●1460号 2023年10月8日
【一面トップ】 差別的な保険制度を温存 ――政府の「収入の壁」対応策
【一面サブ】 維新に鞍替えの東大阪市長 ――「第二自民」の腐敗を暴露
【コラム】 飛耳長目
【二面トップ】 ナンセンスな「賃上げ=景気回復」論 ――岸田は予備費まで注ぎこみ賃上げ図ると
【二面サブ】 また一つ明らかになった検察当局の安倍政権への ゴマすり
※『海つばめ』PDF版見本
【1面トップ】
差別的な保険制度を温存
政府の「収入の壁」対応策
岸田は政府の取り組む政策の一つの目玉として、「男女が希望通り働ける社会づくり」を進めるためと称して、「年収の壁」問題の是正に取り組むことを明らかにした。しかし、それは、〝専業主婦〟のように社会保険の保険料を支払わない被扶養者でも夫の年金・健康保険に加入できる現行の制度を温存する、ごまかしの政策でしかない。
◇「収入の壁」とは何か
「収入の壁」とは、社会保険に加入する会社員や公務員に扶養される配偶者が働く場合、一定の収入に達すると社会保険に加入する義務が生じ、保険料を負担するため手取り収入が減るが、この保険料の負担を回避するために働くことを止めることである。その分岐点となるのが年収106万円と130万円であり、「収入の壁」といわれている。
まず「130万円の壁」について。
現状ではパートの主婦にとって自らの年収が130万円未満ならば、パート収入には所得税と住民税がかかるが、保険料を支払わなくても第3号被保険者(以下、「3号」)として夫の年金、健康保険に加入できる。しかし、年収が130万円以上になると夫の扶養を離れて年金保険と健康保険に加入することになる。
両方合わせて約14%(本人負担分のみ)の保険料を負担することになり、年収130万円の場合、手取りの収入は約124万円から109万円へと15万円減る。ふたたび手取り収入124万円を得るようにするためには年収151万円となるまで働く必要がある。
次に「106万円の壁」について。
フルタイムの4分の3以上の勤務日数・勤務時間で働く場合や、従業員101人以上(24年から51人以上)の企業で、週20時間以上勤務で賃金月8・8万円以上の場合、社会保険(厚生年金、健康保険)に加入する義務が生じる。106万円というのは1年間の賃金(月額8・8万円×12)のことである。扶養をはずれ社会保険料の負担を避けるため、「3号」となっているパート主婦は月額8・8万円以上にならないように労働を調整しようとする。これが「106万円の壁」である。
◇一時しのぎの政府の対応策
岸田が「収入の壁」を取り上げた一つの理由は、人手不足の対応である。高齢化、人口の縮小が進む中で、22年の就業者数は、新型コロナ禍の前の19年の水準に戻らず、外食の出店やホテルの宿泊者受け入れなどをはじめ人手不足が深刻となっている。このため岸田は、収入による労働の回避を弱め就労促進を図ろうというのである。
「106万円の壁」に対しては、政府は企業への助成金を創設するという。手取り収入が減らないように労働時間を延ばしたり、基本給を増やしたりした企業に労働者1人当たり最大50万円を支給し、「106万円の壁」を越えて働きやすいようにしようというのである。そのための刺激策として企業への助成金を設けるという。だがどれだけの「3号」の女性が「収入の壁」を乗り越えて働くかは不確かである。
一方、「130万円の壁」に対しては、政府は年収が一時的に130万円を超えても、2年までは「3号」のままでいられる対応策を盛り込む見通しだという。
だがこれも、保険料を負担しないでも年金、健康保険の加入者でいられる3号を残すことを前提にした対応策でしかない。
「3号」制度が出来たのは1986年。それまでは夫の年金で夫婦2人が生活する年金給付だったの変えて、妻も自分の年金を持つようになったのが始まりである。当時、国民皆保険が言われ、夫の被扶養者であった妻も自分の社会保険を持つようにするということで、「第3号」制度が生まれた。
しかし、その後、働く女性が増加し、自ら保険料を負担する企業で働く女性や自営業者の妻と社会保険料を負担しない「3号」との〝不公平〟も大きくなっている。政府の「3号」への支援策は、他の働く女性との〝不公平〟をさらに広げることである。
また、社会の高齢化が進み、年金や医療費がますます膨張する中で、何百万もの保険料の負担を免れている「3号」の存在(20年末で721万人、4割が就労中。厚労省)が社会的な問題になっている。
にもかかわらず、政府の対応策は一時しのぎのごまかしでしかなく、問題に正面から向き合おうとしていない。
◇社会的生産への参加を妨げる「3号」制度の廃止を
労働政策研究・研修機構の「労働の壁にどう対応したか」の調査(昨年10月、101~500人企業対象)によれば、「労働時間を延長して(社会保険に)加入した」が約21%。「働き方は変わらず」が31%だった一方、「加入を回避した」は48%と、約半数が回避している。働くことを望みながらも、半数の女性は保険料負担なしという目先の利益のために労働調整しているのである。
連合でも中央執行委員会は「3号」廃止の方向という方針をだしたが、労組からは「メリットを享受している組合員も多く、労組としては放棄する必要はない」との意見があり、結論は出ていない(5・18芳野会長)という。
しかし、医療や年金など社会保障は労働者の生産的労働によって支えられているのであり、女性も社会的な労働に参加すべきである。もちろん、利潤獲得を目的とする資本の下での労働は厳しい。だからといって、社会的労働を回避する「3号」の存在が正当化されるわけではない。
女性の社会的労働への参加を妨げている保育、介護などの社会施設も整備されなくてはならないし、また男女の労働者は団結して資本の搾取に反対し、その廃絶をめざして闘っていく必要がある。
また、男女平等の観点からいっても、女性が経済的に男性に依存している限り男女平等はありえないし、女性も社会的労働に参加することは当然のことである。
資本の下では妊娠・出産で一時職場を離れる女性は男性に比べて〝劣った〟労働力として差別されているが、働く現場での男女平等を勝ち取ることは、男女平等に向けての第一歩である。
社会的労働への参加を妨げ、男性への経済的に依存する「3号」制度は廃止されるべきである。(T)
【1面サブ】
維新に鞍替えの東大阪市長
「第二自民」の腐敗を暴露
東大阪市長選・市議選は、9月24日投開票され、市長は維新公認の現職の野田が5選を果たし、市議選も維新が第1党となった。しかし野田は、過去4回の選挙では無所属で当選し、自民や公明の支援を受けていた。自公支援の市長が突如維新に〝転身〟した。
市長選は、維新公認の野田、無所属の内海、龍神の3人が戦った。維新は既に府知事を取っているが、府下43市町村の首長では大阪市、堺市を始め維新公認が既に20人となっている。東大阪市長選に維新が出れば、野田は敗れるのではないかと、維新の出方が注目されていた。
その野田が維新の公認候補として立候補することを表明したのは、告示まで1ヶ月切った8月になってからである。
大阪では自公と維新との対立が続いているのでこの転身は耳目を驚かしたが、しかし維新代表の馬場が「第2自民でいい」と本音を語ったように、自民と維新とはほとんど変わらない政治姿勢であり、別に不思議でも何でもない。野田は「これまで、自民、公明、維新に予算・決算を否定されたことはない。市を前に進めるうえで、維新、自民、公明に何ら違いはないと考える」、「大阪都構想にも賛成」と言いのける。
そもそも野田は、日本の帝国主義戦争を防衛戦争と美化し、九条などの憲法改定を導く育鵬社の中学校公民教科書を東大阪市での採用を主導した名うての反動である。
2017年には保守反動の牙城「日本会議」の関連団体「教育再生首長会議」会長に就任し、その会費・参加費などを公費で支出する公私混同が露呈している。市政では、「行革」の名で減免制度や市民サービスを削減し公立保育所を統廃合してきた。その政治手法は、自民、維新と違いはない。
そして市長の地位に留まりたい野田と、府下第3の東大阪市に進出したい維新の利害が一致したのである。自民は、独自候補を立てることはできず、公明は「自主投票」を決めて選挙に臨んだ。
野田は今年6月に、業者からの請託を受けた200万円授受疑惑が浮上し、共産党などとともに維新もこの疑惑に対して野田を追及していた。6月の市議会期末に、市議会での「調査特別委員会」設置を共産党は提案したが、維新は一転して与党の自民、公明とともに反対する態度を取った。
「明るい東大阪をつくる会」が擁立し共産推薦の内海は、選挙でもこの問題を取り上げたが、そもそも3候補者とも、小学校給食無償化など似たような公約が並んでおり、内海は「党派の違いをこえ」などと言うのであるから、維新・野田を徹底的に追及して戦うことはできなかった。
選挙結果は、野田が約9・5万票(得票率約66%)を獲得し勝利した。共産・内海は、無党派の龍神と大差ない票(2・8万票)に終わり、広い支持は得られなかった。
市議会選では、維新が前回8人から11人に当選を増やし第1党となり、勢力を伸ばした。公明、共産は得票数を減らしたが現有勢力を保ち、自民は1人減らした。
これまで支援していた自公を裏切って維新に走った野田は、その金銭授受疑惑の傍証となる市長公用車の運行記録まで追及されており、疑惑を晴らすことはできないままである。
このような人物を、自公はこれまで支援し、疑惑をかばい隠蔽をはかり、維新は党勢拡大のために公認した。自公維の腐敗は全く底知れない。自公もそれに代る維新の伸張も、労働者・働く者にとって、百害あって一利なし、ともに退けなければならない。
我々は、党派性を出さない市民主義ではなく、労働者の政治を全面に示して闘いを組織しなければならない。 (佐)
【飛耳長目】
★英『エコノミスト』誌が発表するビッグマック指数は、国際比較が容易な商品の価格から適正な為替水準を算出する指数になっている。ビッグマックは材料、調理法などが世界的に統一された同一品質・規格の商品で、安い時間給で働くギグワーカーらが作っている★日本は450円(約3・1米㌦)、1位のスイスでは2倍超の7・7米㌦、米国は4・9米㌦、EUなど先進主要国も上位に並び、メキシコ5・5米㌦などブラジル、韓国、タイでも日本より高い(23年7月時点)。日本の安さは、政府日銀の低金利政策による円安誘導の影響が大きい★分析によるとビッグマックの価格と最も相関関係が強いのは最低賃金で、日本の全国平均1004円が極めて低いだけでなく、1人当たりGDPに対しても低く、さらにその水準で働く労働者の占める割合が高いことも影響している★総務省統計では、役員を除く雇用者の37%、2100万人が非正規労働者で、その約7割はパート・アルバイトである。つまり、最低賃金に近い水準の労働者の数と割合が新興資本主義国と比べても高いことが、日本のビッグマックの安さの秘密だ★夫に従属した地位を反映する女性パート労働者の「年収の壁」もあるが、非正規で女性や若い労働者を強搾取する日本の資本主義こそが問題だ! (Y)
【2面トップ】
ナンセンスな 「賃上げ=景気回復」論
岸田は予備費まで注ぎこみ賃上げ図ると
政府は10月20日に臨時国会を召集し、15~20兆円規模の「総合経済対策」を取りまとめ、その財源確保のために補正予算を組むと言う。さらに、賃上げ促進のために予備費まで使うと言い出した。なぜ賃上げは経済対策か。
◇物価高騰を阻止出来ない
かつて安倍政権は発足した当初、「アベノミクス」(大量の国債発行・財政バラ撒きと日銀による国債買い支えによるゼロ金利政策)によって、2年後にデフレから脱却できるかに豪語した。だが安倍の思惑は外れ、その後、賃金の改善によって労働者の消費を増やせば、巡り巡って「経済の好循環」が生まれるかに幻想を煽ったが、これもまた大失敗に終わった。
安倍政権にとって、賃上げは消費拡大につながる経済の起爆剤であり、物価上昇と賃上げの経済好循環に繋がるものであった。岸田政権にとっても、賃上げは有効需要を創出する魔法の杖なのだ。
だが、円安による輸入価格高騰が国内市場に波及し、企業間売買価格は高騰。消費者物価10大費目(平均)も22年6月の対前年比約4%から23年6月には同比約9%に上昇。大企業は高騰した原材料費を販売価格に転嫁して売上高を増やしたが、中小企業はそれが出来ずに利潤を減らしている。
昨年後半から物価高騰による企業倒産が増加に転じ、労働者の失業が増えている現在(『海つばめ』1459号参照)、岸田政権は衆院解散に打って出ることも、これに勝利することもできないと苦慮し、「経済は回復途上にある」と空とぼけながら「賃上げ促進」を経済対策の一つの柱にでっち上げようとしている。
岸田政権は(経団連も)現在の物価上昇率と同様な賃上げ率を実現できるとは最初から考えておらず、従って、舌先三寸で「賃上げを伴う物価上昇」から「経済の好循環へ」を叫ぶのは、物価高騰を抑えられない政府への批判の高まりを逸らすための方便、ただの責任逃れでしかない。
◇金利引上げ不能な理由
生活必需品の物価が急上昇しているにもかかわらず、欧米のように金利を上げようとしないのは特段の理由があるからだ。
それは欧米のように金利を引き上げるなら、政府が発行する新発国債及び借換国債の表面金利や市場利回りに影響を与え、その結果、政府支出の「国債費」が急増するからであり、さらに、日銀が保有する国債価格が下落し日銀資産に多大な影響を及ぼすからだ。
日銀は今でさえ保有国債に「含み損」を抱え(22年日銀発表)、これ以上の「含み損」を増やしたくないと考えている。
まして、金利の上昇は日銀当座預金の「付利」(短期金利に相当)の上昇に繋がりかねない。現在の日銀資産運用利回りは「0・19%」と言われ、もし今のまま「付利」が0・2%水準に上がるなら、資産運用収支はゼロになってしまい、さらに1・2%に上がるなら1年で5兆円(日銀当座預金5百兆円の1%分)がマイナス収支となり、2年で日銀の「自己資本」(11兆円)を食い尽してしまう――これを回避するためには日銀は株や国債を売ることになるが、債券価格の暴落を招く。また政府の支援を得るにしても原資は税金となる。
そうなれば日銀は「債務超過」に陥る。日本は大量の政府債務を抱えた世界最大の借金大国であり、その政府債務の半分を日銀が買い支えている以上、政府のみならず日銀も自ら招いた泥をかぶるのは必然である。こうした背景があるから、日銀は欧米の金利引き上げに対抗してさっさと金利を引上げ、急進する円安を食い止め、輸入価格高騰を防ごうとしないのである。
◇日本の物価上昇は特殊?
岸田政権は欧米の金利引き上げが一段落して円高に向かうことを祈りながら、それまでの間、「賃上げした企業に対する優遇税制の拡充」(9月25日の岸田の記者会見)や連合定期大会に出席して労働者の味方面して誤魔化すしかない。
そもそも、消費増大を図れば、または有効需要を創出すれば、不況から脱却できるかに唱えたのは、マルクスが最も軽蔑した寄生階級の学者、『人口論』で有名なマルサスである。マルサスは匿名の小冊子『食料高価格論』で経済危機(不況)は消費不足から起こると述べ、有効需要が価格を決定すると論じたが、ケインズはこのマルサスを高く評価し、現在のブルジョア経済学の拠りどころになり、ひいては、山田盛太郎や共産党の「過少消費説」の元祖になった。
既に述べたように、安倍政権は「管理春闘」や「同一労働同一賃金」を演出して賃上げを促し、これを起爆剤として消費拡大を図ることによって、物価が継続的に上昇する、つまり経済好循環が生まれるかに大騒ぎしてきたが、何一つ実効性は無かった。これと全く同じことを岸田は策動する。
岸田・植田は安倍・黒田と同様に、物価の下落や停滞と経済不況を混同し、労働の生産性向上による物価下落(諸商品の生産に必要な社会的労働量が縮小)も親の仇であるかに捉え、その上で、経済不況脱却のためには賃上げと物価上昇が必要だとマルサス流に妄想する。
しかも、現在の物価高騰はロシアのウクライナ侵攻や円安によるものである、つまり特殊的であり、それらを除けば物価上昇は小さくむしろ停滞していると理解する。だから植田は去る6月28日に開かれた主要中央銀行トップの討論会で、「日本の物価上昇率達成に自信がない」(上昇率は2%のこと)、ゆえに「大規模な金融緩和を修正しない」(「朝日」23・6・30)と平然と述べることができたのである。
◇賃上げで景気拡大の幻想
「デフレの最大の要因は、家計消費支出が減少している」(『赤旗』13・1・7)、「消費と需要を創出する経済対策は22兆円規模、内部留保課税による中小企業の賃上げ支援や奨学金返済の半額免除などの緊急対策は18兆円規模という積極予算をすすめる」(「共産党の経済対策」23・9・28)。
岸田の「賃上げ=消費支出拡大」と共産党の「消費と需要創出」「賃上げ支援」は瓜二つである。どちらもマルサスやケインズの有効需要論(または過少消費説)に寄って立つからである。消費不足を解決するために賃上げを行えば、消費と需要を創出できると岸田や共産党は言う。だが、果たしてそうか?
第一に、消費拡大や需要創出という要求は、生産あるいは供給を無視した机上の空論である。流通にて消費や需要を恣意的に増やすこと、つまり公共事業でも維新のIRでも、あるいは戦争でもいいから大量の生産物とカネの浪費こそ善であるというマルサス=ケインズ流の低俗で反動的な議論と結びついている。
第二に、賃金を上げれば需要が増え、物価が上がり、企業の業績が良くなり、さらなる賃上げが期待できるというのも、資本主義の本性を理解しない岸田や共産党らの幻想に過ぎない。賃上げが企業業績に結びつくと言うのであれば、なぜ企業は10%~20%の大幅賃上げを毎年認めないのか。また、賃金がわずかだが上がり、物価も継続して上昇している現在、なぜ、逆に企業倒産が増えているのか。
第三に、賃金が上がれば個人消費が増えるという一面があるにしても一時的である。賃上げは資本の剰余価値の縮小であり、資本に転化する量を減じ、資本の運動を阻害するからだ。
資本主義社会が経済不況に悩むのは、消費不足が直接の原因ではなく、資本間の競争を勝ち抜くために、消費や需要を顧みず無政府的に生産を拡大し資本の過剰を生み出すからに他ならない。
このように、岸田や共産党(他党派も)の「賃上げ=景気回復」論はナンセンスである。(W)
【二面サブ】
また一つ明らかになった検察当局の安倍政権へのゴマすり
◇河井夫妻の大規模買収事件裏金メモ検察押収の新事実
広島の地元紙、中国新聞が19年参院選での河井克行・案里夫妻の大規模買収事件の特集を連載したが、その中で大きな新事実が明らかにされた。
現在、広島地裁では被買収側の県議、市議らの裁判が続いているが、その被買収の根拠となったのは、家宅捜索で押収された河井元法相(21年10月に控訴を取下げて懲役3年、追徴金130万円の実刑が確定、現在服役中)の現金約2700万円の配布先(100人)のメモであった。ところが、実際にはこの配布先のメモだけではなくて、それと同時に、その資金として安倍、二階、菅、甘利からの現金約6700万円の供与があったことを示す裏金メモも検察が押収していたというのだ。
◇明らかになった買収資金提供や政治資金不記載
むろん、この6700万円は自民党から正式に選挙資金として河井側に提供された1億5000万円(うち1億2000万円は政党交付金からの支出)とは別である。
A4の紙に書かれたメモにはその内訳がこう記されていた。「第3 7500 第7 7500 +現金6700 総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」。
第3、第7とあるのはそれぞれ自民党支部名であり、総理とは安倍総理、すがっちとは菅官房長官、幹事長は二階幹事長、甘利とは甘利選対委員長を、そして数字が提供金額の万円を指すことは明白だ。事実、甘利はメモ通りに100万円を渡したことを認めている。
また被買収議員の裁判でも明らかになっているように、克行は議員たちに「総理から」とか「安倍さんから」と言い添えて、また案里の方は「二階さんから」と言い添えてこれらの現金を渡したのであるから、この6700万円こそが買収資金であったことは明らかであろう。
検察は買収資金の提供や、少なくとも政治資金規正法の不記載の罪で、この4名や自民党本部を強制捜査しなければならないのだ。
◇買収の「本丸」を罪に問わない検察
ところが検察がやったことは配布先のメモを手掛かりに、検察に有利な証言をすれば立件しないなどと「司法取引」を匂わせて、買収資金の「出口」を明らかにし、克行を立件することだけであった。
他方で検察は、買収資金の「入口」にあたるこの裏金メモの存在については口を閉ざし、メモにある4名や自民党本部にたいして家宅捜索や聴取を行わなかったばかりでなく、克行の公判でもそれを証拠として提出することさえしなかったのである。
検察当局はこの何年もの間、裏金メモの存在自体を自らの手で握りつぶしてきたのだが、それはただただ事件は克行だけにとどめますよ、政権中枢には手を入れませんよという安倍政権への忖度、いやゴマすりだったのである。
買収されるのが悪いのならば、買収したりそれを手助けするのはもっと悪いに決まっている。しかし検察は買収の「入口」、その「本丸」のほうは罪に問わないでいいというのだ。「片手落ち」というのはまさにこのことであろう。
◇政権中枢へ忖度する検察・マスコミ
だからこそ被買収者の議員たちは、まるで自分たちこそ捜査の「被害者」であるかに振る舞い、いまや買収の事実すらなかったとばかりに大手を振って裁判にまかり出るのだ。被買収議員たちの厚顔無恥を助けるために「塩を送る」とは大した検察ではないか。
そればかりではない、克行からの聴取に際しても、容疑者が拒否しないかぎり取り調べは原則として全過程が録音・録画の対象であると定められているにもかかわらず、地検の特捜部の方から克行に録音・録画なしでの聴取を打診したというのである。
検察当局がいかに裏金の入口が問題となることで事件が政権中枢に及ぶことを危ぶみ、克行個人の問題にとどめるための「努力」をしたか、あるいはそのための「仲介」をしたかが分かるであろう。この裏金メモについてのはじめての報道があってすでに2週間がたつが、他のマスコミは検察への忖度であろうか、この報道は一切無視されている。
◇反動派は結束し始めている
安倍政権への検察当局の忖度とは、結局のところ日本の帝国主義化が新たな段階に入ったことを示しており、反動的なブルジョアジーが結束し始めたことの証左であろう。もはや労働者は自らを階級政党へと団結することなしには彼らと闘うことのできない時代に入ったのだ。
(広島 泉)
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