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●1448号 2023年4月9日 【一面トップ】 米銀の破綻、世界へ波及 ――財政バラ撒き策や低金利政策のツケ 【一面サブ】 フランスの年金制度改悪 ――破綻するブルジョア的社会保障 【コラム】 飛耳長目 【二面トップ】 斉藤幸平著「ゼロからの『資本論』」を読んで ――エコ「コミュニズム」論の二番煎じ 【二面サブ】 政府・自民に高まる武器輸出拡大の声 ――ウクライナ、台湾危機を口実に ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】 米銀の破綻、世界へ波及財政バラ撒き策や低金利政策のツケ米国のシリコンバレー銀行が3月10日に経営破綻し、12日にはシグネチャー銀行が破綻。ファーストパブリック銀行も破綻寸前で他銀行が救済。中小企業の株価は暴落。米銀への信用不安は欧州にも連鎖し、欧州を代表するスイスのクレディも経営危機に陥った。さらにこの余波は英国などにも波及し始めている。何が起きているのか。 ◇大慌てで預金保護破綻したシリコンバレー銀行はシリコンバレーの中心的銀行であり、有望なIT起業家やテック企業、ベンチャーキャピタル(略称VC)――ハイリターンを狙う投資会社――向けに積極的に融資していた銀行である。米国の先端企業に融資して投資収益を稼ぎ、総資産は22年末時点で約2090億ドル(約28兆円)、全米16位にランクされていた。08年のリーマンショック以降、米国で最大の破綻銀行となった。 シグネチャー銀行の方は、仮想通貨(暗号資産)関連企業との取引で知られ、資産規模は22年末時点で約1104億ドル(約15兆円)、全米29位であった。シグネチャー銀行と同様に、仮想通貨関連会社と取引が多かったシルバーゲート銀行が「自主清算」を発表し(3月8日)、信用不安が広がっていたところにシリコンバレー銀行が破綻。シグネチャー銀行は、預金が大量に流出し瞬く間に破産した。 慌てた米バイデン政権と連邦準備理事会(FRB)は、全米に信用不安が拡がらないように、両銀行の「預金保護」を発表(08年のリーマンブラザースの破綻では預金保護は発動されなかった)。次いで、イエメン財務長官は「シリコンバレー銀行の破たん処理に伴う損失が納税者に負担されることはない」と信用不安の払しょくを図った。 だが、米株式市場で中小企業の株価が急落している。財務基盤が弱まった地方銀行が投資収益を回収できない恐れのある融資を控えるのは当然であり、それゆえに、中小企業株の投げ売りが発生しているのだ。その上に、ファーストパブリック銀行なども破綻リスクにあることが暴露され、イエメンは米議会で「多くの銀行の経営破綻を引き起こしかねない深刻な伝染リスクがあると感じている」(16日)と嘆いた。 ◇シリコンバレー銀行破綻の原因大手に属するシリコンバレー銀行(SVB)はなぜ破綻したのか。 「米国では19年頃から、スタートアップの企業価値評価が拡大。低金利を背景としてVCによる投資が急増し、スタートアップのメインバンクであるシリコンバレー銀行の預金も増えた。 急激に膨らんだ預金額は預貸のバランスを崩した。銀行持ち株会社SVBファイナンシャル・グループの貸借対照表(バランスシート、BS)からは、19年以降に預金に占める貸出比率が低下し、手元資金が増える傾向にあったことが分かる。預金者に金利を支払うため、手元資金を運用する必要に迫られた。SVBは手元資金で住宅ローン担保証券などを買いあさった。20年末で495億ドルだったSVBファイナンシャル・グループの有価証券残高は1年後には1285億ドルに急拡大している」(「日経ビジネス」23・3・22)。 シリコンバレー銀行は先端技術関連に、しかも将来有望な起業家に融資し、彼らの預金が急増した一方で、コロナ不況により貸出が大して増えず、預金利子の支払いに四苦八苦するようになった。そこで、住宅ローン担保証券などを買い集め、デリバティブなどを使って〝高く売り〟利益を確保しようとした。 ところが、22年に入るや物価高騰が相次ぎ、FRBは政策金利(短期金利)を次々と引き上げた。政策金利は1年間で4・5%も上がり預金金利が上昇。しかも、低利で買った長期債券との間で「金利の逆ざや」が生じた。 さらに、バイデンとFRBの政策金利引上げによって長期債券も市場金利(利回り)が上昇し債券価格が下落。シリコンバレー銀行の資産はマイナスに転落し債務超過に陥った。 それゆえに信用不安が駆け巡り、預金が流出し株価は暴落、そして破綻したのである。 ◇低金利政策と財政バラ撒きのツケシリコンバレー銀行の破綻は決して特殊な例ではない。各銀行の経営は皆〝個性的〟であるが、相次いだ米国の銀行破綻もスイスのクレディの破綻も英国で行き詰まる銀行も、皆同様な経緯を経ている。つまり、政府と中央銀行による低金利政策と財政バラ撒きから物価が高騰し、これを鎮めるために一転して金利引上げを開始したことに起因している。 各国政府は、低金利政策によって銀行からの貸し出しを増やし、設備投資を増大させ景気を上昇させようとした。だが、上手く行かず、逆に銀行は体力を削ぎ、色々な債券投資に依存するようになった。銀行は本業である貨幣資本の貸出しで儲けることが出来なければ、国債や住宅ローン担保証券などの金融商品に投資し、さらにデリバティブも駆使して利潤確保に走るのは必然である。 低金利のもと、コロナ不況対策と名打った莫大な財政支出が行われ、22年初めから物価が上がり始めたところに、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。原油や小麦を輸入に頼らない米国でも、国内物価が5%~10%も上昇し始めた。政策金利が相次いで引上げられても、物価高騰は収まらず1年以上も続いている――信用貨幣であるドルは長年の垂れ流しでますます国家紙幣化しており、大量にバラ撒かれた紙券が景気上昇などを契機に流通経路に流入するならインフレは発生し、その結果、諸物価は一般的に上昇する。 バイデン政権は、銀行破綻が起きた後でも、予定通りにさらに金利を0・25%引き上げた。物価高騰を止めることを優先した結果であるが、長期債券の価格下落が続くのであり、従って、どの銀行も少なからずに長期債券を持ち、売りたくても売れずにシリコンバレーの二の舞になりかねないリスクを抱えている。 低金利政策は政府の財政膨張を野放図にする(日本は典型的)。そしてインフレが発生するなら金利を引上げて、それまでの景気上昇策から一転して景気を冷やして対応するのだ。矛盾も甚だしいが資本主義が続く限り繰り返され、企業や銀行の破綻は真っ先に労働者を犠牲にする。 (W) 【1面サブ】 フランスの年金制度改悪破綻するブルジョア的社会保障仏大統領のマクロンが1月に提出した改革案は「現在は62歳の受給開始年齢を2023年9月から段階的に遅らせ、30年に64歳とする。当初は65歳を想定していたが、組合などの反発が強かったため1歳早めた。受給額が少ない年金生活者への配慮として、年金の最低支給額を23年から月額1200ユーロ(約17万円)程度と、現状より100ユーロ程度引き上げる」(日経3/18)という内容。法案を受け経営者団体は「合理的で責任ある決定」と評価したが、主要労組は「長期間にわたる抗議の始まりだ」と反発した(東京新聞TOKYOWeb1/11)。 改革案には懐柔策も盛り込んだが、受給開始を遅らせることへの国民の強い反発は弱まらなかった。政権側は下院での採択が難しいと判断し、法案を強制的に採択できる憲法49条3項を適用して成立させた。独裁的なやり方は政権への反発を更に強めた。 マクロンは大統領選の公約の目玉として年金改革を掲げ、42ある公的年金制度の一本化と合わせ、膨らむ年金財政の赤字解消策の柱として年金受給を遅らせる法案を出してきた。 特別扱いで優遇される年金制度の改革と抱き合わせにして、受給者の〝公平〟を装って分断を謀ったのであろうが成功せず、国民の信頼は一層堕ちた。 フランス政府はこの改革による定年延長によって、「30年までに177億ユーロ(約2兆5000億円)の増収を見込む(前出TOKYOWeb4/4)という。2010年の公的年金制度改定では、60歳から62歳に年金支給開始年齢を引上げた際に、当時のサルコジ政権のヴォルト労働相は、この改革で18年までに約190億ユーロの財政赤字の節減効果があると言っていた(労働政策研JILPT2010・6)。 これまではフランスの年金受給はドイツやイタリアが67歳で始まるのに対して62歳でEU域内で最も早い。そのこともあり年金財政は、20年の支出で国内総生産(GDP)比で見て15・9%と、加盟国で3番目に多い(前出Web4/4)。 23年度予算案でフランスの財政赤字は国内総生産(GDP)の5%となる見込みで、EUが加盟国に求めている3%以内に抑える財政ルール(新型コロナの拡大を受け凍結されている)を超えていて危機的状況なのだ。 「戦後、ブルジョアジーは社会保障による『豊かな安定した生活』と〝福祉国家〟の幻想を振りまいてきた。彼らは利潤のおこぼれによるわずかな改良で労働者大衆を資本の支配のもとに繋ぎ止めておこうとしたのだ。だが、資本主義経済の停滞のもとで国家財政は危機に陥り、この困難をブルジョアジーは〝福祉〟の切り捨て、増税、リストラ合理化など(現代なら非正規など不安定雇用も)労働者に犠牲をしわ寄せすることによって乗り切ろうとしている。これは資本の繁栄に依存し、労働の搾取を基礎とした資本の体制を維持するための欺瞞的なブルジョア〝福祉〟の破綻を暴露している」(労働者党理論誌『プロメテウス』第23号「巻頭言」より) フランスでは週35時間労働の制約がある中で業務量は変わらないため、労働者が同じ時間内でこなすべき業務量が増えたという。一方、企業は中高年にも同じ仕事量を求める。こなせない人は解雇されるか早期退職の道を選ばざるを得ない。シニア世代(55~64歳)の21年の就業率は56%で、77%のスウェーデンや72%のドイツとは大差がある(前出Web4/4)。労働者は資本の過酷な搾取のために定年延長に反発しているのだ。 (岩) 【飛耳長目】 ★巨大IT企業GAFAは、ネット検索や通販、SNSで集めたビッグデータを使って急成長、世界市場を支配し、社会と人々の生活・文化にまで影響を及ぼしている★グーグルの便利なサービスは、全世界のネット検索で94%、アンドロイドOSは70%。アップル製品は開発から製造まで自社で賄い、その部品購買力は大きく、音楽配信やゲーム課金での収益も巨大だ。フェースブック(現メタ)の集める高度に個人的な情報の価値は高い。アマゾンの有料のプライム会員は1億人、商品検索ではグーグルに次ぐ2位だ★一方で、プライバシー侵害・独占禁止法違反、法整備不備による全世界で24兆円の法人税逃れへの批判も強い。バイデン政権は、「健全な市場形成とイノベーションを阻害している」と規制強化に乗り出した★加えて、Web3・0の次世代「分散型インターネット」と仮想空間「メタバース」の新市場、偽造困難なブロックチェーンによる「情報の分散管理」などの大波は、GAFA支配の盤石と思われたネット市場を破壊しつつあると言う★昨年来、株価は軒並みに急落、メタは1万1千人、アマゾンは1万8千人の人員整理などのリストラ策に躍起となっている。資本主義世界の市場争奪戦は激烈で、労働者の犠牲を伴って進行している。 (Y) 【2面トップ】 斉藤幸平著
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