●1453号 2023年6月25日
【一面トップ】 維新の偽りの改革に反撃を ――市民派・共産を乗り越える闘いを
【一面サブ】 軍需産業育成を後押しする立憲 ――「防衛装備品基盤強化法」に賛成
【コラム】 飛耳長目
【二面トップ】 正規・非正規の格差「是正」になるか ――JP労組の労資協調主義の克服を!
【二面サブ】 「実質賃金」は下落の一途 ――物価高騰を放置する政府・日銀
※『海つばめ』PDF版見本
【1面トップ】
維新の偽りの改革に反撃を
市民派・共産を乗り越える闘いを
4月の統一地方選の大阪府知事・府議会、大阪市長・市議会に引き続き、6月の堺市長選でも維新が勝利した。大阪市議会では過半数を制した維新が、市議会定数を削減する条例改正を成立させるなど権力基盤強化を画策している。
◇統一地方選・堺市長選の顛末
自民はこれらの選挙では、市民派を装った選挙を行った。もともと大阪都構想でしか維新と対立しない自民であり、労働者・働く者のための闘いではなく、自民の勢力のための党利党略にもとづくものであるから、大衆の大きな支持を得ることは、できるはずもなかった。むしろ、「身を切る改革」やIRカジノによる関西経済の復活などの維新の幻想を煽る役割を担った。
そして反維新の急先鋒である共産は、府知事選では独自候補を無所属として立てたが、大阪市長選では自民を離党し無所属とした前大阪市議北野、堺市長選では市民共同の無所属候補となった元自民堺市議野村を支援した。
北野は大阪都構想住民投票では、都構想反対の旗振り役であって、共産などの野党とも共闘した。しかし争点となったIRに関しては、政策的にIRを推進しているのは自民党であり、北野は「情報開示」や「住民投票」しか言わず、IRを正面切って反対しなかった。
腰が引けて徹底的にIRカジノの問題を暴露しない北野は、維新に勝てるわけがなかった。
野村も、自民党と同様の維新の公共事業から決別することはできない。野村は、維新堺市政の事業について「総点検する」と言うが、「堺とカジノをつなぐ航路の検証」、「無謀なベイエリア開発の見直し」と言うだけで、「ベイエリア開発」の問題点を暴露し反対するのではない。維新と変わらないバラ撒き政治と、万博に依存したベイエリア構想と決別することができない元自民党の野村では、維新に勝つことはできなかった。
共産がいくら市民団体として、野村の支持を呼び掛けても、その主張が自民・維新と変わらないのだから、労働者・働く者はしらけ、投票率は前回から7ポイントも下がった。
共産は選挙後「投票率がもっとあがっていれば、状況は変わっていた可能性がある」と総括したが、労働者・働く者を投票に駆り立てる闘いができなかったのである。
統一地方選・堺市長選で維新は、大阪府知事・大阪市長・堺市長を取り、大阪府議会と大阪市議会で過半数を取った。また奈良知事選と衆院和歌山1区補選で、ともに自民候補を破り勝利。全国の41道府県議選では、59議席から倍以上の124議席を獲得。「自治体首長と地方議員で600人」とする目標を達成し774人へと勢力を伸ばした。
しかし今回の統一地方選・堺市長選は、維新の勝利というよりも、単に反維新を唱えるだけの自民と、それに同調する市民派を標榜する共産の敗北である。市民派・共産では、行き詰まった資本主義を乗り越える労働者・働く者の闘いを発展させることができなかった。
◇維新と結託する自民
大阪市議会で過半数を得た維新は、定数を81から70に削減する維新の条例改正を6月9日に成立させた。自・公は削減案の共同提案者になった。自民は、「選挙結果を受け止めないといけない」と、維新の軍門に下るという醜い本性をさらけ出したのだ。
共産などの少数派が不利になる定数削減案であり、北野を市民派として支援した共産は、自民に手痛いしっぺ返しを食らうことになった。共産は反維新・反都構想ということで、維新と対抗する自民を事実上支援した。共産の伝家の宝刀・〝市民との共闘〟が力にならない〝なまくら〟であることが今回も証明された。
維新は、今回の統一地方選の目玉政策として、大阪府では公立・私立高等学校の学費無償化、大阪公立大学・大学院の授業料無償化、大阪市での0~2歳の保育料無償化、子どもの塾代助成について、それぞれの所得制限の撤廃を打ち出した。
維新は所得制限を撤廃することで、自民党などの所得制限付きの給付との差別化を打ち出し、その予算を「身を切る改革」による経費削減から捻出するから財政膨張にはならないとした。今では自民も、13日に閣議決定した岸田政権の少子化対策「こども未来戦略方針」で、児童手当の給付を所得制限なしとするなどの施策に変わり、維新のバラ撒きに追随している。
維新の政策の私立学校授業料無償化、塾代助成、大学授業料無償化などは、所得の多くを教育費に向けることができる中高所得世帯を対象としており、しかも所得制限撤廃の給付であるから、利益を多く受けるのは中高所得世帯である。これは所得格差を是正するものではなく、むしろ、格差を助長する。
維新の教育無償化などに見られる所得制限撤廃の給付を行う政治は、大衆受けするポピュリズム政治で、その本質は、中高所得世帯層に向けられた、彼らの支持を得るためのものである。
万博・IRカジノは、建設地である夢洲の軟弱地盤や土壌汚染などで、建設費増大や工期延長の問題、そして経済効果の問題などが露呈しており、事業そのものが成り立つかどうか疑問符がついているが、維新は闇雲に進めようとしている。
大阪府議会で13日に、維新提案の「特定複合観光施設(IR=カジノを中核とする統合型リゾート施設)区域整備への取組推進に関する決議」を可決し、IRを府・大阪市一体で「実現に向けて着実に取り組んでいくこと」を求めた。自民・公明も決議に賛成し、後押ししている。
◇維新の党勢拡大に反撃を
国会では自公政権の政策に維新が加担し、大阪府市では維新政治に自公が加担している。そんな自民政治の大阪市長候補・堺市長候補を共産が支援したのである。
現在衆院で41議席の維新は、次期衆院選にむけて289の選挙区すべてに候補者を擁立する方針を立てている。
反自民だといって自民党政治と変わらない、それ以上に保守的な維新は「身を切る改革」で幻想を煽るだけである。
労働者・働く者は、岸田を支える維新政治や立憲、共産などの野党を乗り越える、階級的な闘いを押し進めなければならない。 (佐)
【1面サブ】
軍需産業育成を後押しする立憲
「防衛装備品基盤強化法」に賛成
6月7日、衆院に続き参院本会議でも「防衛装備品生産基盤強化法案」が賛成多数で可決、成立した。
その内容は、以下のようである。①製造工程の効率化やサイバーセキュリティ強化などの経費の支給、②武器輸出を行う企業への財政支援、③日本政策金融公庫による貸付促進、という財政的支援を行ったうえで、それでも事業継続が困難な場合、製造施設や設備を国有化して、別の企業に生産を委託する。
支援策のうち②は武器の海外輸出支援であり、輸出先の要望に応じて武器等の仕様や性能を変更する場合は、必要な費用を国が支援するための基金を設ける(23年度は予算400億円)。
政府は法の目的を日本の軍需産業の利益率が低く、撤退が相次ぐなど、「防衛力」の弱体を招くことを防ぐためと言っているが、単にそれだけでなく、政府支援によって軍需産業を支え、強化・発展させていこうとする意図が込められている。
とりわけ重視しているのが武器の海外輸出支援である。自民党は武器輸出の用途を「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5つに制限してきた「防衛装備移転3原則」の運用指針を改定し、殺傷能力の高い武器輸出を可能とすることを狙っている。
韓国は、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、武器輸出を22年には前年の2・5倍の約2・4兆円に伸ばし、これについて自民党の元防衛相、現安全保障調査会長の小野寺五典は「正直うらやましく思う。防衛装備は一度売って終わりではなく、整備や備品の供給、弾薬も含め長い付き合いになる。(韓国に)完全に水をあけられている現状を深刻に考え、議論している」、「日本は技術立国としての装備がありながら、ここをずっとおろそかにしてきた。結果、防衛産業は自衛隊が使う限られた数の装備しか作れない。儲からず、技術開発費や研究費も出せない。どんどん国際社会から取り残されてしまう心配がある」(BSフジLIVE「プライムニュース」6・3)と語っている。
岸田は、日本も軍備を増強しなくてはウクライナのようになるなどと危機意識、国家主義、愛国主義を煽り、「反撃力」という名で、相手基地、司令部への先制攻撃を含む軍備増強法案を強行成立させる一方、それを支える軍需産業の育成・強化のための国家による支援策として「防衛装備品生産基盤強化法」を国会に上程したのである。
この反動法案には、自民、公明、日本維新の会、国民のみならず、立憲も賛成した。立憲は、2年以内に施行状況や課題について国会報告を促すということを盛り込んだ付帯決議案が安全保障委員会で承認されたので賛成に回ったと説明した。しかし、4月27日の衆議院安全保障委員会では、法案が圧倒的多数で可決された後、立憲の伊藤俊輔理事は18項目に及ぶ付帯決議案を朗読したが、「防衛産業に対する企業の忌避感を低減させるための施策を講ずること」、「防衛装備移転は……外部の専門的知識を有する者によって構成される会議を設置し、その助言等を受けることを検討すること」などそのすべては軍需産業育成強化や外国への武器輸出を促進するものばかりであった。
立憲の軍需産業育成・強化、武器輸出促進法への賛成は、労働者にとって立憲が信用できない党であり、彼らに頼っていては資本及び自民党らをはじめとするブルジョア勢力と闘い抜いていくことは出来ないことを明らかにしている。 (T)
【飛耳長目】
★連日30度を超す猛暑が続く。それで思い出されるのが、静岡県の「川崎幼稚園」で起きた千奈ちゃん(3歳)事件だ★当日も30度超えの真夏日で、千奈ちゃんは5時間も送迎バス内に閉じ込められた。警察の検証によると、当日昼のバス内温度は45度を超え、千奈ちゃんは水筒のお茶を飲み干し、服も脱いで命を繋ぎ止めていた★「川崎幼稚園」は、この地方で60年の歴史を持つ大型認定こども園で、当時165人の園児がいた。この日、バスの運転手がたまたま休みをとり、代わった園長が運転、乗務員は70代の臨時職員だった。6人を乗せたバスが園に着くと、千奈ちゃんはいつも通り最後に降りる合図を待って座席にいたが、乗務員は泣く園児に気をとられ、園長はバス内を確かめることなく鍵を閉めた★担任は千奈ちゃんがいないことに気づきながら、家庭連絡することなく勝手に「欠席」だと思い込み、こうして悲劇は起きた。園長がバス内を一瞥し、担任が家庭確認をしておれば容易に防げた事件だ★この「容易」が実践されなかったことにこの園の組織的欠陥があった。保育が私的資本によって営まれる限り、収益優先、過重労働・低賃金、人手不足が付きまとう。「送迎バス内も保育の一環であり、保育は既に始まっている」という単純なことさえ忘れられていたのだ。 (義)
【2面トップ】
正規・非正規の格差「是正」 になるか
JP労組の労資協調主義の克服を!
JP労組の第16回全国大会が、6月14から15日に、沖縄で開催されました。大会の開催にあたって、論議を呼んだのは、2020年の10月に、最高裁判決で「正社員と非正規社員の間に不合理な格差がある」とされた点です。会社側は「見直し案」を示していたのですが、組合幹部の対応も大問題でした。
◇資本の立場を貫く郵政当局
2014年に、日本郵便の期間雇用社員らは、夏期冬期休暇や、年末年始勤務手当、年始の祝日休、それに扶養手当や有給の病気休暇が、正社員にだけ認められ、同じように継続的な勤務が見込まれる、期間雇用社員には認められていないとして是正を求めて提訴しました。
正社員が約22万人、期間雇用社員から無期雇用に転換したアソシエイト社員が11万人、そして期間雇用社員が約6万人いますが、現場では、みな同じように働いています。にも拘らず、会社は利潤を増やすために賃金を抑え、管理強化のために、正規と非正規といった「格差」を設けています。
1995年、日経連の「新時代の日本的経営」が出され、郵便局も非正規雇用社員が増加して来ました。それまでアルバイトと言えば、年末の年賀ハガキや、夏の暑中見舞いハガキが増える時期だけといってもよかったのですが、非正規が増えてからは、江戸時代の身分差別があるかのように職員差別が労働者の間に押し込まれているのです。
裁判で問われていたのは、こうした当局の姿勢でした。
2020年10月、最高裁は、そうした「不合理な格差」を無くすよう求めました。原告らは勝訴判決を受け、「年末年始勤務手当勝訴」「夏期冬期休暇勝訴」「有給の病気休暇勝訴」といった垂れ幕を笑顔で掲げたのです。
ところが、当局は、その判決を〝逆手〟に取って、資本としての立場をあくまでも貫こうとしました。当局が示した具体的な「見直し案」は、夏期・冬期の有休休暇について「グループ各社(主要4社)で、一律に正社員、期間雇用社員などに、各一日付与する」としたのです。
これまでは、日本郵便の場合、正社員は、夏期3日、冬期3日で、アソシエイト社員は、いずれも1日、期間雇用社員は、いずれも0でしたが、それを、正社員も、アソシエイト社員も、期間雇用社員も、夏期と冬期で合わせて2日にするというのです。
当局案によれば、郵便関係の正社員は、休暇が4日(3+3マイナス2=4)減ります。例えば、月額賃金が、30万円の郵便正社員の時給が、1731円だと仮定すると、8時間で13848円になり、夏冬の休暇削減の4日分で55392円の減です。この場合、労働者の不満に「配慮」して、会社は、持ち出しとして、27710円を払うとしたのですが、それでも差し引き、職員の実損は27682円マイナスになるのです。
◇噴出する労働者・組合員の憤り
こうした当局案に対しては、組合員の間から、違和感・不満・憤り・反論が出されました。
「JP労組近畿NEXT」(6月11日号)が発行されていますが、そこには、5月14日、近畿であったJP労組近畿緊急支部長会議の様子が紹介されています。今回「大きな転換点となる運動方針案のポイント」として「なぜ夏期冬期休暇を見直すのか」といったことがテーマとして取り上げられています。
「支部からの意見」として、「各支部がどれだけ強く訴えても、夏期冬期休暇削減について、会社と話を付けた、この間の本部のやり方は、問題ありと考える。削減については、支部としては反対の立場で臨む」といった声が、掲載されていました。さらには、「組合員の処遇の削減は進むのに、会社中で削減して行かなくてはいけない部分については、全く示されていない、不信感が募る。郵便局を減らせというのではないが、全局に局長が必要なのか。本社支社機能の見直し、会社役員、専門役の在り方についての見返しが無い、不信感がある」といった声も載せられています。
そこに掲載されている「組合員の声」のコーナーでは、「夏期冬期休暇の削減は本当にショックです。ただ、職場の半数以上を占める、時給制社員の方々の気持ちを考えれば複雑です…。何をもってして平等と言えるのか、考えさせられます」といった、思いが綴られていました。
こうした支部の意見に対し、JP労組中央本部は、「夏期冬期休暇の方向性について、2年にわたり議論して来たが、見直しを進める方向で、全国大会に臨む」と言い、「夏期冬期休暇の問題も難しいが、今後は、さらに大きく難しい問題に向き合っていかなくてはけいけなくなる。それは税制、社会保障制度、労働法制と密接にかかわっている」、「政治の場で結論が出る前に、先んじて、どのような方向に行くかを想定しながら、準備しておく必要がある」と言って、焦点をそらしたのです。
JP労組の全国大会では、本部提案が承認されました。夏冬の有休休暇を期間雇用社員に2日与える一方で、正社員の有休休暇は、6日から2日に減らす会社提案を受け入れることを正式に決めました。
これに対しては、早速、反対意見が上がっています。職員の自死事件が起きた奈良西郵便局では、郵政ユニオンの掲示板に、「組合の看板が泣いている」と、「JP労組の沖縄での、16回大会が終了した。沖縄代議員の『やむなし』で流れは決まった。夏冬の休暇削減のことだ。盆と正月、世間並みに休みたいとの思いで、職場の先輩たちが築き上げてきた権利(夏期冬期休暇)が、あっさりと金に換えられた。それも、たたき売り(正社員の休暇が減らされ、わずかな見返り金が当局から支払われたに過ぎない)だ。会社の本音は、旧郵政官僚、組合で飯を食っている専従者、全国郵便局長など、利権や利害関係者にとっての、財務基盤の維持が、最優先なのだ。改めて、組合は誰のためにあるのかを考えさせられる。私たちは格差是正のために、これからも奮闘していく」という怒りの声が表明されています。
◇労働者の団結した闘いを発展させよう
ここで指摘されている、郵政資本の利権を如実に示しているのは、特定局長会による地上げのカラクリで、それは「日本郵便が、地主と取引をする前に、特定局長会が、局舎移転先の物件を先に横取りし、賃料をせしめる手口」であり、「それを支社・本社の社員・役員が、後押し」しています。特定局は、明治政府が(郵便制度を創設する際に)地方の有力者から局舎の提供を受けたのですが、局長身分の世襲と、局舎の賃料は利権となり今も続いて」いるのです。
JP労組中央本部は、「見直しを進める方向で、全国大会に臨む」としていました。つまり最初から会社の休暇削減案を飲んでいたのです。労組本部は、労資協調の立場から、正規と非正規の間の差別を根本的に解消する気はなく、結局、会社の利益を擁護し、労働者の団結を損ねる結果になってしまいました。
労働組合は大衆組織ですが、「資本と賃労働」という対立の中の労働者の組織であり、労働者の利益を擁護して闘うものです。そして同時に、労働組合は〝労働の解放をめざす闘い〟と結合していかなければ、階級的に団結することは出来ないこともまた明らかです。
かつての全逓や国労や全国金属などの総評の急進的な組合運動は、労働者の階級的な意味での団結を作り上げることができませんでした。急進的組合運動の限界が、現在の労資協調路線を招いたとも言えます。
こうした歴史的な教訓も、学ぶべきではないでしょうか。 (大阪 Sg)
【二面サブ】
「実質賃金」は下落の一途
物価高騰を放置する政府・日銀
食料品や文房具を製造する企業によって、また電力会社などによって、あらゆる種類の消費手段の価格引上げが行われ、また新たに予定され、労働者の賃金は大幅に目減りしようとしている。
◇春闘後でも「実質賃金」下落
植田日銀は4月の初会合で、「賃金の上昇を伴う形で、2%の『物価安定の目標』を持続的・安定的に実現することを目指していく」とし、「賃金の上昇」を重視するかの〝思わせぶり〟を披歴していた。
この植田発言の意味は、4月に入れば「管理春闘」で決まった賃上げ分(連合集計で3・66%増)が手取り分に反映されるので、12カ月も続いている「実質賃金」の低落に歯止めが掛かる、という期待を込めたものであった。
それゆえ、マスコミや投資家は「30年ぶりの賃上げ効果」に注目していたようだ。
ところが、厚労省が6月6日に発表した4月分の「毎月勤労統計(速報値)」によれば、「名目賃金」にあたる基本給や残業代は、事前予想の前年比1・8%上昇に遠く及ばず、わずか1・0%増に留まった(3月分は1・3%増)。
さらに、4月分の消費者物価指数は前年比で4・1%と、3カ月ぶりに4%を超えた。
その結果、4月の「実質賃金」は対前年比で3%減となり(3月は同2・3%減)、13カ月連続の減少となった。3%とか4%の減少は労働者の生活にそれ程響かないように見えるが、消費者物価のうち、食料、住居、光熱・水道、家事用品、教育用品などの「主要10大費目」で見れば、ここ1年間で軒並みに7~20%も上昇しているのであり、労働者の現実の賃金は10%以上目減りしている。
しかも、生活必需品製造企業からは、今春から秋にかけて再び値上げラッシュがあると発表されている――ハウス食品は、「家庭用205品を約6~15%引き上げる」、「エスビー食品も香辛料や中華製品を家庭用で601品目を値上げする」、子供たちが使う文具品でも「コクヨがノートなどの文具を平均約11%値上げする」、「森永乳業は育児用ミルク・飲料などを5・8~20%引き上げる」等々(「日経POS」)。
加えて、6月から毎月数千円の電力料金値上げが決定されており(値上げ幅は電力会社によって違い、14%~40%)、とりわけ非正規労働者の生活は格段に悪化する。
◇植田も黒田と大差無いペテン師
植田は厚労省発表の消費者物価指数2%超えが1年にわたって続いているにもかかわらず、社債や中長期国債が売れ残る原因を作ってきた超低金利政策を解除しようとはしていない。
超低金利政策を解除すれば、たちまち国債の利回りが上昇し、国債価格が下落しかねないからだ。それが進めば、政府歳出予算上の「国債費」増加に繋がり、日銀保有資産である国債の「含み損」も増大する。植田が恐れているのは、このことである。
だから、植田は思わせぶりに「出口戦略」の可能性を語り続けて、危機的課題から人の目を逸らすのである。
他方、ケインズ経済学者の植田は「物価上昇」が「賃金上昇を伴い」安定的に進むことを期待し、そんな「物価上昇」によって経済成長や景気回復が成しうるかに語る。
「物価上昇」によって経済成長を図るという理屈は、安倍と黒田の極悪コンビと同じ発想に過ぎず、とっくに破綻しているハレンチな経済学である。「物価上昇」は経済の好況期の結果(拡大再生産が進み生産資本の不足が発生するなど)であり得ても、好況の原因では無い。
植田は「賃金上昇を伴う」ことを敢えて強調し、黒田とは違うかのポーズを取っている。
しかし、ブルジョア(ケインズ学派)は、「賃金上昇」は景気回復に必要な「有効需要」を生み出す上で、必要な条件だと言ってきたのではなかったか――「過少消費説」に基づく共産党の賃上げ論と同じに。
安倍が連合幹部や経団連に足を運んで賃上げ行脚を行い、また「同一(職種・職務)労働同一賃金」を掲げたのも、景気回復に必要な「有効需要」創出のためであった。
安倍と黒田は少しも物価が上昇しないことに焦り、恣意的に物価上昇を策したが、他方の植田は、物価の高騰に焦り、賃上げと物価上昇の安定によって景気回復を策するのである。要するに、安倍・黒田コンビも岸田・植田コンビも経済を何も分かっていないことを暴露している。
岸田・植田がさかんに「賃上げ」を叫ぶのは、労働者のためではなく総資本のためであること、物価上昇が進めば賃金は直ぐに目減りし、その後に賃金引上げを勝ち取っても物価上昇の後追いになり、ますます「実質賃金」は減少すること、従って、賃金奴隷制を基礎とする資本主義を止揚しない限り、労働者は利潤獲得を推進動機とする資本の運動に翻弄され続けることを確認しなければならない。 (W)
|