![]() ![]() |
||||||||||||
![]() |
![]() |
|||||||||||
購読申し込みはこちらから | ||||||||||||
|
●1498号 2025年5月11日 【一面トップ】 ポピュリズム的消費税減税策 ――野党は消費税減税〝大合唱〟 【一面サブ】 資本に迎合の規制委、活断層無視 ――泊原発3号機「適合」判断 【メーデー闘争】 階級的に自覚した闘いを訴え ――メーデービラを全国で配布 【コラム】 飛耳長目 【二面トップ】 ASEANを舞台に競う日中 ――それは帝国主義国家の覇権争い 【二面サブ】 トランプは〝ハイエナ〟 ――和平調停装い資源権益狙う ※『海つばめ』PDF版見本 【1面トップ】ポピュリズム的消費税減税策野党は消費税減税〝大合唱〟7月の参院選を控えて、全ての野党は物価高騰対策として消費税減税を唱えている。なぜ、消費税減税なのか、その意味を考えよう。 ◇消費税減税の思惑消費税減税といってもその内容は一様ではなくそれぞれの党で異なっている。その主張をざっと見ると以下の通りである。 国民民主は食料品に限らず「一律5%」に。維新は食品の消費税をゼロに(27年3月まで)。 立憲は、野田代表が消費税は社会保障費の財源、「責任ある政党」として消費税減税に賛成できないとしていたが、党内多数の減税論の声に押し切られ、中・低所得者に対する税控除と給付を同時に行う「給付金付き税額控除」に移行するまでの措置として、1年間の限定で「食料品の消費税ゼロ」を参院選の公約に掲げることに方向転換した。 れいわと共産は、当面の措置として「一律5%」、やがては消費税撤廃。 自民を除く政党が消費税減税を掲げているのは、高騰する物価に対する負担軽減策として手っ取り速い対策として、大衆の受けを狙っているからである。世論調査でも消費税減税に「賛成」は68%と「反対」の28%を圧倒している(4・16FNN調査)。またANNの調査(4月)の調査でも「一時的な消費税減税」に賛成は60%と、現金給付よりも減税を求める声が多い。 ◇ポピュリズム的野党の消費税減税案消費税減税の財源はどうするのか。国民民主の玉木代表は「赤字国債を堂々と発行してやればよい」とし、れいわも積極的国債発行論である。維新は他の税収増加分で財源を確保するという。立憲は検討中でいまのところまだ財源措置については明らかにしていない。 消費税は10%、食料品については8%であるが、一律5%とすると年間約15兆円の減収、また8%の食料品を5%に減額すると、年間5兆円の減収となると試算されている。 維新のように、なんの根拠も明らかにすることなく、不確かな税収増加を持ち出し、それで消費税減収分を補うと言ってごまかしたり、国民民主やれいわのように国債で賄うというのは全く無責任である。国家財政は火の車状態なのに、さらに借金を拡大するなら通貨(=円)の信用を失い急激なインフレの危険性を高めることになる。 消費税の減額によって負担が軽減されるという目先の利益を訴え、不足する税収については国債発行=国の借金で賄うとか、他の税の増収で穴埋めするとすることは、ポピュリズムである。国民民主、立憲、維新、れいわは目先の利益で大衆の支持を獲得、勢力を伸ばそうとしているのだ。 ◇共産の「緊急提案」の空文句共産は、消費税減税の焦点は減額される税収に代わる財源を明らかにすることである、しかし他の野党は安易に国の借金に依存したりしている、と批判している。 そして共産は、「大企業と富裕層への行き過ぎた減税や税の優遇をやめること」で国債に頼らずに財源は確保することができると言う。 共産によれば、大企業は政府から投資や研究・開発のための減税など様々な優遇を受けており、それは「年間11・1兆円になっている」が、利益を労働者の賃上げなど待遇改善や投資の活発化に当てようとせず内部留保としてため込んできた、その結果内部留保は、アベノミクス以降200兆円増え、539兆円に増加した(23年度末)こと、一方富裕層・大株主は、所得が「1億円を超えると逆に税負担が減っていく」優遇策によって利益をあげていることを挙げている(4月16日、「物価高騰から暮らしを守る緊急提案」)。 そして共産は自分たちの提案こそ、国の借金に頼ったり、一時しのぎのバラマキではなく、「国民の利益にかなった」現実的な提案であると自慢している。 大企業や富裕層の労働者から搾り取った利益を消費税減税の財源とするのはよい。労働者は、生活費としての賃金から、さらに税を絞りとるような消費税に反対である。 共産は、消費税5%とするために必要な15兆円の財源を大企業や富裕層・大株主の負担で確保するというが、それは大企業の優遇減税額である年間11兆円を越える額であり、優遇減税をやめることになる。さらにこれは緊急的措置であって、やがてはゼロにするという。 どのようにして共産党の提案を実現することが可能になるだろうか、それが問題である。 消費税をゼロにして大企業や富裕層の負担を重くするとすれば、大企業や富裕層は国内への投資を控えたり、税金の低い海外に生産拠点を移したり、資本を移すだろう。そうすれば、経済も停滞し、その犠牲を資本はリストラ、労働強化などで労働者に転嫁しようとするだろうし、労資の対立はさらに深まるだろう。 消費税を撤廃しようとするなら、資本とその勢力を追い詰めていくような労働者の大衆的な闘い、そしてさらには資本の支配を根底から変革を目指して闘いを前進させていくことが必要である。 ところが、共産は、消費税軽減は個人需要が拡大し、経済が活発化するとか、目指すのは大企業や富裕者層への「行き過ぎた減税や優遇を止めさせる」ことであって、資本の活動を否定するものではないと言うのだ。 大資本への減税や国家の補助など様々な優遇や、消費税の導入とその拡大は、労働の搾取を基礎とする、無政府的な利潤獲得のための資本主義的生産の矛盾の表れであって、資本主義を否定はしない、ただ「民主化」を目指すという共産党の主張は、資本の支配の矛盾から労働者の目を逸らせ、資本主義の下でも労働者の生活改善・向上が可能であるかの幻想をふりまくことであり、労働者の階級的意識を曇らせ、解体することである。事実上、資本に反対する労働者の階級闘争を否定する共産党の消費税減税・ゼロの提案は、言葉だけの絵空事でしかない。 (T) 【1面サブ】資本に迎合の規制委、活断層無視泊原発3号機「適合」判断原子力規制委員会は3月30日、北海道電力泊原発3号機について、再稼働の前提となる新規制基準に適合するとした新審査案を承認した。規制委は能登半島地震の教訓を生かすことなく、地質学上の疑念を残したまま、北電等の資本に迎合する判断を下したと言える。 ◇泊原発の地質的問題点北海道電力は2013年7月に規制委へ泊原発再稼働を申請し、新規制基準に基づき審査された。 問題になったのは、発電所敷地内断層の活動性評価、近接地域での活断層による地震動評価、その地震による津波影響評価、耐震・耐津波設計方針などである。 新規制基準には「将来活動可能性がある断層等」(活断層)とは、「12~13万年前以降の活動が否定できないもの」とされ、「必要な場合は、中期更新世以降(約40万年前以降)まで遡って活動性を評価する」と付帯条件が付けられた。原発敷地内の約33~30万年前の地層は、断層で切られていた。規制委は19年2月には敷地内の断層は「活断層の可能性が否定できない」とする見解を示した。北電にとって容認できない、廃炉になる判定だ。 北電は新たな調査を行ない、断層を覆う「断層の活動による変異・変形が認められない地層」は、「12~13万年前より古い年代に形成された地層」とした。規制委は21年7月、北電の説明を認め、活断層の可能性の見解を今度は覆した。基準に示された活断層の付帯条件を無視したのだ。 ◇北電等の資本に迎合する規制委今回の新審査案は、この規制委の判断に基づくものだ。規制委の判断は再稼働を支持するためのものと言わざるを得ない。 又、泊原発がある積丹半島西側海岸には、過去の海底の平坦面が海面上に現れる離水ベンチなどの変動地形が認められ、大地震のたびに地盤が隆起する「地震性隆起」と考えられる(関根辰雄「泊原発の地質的問題点について」18年11月)。24年1月に発生した能登半島地震では、このような変動地形が現れ、それを出現させたのは半島の海岸に沿った海底活断層であることが明らかにされている(「サイエンスポータル」24年5月16日)が、積丹半島西側にも海底地形の特徴から60~70kmにわたる海底活断層が考えられる。 しかし北電は、半島西側近傍海域での海上音波探査記録などによる「後期更新世以降の活動を考慮する活構造は認められない」(北電資料18年11月)の判断は変えず、規制委もこれを承認。火山活動の問題もある。原発再稼働ありきの規制委はこれらを無視し、再稼働を後押しした。しかし規制委は「適合」判断に当たって、半島沖の長さ約23kmの海底断層が地震を起こし得ると、申請当初の地震規模や津波の規模を引き上げ、耐震工事を追加した。海底活断層を否定する根拠に乏しいことを自ら暴露している。 石破政権は今年2月に「第7次エネルギー基本計画」を決定し、再生エネルギーと原発を同列に「最大限利用する」と位置づけ、「原発回帰」したのだ。 北海道・札幌は24年4月、「GX金融・資産運用特区」に認定され、最先端半導体の量産化をめざす「ラピダス」、ソフトバンクの国内最大級のデータセンターが建設中だ。GX産業関連企業が集まり、電力需要が増えることが予想され、原発再稼働へ期待が高まる。規制委は、この資本の要請に迎合した。 利益追求第一の資本の下で、安全性が無視され危険な泊原発が再稼働される。労働者は泊原発再稼働に反対するとともに、それを資本との闘いに結びつけ、労働の解放をめざして闘う。 (佐) 【メーデー闘争】 階級的に自覚した闘いを訴えメーデービラを全国で配布今年のメーデーは、連合の中央メーデーでは支持率狙いで「物価上昇に負けない賃上げを必ず実現をする」などとリップサービスの石破首相、「全都道府県で『地方版政労使会議』を開催した」と協調主義を押し付ける福岡厚労大臣、「『2050東京戦略』を取りまとめた」と宣伝に来た小池都知事など、労働者を篭絡する資本の代弁者が壇上に立った。取り仕切る連合幹部の堕落を現わすものだ。 全労連中央メーデーでは「25国民春闘は佳境に入っている」と国民主義で悦に入って、労働者の階級的解体に無頓着だ。挨拶した共産党田村委員長は「日米同盟絶対で思考停止に陥る政治でよいのか」と、対米従属批判の問題意識しかなく、日本の帝国主義的自立による軍拡に無理解だ。 全体に労働者の階級的な自覚が希薄で、沈滞している労働運動の現状を示したメーデーであったが、労働者党は全国で「賃金は利潤からの〝お裾分け〟か?」と題する『海つばめ』号外ビラを手渡し、デモ隊の中にも入ってビラを配布。階級的に自覚した闘いを訴えた。受け取りは例年より良かったように感じる。ビラを折りポケットにしまい「家に帰って読みます」という人もあり、ある参加者からは「林さんは良いのを書いていたから知っていた」と声がかかり、元党代表の『林紘義遺稿集』を紹介。 残ったビラは地域に宅配。党友やシンパの協力を受け、全国で一万六千枚のビラを配布する宣伝活動を行なった。(配布ビラは党ブログに掲載してあります) (岩) 【飛耳長目】 ★同性婚を認めない法規定は「性的指向による不合理な差別で違憲」とする大阪高裁判決が3月に出た。5件の控訴審全てで違憲判決となり、同性婚法制化を一歩進めた★「国民の意識変化を反映した」(日経など)との評価がある一方、保守反動派は「社会が変わってしまう」(岸田)と危機感を露わにする★LGBTQ当事者は国民の9・7%(電通調査)を占め、左利きの人とほぼ同率。彼ら、彼女らを苦しめる家父長的家族制度を残す社会は変わらねばならない★DEI(多様性・公平性・包摂性)を推進したバイデン政権を全否定するトランプは、就任直後に「性別は男性と女性のみ」とする大統領令を出した。さらに連邦政府諸機関、企業や大学にDEI施策廃止の圧力(助成金削除など)をかけている★トランプは、彼の支持層であるインテリ嫌いの没落する中間層に、自動車や鉄鋼・アルミの競争力低下の原因を他国に押し付け、女性やマイノリティへの優遇措置は「違法かつ不道徳な差別プログラムだ」と口汚くののしる★挑発的な関税措置は自国にも跳ね返る〝両刃の剣〟となり、米国社会の活力の源泉だった政治、人種、宗教、移民などの多様性への攻撃は、歴史の歯車の推進力を削ぐ試みとなるしかない。当初の高い支持率は失速して41%に急落した。 (Y) 【2面トップ】ASEANを舞台に競う日中それは帝国主義国家の覇権争い◇日中の覇権争い習近平は、相互関税の発表を受けて4月14日から18日までベトナム・カンボジア・マレーシアを訪問した。それから10日後の28、9日に石破が、ベトナム、フィリピンを訪問した。 中国にとって、暴走トランプが世界を混乱させる中、アセアンを取り込むことは、経済的、政治的、地理的に帝国主義的権益を守るために決定的に重要である。日本にとっては、拡張する中国に対抗し自国の権益を維持する為に、中国の影響力をアセアンから引き離すことは必須である。習近平が3国訪問を終了した直後の19日、カンボジアのリアム基地に自衛艦が寄港した。中国の支援する拡張工事終了後、初の外国軍艦が海自艦艇である。 アセアンをめぐる日中の覇権争いの本質は、トランプの登場によっていっそう鮮明になろうとしている。中国は米国を、WTO取り決めに違反し世界経済の連携を破壊する自国中心の保護主義と批判する。中国が米国に代わって自由貿易を守るリーダーを自認し、中国の帝国主義的拡張に対する批判を逸らし、理不尽な相互関税税率に立ちすくむ国々を、中国の勢力圏に組み込もうと策動している。外務省幹部は「東南アジアに『力の空白』が生じ、中国の習近平氏はその間隙を突いている。中国のASEAN取り込み政策に対抗し、日本の考え方を浸透させたい」と語る。 ◇伸びるアセアン、存在感高める中国アセアンは1961年にタイ、フィリピン、マレーシア(当時はマラヤ連邦)によって結成された東南アジア連合を解消し67年に米国によって結成された。67年にはインドネシア、シンガポールが加盟。77年には日本がアセアン+1として加盟、99年までにブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアが加盟し現在の10ヶ国なった。共産党が持ち上げてやまないアセアン憲章は2008年に作成された。 中国は「アジア通貨危機」が発生した97年に日本、韓国、中国でアセアン+3として加盟。諸国の中で中国の存在感は貿易では圧倒的である。アセアン域内の人口は6億6千万(EUは4億4千万)GDPは9兆73百億ドル(20年)。中国との貿易額はアセアン全てでトップ。 帝国主義国としての存在を表す投資額は、22年末で日中とも約1500億ドル。中国の伸び率が日本よりも高い為に、中国が日本を上回ったのは確実。 資本は直接投資で現地法人を作り、工場を建設し投融資、企業買収を行い、労働者から搾取した利潤を本国に利益として還元し、現地や外国に再投資する企業の存在が、経済的権益である。日本のアセアン貿易額が減少したのは、日本企業の直接投資が拡大したためである。中国は、直接投資を拡大しつつ、貿易額の伸びはそれを上回るペースで拡大し存在感を高めている。 中国のアセアンに対する直接投資は、初期は国有企業による鉱物業、建設、インフラ分野が中心。10年以降は、コスト削減を目的に民間企業による繊維、電子機器、デジタル分野への投資が徐々に増加し、20年からは製造業分野への投資が年平均33・3%も急増した。理由はトランプの関税攻撃バイデンの中国封じ込め対抗策として、アセアンへの直接投資を増大させてきたからである。BYDが組み立て工場を日本車の牙城タイに建設するなど競争力も半端ではない。 ◇ベトナムを巡る日中の確執は何かアセアン10ヶ国の中で、習近平、石破がともにベトナムを訪問した意味を考える。 ベトナムはアセアンで、人口約9千3百万人3位、GDP6位、軍事費は4位と際立った立場ではない。しかしGDPの39%が中国との貿易である。中国、韓国から輸入した電子部品で組み立てた電子機器を米国に輸出し貿易黒字が巨額になり46%の関税が掛けられようとしている。習近平のベトナム訪問の目的は、相互関税に対抗する働きかけや中越関係の維持拡大に他ならない。しかしベトナム軍兵器の80%以上は、ロシア製で旧式化した兵器の代替で検討されているのは、イスラエル、韓国、米国の兵器であるのは、中国と南シナ海の西沙諸島などの領有権を巡って対立していることが背景にあるのだろう。 4月28日に石破が訪問したベトナムには、日本企業の生産拠点が2394か所と10年前の1・8倍に増加しているなど経済的関係も深まっている。日中が訪問する最大の目的は、ベトナムの地理的な位置の為である。中国が権益を主張する南シナ海の「九段線」にベトナムは面している。南沙諸島の中国軍基地と連携すれば、シーレーン封鎖、米軍の動きを封じる事が出来る、ベトナムは極めて軍事的に重要な位置を占めているのである。 29日に石破が訪問したフィリピンとは、比軍と自衛隊との軍事情報包括保護協定の早期締結に向けて動き出した。 ◇アセアン幻想の共産党・れいわ共産党は、世界平和実現の手法としてアセアンを手放しで称賛する「ASEANに見られるように軍事的対決の道でなく、包摂的な平和の枠組みを求める流れが大きく発展しています」(4・18赤旗)。 「民主主義の原則を支持」「基本的自由と人権を尊重」は、アセアン憲章第2条原則に記述されている。憲章を批准するミャンマー、カンボジア、ラオスなどは民主主義とは無縁で人民を弾圧している。極悪加盟国の存在を共産党はどう考えるのか? 彼らは、現実に目をつぶりブルジョア的空文句を担ぎ、資本の支配と闘わない立場を正当化するために、9条やアセアン、国連憲章を手放そうとしない。 共産党を衆院の議席数で上回ったれいわも、「憲法9条を持つ日本は、米国一辺倒ではなく、多極化する世界の中で今こそ専守防衛と徹底した平和外交」「民主的な相互互恵の関係をASEAN諸国と結び」(れいわ)と、両党ともお互い9条幻想に浸っているが、ブルジョア国家に平和を説くのは偽善者である。 共産党の対米従属論は、日本の帝国主義を免罪し愛国主義と祖国防衛主義に労働者を駆り立て資本の軍門に下ることだ! 日中対立は帝国主義国家の覇権争いだ! 労働者はどちらにも与しないで国際主義で闘う! (古) 【2面サブ】トランプは〝ハイエナ〟和平調停装い資源権益狙う4月末日にトランプ政権はウクライナと協定を結んだ。ウクライナの「復興」を支援するために、鉱物資源開発に関する「復興投資基金」を設立するというものだ。だが米国の「安全保障」は含まれていない。当初、トランプはこの協定で過去の軍事支援のカネを「回収する」ことを狙っていたが頓挫した。 ◇トランプの取引「ウクライナ戦争を早期に終わらせる」と大統領選挙で息巻いていたトランプは、就任後、ウクライナとロシアの双方に戦争終結を働きかけてきた。 トランプにとって、プーチンの軍事侵攻に反対するウクライナ労働者らの意思などどうでもよく、「強大なロシア」と戦争をやるゼレンスキー政権が間違っていたと責め、かつ、ロシアが占領し実行支配するクリミヤ半島や東部地域を認める発言まで繰り出していた。 トランプは「強大なロシア」に歯向かう戦争は勝算がないのだから、ウクライナはさっさと戦争を止めるべきだと言い、さらに米国がウクライナ戦争で支出したカネと引き換えに、鉱物資源の開発・採掘の権益を渡せと脅迫した。 トランプは持論である「グリーンランド購入」を再び公言し、さらにパナマ運河の支配権を「取り戻す」と帝国主義者としての素性を臆面もなくさらけ出すが、ウクライナに対しても同様である。和平調停を装いながら、ハイエナのように鉱物資源を横取りしようと企み、同時に、その早期実現のためにロシアの実行支配を認めようと算段をする。 ◇レアアース獲得を優先しかし、ゼレンスキーはウクライナ支援の対価として鉱物資源を米国に売り渡すことを拒否した。 それもそのはずである。ウクライナの天然ガスや鉄鉱石や希少金属類などの埋蔵量は、世界上位に入らないとしても、欧州では最大規模を誇る。国内産業を振興するために、またEUへ輸出して外貨を稼ぐためにも、これらの鉱物資源は重要なものである。 それらの採掘や精錬の権益を米国に持って行かれるなら、ウクライナにとっては大きな痛手となる。ウクライナ総資本の頭目として、ゼレンスキーはトランプに断固として抵抗したのだ。 これに加えて、米国内では、トランプ関税の発動によって経済不安が高まり、ドル売りや米国債売りが相次いだ。トランプ支持者の間にも動揺が広がり、支持率が下落し始めた。これに焦りを感じたトランプは早急に打開策を講じ、取引成功を演じざるをえなくなった。 トランプは今までの軍事支援のカネを返せと突っ張り切れず、そそくさと「復興投資基金」設立の協定を結んだ。この基金が生み出したカネは今後のウクライナ支援に当てられるという。 だが、トランプはそこに止まらない。「復興」支援の陰で鉱物資源の開発を進め、とりわけ、中国が採掘・精錬・加工で世界的なシェアを誇るレアアース類を手に入れ、中国依存から脱却しようと策している。それを優先させたに過ぎない。 ◇鉱物資源争奪戦他方、プーチンがクリミヤや東部地域の支配にこだわるのは、この地域には石炭や鉄鉱石が豊富であり、ソ連邦時代から、これらの採掘と鉄鋼生産及び火力発電が活発に行われてきたからである。しかも21年には、この地域にリチュウムが埋蔵されていることが発見された。 プーチンは、ウクライナは歴史的にロシアの一部だと「ロシア大国主義」を唱え、ウクライナのEU接近とNATO加盟に強い警戒感を抱いてきたが、ウクライナ侵攻には、こうした政治的・軍事的理由の他に経済的な思惑もあった。 それは、EUがウクライナと「一次資源に関するパートナーシップ」を締結し(21年)、EU資本が天然ガスや希少金属を含む資源開発に本格的に参入することが決まったからである。 これらの鉱物資源がEU資本の傘下に入るなら、プーチンが策動してきた東部地域の「分離独立」が遠のくことになる。 ゆえにプーチンは、ロシア内のウクライナ侵攻に反対する労働者たちを弾圧しながら、国家資本主義の大国として〝ロシア第一〟のために牙をむき出したのだ。 そして今度は、和平を掲げてトランプが割って入り、一方のウクライナとは資源協定を結んで将来の投資環境を築き、他方のロシアとはプーチンからの東部地域の資源共同開発提案に応じる方向で調停を進めようとしている――ロシアとの調停が不発でも一つは成功したと宣伝できる。 ウクライナでの資源争奪戦は帝国主義大国間の三つ巴戦になった。 (W) | |||||||||||
![]() |