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労働の解放をめざす労働者党機関紙『海つばめ』

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アベノミクス」を撃つ
カネをバラまくことで国も経済も救えない。


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=2000円(+税)
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「アベノミクス」を徹底批判

崩れゆく資本主義、「賃金奴隷制」の廃絶を
資本の無政府主義の横行闊歩そして蔓延する国家の無政府主義


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=3000円(+税)
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序 章=世界恐慌の勃発とその必然性 第一章=“株式”資本主義の横行とその「論理」 第二章=“株式”資本主義の“暴走”と堀江、村上“現象” 第三章=日本版“新”自由主義とその結末 第四章=“金融重視”政策のとどのつまり 第五章=銀行救済と「公的資金の投入」 第六章=歯止めなき財政膨張と近づく国家破産 第七章=“グローバリズム”と労働者階級 第八章=階級的闘いを貫徹し資本の支配の一掃を 

『「資本」の基礎としての「商品」とは何か』


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=1600円(+税)
●お申し込みは全国社研社または各支部・党員まで。

《全九回の報告及び講義のテーマ》
第一回 「資本」とは何か?
第二回 「冒頭の商品」の性格について
第三回 「労働価値説」の論証
第四回 「交換価値」の“質的”側面と貨幣の必然性
第五回 商品の「物神的性格」(“呪物的”性格)
第六回 貨幣の諸機能と“価格”(貨幣の「価値尺度」機能)
第七回 紙幣(もしくは“紙幣化”した――して行く――銀行券)とインフレーション
第八回 特殊な商品――労働力、資本、土地等
第九回 『資本論』(「商品」)と社会主義

林 紘義著作集 全六巻


著者・林 紘義
全国社研社刊
定価=各巻2000円(+税)
●お申し込みは全国社研社または各支部・党員まで。

第一巻=「労働価値説」擁護のために
第二巻=幻想の社会主義(国家資本主義の理論)
第三巻=腐りゆく資本主義
第四巻=観念的、宗教的迷妄との闘い
第五巻=女性解放と教育改革
第六巻=民族主義、国家主義に抗して


●1484号 2024年10月13日
【一面トップ】 石破、所信表明で約束を反故
        ――自公政権の延命を前面に
【一面サブ】  弱者救済装う「イシバノミクス」
        資本の救済と繁栄こそが目的だ
【コラム】   飛耳長目
【二面トップ】 教科書反動化の新たな局面
        ――検定基準改悪で加速する軍国主義化
【二面サブ】  ドイツでも極右政党伸張
        ――「反移民」を掲げ
        ――資本主義による問題を逸らす
《『海つばめ』購読料改定のおしらせ》
※『海つばめ』PDF版見本

【1面トップ】

石破、所信表明で約束を反故

自公政権の延命を前面に

 石破新政権が発足、4日所信演説が行われた。石破は新政権の基本方針は国民の「納得と共感」に基づく「謙虚で誠実な、温かい政治」だと訴えた。だがそれは具体性を欠くものばかりで、確固とした意志は見られない。ごまかしで自公政権の延命を図ろうとする新政権の反動性を暴露している。

◇「政治改革」の約束は反故

 新政権の最大の課題は、自民党の「裏金づくり」の問題にみられた「政治改革」である。安倍派を中心とする巨額の「裏金」が「何時、誰が、何のために」行ない始めたのか、実態について責任者たちは口を噤んでいる。

 「裏金づくり」のような不正が行われないようにするためには実態を解明することが必要であり「再調査」が問題とされてきた。石破はこれまで「再調査」が必要なことを言っていたが、「新しい事実が判明すれば必要だが、現在そういう状況にあるとは承知していない」と前言を翻した。

 所信演説でも、「国民からの信頼を取り戻す。そのためには『政治家のための政治ではない』国民のための政治を実現していく。政治資金収支報告書への不記載問題については、まずは問題を指摘された議員一人一人が国民と誠実に向き合い、改正された政治資金改正法を徹底的に遵守し、限りない透明性を以て国民に公開することを確立せねばならない」と、政治家の心構えの問題にすり替えて済ませている。

 裏金議員の公認問題についても、当初、「地方組織から公認要請があれば原則公認することにする」と決め、さらに「小選挙区で敗れても惜敗率で復活できる比例重複候補とすることを地方組織から申請があれば裏金議員に対しても原則的に認める」ことにした。

 しかし、裏金議員へのこの甘い姿勢は党外から厳しい反発を受け、6日、石破は裏金問題で党から「非公認」よりも重い処分を受けた議員を非公認とすることに転換した。

 非公認となるのは党から「非公認」よりも重い処分を受けた議員(下村元文科相ら3人)、「非公認」よりも処分は軽かったものの、党の役員停止1年間の処分がされていて、政治倫理審査会に出席していない議員(荻生田元政調会長ら3人)である。また説明責任が十分果たされず、地元の理解が十分でない議員も非公認の対象とする。一方、裏金議員について選挙区での立候補は認めるが、比例重複候補となることは認めないことにした。

 石破はこれらの方針について「国民の不信、怒りにたいする自民党のきちんとした対応」と言うが、対象は裏金議員の一部でしかない。実際、4月、自民党党紀委員会は39人の処分をきめたが、不記載が500万円未満の議員についてはたんなる注意で済ませているのであり、「国民の不信、怒りにたいするきちんとした対応」というより、怒りをそらそうという姑息な対応でしかない。

◇裏金問題への追及を恐れて、解散・総選挙へ

 こうした石破の「政治改革」、「裏金づくり」問題に対する消極的な姿勢は、裏金問題の実態解明のための野党との「国会審議」の約束を破り、解散、総選挙を急いだことにも示されている。

 9月14日の自民党総裁選挙候補者討論会の中で石破は、「国民に判断材料を提供するのは政府の責任であり、新しい総理の責任である」、「本当のやり取りは予算委員会だ」と選挙前の国会での討論の必要を訴えた。「『今解散すれば勝てる』とばかりに衆議院を解散することは、国会を『国権の最高機関』とする憲法41条の趣旨に反する」とまで言った。

 しかし、10月1日の総裁就任記者会見では、「新しい内閣について国民の信を問うことは、憲法の趣旨にも沿う」という見解に豹変。そして全閣僚が出席して討議を行う予算委員会での裏金づくり問題の審議をするかわりに野党との党首討論で済まそうというのだ。

 この豹変は、国会での討論で自民党の腐敗が追及され、選挙で不利となることを恐れたからである。総裁になる前には、「裏金づくりの実態の解明は国会の役割であり、それをおろそかにして国会の解散を行うのは憲法違反」との発言を翻して、国会の解散を行う(しかもまだ総裁で首相となっていない段階で)ことのどこに「共感と納得の政治」があると言うのか、石破の行動は、国民を愚弄することでしかない。

◇石破も高市らと同じ穴のムジナ

 石破は裏金議員に寛容な態度をとったことについて「反対派の力が強い」からといっている。石破の党内基盤が脆弱であることは事実である。総裁選第1回目の投票でトップの高市に27票差で2位となった石破が決選投票で21票差で逆転勝利したのは、主に小泉を支持した菅や〝キングメーカー〟を気取る岸田が、財政膨張のリフレ策や靖国参拝を主張する高市に反発する議員たちに石破支持を振れ回ったからだ。

 石破は総裁選後、挙党体制を狙ったが、高市、小林は入閣・役員就任を拒否、新政権は旧安倍派を除いた政府となり、石破の首相としての権力は森山幹事長、林官房長官(旧岸田派)によって大きく制限されることとなった。このため石破は経済策は岸田の経済政策を継承、持論であるアジア版NATO軍事同盟の創設、日米行政協定の改定などは所信表明にも触れず封印となった。

 しかし、石破の政治基盤が弱いということは、裏金づくりの実態解明を放棄する理由にならない。石破が金権・腐敗政治に反対し、国民が信頼する「政治改革」を行うことが自分の信念だというなら、大衆に訴えて闘うべきだ。しかし、選挙で自民党が不利になるから責任追及をやめるというのだ。「納得と共感」に基づく政治などという美辞麗句で大衆をまるめこみ、自民党政権の延命を図ろうという石破も高市らと同じ穴のムジナである。

 自民党政権が続く限り、労働者、働く者の明るい未来はない。自民党政権を打倒し、労働の搾取を基礎とする資本の体制克服に向けての闘いを前進させていこう。 (T)


【1面サブ】

弱者救済装う「イシバノミクス」

資本の救済と繁栄こそが目的だ

 石破は総裁選で、持論であった財政規律重視や金利回復を早々に封印し、物価高が進むのに岸田と同様にデフレ脱却をうたう。石破の経済政策を探ってみよう。

 所信声明演説で石破は盛んに「物価に負けない賃上げ」、「雇用と所得を増やす」、「パイ拡大」、「地方創成」を並べたが、それらをいかに実現するのかについては何一つ語らなかった。

 石破のこれらの主張は、〝企業の利潤増大に応分した賃上げ〟という資本の本性を後ろに隠した、「分厚い中間層形成」や「人的資本重視」による経済成長論である。それは以下のような背景から生まれた。

 「ゼロ金利政策」で設備投資を促し、円安に誘導すれば輸出企業が儲かり、従って日本経済全体が成長するかの、我々から見れば詭弁の類であった「アベノミクス」が挫折した。しかも長年続く経済停滞から脱することができず、GDPがドイツに抜かれ、近年中にインドにも抜かれようとしている。加えて、少子化も一向に改善できない。こうした日本資本主義の行き詰まりと退廃の中で、ブルジョア達は焦り始めている。

 岸田政権発足時の岸田の演説はその端的な現れであった。岸田は「新自由主義」(規制緩和など)を批判した「新しい資本主義」を掲げ、金融所得への課税強化と共に低中所得者層への分配を謳った。つまり、「応能負担」や「分配無くして経済成長無し」を前面に出していた。

 だが岸田は〝金持ち増税〟について、投資家から反発を受けるや何の信念もないことを暴露して引っ込めた。そして、「分配無くして経済成長無し」のフレーズも投げ捨て、投資家や企業経営者に、また連合幹部らにも支持される「物価上昇を上回る賃上げ」によるデフレ脱却(=景気の好循環)を謳うようになった。

 ところが、円安によって輸入品価格が高騰し、国内産商品の価格も相次いで引き上げられ、政府・日銀が経済好転の指標としていた「消費者物価指数2%」を超え続けていても、彼らは相変わらず「デフレ脱却」を叫んでいる。

 加えて、不動産や株式のバブルが発生したのに、それでも日本経済はデフレだと定義し、財政を膨張させてカネをバラ撒き、投資促進と物価上昇を煽ってきた。デフレはインフレと共に貨幣概念であるが、ブルジョアにはこうした概念は無く、「経済不況」の意味で使われて来た。だが最近では〝物価と所得が増えない経済〟という意味でデフレを使うことが多くなった。

 石破の所信声明もこの流れに沿ったものと言っていい。

 石破が岸田政権の経済政策を引き継ぐと宣言し、再分配や所得重視を装うのは、真に生活弱者や労働者の救済を考えるからではない。それによって個人消費能力を引き上げ、消費拡大を図り、何とかして経済回復に繋げたいからである。この理屈は古くからある「過少消費説」であり、政府の財政に依存させるのが常である。従って、石破の財政規律重視とは矛盾するのであり、石破は持論を引き下げ岸田がやったように財政の大盤振る舞いをやらざるを得ない――過少消費説も財政の大盤振る舞いも共産党や斎藤幸平らに見られる理屈である。

 石破は岸田同様に〝金持ち増税〟や法人税増税を断固としてやるつもりはなく、岸田のように、物価上昇による名目的な税収増を図り、加えて国債を発行して原資を作り、これらを利用した政府投資や見せかけの「弱者救済」を行うことになろう。石破の看板である「地方創成」は、「交付金倍増」と言い出したように、結局、カネのバラ撒きに堕すのが関の山だ。 (W)


   

【飛耳長目】

★猛暑の夏から秋らしい10月となったが、世情は穏やかではない。トップは今年最大の値上げラッシュ。主要食品メーカーの2911品目が平均15%値上げ。出回り始めた新米は30~50%、郵便料金は30%の高騰だ★他方、今年の春闘での賃上げ率は33年ぶりの高水準となったが、連合集計でたったの5・17%。物価高騰の前では焼け石に水。最低賃金も10月から平均5%引上げで全国平均は1055円、たった51円の引上げ幅が過去最大とは、空しいばかり★トヨタの3月期決算の営業利益5兆3529億円は、日本企業過去最大。法人企業の内部留保も右肩上がりで増え12年連続で過去最高を更新し、600兆円に積み上がったのに、働く者の生活維持費は極限まで切り縮められ、困窮は増すばかり★石破首相は「物価高を上回る賃上げ、最低賃金を20年代に全国平均1500円に」と大口を叩くが、資本の奉仕者である石破にできるはずもない。それは、労働という生き血を吸って搾取、収奪する資本から奪い返す闘いが必要であって、わずかな譲歩でさえ資本の利益の侵害となる性格を持つからだ★最低賃金引上げには遅れた小ブルジョアである小生産者の反発さえあるだろう。こうした点からも、働く者への粘り強い階級的宣伝と組織化の活動が必要となるのだ。 (Y)


【2面トップ】

教科書反動化の新たな局面

検定基準改悪で加速する軍国主義化

 この8月、全国581採択地区で2025年度から使用される中学校教科書が採択された。「歴史」は検定通過9社の版のうち育鵬社等の3社の版が反動教科書であり、一部公立学校での採用があったものの採択占有率1%にとどまるとみられ、〝悪名高い〟令和書籍版に至っては採択0となり、これら3社版の反動的教科書採択阻止という点では一定の成果を収めた。しかし、反動教科書3社以外の教科書ならよいのか、そうではない。

◇「書き換え」強要で強まる教育反動化

 2020年は育鵬社歴史教科書占有率1・1%で2015年6・4%から激減。今回も反動教科書の採択は2020年並みとなり、反動派のリベンジは失敗に終わった。

 しかし、肝心の記述内容、特に日本軍の残虐性や政府の関与などの事実が曖昧にされ加害に対する記述が弱まった。実は自民党政府によって検定制度が見直され「書き換え」が各教科書会社に強要されたのだ。

 歴史研究の到達点に基づいて編集された記述が変更を余儀なくされた(ロシアや中国を社会主義国と呼び、第二次世界大戦をファシズム国と民主主義国の戦争とするなど、誤りはあるものの)。

 「書き換え」強制は2012年政権を奪った安倍が下村博文文科相に新検定基準を導入させ、後継の菅首相のもとで2021年萩生田文科相がこれを〝活用〟(下村は今年裏金事件で逮捕起訴、萩生田は裏金に加え、旧統一教会会長との会談の場に同席した時の写真が報道された。右翼反動の安倍にはお似合いの文科大臣達ではある)。

 具体的に検定での「書き換え」と育鵬社ら反動教科書の記述をを見てみよう。

◇「強制連行」は「徴用」や「動員」に書き換え

 今年、新居浜市が採択した帝国書院版では、「戦争によって労働力が不足すると、日本は国民徴用令に基づき、企業では半ば強引に割り当てを決めるなどしながら朝鮮人を徴用し、占領地の中国人なども動員しました。多くの人々が日本各地の鉱山などに連れていかれ、低い賃金で厳しい仕事に就かせられました」。

 前回採択の東京書籍版では今回は、「日本は植民地や占領地でも厳しい動員を行いました。多数の朝鮮人や中国人が、意志に反して日本に連れてこられ、鉱山や工場などで劣悪な条件下で労働を強いられました。こうした動員は女性にもおよび、戦地で働かされた人もいました。戦争末期には徴兵制が朝鮮や台湾でも導入されました」。東京書籍版訂正前は、「日本にいた朝鮮人は、………日本に渡ってきた人たちや炭鉱などに強制連行されてきた人たちです」。

 育鵬社版は今回、「戦争の末期には、朝鮮や台湾にも一部徴兵や徴用が適用され、日本の鉱山や工場などで厳しい環境で働いた人々もいました」。

 帝国書院、東京書籍は「強制連行の事実」を伝えるため工夫を凝らす努力をしており、拍手を送ってもいいが、育鵬社は「強制連行など無かった」ように印象付けようとしていて悪質だ。

 戦中、新居浜は住友銅鉱山で強制連行した朝鮮人や中国人を酷使、一番危険な坑道先端部に配置され大勢の労働者が事故死に会う。四国とはいえ高地の鉱山は冬には雪が積もり坑道には氷柱ができる厳しい環境。帰国叶わず死亡した両国人の慰霊碑が山中に存在する。

◇「南京大虐殺」は「南京事件」に

 帝国書院版では、「一九三七年七月………日本軍は中国南部からも侵攻し、上海や当時国民政府の首都だった南京を占領しました。南京では兵士だけでなく多くの民間人も殺害されました」(南京事件)。

 東京書籍版では、「日本軍は、一九三七年末に首都の南京を占領し、その過程で、女性や子どもなど一般の人々や捕虜をふくむ多数の中国人を殺害しました(南京事件)」、同ページコラムで、「この事件は『南京大虐殺』とも呼ばれます。被害者の数については、さまざまな調査研究が行われていますが、いまだに確定されていません」、「国民政府が移った重慶に対して、日本軍は『重慶爆撃』と呼ばれる無差別爆撃を行い、多数の市民が犠牲になりました」。

 育鵬社版では、「日本軍は十二月に首都・南京を占領しました。このとき日本軍によって中国の軍民に多数の死傷者がでた(南京事件)。この事件の犠牲者数などの実態についてはさまざまな見解があり今日でも論争が続いている」。

 帝国書院版、東京書籍版は日本軍が民間人、女性子どもを多数殺害したと素直に理解できる。東京書籍版はコラム欄に「南京大虐殺とも呼ばれます」と記述しメイン面に書けばアウトになるので「南京事件」とし、本当に書きたい重要な用語を何とか残すよう努力したと思われる。育鵬社版では日本軍が殺害したのかどうか曖昧な表現で、「日本軍が中国人民衆を殺害した」と明瞭に言うことを回避したい思惑があるのだろう。

◇2014年、安倍が検定基準を改悪
       教科書の記述内容に介入の道開く

 2013年下村文科相は「教科書改革実行プラン」を発表。教科書の編集、検定、採択の各段階において統制する内容であった。翌年これを文科省は受けて「義務教育教科書検定基準」「高等学校教科書検定基準」を官報に告示。教科書全般が対象だが、狙いは「社会科」特に「歴史」であった。改定・追加された検定基準を紹介する。
①未確定な時事的事象について断定的に記述していたり、特定の事例を強調しすぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なくとりあげていたりするところはないこと。
②近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されているとともに、児童又は生徒が誤解するおそれのある表現がないこと。
③閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がなされること。

 ①については、「未確定」「断定的」「特定の事柄」など何を基準に判断するのか、「教科書調査官」(検定官)の恣意的な判断がまかり通ってしまう。②についても、「通説的な見解」を判断するのは検定官であり、①同様に恣意的判断が懸念される。これが「南京事件」記述に適用されることになる。③については、具体的には領土問題で政府見解どおり「北方領土や竹島は日本の固有の領土なのにロシアや韓国が不法に占拠している」、「尖閣諸島は日本の固有の領土であり領有権問題はない」などの記述を求めるものである。また、「徴用工問題」や「慰安婦問題」でも1965年日韓条約で解決済み、慰安婦強制連行はなかったなど政府見解を教科書に書かせるもので、検定は教科書の「政治利用」「政治宣伝」そのものだ。

◇2021年4月、菅内閣は「従軍慰安婦」「強制連行」の用語を教科書で使うことを「不適切」と閣議決定

 この閣議決定に基づき萩生田文科相は現行教科書、つまり検定済使用教科書を対象に「従軍慰安婦」「強制連行」等の表現は不適切であり該当記述のある教科書会社に「訂正申請」を強制。中学社会、高校地理歴史、公民科の教科書を発行する3社から教科書計10点の記述計11カ所について訂正申請があり承認したと発表した。政府が閣議決定をもって教科書記述の内容を事実上決定したのである。しかも検定済教科書にも適用することは、横暴な力尽くでの教育への政治的介入であり、教科書の国定化への道だ。多くの軍国少年を生み出した戦前の軍国主義教育への道を進んでいるのが現状である。検定で反動教科書が不採択になったことで安堵などできない。

 日本の帝国主義化が深まる中で、教育において国家主義や民族主義を強化しようとするのは、世界に向けて覇権を強め自国の利害最優先の資本の要請であり、加速する一方だ。労働者の大衆的階級的な闘いで資本の政府を打ち倒すことが求められている。 (愛媛F・Y)


【2面サブ】

ドイツでも極右政党伸張

「反移民」を掲げ――資本主義による問題を
               逸らす

 今年6月に行われた欧州議会選挙では、現行EUの連立体制である親EU中道会派が過半数を維持したが、EUに懐疑的な右派・極右が全体の約4分の1を占め、全体として右傾化が進んだ。ドイツでも右派勢力が拡大し、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)がこの欧州議会選挙で国内第2党に躍進し、9月の州議会選挙でも勢力を伸張させた。

◇極右政党(AfD)の実態

 AfDは、EUからの離脱を掲げて2013年に発足した。AfDは、ナチスの過去の行動を相対化する発言を繰り返しており、15年に欧州に難民申請者が急増した頃から、反移民・難民に軸足を置き支持を拡大している。9月に行われた東部3州の州議会選挙でも、移民や難民の流入で治安が悪化し、社会保障制度に支障をきたしているなどと主張し、移民による危機を強調した反動である。

 AfDは失業、社会福祉の後退、社会不安などを移民・難民のせいにし、それが資本主義の行き詰まりの現れであるという真実を覆い隠し、排外主義を煽るポピュリズム(大衆迎合主義)によって支持を広げている。

 今回AfDは、チューリンゲン州議会ではショルツ首相率いる社会民主党(SPD)に勝利し第1党に、ザクセン州とブランデンブルク州では第2党に進出した。州議会レベルで極右政党が第1党になるのは初めてで、ドイツでの顕著な右傾化の現れだ。

◇EUの下で成長した右派

 EUは、欧州を中心に27カ国が加盟する国家連合であり、域内の物・人・サービス・資本の自由移動を確保する単一市場が構築され、その内22カ国で単一通貨ユーロが導入されている。

 単一市場は、欧州大資本の要請である。国境で仕切られ、細分化された欧州はもはや大資本にとって桎梏であった。国境を取り払い、域内の関税をなくし、資本・商品の自由な流通、労働者の自由な移動を実現することは、激しい国際的な競争に打ち勝ち、蓄積を進めるために必要であった。EUはなによりもこうした大資本の利益のためにつくられたのだ。

 移民は資本の要請による労働者の自由な移動に他ならない。EUの「域内人の自由移動」は、労働者を効率よく搾取する資本の要請であるが、それは先進国に移民を集める結果となり、住民との軋轢を生む。難民は現在のブルジョア国家の帝国主義的戦争、ブルジョア国家の植民地政策が残した途上国の民族的抗争、資源を巡る国家間の争いなどから発生した。自国第一のブルジョア的原則は、移民・難民を排除する排外主義を生み出した。

 単一市場を形成するEUは、利潤を求める飽くなき競争の資本主義の場であり、労働者の搾取を強め、解雇や賃金抑圧などを進めた。財政規律を重んじるEUの政策は、金融危機で疲弊する労働者大衆に緊縮財政を強い、労働者大衆の反発を惹起した。環境問題では規制を掲げ、農民層の反発を招いた。

 与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)などは支持者を失い、AfDは労働者大衆、農民の不満の矛先を、企業ではなく移民・難民に、そしてEUに向け支持を増やした。

◇問題の根源は資本主義

 ドイツの隣国オーストリアでも、9月29日投開票の国民議会選挙で、反移民を掲げる極右の自由党が第1党となった。

 欧州で勢力を拡大しつつあるAfDなどの極右政党に対して、大衆的な抗議運動が高まり、現在の左翼政党は「排外主義の台頭に反対して人権と自由を擁護する」と、闘いを提起する。しかし問題の根源は資本主義である。その変革の課題から目を逸らすのはAfDと同じだ。

 労働者大衆を差別抑圧する資本の支配を止揚し、労働者が主体となる社会を目指す、労働者政党の形成・発展が、欧米でも喫緊の課題である。 (佐)


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