないことが彼らをして臆病にさせているのである。鋭い政権批判で労働者に腐敗政権打倒の闘いを呼びかけ、闘いを発展させようなどとは思わないのだ。

 「内閣不信任案」は、「円安並びに資源高・物価高に無為無策」、「異次元金融緩和を見直さない愚策」、中身のない「新しい資本主義」とか、「安全運転」と称する政治的怠慢などと指弾しているのはいいが、岸田が軍備増強を進めていることには全く触れていない。軍拡を否定していない立憲の立場がそうさせたのか、国・民などへの配慮か、立憲が労働者の立場でない特徴を示している。

 そんな不信任案に賛成の立場から共産笠井は本会議で、不信任の第1の理由として、「ウクライナ危機に乗じ、『力対力』で対抗する大軍拡を進め、平和に逆行する危険な道を突き進もうとしている」と指摘したが、岸田内閣への不信任と、立憲が提出した「不信任案」とは別個のことだということをごまかし、共闘しているかに見せたのであった。

 立憲の警戒心(外交・安全保障政策が異なる共産との選挙協力への連合からの横槍がある)があって、共同提出できなかった事情があったのである。事前協議できなかったからか、立憲に追随することへの問題意識があって、本会議での賛成演説で岸田の大軍拡への批判を押し出したのであろう。

 不信任案は不信任案として賛成するなら賛成した上で、岸田内閣が不信任されることの意義として押し出せばよかったのであって、立憲の案に手前味噌な意味づけすることは、立憲を美化し、幻想を広げることになることが分からないのだ。

 不信任案が岸田政権を本当に追い詰めるために意義があるか、労働者の闘いが前進するかが問題であり、立憲の闘う姿勢、立場が問われるし、批判は当然ではないか。

 「野党共闘」を教条的に唱え、政権にすり寄る国・民を〝仲間〟にしようとしたことの反省など全くない。共産はセクト主義的に一線は引くが、政治的な原則的な立場で一線を引くことができない、と言うよりは、すでに労働者の原則的な立場を投げ捨てている。

 共産は、立憲が安保容認であり、自衛隊増強派であることを知りながら、「野党共闘」のために「自衛隊活用論」を振りまいて恥じないのである。ブルジョア軍隊である自衛隊に反対することを一貫できず、反動派の軍拡攻勢を止めることはできない。

 不信任に反対した維新について共産志位は、「野党を名乗っているだけで、実態は与党ということを示した」と反発(6・17朝日)しているが、野党だからといって労働者的でないことなどざらだということすら分からないのだ。「野党は共闘」などと浮かれることのほうがおかしいのである。労働者に依拠した闘いよりも、野党の数合わせに囚われている。

 野党を名乗るかどうかが問題ではない。労働者の利益を一貫して守り、労働の解放を目指して闘う政党が必要なのである。参院選は国民の政治意識のバロメーターである。注視しよう。  (岩)


           

【飛耳長目】

★NHKが再びベトナム技能実習を取り上げた(6/13)。日本に夢を抱いて来たはずが、低賃金と過酷労働で心身共に疲れ果てて帰国するまでの姿を追った。そこでは報道されなかった管理団体を取り上げよう★管理団体とは政府の認可を受け、実習生を企業に送り込む仲介業者のことで、全国に3200以上(21年3月)ある。職員100人以上を抱える大手から、職員数人の個人業まで多々、特記すべくはその多さで、それだけヤミ金が手に入るということだ★実習生10人を企業に送り込むとしよう。まず初期費用として500万円程を手にする。これは渡航費、日本語研修費、宿泊生活費、各種書類負担費等で、企業からもらう★アパートの一室を事務所とし、併設の一室を日本語研修室に、もう一室に10人を詰め込んで1ヶ月生活させる。彼等の生活費は一人当たり6万円程で、分割して渡す。物価はベトナムの10倍以上なので、朝夕自炊し、昼食は米だけを詰めた弁当を持参し、研修室で粗末なおかずを皆で突っつきながら食べる★10人を送り込むと、管理費として毎月50万円(1人5万円)程を企業から受け取る。これが3年間だから1800万円が手に入る。資本と管理団体との安価な労働力のヤミ取引、現代版「人身売買」、これが技能実習制度だ。 (義)


【2面トップ】

金利差拡大に動けぬ日銀

円安進行と物価高騰に無策

 日銀は金融政策決定会合を開き(16~17日)、ドル基軸通貨国である米国との金利差が広がっているが、今後も大規模な金融緩和政策を続けると決めた。日銀は円安が進行し物価高騰を招き、とりわけ貧しい労働者の生活破綻を防止することより、国内の景気回復を優先するのである。

◇黒田の言い訳

 黒田は緩和策を続ける理由について、「景気の弱さ」があるからだと記者会見で次のように述べた。

 「日本経済は感染症からの回復途上にある上、資源価格上昇という下押し圧力も受けている。賃金の本格的な上昇を実現するために、金融緩和を粘り強く続けることで、経済をしっかりとサポートしていくことが必要だ」。

 黒田は日本資本主義が未だに不況のトンネルから抜け出せていない、さらに円安や資源価格高騰の追い打ちにより、深い闇の中に彷徨っていると、思わず漏らしている。

 それは当然であろう。自民党政府は低成長から脱するためにと、「アベノミクス」を実行し、さらに個人消費拡大で景気を向上させようと、「女性活躍」、「同一労働同一賃金」、「官製春闘」などを試みたが、差別労働の抜本的な改革一つできず、実質賃金は下がる一方(10年間で10%以上も)であり、個人消費拡大の契機にならなかったのだから。

 挙げ句に、政府は莫大な借金を作る破目になり、いつ財政破綻が起きてもおかしくないと内外から批判が寄せられ、快く眠れない毎日を送っているだろうからだ。

 黒田は最近の円安と資源価格上昇によって、企業や家計にも負担が掛かっていることを認め、景気は「下押し圧力を受けている」と述べている。この困難を変えるためには、賃金上昇が必要であり、それを実現するために金融緩和を続けると言う。

 黒田の「賃金上昇を実現するために金融緩和を続ける」とは一体何か。黒田は散々に金融緩和をやって来たが、この緩和策による賃金上昇など、一度として実現せず下落の一途であった。

 まして賃金と賃金上昇は金融緩和と何の関係もない概念だ。因果関係も必然性もない言葉を吐き平然としている。金融緩和で経済回復が実現し、それによって賃上げが可能になると言いたいのだろうが、こんなことは落語の小話(風が吹けば桶屋が儲かる)の類だ。

◇円安と価格高騰に直面

 黒田は「金融・為替市場の動向や経済・物価への影響を、十分に注視する必要がある」(声明文)と述べている。しかし、黒田は「市場を注視する必要」を他人事のように言うだけで、〝物価や通貨の番人〟としての日銀の役割を放棄している。

 そもそも、円安とか円高は輸出入や投資の時に、外貨に交換または外貨から円に交換する時の通貨の交換比率を意味し、この比率は需給関係で決まり、それが外国為替相場を形成している。

 「アベノミクス」によるゼロ金利政策が始まり、安倍・黒田により円安誘導と輸出増大が図られた。だが、貿易収支(サービス収支を含む)はかつての10兆円を超す大幅黒字を取り戻すことができず、収支ゼロを軸に前後する状態になった。

 経常収支は「第一次所得」(海外子会社の利潤から回収)が増大し、貿易収支の悪化を補い、最近まで黒字であった。

 しかし、昨年初めから進み出した円安の影響もあり、貿易収支は悪化の一途をたどり、それにつれて経常収支も低下していった。例えば、15年度以降を見ると、経常収支は20年度まで約16~22兆円の黒字で推移していたが、21年度の12月は約4千億円の赤字、今年の1月は約1・2兆円の赤字に転落した。つまり、経常収支の悪化に伴って、為替相場はよりドル高円安に動いたのである。

 また、米国FRBは昨年末から進む米国の消費者物価高騰を鎮めるためにと、既に3回、金利を引き上げた。この日米金利差を狙って、米国へ投資(例えば米国債の購入など)するためには円を売りドルを買う(円からドルに交換)のであり、円の相場は一層低下する。

 ところが、能天気な黒田は、急激な円安は企業と家計にとって害になると言うだけで、市場任せである。米国の金利上昇が止まり一段落するまで何年か待てと言うのか。

 円安の放置は労働者の、とりわけ非正規労働者の生活破綻を招くことは明らかである。その意味で、黒田の市場任せの何も対応しない態度は日銀総裁として失格である。

◇円安とインフレ

 しかし、このまま円安を放置するならば一体どうなるのか。円安による物価の上昇は、輸入する商品だけであるが、日本の労働者は輸入商品をその価値より高く買うことを強いられる。

 これは丁度、インフレになれば、商品に内在する労働量は同じでも、より多くの通貨を出さなければ購入できないことに似ている。

 ここで、円安という為替相場による輸入物価の上昇とインフレは違うことを確認しておこう。大半のマスコミは、円安による輸入物価の上昇を「インフレ」だと解説している。それもそうであろう、ケインズ経済学者(例えば、渡辺努東大教授)もこぞって、為替インフレや資源インフレと叫ぶのだから。

 しかし、インフレは内在的価値を持たない紙幣化した通貨の過剰発行を通じて、その通貨が流通に入り込むことによって、国内の物価が全面的に騰貴することを言うのであり、単に円安で(また資源高騰で)輸入物価が上昇したことをもってインフレというのは間違いである。概念(事実や真理)が異なるのに、マスコミや学者らはミソも糞も一緒にする。

 第一次大戦後のドイツインフレや第二次大戦後の日本インフレは典型的であった。インフレは通貨の価格標準の切り下げであり、商品に内在する労働量は何も変わらないが、通貨の名目的な変更を強制する。そして、あらゆる物価の継続的な騰貴を通じて、つまり大衆収奪を通じて、過剰に流通した通貨を〝解消する〟のである。

 今後、日本でインフレが発生する場合には、「不況」を克服するために、日銀や政府によってバラまかれた日銀券(ますます国家紙幣に近づいている日銀券)が景気上昇と同時に、あるいはまた、景気拡大の進展を契機に一気に流通に入り込む時であろう。

 また、日銀が金融緩和でカネをバラまき続け、円安による物価上昇が継続し、必要以上の日銀券が流通に入るなら、これを契機にインフレが発生することも考えられるであろう。

◇動けない日銀

 既に述べたように、いくつもの円安解消の手段(ブルジョアとしての)があるのに、黒田はそれらには触れず、利上げするなら景気後退を招くと述べた。しかし、黒田のこの発言には裏がある。

 日銀がゼロ金利政策を変更し、欧米のように金利を上げて行くなら、政府の一般会計に計上している国債費(国債償還費と国債利子支払費、22年度は24・3兆円と2年連続で過去最高を記録)は金利が1%上昇すると、単純計算で4兆円程も増えるからだ。

 利上げが国債費の上昇を招き、政府の予算編成に多大な影響を与え、また日銀の会計収支や国債の信用にも波及するなら、国債の大量発行がアダ花となる。政府と日銀はこれらの批判の矢面に立たされることを何よりも恐れるのである。

 しかも、日銀は金利を上げても簡単に物価高騰が収まらないかもしれない、利上げで国債流通利回りが高騰(国債価格は暴落)するかもしれないと、不安を感じている。実際、米国や英国などの利上げは連続的に行われているし、イタリアの国債流通利回りは急上昇している。

 今回の円安進行は、為替や通貨という資本主義の〝小道具〟が無用の長物だということ、資本主義が頽廃し矛盾を深めていることを暴露している。 (W)


【二面サブ】

破綻を露呈した年金制度

物価上昇下の年金削減

 2022年度の年金額は、前年度から0・4%の引下げとなった。これは、名目手取り賃金変動率がマイナス0・4%となり、かつ物価変動率のマイナス0・2%を下回るため、名目手取り賃金変動率を用いて改定されたためである。しかし、物価はエネルギーを中心に大幅に上昇しており、今年4月の消費者物価指数は前年同月比で2・5%高となった。物価上昇にも関わらず年金受給額が下がるという事態になり、年金を頼りに生活している高齢者に生活困難の暗雲が垂れ込めている。

◇年金額改定に次ぐ改定

 年金額は、毎年度「名目手取り賃金変動率」と「物価変動率」を基準として改定しているが、2004年には、「将来の現役世代の負担が過重なものにならないように、少子化等の社会情勢の変動に応じて、給付水準を下げて調整する仕組み」の「マクロ経済スライド」が導入された。

 賃金や物価が上昇した場合、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引き、年金の給付水準を賃金や物価の上昇率よりも下げるものである。

 しかし2016年には、マクロ経済スライドの未調整分を翌年以降に繰り越して調整する「キャリーオーバー」制度が導入され、賃金と物価の伸びがマイナスの場合、これまでは適用されなかった「マクロ経済スライド」を翌年以降に繰り越し、物価・賃金が上がる年度にまとめて年金を削減するとした。

 物価変動率は毎年1月公表の「全国消費者物価指数」(生鮮食料品を含む総合指数)の対前年比、名目手取り賃金変動率は2~4年度前3年度平均の実質賃金変動率を基準にする。したがって、今年のように、物価が上昇しているにも関わらず年金が下がる。

◇年金制度の矛盾

 しかし年金の問題は、これだけではない。老齢年金受給額は、厚生年金は平均年金月額14・6万円、国民年金(基礎年金部分)は平均年金月額は5・6万円であり(2021年5月現在)、国民年金だけで生活できない問題がある。

 当時の安倍政権は、国民年金受給者は、「自営業者」などで、年金受給開始までに「貯蓄、資産の形成」をし、受給開始以降も働くことで補えることで生活資金を補えると、説明した。しかし、年金加入者の分類は、自営業者16・5%、家族従事者7・2%、常用雇用者8・9%、非正規雇用者31・4%、無職他36・1%であり(2017年)、単に自営業者だけではなく、非正規雇用の比率が高い女性労働者を中心とした広汎な労働者が、国民年金だけで生活できない年金格差の問題になっている。

 年金格差は、年金だけに依存して生活を維持している高齢者の生活、生死にかかわる緊急の問題であり、まず、解決されるべき問題である。

 しかし、「将来の現役世代の負担が過重なものにならないよう」というのなら、年金格差を拡大している高所得者の年金の制限、停止、そして基礎年金の保険料を一円も払っていない主婦である妻が、夫と同じ基礎年金を受け取る1986年に導入された不当な不公平な3号被保険者(785万人、その保険料・給付金は、なけなしの生活費から保険料を支払っている低所得者層も含む全加入者の負担になっている)の制度の廃止が先である。

 このような年金格差の問題を抜きに、年金問題の解決としての「全額国庫負担の最低保障年金」(共産党)などは、結局、国債による国の借金によって賄うしかないのであるから、将来世代に負担を負わせる。

◇年金問題の解決は年金格差の一掃から

 現代の社会は、差別制度そのものである労働者の搾取を基礎とする資本主義のメカニズムで動いており、年金制度はこの階級社会の格差を反映している。

 大企業の労働者、正規の労働者と、零細企業の労働者、非正規の労働者、女性労働者、自営業の働く勤労者たちとの間に、老後の大きな差別が生まれ、固定化している。少子高齢化のなかで、何百万の高齢者の生活が成り立たなくなる問題は、年金制度では解決できない。

 困難な年金問題を解決する道は、年金格差の一掃から始めるべきで、さらに、ブルジョア社会の格差社会の反映である年金制度の止揚と克服へと進めなければならない。

 人間が年を取り、自分の労働と働きによって、自分の生活や健康を維持できなくなったとき、必要になるのは医療と介護であって年金ではない。人間は健康である限り自ら労働し生活し、年金といったものの必要性は無い(『海つばめ』1348号)。労働者はそのように働き暮らせる社会の実現をめざし、物価上昇下での年金引下げ問題に、全く有効な対策を取れない、手詰まりの岸田政権打倒の闘いを進める。 (佐)


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