WPLLトップページ E-メール
購読申し込みはこちらから


労働の解放をめざす労働者党機関紙『海つばめ』

◆第2第4日曜日発行/A3版2ページ
一部50円(税込み54円)

定期購読料(送料込み)25号分
  開封 2000円
  密封 2500円

ご希望の方には、見本紙を1ヶ月間無料送付いたします。

◆電子版(テキストファイル)
メールに添付して送付します

定期購読料1年分
 電子版のみ 300円

A3版とのセット購読
  開封 2200円
  密封 2700円

●お申し込みは、全国社研社または各支部・党員まで。
E-メールでのお申し込みもできます。

アベノミクス」を撃つ
カネをバラまくことで国も経済も救えない。


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=2000円(+税)
●お申し込みは全国社研社または各支部・党員まで。

「アベノミクス」を徹底批判

崩れゆく資本主義、「賃金奴隷制」の廃絶を
資本の無政府主義の横行闊歩そして蔓延する国家の無政府主義


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=3000円(+税)
●お申し込みは全国社研社または各支部・党員まで。

序 章=世界恐慌の勃発とその必然性 第一章=“株式”資本主義の横行とその「論理」 第二章=“株式”資本主義の“暴走”と堀江、村上“現象” 第三章=日本版“新”自由主義とその結末 第四章=“金融重視”政策のとどのつまり 第五章=銀行救済と「公的資金の投入」 第六章=歯止めなき財政膨張と近づく国家破産 第七章=“グローバリズム”と労働者階級 第八章=階級的闘いを貫徹し資本の支配の一掃を 

『「資本」の基礎としての「商品」とは何か』


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=1600円(+税)
●お申し込みは全国社研社または各支部・党員まで。

《全九回の報告及び講義のテーマ》
第一回 「資本」とは何か?
第二回 「冒頭の商品」の性格について
第三回 「労働価値説」の論証
第四回 「交換価値」の“質的”側面と貨幣の必然性
第五回 商品の「物神的性格」(“呪物的”性格)
第六回 貨幣の諸機能と“価格”(貨幣の「価値尺度」機能)
第七回 紙幣(もしくは“紙幣化”した――して行く――銀行券)とインフレーション
第八回 特殊な商品――労働力、資本、土地等
第九回 『資本論』(「商品」)と社会主義

林 紘義著作集 全六巻


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=各巻2000円(+税)
●お申し込みは全国社研社または各支部・党員まで。

第一巻=「労働価値説」擁護のために
第二巻=幻想の社会主義(国家資本主義の理論)
第三巻=腐りゆく資本主義
第四巻=観念的、宗教的迷妄との闘い
第五巻=女性解放と教育改革
第六巻=民族主義、国家主義に抗して


●1474号 2024年5月12日
【一面トップ】 金権岸田政権3補選全敗
        ――岸田批判票を獲得できなかった立憲
【一面サブ】  政治パーティー、企業献金禁止もなし
        ――おためごかしの自民、規正法改正独自案     【コラム】   飛耳長目
【二面トップ】 追い詰められて為替介入
       ――円安を打開できない政府、経済も行詰まったまま
【二面サブ】  〝赤狩り〟復活の米議会
       ――学生運動を「反ユダヤ主義」で弾圧するバイデン
※『海つばめ』PDF版見本

【1面トップ】

金権岸田政権3補選全敗

岸田批判票を獲得できなかった立憲

 4月28日に投開票された衆院補欠選挙は、自民党全敗、立憲民主党が全勝した。裏金事件で腐敗政治を曝け出した岸田政権は、退けられた。勝利した立憲は、労働者大衆の支持を獲得したと言えるものであったか。それが問題だ。

◇自民全敗の3補選結果

 東京15区は、江東区長選に絡む公職選挙法違反の罪で有罪になった自民柿沢議員の辞職に伴うもの。今回、立憲・酒井、維新・金沢、保守・飯山、無所属で都民ファーストの乙武、元立憲参院議員須藤、参政、N新、そしてIR汚職事件で収賄の罪で実刑判決を受けて現在控訴中の元自民衆院議員秋元など9人が立った。

 自民は政権党でありながら候補者を立てることができず、小池知事の要請を受けて立候補した乙武にも袖にされて、自民推薦も出せず、相乗りもできなかった。共産は、公示日直前に独自候補の擁立を取り下げ、酒井を自主支援した。

 酒井が一歩突き出て4万9千票余りで当選。須藤、金沢、飯山、乙武は2万9千票から1万9千票と並んだ。立憲系野党は、須藤を入れても7万9千票、他は全て右よりの保守系で9万1千票。これまでの自民票の多くが保守系に行っている。

 投票率も前回58%が41%に低下している。立憲は当選を果たしたが、自民批判票を集めることはできなかった。

 島根1区は、自民細田前衆院議長の死去に伴うもの。細田は裏金事件渦中にあった安倍派元会長で、しかも統一協会との関係の問題を抱えていた。裏金問題についての岸田首相の口先だけの誤魔化しの隠蔽策動は、自民党支持者においても容認できないほどであった。自民は弔い選挙とし公認候補錦織を立てた。今回の3補選で唯一の自民候補だ。

 これに対して立憲は、元衆院議員亀井を公認候補とした。共産は独自候補の擁立を取り下げ、亀井を自主支援した。

 与野党の一騎打ちとなった選挙は、亀井が8万2千票余りの得票で、錦織に2万4千票余りの差を付け当選。出口調査によると、これまでの自民支持層から3割近くが亀井に流れたとされる(4月30日朝日)。投票率は54・62%(前回61・23%)で過去最低の記録だ。

 長崎3区は、自民の谷川衆院議員が裏金事件に関わる政治資金規正法違反容疑で略式起訴され、自民党を離党し議員辞職したことに伴うもの。自民党は候補者を立てられず、立憲・山田と維新・井上の野党同士の一騎打ちとなった。共産は山田を自主支援した。

 山田は5万3千票、井上の2万4千票の倍程の得票で当選。ただし、前回21年衆院選では山田は5万5千票であった。投票率は前回60・9%、今回35・5%。投票者は6万4千票減った。前回自民・谷川が5万7千票、この票は立憲や維新に行かず投票しない数となったと言える。前回無所属候補の2万5千票が維新に行った形になる。結局、長崎では自民票は棄権などとなり、立憲も維新も受け皿になっていない。

◇危うい立憲の勝利

 東京15区では、共産の支持で酒井の票が増えて当選につながったが、自民批判票は保守系に行った。長崎でも、立憲が支持を拡大したとは言えない。島根では立憲の支持を増やしたが、亀井は旧津和野藩主の子孫で、父親が国土庁長官を務めた元自民党の国会議員。自民党支持者にも受け入れられる素地があり、亀井への投票は立憲への積極的支持とは言えない。このように3補選で立憲が全勝したが、立憲支持が拡大したとは言えない。全国の世論調査(4月朝日)では、政党支持率は自民が26%に対して立憲6%と支持の拡大は見られないのだ。

 泉立憲代表は、公明党や自民党の一部にも「裏金一掃・政治改革救国」のミッション型内閣を呼びかけた(1月31日)ように、反自民と言いながらも自公にも期待し、最初から腰が引けている。連合の芳野から、立憲と共産との共闘は「ありえない」と言われて(2月13日)すぐに優柔不断になった。力強く自民と闘わない立憲は、労働者大衆の支持を獲得できなかった。しかし共産は、今回の勝利を「共闘の力」(5月3日)とし、こんな立憲との「野党共闘」を求めるのだ。

 一方、東京15区に見られるように、腐敗堕落した自民への批判が強まる中で、自民に代わるという触れ込みで、日本保守党などの保守系党派がのさばろうとしている。

 これらの政党は維新に見られるように、労働者大衆を引きつけようと教育無償化などを掲げ、一方で中国との軍事的対峙の強化など排外主義的立場で自民党を批判する。それは結局、岸田が進めようとする憲法改正、軍事力強化などの国家主義的政治を後押しするのだ。これらの政党の自民党批判は、自民党を利するものでしかない。

 彼らは深刻化する生活困難が、資本による労働者搾取の強化に起因することを見ない。生活改善のために立ち上がり、資本に対して闘う労働者を彼らは抑圧し、国家主義的強権政治で資本の体制の維持を図ろうとするのだ。労働者はこんな政党を自民党とともに一掃するのみである。

◇野党共闘ではなく労働者独自の力で!

 岸田は、与野党対決の島根で1勝すれば格好は付くと、3補選の内唯一勝てそうな島根1区だけに公認候補を立てた。しかしその目論見は脆くも崩れた。それは岸田の金権腐敗政治の帰結だ。

 岸田は選挙の結果が出て、「政治の改革、党改革を進めていく」と空しく響くことしか言えない。岸田は、裏金問題についての自民党の犯罪を誤魔化して逃げ切ろうとしている。

 自民に対して「改革」の期待など一切できない。にもかかわらず、「自民の改革案が進まないなら、信を問わなければならない」と、自民に期待する立憲泉は、自民党と徹底して闘うことはできない。3補選全敗でNOという岸田政権に対する「評価」が下されたのだ。泉は直ちに内閣不信任決議を出し、衆院解散に追い込まなければならない。

 共産のように不甲斐ない立憲との野党共闘ではなく、労働者は断固とした階級的な力で、金権腐敗政治の徹底した根絶を要求し、岸田政権打倒の闘いを発展させなければならない。(佐)


【1面サブ】

政治パーティー、企業献金禁止
もなし

おためごかしの自民、規正法改正独自案

 4月26日、自民党の「裏金づくり」で露呈した「政治とカネ」にまつわる金権腐敗を正すという目的で設けられた衆院政治改革特別委員会の第1回会合が開かれた。この日は、各党がそれぞれの改革案を説明するだけに終わり、本格的な議論は5月の連休明けからということになったが、自民党の政治資金改正に向けた独自案は、「裏金づくり」の手段となった政治資金パーティーや企業献金の禁止に言及もない、ごまかしであることを暴露した。

 自民党の提案を説明した大野敬太郎議員は、①政治家の責任強化、②外部監査の強化、③収支報告書のデジタル化の3点からなる再発防止策を最優先すべきと主張した。

 大野は「政治家の責任強化」について次のように述べた。具体的には収支報告書が適正に作成されたことを示す「確認書」の提出を政治家に義務づけることであり、「確認」が不十分の場合には、会計責任者が報告書の不記載などで刑事責任を受けた場合には、公民権停止となる。

 自民党の「裏金づくり」では、収支報告書の収入の不記載が問題になり、政治家の責任が問われた。しかし、実際に立件されたのは4000万円超のキックバックを受けた安倍派の3人の議員、派閥の会計責任者だけであり、安倍派議員らは、収支報告書をつくったのは会計責任者や秘書であり、自分は知らなかったと言い逃れし、罪を会計責任者・秘書に擦り付け、自分の罪を免れた。

 そこで問題となるのは政治家の責任だが、他党では不正があった場合に政治家の「連座制」を謳っているのに対して、自民党はなぜ「確認書」なのか。それは、不正の第一の「責任」は会計責任者にあり、「確認書」を出した議員は、不正に気付かなかった、見逃したなどの言い逃れの道を残すためとしか考えられない。

 実際、自民党は「失職や公民権停止などの制裁を科すことが妥当なのか議論しなければならない」(森山総務会長)、「民意で選ばれた人を収支報告書の不記載で失職させるには重すぎる」(衆院中堅幹部)という意見に見られるように、「連座制」導入に反対の声が強いからだ。

 大野は特別委員会で、政治家は「確認書」を出すのだから、「連座制」と同じように政治家も収支報告書に対して責任は取ることになるかのような説明をしたが、ごまかしでしかない。

 自民党独自案では、「記載漏れ」など「確認」が不十分であり、立件されなかった場合には、不記入とされた収入については国庫への納付や政党交付金の減額・停止という党内の処分という軽微な罪で済まそうとしているのである。

 大野は政治パーティー、企業・団体からの献金については、「政治資金の多様性」や「プライバシーの確保」を理由に「慎重な姿勢」をとる必要があるとして禁止するという意見に対しては反対した。自民党の独自案では、政治パーティーについては、禁止ではなく「開催を制限」すること、「パーティー券購入者の公開基準」の見直しを行うことを掲げている。

 企業・団体からの献金については、自民党は説明でも独自案でもまったく触れてもいない。

 その他、自民党独自案では、収支報告をデジタル化し、公開期間を延長するとか、政治資金に関する調査や政策提言を行う第三者機関の創設を謳っている。しかし、第三者機関といっても公平性を期待できないし、自民党の金権・腐敗への世論の追及をそらせるためでしかない。

 結局、自民党は「裏金づくり」の元となった政治パーティーや企業・団体献金はやめる意思はさらさらないのである。

 岸田は「政治改革に火の玉となって取り組む」と述べた。だが、それは単なる言葉だけでしかない。金権腐敗を一掃できるのは労働者・働く者の階級的な闘いとその発展である。(T)


   

【飛耳長目】

★国民平等の憲法に紛れ込んでいた天皇制が、男系男子の呪縛によって自ら衰退の道を進んでいる。眞子と小室の結婚に至る醜聞も〝天皇家〟なる〝血筋〟の形骸化を語るものだった★「家」によって受け継がれていく私有財産や特権と無縁の労働者庶民にとって、天皇制は社会に寄生する目障りな存在でしかない。それを崇高視する反動派は、皇統が絶える一大事だと皇族数確保の悪巧みを策してきた★自民党は「①女性皇族の婚姻後の皇族身分保持、②旧宮家男系男子の養子縁組」によって天皇制を強化し、「万世一系」の〝血筋〟が守られると野党に呼びかけた。これには、裏金追及に熱心な立憲・共産も、無自覚な大衆の皇室観に迎合して全政党が賛同(共産は①のみ)してしまった★戦前戦中の弾圧で獄死者多数を出した共産党の「天皇制反対」は、志位時代の憲法絶対化で完全にサビ付いてしまった。「日本共産党は天皇制をなくしません」「前文と第1条から第99条まで、憲法を厳格に守る」「天皇の制度は憲法上の制度で、その存廃は、将来情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである」★岸田政権が南西諸島警備に自衛隊部隊を増強して中国との対立を煽り、帝国主義化する時代にあって、共産党の平和ボケは許されるものではない。(Y)


【2面トップ】

追い詰められて為替介入

円安を打開できない政府、
経済も行詰まったまま

 4月29日に続いて、今月(5月)2日にも財務省による為替介入があった。先月、34年ぶりとなる1ドル=160円台まで円安が急進するや財務省は介入した。続いて今月の2日、1ドル=157円でも再び介入した。円安高進の背景と、日本資本主義の行き詰まりを明らかにする。

◇焦って為替介入

 為替市場で円安が高進しているのは、米国が政策金利を引上げ始め、最近5%台に高止まりし、日本の言わば「ゼロ金利」との間で、相当な金利差が生まれているからだ。これだけの金利差があれば、円を売りドルを買う動きが強まり、従って、為替相場は円安に振れる。

 昨年初めに1ドル=130円台であった為替相場は160円にまで急進した。それは米国FRBが昨年来の政策金利を6会合連続で据え置いた上に、日銀=政府が金利引上げを行おうとしなかったからである。

 もちろん、経常収支の動向によっても為替市場は変動する。

 例えば、11年に発生した東日本大震災によって貿易収支を含む経常収支が悪化して以降、為替相場は円安に転じ、震災前の1ドル=80円台から15年には120円台に急落した。その後、経常収支の回復と共に円高に振れ、相場はコロナ前の19年まで1ドル=100円~110円台を推移した。

 だが、最近、経常収支が改善しているものの(23年、20・6兆円の黒字)、円安が是正されないのは、日米の金利差が開いたままであるからだ。

 その結果、ついに円が160円を超え、財務省は先月29日未明に、ドル売り円買い介入を行った。政府は今月2日にも外貨準備を使って実力行使をした――もし、日米の金利差が同じであり、生産性などの条件が不変とするなら、円安になれば輸出商品の価格は米国でより安く表示され、反対に、輸入品は国内で高く表示される。その結果、輸出は増え輸入は減って為替は円高方向に修正される。

◇景気冷却も懸念

 政府が懸念するのは、米国の金利が高止まりにある状態を狙って、日本国債から米国債に乗り換えることである。

 実際、昨年7月の日銀会合(長期金利1・0%容認)や今年1月の日銀会合(同1・0%超容認)直後に国債売りが高まり、1月には海外投資家の「売り越し額」は1・4兆円に達した。

 既に円の購買力や円に対する国際的信用は低下しており、さらに、国債売り・米国債買いなどによって円が売られるなら、また、円預金からドル預金への転換が加速し円が流出するなら、「グローバル・パートナー」(世界の〝護民官〟)を掲げて行動し始めた岸田政権にとって大打撃となる。

 岸田政権は円安を食い止め、「賃金と物価の持続的引上げ」によって経済を好転させ、名目GDPや名目税収額を増やしたいのだ。

 そう考えるなら、長短金利操作を止めて政策金利を中心に管理する――日銀当座預金の「付利」に付けていたマイナス金利解除によって、政策金利は民間銀行間で貸借する1日限の無担保短期金利に移り、これを日銀が操作する――と言ったのだから、さっさと政策金利を引き上げて、米国との金利差を縮めればいい。

 だが、日銀はそれを実行できない。政策金利を引き上げるなら(日銀財務は悪化するが)、市場の長期利回りに強く作用し、その影響は図りしれないからだ。

 実際、米国では、政策金利(FF金利)が現在5・3%であるのに対し、10年物国債を指標とする長期利回りは3~4%台に上昇している。日本では16年に、日銀当座預金の一部にマイナス0・1%を採用した途端、10年国債の利回りがマイナス0・3%に下落したこともあった。短期金利を甘く見ることはできないのだ。

 政策金利の引上げが進むなら、国債や各種債権、預金や保険に影響を及ぼし、ジレンマを抱える日銀財務や政府財政にとって、さらに重石となるのは明らかだ。さらに政府は政策金利の引上げによって景気を冷やすことも強く恐れている。

 日銀=政府は、政策金利を上げる余裕がすっかりなくなっている。そこで止む無く為替介入し、効果は一時的であることを承知しながらも、これ以上の円安高進をくい止めたかったのだ。

◇円安から円高になり景気は好転するか?

 90年のバブル崩壊以降続く長期不況は、直接には70~80年代に進んだ拡大再生産によって資本の過剰が顕在化したことによる。バブル崩壊直前には生産的投資から遊離したカネが土地に流れ込み、土地高騰を招いた。

 とりわけ80年代には設備更新と拡大が進み、しかも設備稼働率は飽和状態であり、日本の大企業は円高も利用して海外に生産拠点を開拓していった。その典型は自動車(四輪)であり、今や海外生産台数は国内の2・1倍にのぼっている。

 バブル崩壊後の日本は、ITやAIなどの先端技術で米国、中国、韓国などに後れをとり、「日の丸半導体」の復活を図って半導体製造企業を集約したが、高度集積回路の製造に失敗した。これに象徴されるように、日本は先端技術分野で世界から取り残された。

この現実をカバーし、資本の利潤増大を図るために海外進出を加速させ、同時に国内では非正規労働者を大量に作りだして生き延びた――自動車、工作機械、半導体生産設備や半導体材料など、多くの分野で世界のトップを行く企業は多々あるが。

 この行き詰まりを打開しようと、岸田政権は「長期投資」を開始した。

 土地取得などの規制を緩め、台湾TSMC、オランダASMLなどの半導体先端企業やAI企業を国内に誘致し、これらの企業に直接に「長期」補助金をバラ撒き始めた。

 それだけではない。政府は今春闘の賃上げを後押しする名目で、「賃上げ法人減税」をおこなったが、減税額の大半が大企業に流れたことを見れば明らかなように、それは設備投資や人材募集でカネを必要とする大企業への支援策であった。

 高度先端企業の誘致によって、日本資本主義が好循環を迎え、貿易黒字がかつてのように回復し、円安が是正されることを政府と財界は期待する。だがそう簡単ではない。

 というのは、欧米でも中国遮断の供給網づくりを目指して半導体企業の誘致合戦が行われている、これらが全て稼働するようになれば、半導体は生産過剰になり、価格下落をもたらすからである。

 生産と消費を合目的に行うならば、生産の過剰は避けられるが、私的利益を追及する資本主義は合目的な生産を行う社会ではない。資本主義は利潤のための生産、生産のための生産という無政府的な競争社会である以上、資本間の競争と資本の過剰を避けることができない。そして、資本主義は自ら招いた資本の過剰を労働者の犠牲や戦争(ケインズが言った最大の有効需要)によって解消し、延命するのが常であった。

 これをいつまでも許すのか、それとも根本的な解決策である「労働の解放」を目指すのか。後者こそが労働者の進むべき道であろう。 (W)


【2面サブ】

〝赤狩り〟復活の米議会

学生運動を「反ユダヤ主義」で
弾圧するバイデン

◇米国内のガザ虐殺抗議の闘い

 米国内のイスラエルによるガザ虐殺に抗議する闘いは、学生を中心に全米各地で広がり、学内に立てこもる、テントを張って構内を占拠するなど当局と対立を深め逮捕者を出すなどしてきた。

 問題が一気に先鋭化し深刻化してきたのは、米国下院教育労働委員会の公聴会で権力をかさに強圧的に〝査問〟する共和党議員らによって、ペンシルべニア大、ハーバード大、マサチューセッツ工科大の学長らが、「ユダヤ人差別はおぞましいことだと強調したうえで、個別の発言が学則違反にあたるかどうかは発言の『文脈による』と答えた」(12・2 BBCJapan)ことが、「反ユダヤ主義」の発言をしたと議会の場で断罪され、批判されて、召喚された学長らが謝罪し、辞任(23年12月9日)してからである。

 4月30日に警官隊が突入したコロンビア大学は、激しい抗議活動が続きデモが全国に広まる契機になった大学と言われ、これまでに数百人の学生が逮捕された。

 先月17日の教育労働委員会公聴会の追及でコロンビア大学長は、昨年12月に辞任に追い込まれた学長らと同じ轍を踏まないように、「反ユダヤ主義はコロンビアの使命、目標、価値観、教えに反する。我々のキャンパスにそのような場所はない」と、権力者におもねる発言をし、その翌日に警官隊を導入した。5月23日に行われる公聴会には、エール大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)など3校の学長が召喚されている。

 戦後米国で、下院に設置された非米活動委員会が、共産党シンパと見なした人々に「共産主義者」のレッテルを貼り〝赤狩り〟を行ったように、「反ユダヤ主義」のレッテルで、政治活動を弾圧し権力に拝跪させようとしているのだ。

◇「反ユダヤ主義」で弾圧するバイデン

 バイデンは全米で学生の反戦デモが拡大していることに対して、「抗議する権利はあるが、混乱を引き起こす権利はない」ともっともらしいことを言ったうえで、言論の自由と法の支配という「米国の2つの基本原則」の「どちらも担保されなければならない。われわれは人々を黙らせ、反対意見を排除するような権威主義国家ではない」、「とはいえ、無法国家でもない。われわれは市民社会であり、秩序が保たれなければならない」と言って、米国は「反対意見を排除する権威主義国家」のロシアや中国とは違う、「法が支配する秩序ある市民社会」にならなければならないと説いた。

 学生が抗議し、世界中の労働者や国連でもガザ侵攻をジェノサイドと糾弾している問題への抗議行動は、米国においては「反ユダヤ主義」として弾圧される対象になった。

 「反ユダヤ主義」はこれまでユダヤ人、ユダヤ教に対する敵意・偏見、憎悪と定義されてきたが、イスラエル政府に対する批判や偏見も含まれつつある。バイデンは30日、「ユダヤ系米国人文化遺産継承月間の宣言」で、「反ユダヤ主義に力強く立ち向かい、米国では憎しみに適用免除を与えることはないことを明確にすることは我々が共有する道徳的責任だ」と述べた。米下院を通過した「反ユダヤ主義啓発法案」が正式に成立すると、米国内ではイスラエルに対する発言や抗議が禁止される見通しと言われ、学生・労働者の抗議運動は規制され弾圧が激しくなることは確実である。

 バイデンがここにきて学生の抗議行動に抑圧的なのは、11月の大統領選を見据えてである。

 トランプは学生デモに対して「恥ずべきだ」と批判し選挙公約でも「私立大は反ユダヤ主義の温床だ」と問題にして保守票の取り込みを行おうとしている。支持率でトランプに逆転された(バイデン45・1%トランプ46・6%、5・3NHK)バイデンは、トランプと節操なきポピュリズ政治の競い合いに踏み込んだ。

◇大学闘争やガザ虐殺抗議に留まらない闘いを!

 バイデンの「市民社会」というオブラートに包まれた社会の実態は、有産階級(米国民の1%の富裕層が35%の富を独占)が社会の富を私的に占有し、資本家階級と支配される労働者人民とに分断されている敵対的な階級社会である。

 超格差社会を生み出し、その頂点に立つ資本家階級とバイデン政権や大学が、イスラエルのガザ虐殺を容認し経済的(大学の基金〔ハーバード大の基金は21年6月532億㌦〕からイスラエルにも投資)・軍事的に支えていることに対する反発・怒りが、学生らの抗議行動を生み出している。

 学生らは、基金のイスラエルへの投資の引き揚げを要求。さらにイスラエルと取引をしている企業も戦争に加担しているとし、それらの企業に投資していると抗議し、中止を要求している。

 学生の闘いが、大学への抗議やイスラエルのガザ虐殺批判、武器援助中止要求に留まらず、労働者階級と結びつき、搾取労働の廃絶・労働の解放を目指す闘いに発展することを、バイデンや米国のブルジョアジーは恐れている。支配階級を震撼させる闘いに踏み出す時が迫っている。(古)


《林紘義遺稿集第一巻
     60年安保闘争から新たな政治組織結成に向けて》
全国社研社発行 2024年4月20日発行
定価 本体二千円+税

ページTOP